SASUKE逆行伝   作:koko22

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60.愛情と恋心

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 重苦しい沈黙が落ちていた。その空気に、横を通り過ぎていく通行人すらそそくさと去っていく始末だ。

 何か言おうとして言いあぐねているシスイと、そして、未だ内心の動揺を顔に出さぬように努めているサスケ自身、膠着状態が先程から続いていた。

 

 

(まさか、こんな所でバレるとはな……)

 

 

 一族から出て以来、うちは地区の祭りと合わせてシスイと出会うのはまだ二度目。それほど言葉を交わした訳でもなかったが、もしかすると行動の端々に過去を滲ませてしまっていたのかもしれないな、と内心で苦く呟く。

 イタチには教えないと約束したはいいが、シスイは暗部総隊長という立場がある。火影に報告するかもしれない、そう思うと奇跡的に残った記憶さえ再度消されるか、更に監視が強まるか。記憶をなくして使えないとしていた写輪眼も、隠していたと必然的に知られることになるだろう。

 

 

(クソッ……こんな時に……!)

 

 

 迫りくる木ノ葉崩しを前に、こんな所で立ち止まってる暇などない。しかし今後を思えばこそ、互いの出方を探るような緊張感にどうにも双方身動きが取れずにいた。

 だから、不意にそんな空気を裂くような、廊下に響き渡った怒鳴り声にどこか救われたような気分がしたのだ───それはまあ、幻想に過ぎなかった訳だが。

 

 

「離せッ!ワシは……ワシは、行かねばならんのじゃあ!!」

 

 

 サスケ達の現在いる2階は入院病棟。入院中にも運ばれてきた奴らの動転というのは何度か目にしたことがあった為、それほど驚きはなかった。

 だが、その声の方向へ逸れたシスイの意識に胸を撫で下ろした時、続いた医療忍者の言葉に目を見開いた。

 

 

「落ち着いてください、タズナさん!」

 

(タズナ……?)

 

 

 どこかで聞いた名に、ぞわりとした胸騒ぎが身体を駆け抜ける。記憶のことさえ一時忘れる程のそれに、シスイの手を逃れ、ふらりとその声の方へ足を向けていた。

 確認しなければならない、そんな予感がして逸る心に急かされながら足を進める。

 ちらりと顔を覗き込ませた病室には、ベッドから立ち上がろうとする老人とそれを宥める医療忍者の姿があった。

 

 

「頼む、退院させてくれ!今年10歳になるかわいい孫が、ワシの帰りを待っとるんじゃぞ……!」

「そうは言いますが……まだ腕も足もあと一ヶ月は安静にしないと。波の国まで帰れませんよ?」

「くっ……!ワシの橋を、皆が待っておるというのに……こんなことになるとはのぅ……木ノ葉の忍には超がっかりじゃわい」

 

 

 白髪交じりの灰色の髪。日に焼け黒々した、皺のよる肌。少し歪んだ古びたフレームのメガネ。額には使い古したようなねじり鉢巻き。恐らくは三代目と同年代くらいかという年嵩だ。

 彼の右腕と右足は大きなギプスで固定されており、身動きすらままならないような状態になっていた。そして、常なら気難しげに吊り上がっているだろう眉は、今や弱々しく垂れ下がっている。

 

 

(あいつは……確か、波の国任務で護衛した……)

 

 

 橋作りの名人、タズナ。本来ならここにいるはずのない人物だった。

 “前”の中忍試験の一ヶ月前、高ランク任務を受けたいと駄々をこねたナルトに折れた三代目が初めて与えたCランク任務。その護衛対象であるタズナはガトーという悪党から命を狙われており、実質的BどころかAランクにまで発展することになった覚えの深い任務だ。

 

 だが“前”とは異なり、イタチとの会話で態度が変わったナルトは低ランク任務にも文句を言いつつも真面目にこなしていた為、その任務が振られることは終ぞなかった。

 日々数多の依頼が舞い込むのだから、タイミングがずれたなら他の班が受けたのだろうと、それほど気には止めなかったのだが。

 

 

(それが、怪我で入院したということは………今回も襲撃されたようだな)

 

 

 Cランク任務は基本、身辺護衛・素行調査・猛獣の捕獲などの対忍以外の戦闘を想定し、中忍や下忍が割り振られる。

 下忍チームなら担当上忍がつきそれなりに対処できたろうが、中忍チームが請け負ったのであれば任務失敗も当然の成り行きといえるだろう。

 

 

「サスケちゃんの知り合いかい?」

 

 

 サスケの後をついてきたシスイも、共に病室をこっそり覗き込む。さめざめと泣いているタズナを認め、少しばかり気の毒そうにするあたり人の良い男だ。

 しかし、事情があるにせよ忍も命懸け。間違った情報を流したのだから自業自得な面も多分にある、と冷ややかに判じつつ首を横に振った。

 

 

「………いや。忍に何か恨み言を言っているから気になっただけだ。任務が失敗したらしいな」

「ふうん?あ、そういや………少し前にCランク任務が失敗してたっけか。補償がどうので揉めてるとか言ってたが……多分あの爺さんかもなぁ」

 

 

 いけしゃあしゃあと補償金を要求する姿が容易く想像できる。そういえば中々図太い爺さんだったな、とどこか懐かしく感じて、ため息混じりに苦笑した。

 しかし、そんなサスケとは対照的に、記憶を辿っていたシスイの顔つきは徐々に厳しいものへと変わっていった。

 

 

「なんでも霧隠れの忍が、護衛をしていた中忍───日向の傍系を狙ったらしい」

「……は?」

「戦闘の末、敵は逃亡。命は無事だったが護衛対象も中忍も大怪我をしたって話だ。気の毒にも巻き込んでしまったから、補償は仕方がない。慰謝料諸々考えれば中々の額になるだろうな」

 

 

 何だそれは。そもそも狙われたのは、日向の傍系ではなくタズナ本人の筈、と古びた記憶を引っ張り出す。

 そうしてふと、カカシの声を思い出した。

 

 

『私には知る必要があったのですよ。この敵のターゲットが誰であるかを』

『つまり、狙われているのはあなたなのか、それとも我々忍のうちの誰かなのか……ということです』

 

 

 カカシが変わり身の術を使ってまで、敵の攻撃を受けたように見せかけた理由だ。

 しかし、今回任務に当たった忍はそこまでの余裕がなかったのだろう。完全に不意打ちされ、かろうじて勝利したものの、敵を逃し追及もできなかったということだ。振り分けられた奴らにとってはとんだ災難といえる。

 未来を変えた影響がこんなことにまで及ぶとは。益々頭が痛くなるばかりだ。

 

 

「ま、そこは上で話し合ってる。気にすることはないさ」

「………」

 

 

 そうはいえど裏事情を知る身からすれば、後ろめたさを覚えずにはいられない。

 シスイは返事のないサスケに気を悪くするでもなく、けれど何か感じ取ったのか、癖のある頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。 

 

 

「んじゃ、そろそろ帰………」

「サスケ君!よかった、無事に戻ってこれたのね!」

 

 

 シスイの促しを遮った聞き慣れた声に顔を上げれば、サクラが駆け寄ってくるのが見えた。

 その翠の瞳が、サスケからシスイに移ると同時に驚きと共にきらきらと輝きを増した、そんな気がした。

 

 

「シスイさん……!?」

「サクラちゃんか。久しぶり、元気にしていたかい?」

「は、はいっ!お久しぶりです!」

 

 

───探したい人がいます。その人にお礼を言いたいです。

 

 

 どもりつつも満面の笑みを浮かべるサクラに、過去の記憶がよぎる。

 サスケは六年前、シスイに変化し木ノ葉神社に行き、そこで迷子になっていた幼いサクラを助けた。

 サクラからすればシスイは長年探していた恩人で、班分けでの言葉を思い返すに憧れを抱いていることは間違いない。

 

 

(……憧れ、だけではなさそうだがな)

 

 

 真実を告げられる筈もなく、自業自得とさえ言える状況を苦く思う。もじもじと頬を赤らめるサクラに、胸にもやっとした霧がかかっていくような気がした。

 

 

「ねえあなた、リーくんとの面会はどうするの?」

「あ……、すみません!」

 

 

 少し離れた病室の扉が開き、医療忍者が顔を覗かせる。病室の小窓から、白く青褪めた顔で眠るリーが見えた。サクラはどうやらリーの面会に来ていたらしい。

 

 

「リーは確かまだ面会謝絶だった筈だが……怪我は良くなったのか?」

「うん、落ち着いてはきたみたい。でも、忍としてもうやっていけない身体だって……香燐が言っていたわ」

「そうか」

 

 

 以前もリーは命懸けの手術を受け、その結果忍として生還した筈だ。しかし、今回も成功するかといわれればそんな確証はどこにもない。

 第六回戦、我愛羅とリーが戦ったその経緯はナルトやサクラから既に聞いていた。友が仲間を傷つける、それはこれ程やるせない気持ちになるのかと気づかされた。

 同じことを過去の己がしていたかと思えば、尚の事我愛羅をどうにか止めたいが、里同士の確執が絡む以上は一筋縄ではいかないだろう。

 

 

「あ、でも、本当か分からないし……!」

「いや。あいつが言うなら間違いない」

「───、そう……よね。香燐、凄い医療忍者だもんね」

 

 

 俯くサクラに首を傾げたサスケは、ふとその手に握られていた花に目が止まった。

 均等に広がる、ハート型のピンクの花弁。

 サクラの髪と同じ色だな、とぼんやり思って、その揺れる髪先をジッと見つめた。死の森で音忍と遭遇しなかったものだから、サクラの髪は長いままだ。

 

 

(リーへの見舞いか……)

 

 

 サクラは優しい。入院する、それも忍としてもうやっていけないかもしれない、というリーを放ってはおけなかったのだろう。それでも、リーへの贈り物と思えば、素直に褒める言葉は出てこなかった。

 そんなサスケとサクラを交互に見ていたシスイが、何やらにんまりと笑いながらその花をちょんと突いた。

 

 

「綺麗なコスモスだね。彼のお見舞い?」

「え?……その、これは……違くて………」

 

 

 うん?と口籠りながらのサクラの返事に、何やら誤解していたことを察すると同時。

 その花が両手で差し出された。

 

 

「退院おめでとう、サスケくん!」

 

 

 リーの病室に駆け込んで行くサクラの背。押し付けられるように渡されたコスモスに視線を落とす。

 サスケはその花弁をそっと撫でた。綺麗だと、そう思った。

 

 

「あなた方もリー君の面会を?」

「……俺はいい」

「それじゃ、俺も行くかな。サクラちゃんによろしく伝えておいてくれるかい?」

「は、はい……!」

 

 

 親切にも尋ねてきた医療忍者に断り、くるりと背を向ける。シスイもまた、ぱちりと飛ばしたウインクに頬を染めたくノ一を残してサスケの後に続いた。

 院外へと出た瞬間、堪えきれなかったようにククッと笑みを零したシスイをじろりと睨み上げれば、誤魔化すようにわざとらしい咳払いをした。

 

 

「……何を笑ってる」

「いや〜?サスケちゃんはモテモテだなって思ってさ?青春っていいなーってね」

「……チャクラが足りなくて、頭が働いてないのか?どうせ襲われたって使い物にならないなら、今すぐ本体に返してやるが」

「不機嫌だなぁ、サスケちゃん。な・に・が・あったのか、さっきまで機嫌よかったのにな〜?」

「ウザイ。それに、いい加減“ちゃん”はやめろ!!」

「サスケちゃんはサスケちゃんだし無理」

「ふざけるな、ウスラトンカチ!」

「うーん。そうだな、サスケちゃんが中忍になれたら考えてもいいかなぁ?」

「フン、上等だ……!」

 

 

 先程の迷いも緊張感も馬鹿馬鹿しく感じる程、くだらない会話をしながら帰路についた。

 ボロボロなアパートが見えてくる。一週間ぶりのその姿に目を眇める。六年も住んでいれば見慣れ、今やここが帰る家だった。

 

 

(……一、二……五人か。思ったより多いな)

 

 

 そんなアパートの周囲に潜んでいる気配は、恐らくイタチが手配した奴らだろう。必要な事とわかっているが、感じる視線に気は重くなるばかりで足が止まっていた。

 

 

「さて……これで、俺もお役御免だね」

 

 

 寂しげに呟かれた言葉に顔を上げれば、シスイも俺を見つめ目を細めた。

 

 

「サスケちゃん……“眼”は絶対に使うなよ。バレた時点で、暗部の即時入隊が決定する」

「暗部……?里一のエリートだろ。あんたが総隊長じゃないのか」

 

 

 暗部────正式名称、暗殺戦術特殊部隊。

 この男、シスイが総隊長を努め、過去イタチやカカシも名を連ねていた。火影直轄の組織であり、里内選りすぐりの忍で構成されている。正式部隊とは異なり、暗殺や火影の護衛といった特殊任務をこなす影の部隊だ。

 

 任務内容は過酷ではあるものの、暗部は“里随一のエリート集団“という肩書きがある。下忍である今より格段に情報も手に入るだろうことも考えると、配属はマイナスばかりとは思えなかった。

 だが、シスイは苦々しげに首を振った。

 

 

「“芽”の設立を切欠に色々とあってね、暗部も一枚岩じゃない。俺の部下ならともかく、上層部付きとなった場合は……死ぬまで、里の道具として消耗されるだろう」

 

 

 だから、使うな。そう重々しく締めくくったシスイにこくりと頷く。イタチも写輪眼を使うなとあれ程言っていたのは、この約定があったためかと納得した。

 暗部所属は得るものもあるが、対して自身の動きを縛る枷ともなる。一度足を踏み入れれば、もう後戻りできない部隊だ。そう思うと止めるシスイやイタチにあえて逆らうつもりもなかった。

 だが、納得すると同時にふと疑問が浮かび首を傾げた。

 

 

「あんたは、俺のことを報告しないのか……?」

 

 

 それは写輪眼を、言い換えれば記憶を隠せと言われたように聞こえた。

 暗部総隊長という立場があるシスイだ。これはうちはと里で結ばれた契約で、火影に報告されることは覚悟していた。イタチにさえ伏せてくれるなら、と受け入れようとしていたのに。

 そんなサスケにきょとんと目を瞬かせたシスイは、ああ、と今思い至ったかのように苦笑した。

 

 

「さて、何のことだかな?俺はどんな記憶かなんて言ってないし、サスケちゃんも明言した訳じゃない。証拠もないのにそんな当てずっぽう、火影様に報告できないよ」

「屁理屈だろ」

「ハハッ、そうだな!でもな───サスケちゃんが俺達を守ってくれたように、俺達もサスケちゃんを守りたいのさ。……ちなみに、まだ火影様の指示が出てないから芽も暗部も動かせなくてな、護衛の奴らは非番の警務部隊だ。志願してくれたらしいぞ」

「何……?」

「愛されてるねぇ、サスケちゃん?」

 

 

 驚いて監視の奴らの方につい目を向ける。ジッと注がれる視線は感じるが、その姿は見えない。

 ただ、感じていた不快感が、じわりと溶けていくのが分かった。

 

 

「心配なら俺の記憶を消してもいいぞ?所詮、俺は影分身、ただの情報体だ。俺から記憶を消せば本体に知られずにすむ。術の痕跡も残らないだろうし………どうする?」

 

 

 何でもないことのように言うシスイに眉を潜める。

 暗部総隊長としての危機感がないのか。情報を抜き取られたらどうするんだ。

 言いたいことはあった。だが、そこにある揺るぎない愛情に、もう目を背けられなかった。

 

 

「その必要はない。……あんたを信じる」

 

 

 ボソリと早口で告げた言葉に、シスイは“そっか”と照れくさそうに笑った。

 

 煙と共に消えた姿に、ほんの少し寂しくなった、なんて。

 気の所為ではない。けれど、絶対に言ってはやらない。

 

 

 

 

 宿の看板が見えてくる。

 木ノ葉の通りを歩いていた香燐は、そこでハッと我に返った。

 

 

「あれ?うち、いつの間に……?」

 

 

 きょろきょろと戸惑いつつ辺りを見回した。

 立ち止まる香燐を流れるように追い抜いていく往来。昼時を過ぎ朝よりも更に賑やかさを増したそれは、先程の病院の静けさをかき消していく。

 

 そうだ、病院。木ノ葉病院にサクラと行ったんだ。既に退院し空っぽになった病室を思い出す。

 それからリーとかいう奴がいて、サクラから逃げて、サスケと会って……と順々に記憶を辿っていれば、近くにあった店内から柱時計の鐘が聞こえた。

 

 

「やば………!もうとっくに時間過ぎてる!」

 

 

 時計の針はとうに昼時を超えていた。我愛羅を待たせてしまっているかと慌てて駆け出す。

 しかし、宿の扉を開こうとした時、ふと蘇った声に動きを止めた。

 

 

───逃げることも、一つの選択肢だがな。

 

 

(………逃げる、か)

 

 

 その言葉を告げた我愛羅が、いったい何を意図したのかは分からない。

 草隠れからか、あの上忍からか、木ノ葉からか、それとも渦巻く策謀からか。

 滞在許可証と一緒に渡された通行証は持っている。顔写真と共にうずまき香燐と印字されたそれを見せれば、里の出入りは可能だ。入るならともかく、出ていく分にはチェックも緩い。

 

 

(今なら、逃げられる)

 

 

 里抜けを考えたことが無かったわけじゃない。ただ、タイミングがなかっただけだ。草隠れでは常に監視の目があったから。

 それに、草隠れ、それから草隠れと犯罪忍者引渡し条約を結んでいる同盟国。木ノ葉、砂………それらから逃げ続ける覚悟も必要だった。

 

 今なら、逃げられる。タイミングとしては最高で、木ノ葉を出たからといって追手を向けられることもないし、草隠れは一ヶ月先の本戦が終わるまで里に戻ってこないと思っている。痕跡を消して身を隠す時間は十分に確保できるだろう。

 裏切ったと見なされる可能性がある、唯一不安要素である砂の上忍も、我愛羅が足止めしてくれていた。

 全てから逃げるチャンスだった。

 

 

(……でも、もうちょっとだけ………ここにいたい)

 

 

 最初で最後の絶好の機会かもしれない。そう思いながらも、手は扉を開いていた。

 浮かべる姿は、嫌いだった筈の、今や何より大好きな黒髪黒目。ここにいれば、きっとまた会える。

 その一瞬のために全てを投げ出しても、それでもいいかと思えた。そんな自分に驚くばかりだったが、嫌な気分はしなかった。

 空っぽだったうちに、大切な宝物をくれたのだから。

 

 

「……遅せーじゃん」

 

 

 宿を入ってすぐ、壁に背を預けていたカンクロウがちらりと片目を開く。

 射抜くような視線にビクリと肩を震わせる。勝手に出ていったことを責めにきたのかと怯える香燐に、カンクロウはチッと舌打ちをした。

 

 

「早く行ってやれ。お前に変化してたって笑顔がぎこちなさすぎる。砂分身使っても、バレるのは時間の問題じゃん」

「………?我愛羅から、聞いてたのか?」

「気づくっての。あたりまえだろ、兄弟なんだから。さっきなんかテマリのフォロー無かったらヤバかったぞ。ま……バキには何とかまだバレてねーじゃん」

 

 

 ぶっきらぼうな物言いだが、テマリは我愛羅と共に香燐の抜け出しを隠蔽してくれていた。カンクロウはバキと鉢合わせしないように出入り口を見張ってくれていたのかもしれない。

 

 ついてこい、と部屋までは遠回りになる通路に歩き出したカンクロウの背中を追いかけた。誰ともすれ違うことのないまま、程なくして割り当てられた部屋にたどり着く。

 じゃあな、と言って去ろうとしたカンクロウだったが、香燐が部屋に戻ろうとした所で足を止めた。

 

 

「……バキに、お前の能力のこと教えたのは俺だ。俺よりバキから言ったほうが親父を説得できると思った。……我愛羅は何も知らなかった」

 

 

 懺悔のような小さな独白が一度途切れる。

 カンクロウは躊躇いつつ、口を開いた。

 

 

「ここまで巻き込んじまうとは思ってなかった────ごめん」

 

 

 逃げるように走り去ったカンクロウを、香燐は呆然と見ていた。

 利用し、利用される。それが忍の筈だろ。

 なんで、謝るんだ。ただの任務。ただの対価。そう割り切れたのに。

 

 

(ずるい……謝られたら、許すしかないじゃないか)

 

 

 それでも、緩む頬はどうにも戻せなくて。

 どこか浮ついた気分で襖を開けば、畳に座って静かに巻物を開いていた香燐───に化けた我愛羅が、ついと目を上げる。

 

 

「逃げなかったのか……」

 

 

 ぽん、と軽い音と共に元の姿に戻った我愛羅は、ほんの少し目を翳らせ、けれどその声に安堵を滲ませるという器用なことをやってのけた。

 

 

「………うちが戻ってきて嬉しいか?」

「ああ。お前は───友、だからな」

「っ!」

 

 

 ついそんな我愛羅をからかうつもりだったのに、返ってきたのはそんな真面目くさった肯定で。

 顔がほんのり熱く感じた。そんな香燐と同じように頬を染めた我愛羅は、立ち上がると部屋を出ていく。

 なんとなく気恥ずかしくて、何も言えずに襖を閉めようとした刹那、小さな声が狭い隙間から滑り込んできた。

 

 

「その髪………似合ってる」

「え?」

 

 

 聞き返すも答えはなく、我愛羅はその場から気配を消す。

 髪?と疑問に思いながら部屋の姿見に顔を写し、香燐は大きく目を見開いた。

 

 

「これ……」

 

 

 美しく咲き誇る、赤い薔薇が髪に添えられていた。

 意識を向ければ、薔薇に残る暖かなチャクラを感じる。

 

 

『お前と同じ色だな』

 

 

 赤い髪に赤い薔薇。

 大嫌いな血の色が、その薔薇の赤に塗り替わっていく。

 同じ色でありながらも、決して埋没することはなく。渡すことはできず、想いを告げることもできないまま返されてしまったけれど。

 

 

───綺麗だ。

 

 

 自分の髪の色を、初めてそう思えた。

 





※定時更新は今話で終了となります。
ご覧くださった皆さま、ありがとうございました!まだまだ続きますが(笑)
どうぞ気長にお待ちくださいませm(_ _)m


【忍の任務ランク】
・難易度の高い順にS・A・B・C・Dの5つに分類される。
・S・A→上忍、B→中忍、C→中忍・下忍、D→下忍で振り分けられる。

【Sランク】国家レベルの機密事項に関する任務
報酬:百万両以上
例:他国からの要請による戦争参加・要人暗殺・機密文書の運搬 etc

【Aランク】里や国家レベルの動向に関する任務
報酬:十五~百万両
例:他国からの要請による戦争参加・要人護衛・忍者部隊討伐 etc

【Bランク】忍者同士の戦闘が予想される任務
報酬:八~二十万両
例:他国からの要請による戦争参加・身辺護衛・諜報活動・忍者殺害 etc

【Cランク】任務遂行者の負傷が予想される任務
報酬:三~十万両
例:他国からの要請による戦争参加・身辺護衛・素行調査・猛獣の捕獲、討伐 etc

【Dランク】直接的戦闘や生命の危機を伴わない、軽度の任務
報酬:五千~五万両
例:他国からの要請による戦争参加・ペットの所在調査・芋堀りの手伝い・子守り etc
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