火影邸、その最奥にある隠し部屋には限られた忍のみが立ち入りを許される。
普段は火影と上層部での会議が行われる場であるが、緊急時には上忍以上の忍が集められ話し合いをすることもあった。
そして、今。その部屋には上座に三代目、その両隣に相談役のうたたねコハルと水戸門ホムラが座り、その前に数十名の上忍がズラリと並んで膝をつく。担当上忍である、アスマ、紅、そして中忍試験を担当したイビキやアンコらも参列していた。
招集をかけて一刻、最後の一人がようやく姿を現した。
『やー遅れてすみません』
『遅いぞカカシ。早く座らんか』
『そう責めるでない。カカシにはちと用事を言いつけてあったのでな』
睨むコハルにへらりと笑いながら、カカシは三代目にちらりと視線をやり小さく頷いた。
それに一瞬頬を緩めた三代目だったが、集まる視線に表情を引き締めると、咳払いを一つして重々しく口を開いた。
『既に聞いておる者もおろうが……今朝、桔梗城の傍らで月光ハヤテが襲撃された』
『えっ、ハヤテが……!?』
『馬鹿な……!』
『無事なのか……?』
ざわりと動揺の波がたつ。それもその筈、ハヤテの実力は上忍の名に恥じぬものであり、ゴロツキ等の格下であれば奇襲をかけられたとしても容易く避けられただろう。
つまり、襲撃者はハヤテと同等の上忍か、それ以上の戦闘力を持つことを意味した。
『警務部隊の迅速な手当てにより、一時は命を取り留めたのじゃがな……数刻前───ハヤテは死んだ』
シン、とその場が静まり返った。沈痛に目を伏せる者、怒りに歯を噛みしめる者。ただ一人恐怖を眼差しに灯したアンコは、ゴクリと唾を飲み込んで震える唇を開く。
『まさか相手は、大蛇丸ですか?』
『何ィ!?大蛇丸だと!!?』
『あの三忍のか!?』
『まさか……!いったい今ごろ何故、奴が……!?』
アンコの告げた名に、紛れもない恐怖とどよめきが一瞬で部屋を駆け巡った。
溶けた顔の草隠れの忍、予選で明らかとなったスパイ。大蛇丸の影を感じながらも、皆、その可能性から目を背けていたのだ。
三代目が静粛に、と片手を上げると皆口を噤むが、その揺れる瞳は隠せない。三忍は里の英雄として名高い反面、その強さを理解しているが故に、こちらに向けられた刃の鋭さに怯えずにはいられないのだろう。
ため息を付きながら、三代目は首肯した。
『残念じゃが大蛇丸の目撃証言が入った。その可能性はある……が、必ずしもそう判断はできん』
『では、中忍試験は中止して………!』
ライドウの言に上忍一同が顔を見合わせる。大蛇丸の画策があるとなれば、同盟国の安全も保証はできない。ましてや大名達が各国から集まるのだから、不安要素のある中で開催を続けることはリスクが高かった。
しかし、茶を啜りながら相談役のコハルはゆっくりと首を横に振った。
『打診したとて恐らく反対されるじゃろう。特に砂隠れは、今回の中忍試験にやけに気合いを入れておったようじゃしの』
『ではまさか……砂隠れが大蛇丸と手を組んで、木ノ葉を裏切ると!?』
『ま、同盟条約なんてのは口約束と同じレベルだよ。……嘗ての忍界大戦がそうだったように』
至って冷静なカカシの言葉に、三代目は静かに目を伏せた。
嘗ての凄惨な光景が一同の脳裏によぎる。最初こそ互いの戦力を削ぐための小さな小競り合いだったが、その火種がやがて大きな戦火へと発展していった。それがこの忍界の常であり、歴史でもある。
またその悲劇を繰り返すことになるかもしれないと思うと、戦場を経験する会議場の全員は押し黙る他なかった。
『……とにかく今は情報が少なすぎる』
『既に各国へ情報収集に暗部を走らせてある。迂闊に動くと危険じゃ、そこに敵の狙いがあるやもしれん』
『それに、儂は貴様らを信用しておる。いざの際には木ノ葉の力総結集して───戦うのみよ』
コハル、ホムラに続けてそう締め括った三代目に、一同は再び姿勢を正した。
その後いくつかの伝達をして解散となり、一人また一人と会議場を立ち去っていった。
『まさか、ハヤテが死ぬとは……警務部隊を護衛につけておった筈だが』
『いったい奴らは何をしておったのだ!?だから暗部との合同任務にしたというのに……!』
『何も殺されたとは言っておらん。残念じゃが容態が急変したと報告を受けておる。もとより傷は深かったのだ、警務部隊を責めるではないぞ』
上忍達がいなくなると、彼らの手前抑えていたのだろう怒りも顕に、コハルとホムラは三代目を睨みつける。
宥める三代目だったが、そんなうちは一族を庇う三代目の姿に更に怒りを増した二人は、眼差しを尖らせて椅子を立った。
『急変?フン、どうだか。警務部隊の巡回ルートを外れた所で、偶然にも虫の息のハヤテを見つけたと本気で思うのか?』
『ハヤテ以上の手練れが、敵の只中でそんな凡ミスをするはずがあるまい。風隠れの商人の失踪といい……うちはを信じるな、ヒルゼン』
『いずれ、後悔することになるぞ』
『…………』
捨て台詞を残して退室していく二人を見送ると、三代目は大きく溜息をついた。
その疑念は三代目の胸中にもあった。だからこそ、暗部との合同調査を命じたのだ。だが───今となっては、その決断そのものも後悔していた。
『全く、老いたものじゃのォ……お主もそう思うだろう───自来也よ』
その言葉と同時、三代目を残して誰もいなくなった筈のその部屋に、どこからともなく自来也が姿を現した。
その自来也の瞳に形容しがたい複雑な想いを見て取って、三代目はフッと自嘲げに壁にかけられた代々の火影の額縁へと視線を流す。
『四代目が生きておったならば、な……』
ポツリと力なく呟く三代目に、自来也が何か言いかけたその時、三つの影が自来也の背後に降り立った。
『もう四代目はいない。しかし、例え四代目がいなくなろうとも、火の意志は絶えません』
『歴代の火影様達は、木ノ葉の里とそこに生きる者たちを守り乱世を収め里を繁栄させる……その夢に命をかけた。その火の意志は、俺たちに継がれていますからね』
『そうでしょう、自来也様?』
不敵に微笑むカカシと見知らぬ黒髪黒目の二人の忍に、自来也は暫し目を見張っていたが、やがてその口元にも同じような笑みを浮かべ三代目に向けて力強くうなずいて見せた。
『そんなしょぼくれてるとジジイが更にジジイになるわい。確かに面倒事は御免だが……ま、ここまで話を聞かされちゃしゃあねぇのォ───詳しく話を聞かせてみろ、ジジイ』
そう言った自来也に。俯けた傘の下、三代目がしてやったりとニンマリ笑みを浮かべていたとは。
この時の自来也には、知る由もなかったのである。
◆ ◆ ◆
(全く。大蛇丸の後を追って木ノ葉に舞い戻ったかと思えば、こんな厄介なことになっていたとはのォ……)
手元にある報告書を眺めながら、自来也は深く眉間にシワを寄せた。
うちはイタチ、うちはシスイから軽く紹介を受けた後の情報開示。初っ端から聞かされたダンゾウの失脚というだけでも驚愕だというのに、開催された中忍試験に乱入した大蛇丸、狙われた砂隠れと木ノ葉の下忍共、予選中に捕縛されたスパイ達とその直後の死、ハヤテの暗殺未遂と生存の隠蔽、その夜の砂隠れの上忍の負傷。
告げられていく機密情報は膨大なものだった。同じく何も聞かされていなかったカカシと共に、目を白黒させながら顔を見合わせてしまったものだ。
どこから話をするかと数十枚に及ぶ紙面に整理された情報を流し見ていけば、“暁”という字に目が留まった。
『“暁”……奴らがどんな奴らか、知っておるのか?』
『詳しくは分かりません。大蛇丸が近年入った犯罪組織としか……ただ、対面した際に大蛇丸は言ったそうです。“狙いは巻物ではなく尾獣だ”と』
『やはり。では木ノ葉に来たのは、九尾を狙ってということか!』
『九尾というと……ナルトですか。まさか大蛇丸と接触していたとは……無事でよかった……』
カカシが隠しきれない苦々しさと安堵を滲ませて息を吐く。
同じく思い浮かべたのは、半日前に別れたばかりの金髪頭の無邪気な子供の姿だ。やはりあの護衛達は、大蛇丸を警戒してのものだったのだろう。
四代目の遺児であるナルトに封じられているのは、チャクラの化身、天災と恐れられた九尾の妖狐だ。そのチャクラを引き出すべく口寄せの修行を見ているが、たった三日でそのチャクラを利用しての口寄せを習得しつつあるのだから、流石ミナトの子だといえる。
『ええ、うずまきナルト、それから砂隠れの下忍を狙ったようですね』
『とすると、その砂隠れの子も……』
『老僧の生霊とも伝えられた───一尾の人柱力で間違いないな』
シスイが一枚の写真をひらりと取り出す。そこには、砂がおどろおどろしく纏わりつく赤髪の少年の姿があった。
木ノ葉隠れの額当てに緑のダサいタイツを着た子供と戦っている所を見るに、件の予選試合でのものと伺えた。
『まさか、人柱力が二人もいる中忍試験とはのォ……それにしても、S級犯罪者二人に狙われてよくぞ無事だったものだ』
『二人?大蛇丸だけでは?』
『今、奴は霧隠れの怪人、干柿鬼鮫とコンビを組んでおる。暁は基本ツーマンセルで動く。別行動をしていた、その可能性もあるがな』
『確かに侵入者の形跡は複数名ありました。しかし、元忍刀七人衆まで来ていたとは……』
『大蛇丸はともかく、霧隠れの忍まで警備をすり抜けるとは思えないな。時空間忍術の類か……最悪、結界情報が漏れているかだ。新たに張りなおすとなったら、早くても一ヶ月はかかるぞ』
『シスイ、今すぐ術に長けた忍を選出し結界の張り直しに向かえ。今の結界術より多少レベルを落としても構わん、ザルよりマシじゃ。暗部達には可能な限り内密に動くのじゃぞ』
『はっ!』
三代目の命を受け瞬身の異名違わずすぐさま消え失せたシスイ。だが、彼は暗部総隊長と言っていた筈だ。そんなシスイに対し、部下である暗部に情報を伏せろとは?
頭をもたげた疑問を目に乗せ向けると、三代目は頭が痛い問題だとでもいうかのように蟀谷に指を押し当てた。
『信じたくはない話じゃがな……暗部に内通者がおる可能性が高い』
『『!!?』』
『大蛇丸の部下二人が死亡したタイミング、それに暗部の監視下にあるダンゾウしか知らぬ情報の漏洩……もはやそれしか考えられぬ。コハル、ホムラには常に護衛として専属暗部がついておるからのぅ、ハヤテの件も伏せるしかなかった』
『カカシさんを呼んだのもその為です。カカシさんは現役暗部の一人一人をよくご存知の筈』
『……ま、そりゃ古参の方だからね』
生き残ってる奴の中では、という声が言葉なく付け足される。
だが、カカシが感傷に浸る隙も与えず、イタチは容赦なく爆弾を落とした。
『カカシさん、あなたには暗部に潜入してもらいます』
『え?』
カカシの目が珍しく点になっている。それだけ予想外だったのだろう。
そんなカカシを無視、もとい、頓着せずにイタチは淡々と続けた。
『疑わしい暗部の行動を見張ってほしいんです。これがリストで……』
『ちょ、ちょっと待ってよ。さっき言ってた、お前の所の“芽”とかいう部下を使えばいいじゃない』
『数日でいいんです。ああ、金魚は芽で預かりますので心配なく。それに……リストをよく見てください』
『ねぇ、俺の癒しを取らないでほしいんだけど?……って、これ……テンゾウ?』
『正確に言えば、暗部養成機関“根”の出身者兼暗部達、です』
『……アイツは内通なんかしない』
『分かりませんよ。失脚したとはいえダンゾウのことですから、何か弱みを握られていた可能性だってある』
『…………』
カカシもダンゾウの人となりは知っているのか、それとも思い当たる節でもあるのか。ジッとリストの写真を表情険しく見つめていたが、ややあって小さく頷いた。
そして、クルリと三代目とイタチの顔がカカシからこちらへと揃って向けられ、自来也はギクリと肩を揺らした。
『自来也。お主には───綱手の捜索を頼みたい』
『……は?』
『聞こえませんでしたか?あなたと元同班、かの伝説の三忍である綱手様を探し、連れ帰ってほしい』
『……何?』
どんな難題が言われるかと思えば、既に取り決められていた約束事を持ち出されて自来也は呆けたように聞き返してしまった。
───三忍であるアンタに頼みがある。アンタの知る、一番腕利きの医療忍者を紹介してほしい。
───見つけられる筈だ。他でもない……同じ三忍である自来也、アンタにならな。
───この命は既に木ノ葉にやった。だから悪いがアンタにはやれない。
───助けたい奴がいる、いつ命を落とすか知れない。猶予は遅くとも一ヶ月だ。
この男とよく似た、黒い瞳を思い出す。
これは、偶然か?
『先程言ったでしょう。ハヤテは生きています』
『内部におる敵の目を欺くために死を偽装した。本物のハヤテは様体も安定し、別所に匿っておる。だが、未だ目を醒まさず昏睡状態……綱手以外に助けられる輩はおらん』
『敵も愚かではない。恐らく死が偽装というのは分かっている筈、時間稼ぎでしかないでしょう……現に、ハヤテのいた部屋からは毒が検出されましたからね』
『綱手の血液恐怖症はまだ治ってはおらんだろうが、今はそうも言ってられん。例え、幻術をかけてでも綱手には治療に当たってもらう。火影としての命令じゃ、これを持っていけ』
頭の中が一瞬白くなっている所に、次々と情報が積み重ねられていく。予め用意していたらしい書簡を持たせられ、あれよあれよと話が纏まっていった。
そこでようやく自分が嵌められたのだと気がついた。わざわざ四代目の名と共に珍しく弱音を吐いたかと思えば、この狸ジジイは最初から巻き込む腹づもりだったのだろう。
『しかし……カカシには暗部の潜入を任せたからのォ。はてさて、ナルトを誰に預けたものか』
『あ、そういえば……自来也様はナルトを弟子にしたそうですね。あいつ凄い師匠に見てもらってるって喜んでましたよ』
『それはちょうど良い、ナルトも連れて行け。そうそう、サスケも寂しがるじゃろう……もう一人、ナルトと同班の子供も一緒にな』
『サスケを?まぁ、サスケも一緒ならナルトのいい刺激になりそうですね。アイツも数日は修行もできませんし、俺も見てやれませんから気晴らしになる』
『なら……自来也様、これをサスケに渡してくれませんか?見送りはできない、許せ、サスケ──そう言伝を頼みます』
いつの間にか復活したカカシも、そんな予定調和のようなやり取りにうんうんと話に乗る。
大方、狙われているナルトを敵が潜む里内に置くよりも、大蛇丸に対抗できるワシと共に里外に、という所か。
別に異論はないが、こちらから言い出そうと思っていた話が、全て準備万端とばかりに押し出されていることが心底不気味である。
そう思いながらも、もはや断ることのできない雰囲気のままイタチの書を預かるしか道はなかった。
『へえ、何の忍術書?』
『───飛雷神の術。正確には写しです。ちゃんと許可は貰ってます』
『飛雷神って……ミナト先生の……』
『ええ。写輪眼なしでの千鳥運用を考えた結果だそうですよ』
『!!』
その言葉に、白く染まっていた思考がようやく動き出す。
習得難度で言えば、千鳥はA級、飛雷神の術はS級だ。千鳥のために飛雷神の術を、など有り得ない話だった。
確かに幻術はなかなかの腕だったが、四代目とは比べるべくもないだろう。忍としての器は歴代一、術の才に溢れ頭脳明晰、人望に満ち、ワシ並みに男前……まぁ、顔は勝てるかもしれんが。
そんな嘗ての四代目を思い出せばこそ。その四代目さえも修行に難航した姿を知っているからこそ、黙ってはいられなかった。
『ハッ、下忍のガキにこの術が習得できるはずがねぇのォ。千鳥さえも怪しい所だ』
『それは……分かりませんよ。何せ今のアイツらは伸び代がある。はじめから無理って決めつけてちゃ、アイツらの可能性を潰すってことでしょう』
『そうは言ってもな……あの四代目でさえ習得に何年もかかった術だ。そう簡単に習得できるもんなら、既に里の皆が手を出しておるのォ。カカシ、ミナトの弟子であったお前もその術をよく知っておる筈だ』
『………』
教え子だからかやけに肩を持っていたカカシも、四代目の姿を思い出してか口籠る。
最盛期に側で教えを受けた分、幼少期の師である自来也よりもその才をまざまざと見てきたカカシだ。修行が必ずしも実を結ぶとは限らない、忍の世界はそう甘くはないのだ。
『できますよ。あいつは俺の、自慢の弟分ですから』
そんな会話に割り込んだのは、静かにやり取りを眺めていたイタチだった。
その氷のようだった無表情がふと和らぐ。
『きっと俺以上の忍になりますよ。もしかすると……四代目以上にも』
四代目を知らぬ癖に、いけしゃあしゃあとイタチは断言した。
しかし、その瞳には欠片も揺るぎがない。戯言と一笑にできぬ何かがイタチにはあった。
『自来也よ。ミナトは偉大な火影じゃった。その意志は火となって繋がれていく。だがな───既に次世代は芽吹いておる。その成長の糧たる光を、先達は遮ってはならぬ』
四代目波風ミナト。アイツは十年に一度の天才だった。
だが、ジジイの言葉に思い出す。九尾事件からは、もうその十年以上が経つのだと。
その面影をナルトに探していたのは、代名詞たる術を何の繫がりもない下忍が習得することに心がざわついたのは───若葉のまま散ったミナトを、忘れ難かったのかもしれなかった。
『自来也様。サスケの修行もナルトと一緒に見てやってくれませんか』
『……見込みがなさそうならば、書は燃やしてしまうぞ』
『ええ。よろしくお願いします』
写しとはいえ貴重な代物だというのに躊躇いなくイタチは頷くと、さっそく暗部潜入の件でかカカシを引きずって部屋を出ていった。
そうして残されたのは、ジジイとワシの二人だけだった。
『さて……話が終わったならば、ワシも綺麗な姉ちゃんの取材に行くとするかのォ』
『まぁ待て、自来也』
『フン、これ以上の厄介事を背負わされては堪らんわい。じゃあな、ジジイ』
『待て。最後にもう一つだけ……伝えねばならんことがある』
ジジイにひらひらと手を振って出ていこうとしたが、ドアノブに手をかけた所で真剣な声音に引き留められた。
『ナルトばかりではなく、サスケもまた、大蛇丸から個人的に狙われておる』
『大蛇丸が?』
『サスケはうちは一族でな。訳あって、幼少期より里で預かっておる……目を離すな。ナルトと同様、必ず守れ。万一何かあれば諍いの元となろう』
『ジジイ、それは───』
どういう事だと問い詰めようと振り向くが、そこには空席だけがあった。
そういえば、四代目の術に気を取られてしまったが、綱手捜索を先にサスケと約束していたことを伝え損ねてしまった。そこに加えて何やら裏がありそうなうちは一族とは、また厄介事を背負わされてしまったらしい。
(全く、抜け目ないジジイになったものだの……)
ため息を吐き出しながら扉を開けば、来たときには降り続いていた雨はすっかり上がり、窓から差し込んだ眩いばかりの朝日が目を焼く。
手を翳して見上げて見れば、少しばかり残った露を弾いて、青々とした木の葉達が風に揺れていた。
『次世代、か。ミナト……お前の守ったこの里も、まだまだ育っておるようだ』
一見変わらぬように見えながら、木ノ葉の内情はだいぶ様変わりし、新たな世代が台頭していた。それはどこか寂しくも、若々しい彼らは未来への希望や力強さを感じさせる。
カカシを始めに、シスイにイタチ。
そして───窓の外、木漏れ日に照らされた黒と黄色の小さな頭にふっと柔らかな笑みを浮かべた自来也は、下駄を鳴らして彼らの元へと歩いていった。
おまけ その後の雑談
『三代目、結界の張り直しの手筈は整えました。それから……呪印も解除が進み、もうじき終わるとイタチの分身から情報がきています。あの男から面会希望が出ていますがお会いになりますか?』
『そうか、ご苦労じゃったなシスイ。いや……会わんでおこう。影を負ってこそ火影だというのに、あやつには暗い役回りばかりを押し付けた。その負い目は消えぬ以上、会えば判断を鈍らせる……いつかは相対することになろうがな』
『……何故、自来也様に全てお伝えしなかったのですか?』
『うむ……あやつは四代目を息子のように思っていたからの。人質の件を話せば、うちはとの確執───四代目やクシナを失った、九尾襲撃の疑惑まで話さねばならん……わざわざ過去の傷を抉ることはなかろう』
『なるほど。ですが……自来也様は鋭い方ですから、隠し続けることは不可能かと』
『そうじゃのぅ。あやつが火影を継いでくれたならば、悠々自適な隠居がようやくできるというものなんじゃがなぁ』
『ハハ、自来也様は引き受けてはくれなさそうですね』
『全くな……しかし、万一のことも考えておかねば。シスイはどうじゃ?』
『ご冗談を。現状ではうちはからの選出は厳しい、そうでしょう?まぁ、だとしても俺はイタチを推しますが』
『素質は十分なのだが。まぁ、イタチはまだ十代、カカシも含めお主らはまだ若すぎるかの……現実的には、やはり───』
そうして告げられた名にシスイは素直に同意するも、財政部の嘆きを予感せざるを得なかった。