SASUKE 逆行伝   作:koko22

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「待たせたのぅイタチ、会議が長引いてしまってな。おお、シスイもいたか……顔色が悪いが大丈夫かの?」
「ハハ、ちょっと情報過多で……ご心配はありません」
「ふむ?まあよい、無理をするでないぞ。さて、ではイタチよ、話を聞こう」


 三代目の視線が、頭を垂れ傅くイタチへと向けられる。ここにいるのは彼らのみ。それがイタチの要望だった。


「はい。サスケのことでお話を────と思いましたが、先に至急、ご報告申し上げたいことが」
「ほう?」


 イタチは一つ息を吸い込み、顔を上げる。向けられたその眼光の鋭さに、三代目は事態の険しさを悟った。


「中忍試験で木ノ葉に滞在している───砂隠れの上忍が、ハヤテを襲った可能性が高いものと」




62.出立

 

 

 夏至はとうに過ぎたものの、夏の日の出はまだ早い。

 時刻は朝5時。人っ子一人いない通りから見上げた火影邸は、眩いばかりの朝日に照らされている。

 まだ早すぎるとはわかっていたが、つい目が冴えてしまったサスケは、早々にこの待ち合わせ場所へと来ていた。

 

 

「サスケェ、まだ集合には早すぎんじゃねーの?いっつも任務の時はカカシ先生とおんなじくらい遅刻する癖に……また雨でも降りそうだってばよ……」

 

 

 近くの木陰に荷物を下ろしていると、物音を聞きつけてサスケの後からついてきたらしいナルトがあくび混じりにぼやいた。

 眠そうな目を擦ってジトリと睨んでくるナルトに、低血圧ぎみのサスケはため息を吐き出した。

 

 

「俺には先約がある。お前が後から来ればいいだけだ」

「エロ仙人に先に修行つけてもらう気だろ!抜け駆けは許さねーってばよ!」

「先約っていうのはイタチとだぞ」

「え?イタチの兄ちゃん?」

「……調べ物を頼んでいる」

 

 

 突然のイタチの名に、ナルトがきょとんと首を傾げた。

 なんでなんでとその視線は煩い程に訴えているが、ハヤテやら大蛇丸やらが絡む経緯を話すわけにもいかず視線をそらしつつ告げるも、それは決して嘘ではない。

 基本朝に弱いサスケがこんな早朝に火影邸に来ている理由、それはただ昨日のイタチの一言にある。

 

 

『わかった……お前がそこまで本気なら、かけ合ってみよう。明日朝、火影邸前に来い』

『また明日』

 

 

 そんな約束を忘れる筈もなく。大蛇丸の件で多忙を極めているだろうイタチを待たせる訳にもいかない、そう思えば気が急いていたのだ。

 ナルトはふーんと相槌を打つと、それ以上は追及せずにサスケの隣へパンパンに膨らんだ荷物を下ろした。

 

 

(イタチは……きっとまだ火影邸にいる)

 

 

 見上げる火影邸の窓からは、消されないままの電光がちらりと伺える。道通りとは裏腹に、火影邸内からは少なくない人の気配がしていた。

 大蛇丸の襲来、ダンゾウの関与、本戦での企み……サスケから伝えられた情報に、きっと火影邸は大騒ぎになったことだろう。

 色々と対策を講じているとは思うが、下忍のサスケにその詳細が伝えられることはない。そんな立場がもどかしく感じるが、今はイタチやシスイ、この里を信じる他になかった。

 

 

(そんな中、俺はともかくナルトが里を離れる……その許可がすんなり下りるかどうかも怪しいな……)

 

 

 少しばかりの不安を抱え、その場で待つこと一時間。うつらうつらと船をこぐナルトに肩を貸してやっていたサスケは、ふと火影邸から出てきた人物に目を瞬かせた。

 

 

「アンタ……」

「ん?もう来ておったのか、気が早いのう」

 

 

 こちらに気づき下駄を鳴らして歩いてくるのは、昨日別れたはずの自来也だった。

 確かに自来也ともこの火影邸前で、と約束をしていたがまだ予定の時間よりも早すぎる。

 入った所は目撃していない。だとすれば、それよりも前に火影邸にいたということ。火影に呼び出されていたのか、大蛇丸の件か、それとも───サスケとナルトの出立を止められたか。

 もの言いたげなサスケの視線に気づいたのだろう、自来也はニッと口角を上げると懐へ手を伸ばした。

 

 

「そういやのぅ……イタチからこれをお前さんに渡すように頼まれてな」

「イタチから?」

 

 

 自来也の口から出るとは思わなかった名に少々驚きながら、差し出された巻物を受け取る。まだ墨の匂いがかすかに漂うその封を開けると、まず目に入ったのは見覚えのある筆跡だった。

 手本通りの流れるような綺麗な字───イタチの筆跡だ。まさか、そう思いながら巻物を開いていく。ざっと目を通したサスケは目を見開いた。

 

 そこに書かれていたのはサスケの欲していた情報そのもの、全てと言ってもいい。それは紛うことなく『飛雷神の術』の忍術書だった。

 火影邸に保管されているその書は、一般の忍、それも下忍が見れるようなものではなく。イタチならばと期待はあったが、手がかりが掴めればと思っていただけだった。

 それが、恐らくは一言一句違わずに書き写され、サスケの手の中にある。その貴重さを理解すると共に書を握る手が汗ばんだ。

 

 

「どうやら忙しいようでな。『見送りはできない、許せ、サスケ』と言伝を頼まれておる」

 

 

 火影邸前に出て来れないほど忙しい身でありながら、そんなとんでもないことをするイタチ。その労力を思えば、許せとはサスケの言うべき言葉だろう。

 探す情報が与えられた喜び以上に、イタチに負担をかけたくはなかった、そんな後悔が頭をよぎった。

 

 

「イタチは……他に、何か言っていたか?」

 

 

 複雑な内心を抑えて告げたその問いに、自来也は少し驚いたような表情を見せた後、ニヤリと笑った。

 

 

「さて、直接の伝言じゃねえが……下忍のガキにこの術が習得できるはずがないとワシが言ったらの、イタチの奴」

 

 

───できますよ。あいつは俺の、自慢の弟分ですから。

 

 

「『きっと俺以上の忍になりますよ』なんて、笑っておったのぅ?」

 

 

 その言葉にハッと顔を上げた。

 それは与えられるだけの義務でも、受けるだけの愛でもなかった。握る巻物が途端にずしりと重く感じるも、そこに込められた想いは決して息苦しくはなく。

 

 

(必ず……イタチの期待を、無にはさせない)

 

 

 サスケは不敵に微笑んで、新たな決意と共にその巻物を固く握りしめた。

 

 

 

 

「さて、ちいと早いがそろそろ門も開く頃だ。さっそく、出るとするかのう」

 

 

 眠り続けていたナルトを揺り起こし、自来也の先導で向かった先は阿吽の門。里の出入り口であり、里外任務に向かう者、里内に入る者が必ず通らなければならない場所だ。

 そこにはすでに多くの人間が列を成している。その最後尾に並びながら前を伺えば、門番が二人、通行者をチェックしていた。

 

 

(警備が厳しくなったのか?)

 

 

 列の進みは緩やかだ。中忍試験が始まる前には任務を滞らせないようにか、額当てをしている者は止められることなど早々なかったものだ。

 それがどうやら、今は忍の方が厳しく検問されているように思える。

 

 

「なーなー、何でこんなに進むのおせーんだってばよ?早くさ、早くさ!俺ってば修行したいのに!」

「そう言うな。ここ最近、中忍試験に紛れて不正に里へ入ろうとする人間が増えているからのぅ。今年からは特に厳重になり、こうして常に見張りを立たせるようになっておるのだ」

「ふーん?」

「なあに、待ちながらでも修行なんぞできる。ほれ、昨日の復習だ。口寄せをやってみろ」

「オッス!」

 

 

 さっそく口寄せ蝦蟇を出しているナルトを横目に、サスケは自来也の説明に当然だな、と内心で頷いた。むしろ今までの警備が手薄過ぎたと言える。

 

 

(しかし、それでも大蛇丸には通用しなかったということだ。ダンゾウの手引きもあっては無理もない。それにしても………奴は一体どこへ消えた?)

 

 

 大蛇丸は里にまだ潜伏しているのか、それとも既に出ているのか。暁がツーマンセルで動くことを考えると、侵入者は大蛇丸だけとも考えにくい。

 サスケが大蛇丸に狙われている件は上層部に伏せられているにせよ、暁に狙われた人柱力であるナルトをこのタイミングで自来也に託して里外へ出す。

 その意図を考えるに、まだ里も大蛇丸の足取りを把握できていない可能性が高いと言える。

 

 

(里内にいる方が危険だと判断された、ということか……)

 

 

 そんなことをつらつら考えていれば、サスケ達の順番が回ってきていた。

 自来也が懐から通行手形を取り出して門番の男に差し出す。男はそれを黙って受け取ると、ハッとしたように目を見開き、慌てて姿勢を正した。

 

 

「し、失礼しました。どうぞお通りください!」

 

 

 そんな尊敬の念がこもる態度に自来也は苦笑しながら、身辺チェックもそこそこにその横を通り過ぎる。

 その後に続いてナルトが門を出る。更にその後にサスケが門を通り抜けようとして───足を止めた。

 

 

(何だ……?)

 

 

 振り向きざまに背後を窺うも、そこには長く続く順番待ちをしている者達の列と、次なる通行者にかかりきりになっている門番らだけ。自来也と合流以来、護衛をしてくれていたうちはの者達も消えていた。

 

 けれど何故か。

 一瞬、視線を感じた気がした。

 

 

「サスケー、何してんだってばよ?置いてっちまうぞー!」

「ゲコゲコ」

 

 

 先を行くナルトとその頭上の蝦蟇の声に急かされ、里の外へと目を向けたサスケの肩口。

 刻まれた呪印が禍々しい紅に染まっていたことに、サスケが気づくことはなかった。

 

 

 

 

 火影邸、地下。

 窓一つないその空間を、たった一つの電灯が照らしている。使われなくなって久しいそれももう寿命が近いのか、チカチカと点滅しはじめていた。

 

 

「終わったか」

「フン……久々に呼び出されたかと思えば、こんな下らない用事だとはな」

 

 

 そんな薄明るい部屋の中心に佇む人影があった。

 足元にびっしりと広がる陣の上、つまらなさそうに息をつく老人。五年前より長くなった前髪から覗く昏い片瞳が、電灯の瞬きと共に妖しく光る。その瞳の奥で渦巻いているものは憎悪や怒りなどではなく、もっと暗く、冷たいものだった。

 そしてそんな視線を向けられたイタチもまた、鋭い眼差しを老人へと返す。

 

 

「質問に答えろ。終わったか、そう聞いたんだ」

 

 

 その声には隠しきれない苛立ちが滲んでいた。しかしそんなものには目もくれず、老人───ダンゾウは鼻先で笑った。

 

 

「ヒルゼンの命では仕方あるまい、要望通り“追尾は”解呪してやった。いっそのこと全てを解いて、暗部に召し抱えてしまえば良いものを……相変わらず甘い奴だ」

「………」

「尤も……あのような出来損ないを暗部に入れた所で、長続きはしないだろうがな」

「黙れ!お前が、サスケを語るな……!」

「事実にすぎん。記憶を失った程度で未だ写輪眼を開眼しないばかりか、たかだか予選如きで入院するようなゴミ……本当にお前の弟かも怪しい位ではないか」

 

 

 途端、イタチの雰囲気が変わった。纏う空気が一気に冷たくなり、室温までが下がっていく。

 向けられる殺気にダンゾウは表情一つ変えず、まるでそんなイタチの反応すら楽しむかのように、その隻眼が細められた。

 

 

「ゴミとはいえまだ使いようがあるようだ……イタチよ、忘れるな───お前の弟の命は、儂の手の内にあるということをな」

 

 

 かつりかつりと杖を突きながら歩き出すダンゾウの背を憎々しげに睨み付け、イタチは固く拳を握りしめた。




サスケ烈伝に感謝!(⁠ ⁠;⁠∀⁠;⁠)

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