SASUKE逆行伝   作:koko22

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三代目→テマリ視点


78.影鬼

 

 数多の予想を覆した第一試合。勝者へ惜しみない拍手が続く中、ナルトは跳ね上がって観客らへアピールをしている。

 子供らしいその行動は変わらずとも目を見張るばかりの成長に、猿飛ヒルゼンは満足気に微笑んでいた。

 

 

(螺旋丸に九尾のチャクラとは、いつの間に……教えたのは自来也か)

 

 

 『螺旋丸』───それは四代目火影にしてナルトの実の父、波風ミナトが開発した習得難易度Aランクの超高等忍術だ。

 金髪碧眼というミナトの血を引く容貌も相まって、『四代目火影の再来』という言葉がそこかしこから聞こえてくる。現にヒルゼンまでもが、螺旋丸を使ったナルトにミナトの姿を重ねてしまった程である。

 そして何より、あの九尾のチャクラをコントロールしてみせたのには驚かされた。まだまだ完全な制御には至らないものの、ナルトの母であるうずまきクシナ以上の可能性を感じさせる。

 

 

(ミナト、クシナ……そなた達の血は確実に受け継がれておるぞ)

 

 

 試験官に促されて退場していくナルトの背を拍手をもって見送る。胸の内でそう呟きながら、さて、と視線を隣の席へと移した。

 風と書かれた編笠に口元を覆うベール。そこから覗く切れ長の双眸は、何を考えているのか読めぬ暗い光を宿している。

 そんな風影の様子を伺うヒルゼンに、シスイと共に背後で護衛をしていた並足ライドウがそっと小声で耳打ちした。

 

 

「まだ、彼の消息は掴めておりません」

「そうか……」

 

 

 捜索に当たらせているのは、受験者達の一人にして風影の子息。人柱力と予想されている『我愛羅』という少年であった。

 砂隠れ及び中忍試験の監視役として常に暗部が配置されていたが、友好を謳う手前、流石に選手控室までは立ち入れず。次にその扉が開いた時には、我愛羅の姿は既に消え失せていたという。

 

 

(これが砂隠れの策、というのも否定できぬ)

 

 

 万一、人柱力が里内で暴走したとしても、里内随所に待機している警務部隊がその暴走を抑える手筈となっている。

 しかし、それを陽動として砂隠れが攻め込んで来たなら、尾獣と忍双方を相手取れば多数の犠牲者が出ることは容易く予想ができた。

 また、警務部隊隊長フガクは南加ノ区での謹慎処分、その副隊長を含めた数名も先日殉職している。警務部隊らの指揮の乱れは確実に悪影響を及ぼすだろう。

 

 

(だが先程の風影の反応からして、イレギュラーというのもあり得ぬ話ではない)

 

 

 受験者が一人足りぬことに気がついた際、一瞬だが風影の発した殺気は我が子へ向けるようなものではなかった。青ざめた砂隠れの上忍が席をたったのも、彼を探しに行くためだろう。

 敵陣において戦力の分散は得策とは言えぬ。そう考えるに、砂隠れとしても今回の事態は予想外の出来事であったのかもしれないが……どうしたものか。

 考えれば考える程に真実が見えなくなるような心地がして、ヒルゼンはふう、と小さな溜息を吐き出した。

 

 

「うちの我愛羅がまだ来ていないようですね」

「……そうですな。今、全力で探させている所で───」

「何、簡単な事ですよ。ルール通り、うちの我愛羅を失格にすればいい」

「!?」

 

 

 そうさらりと告げる風影にヒルゼンは言葉を失い、背後の二人も息を呑んだ。

 しかし、風影とその護衛達は顔色を変えないままだ。まるでどうでもよい、と言わんばかりの態度につい眉間に皺が寄る。

 そんな物言いたげなヒルゼンを風影は鼻で笑うと、その視線を観衆へと流した。

 

 

「ご覧なさい。既に観客は騒ぎ始めている。忍において時を軽んじる者はどんなに優秀とて、中忍の資格はない……そうでしょう?」

 

 

 風影の言うように、既に観客席からは『いつまで待たせるんだ!』『何モタモタしてる、早く次の試合を始めろ!!』等と野次が飛び始めていた。

 中忍の選抜条件を考えれば風影に一理ある。確かに、ここで失格にすべきなのだろうが、それを誰でもなく、風影が言うことに警戒心を覚える。

 

 

(手札を明かしたくないと?だが、それならば棄権させればよいこと。『テマリ』を残す理由もない。それに……此度の試合、最も注目が集まっているのは風影の子息である『我愛羅』)

 

 

 大名連中の間、裏側で盛んに行われている賭け事では間違いなく彼が最有力。二番手であった『日向ネジ』の脱落も考えれば、ここで『我愛羅』を失格にさせれば大名達の反感を買うことになろう。

 そして、風影の子息という肩書き。自里の忍ならばともかく、ここで彼を失格にさせることは砂隠れの面子を潰すことになる。中忍試験が滞りなく終わったとして、その後に行われる予定の同盟内容の見直しを考えれば、関係性の悪化は避けたい所だ。

 

 恣意なのか、偶然なのか。何が最善か、何が悪手か。

 たっぷり数十秒考え込んだヒルゼンは、決意をもって瞼を上げると、にこやかな好々爺の下に本音を仕舞い込む。

 

 

「儂を含め、ここにいるほとんどの忍頭や大名は彼……『我愛羅』君の試合を楽しみにしております。何せ風影殿の子息ですからなぁ!」

「……」

「そう焦らずともよいでしょう。この試合を一つ後回しにし、もう暫し彼を待ちませぬか?」

「まぁ、火影様がそういうのであれば……お言葉に甘えさせて頂きましょうか」

 

 

 風影の頷きを確認し、緊張した面持ちのライドウへと目配せする。

 その視線を受けたライドウは、審判であるゲンマへその決定事項を伝えに行った。

 

 

(本当にそれでよろしいのですか?)

(分からぬ。が、ここで失格にした所でのぅ……)

(そうですね……手札は確認しておきたい、削れれば尚良し、ですか)

 

 

 背後に残るシスイと目だけで意見を交わす。

 そんなやり取りに気づいているのかいないのか。次戦を告げる審判の声に、風影はベールの下に悪鬼の如き笑みを隠していた。

 

 

「さあ、早く試合を進めましょう。私としては───後の試合が気になりますから」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「よっしゃー!シカマル、頑張れってばよ!!」

「っ!!?」

 

 

 初勝利に浮かれ調子のナルトに背を押され、控室のデッキから落ちてきた男。

 背を地面に打ち付けたまま、ぼーっと空を見上げているぼんやり男こと『奈良シカマル』がアタシの対戦相手だった。

 

 

(チッ、呑気なもんだ。こっちはそれどころじゃないってのに……!!)

 

 

 悠長なそんな姿がひたすら気に食わないのは、八つ当たりだということくらい分かっている。

 だけど、その木ノ葉の紋が額にある限り、彼らはアタシ達の敵。そう何度も何度も繰り返した言葉は、やがて自分の感情も憎しみに染め上げていた。

 

 

『何だって!?計画を続ける!?』

『そうだ』

『馬鹿言うな、現に計画は悟られてアタシらは満足に外にも出られやしない!こんな雁字搦めの状態で、どうやって……!』

『俺らに死ねって言うのかよ!?』

『そうだ……風影様の決定だ。里の為、命を捨てろ』

 

 

 この試合が始まるおよそ半月前のこと、木ノ葉に計画が洩れバキが捕らえられた。

 その時に感じたのは紛れもなく安堵だ。これで、アイツ達と敵対することはなくなる、それに喜びさえ感じた。

 けれど、計画が中止されるなんて甘い幻想で。蓋を開けてみれば、アタシら姉弟にとっては絶望しかなかった。

 

 

(奴らは敵……殺さなければ、殺される)

 

 

 控室に入ってすぐ、振り返った先に我愛羅はいなくなっていて。

 それが木ノ葉の仕業じゃないなんて誰が言える?

 

 我愛羅が簡単に捕まる筈がないとは分かっていたけど、それは絶対じゃないということをあの蛇みたいな化物に思い知らされている。我愛羅が捕まることで、計画が白紙に戻るだなんて幻想も抱けない。

 そんな不安と衆目、何より父である風影に晒されるプレッシャーが重なって、鉄扇を握る指先に力が籠った。

 

 

「来ないんなら……こっちから行くぞ!!」

「おい、まだ開始とは……!」

 

 

 一秒でも早くその視線から逃れたかった。

 こんなショボい脇役男、速攻で片付けてやる。そう息巻いて、試験官の制止する声を無視して走り出した。

 

 

「中忍なんてのはなれなきゃなれないで別にいいんだけどよ。男が女に負けるわけにゃいかねーしなぁ……ま、やるか!」

「ッ!」

 

 

 やる気のない言葉とは裏腹に、奴はアタシの振り下ろした鉄扇を難なく躱した。舞い上がる風と共に姿を消し、森に逃げ込んだようだ。

 逃げ足の早いやつ。そう思いながら深く息を吐き出せば、ほんの少し冷静さが戻る。

 

 

(アイツの術がまだ良くわかってないんだ。無鉄砲に突っ込めば痛い目をみる)

 

 

 思い返すのは予選の最後を締め括った地味な戦闘。

 何か術を使ったかと思えば、一時間近くも互いに座禅を組んでいるだけだった。そして乱入した第一の試験の試験官に相手が連行され、サスケと同じく審判権限で勝利と判定された。

 確か、奴の使った術は『影真似の術』『影首縛りの術』だったか。術名と奴の影が伸びていた様子からして影を媒体にすることは間違いない。影で捉えた相手の行動を制限するもので、一度相手を捕まえれば影首縛りの術とやらで相手を窒息死に至らしめることが可能なのだろう。

 

 

(操れる影は自分のものだけか?それとも他者、或いは物、全ての影に適応されるのか……後者なら、影の多い木の中へ誘い込まれればおしまいだね)

 

 

 だけど、そうはいかない。

 木々の合間から相変わらず空をぼーっと眺めているアホ面が見えて、舐めているのかと青筋がたつ。

 その怒りも、鬱憤も、全てを込めて扇を振り上げた。

 

 

「忍法、カマイタチ!」

 

 

 風が奴の隠れている木々を切り刻み、薙ぎ倒す。

 地面からぎゅるりと伸びてくる影の手を後ろに退いて避けた。途中で止まったそれを見逃さずに扇で線を引く。

 

 

「影真似の術、正体見たり!どうやらお前は影を伸ばしたり縮めたり形を変えられるようだが、それも限界があるようだな」

 

 

 扇を使って距離を測る。15メートル、32センチ。それが奴の限界距離だ。

 接近戦では分が悪いが、アタシが得意なのはむしろ遠距離攻撃。勝負はあったようなものだった。

 分析を続けながらニイ、と口元が綻ぶ。やはり勝負というのは楽しいものだ。

 こうして戦いに頭を回していれば、不安も視線も重圧も、雑念全てが消えていく。

 

 

(次はどう出る?)

 

 

 何やら目を閉じて印を組んでいた奴の顔つきが、その時ふと変わった。

 脇役なんかじゃない、木ノ葉の忍という肩書きでもない、初めて『奈良シカマル』という奴の顔を見たような気さえした。

 

 アホ面を辞めれば案外いい男じゃないか。

 そんな軽口が頭に浮かぶくらいには高揚していた。

 

 

「どうやら少しはやる気になったようだな!」

 

 

 木々の後ろを逃げ続けるシカマルへ、カマイタチを連続で繰り出す。

 もはや暴風となったそれが木の葉を舞い上げ、少しばかり調子に乗ってしまったか風塵に視界が狭まった。

 それを好機と取ったか、クナイが砂埃を突き破り飛来する。それを飛んで躱すも、反対側からもう一本、更に正面からもう一本。

 

 

(トラップか……!)

 

 

 風は対象を絞るには不向きだ。逃げる合間に風圧を利用した罠を仕掛けたらしい。

 舌打ちしながら扇を盾に凌いだ瞬間、足元から黒い影が伸びてくる。

 

 

(この線より内側にいる限り、捉まることは………いや、待て!ヤバイ!)

 

 

 急いでその場を跳躍する。予想通り、伸びてきた奴の影は線を軽々と踏み越えた。

 間一髪で逃れたそれが再び静止して奴へと戻っていく。

 

 

「なるほど……時間稼ぎは太陽が低くなるのを待ってたのか」

 

 

 陽が落ちると影は伸びる。中天にあった太陽は時間経過と共に少し傾き、奴のテリトリーである会場の影が気づかぬ間にその領土を広げていたのだ。

 しかし、現在の日の高さと先程の攻撃限界距離を考えてもこの距離に誤魔化しは───。

 

 

「テマリ!上だ!!」

 

 

 カンクロウの声にハッと上を見上げれば、何かがゆっくりと落ちてくる。

 そして上へと注意が逸れたその隙をついて、影の手がその限界距離を超えた。

 

 

(まさか上着をパラシュートにして、足りない影を作るとは……!)

 

 

 奴の手を辛くも逃れる。カンクロウの助言がなければやられていただろう。

 大した奴だ。影攻撃で下に注意を引き付けて上のパラシュートを気づかせにくくし、上のパラシュートに気づけば今度は下への注意が散漫になる。

 

 

(隙を付くいやらしい手だ……だが!)

 

 

 逃げ続けていれば、パラシュートが落ちると同時に影の手が引いていった。

 ちんたらしてれば奴のテリトリーが増えていくだけ。

 ならここは短期決戦、次で決める。分身の術で陽動をして……そう作戦を練りながら、印を結ぼうとした瞬間。

 

 

「!?」

 

 

 身体の動きが奪われた。何故、そんな思考が頭を占めた。

 

 

「フー……ようやく、影真似の術、成功!」

「何故……身体が動かない!?ここまで影は届かない筈……!!」

「後ろを見せてやるよ」

 

 

 ここに来て初めて奴の声を知ると共に、首が勝手に後ろを振り返る。

 前の試合、ナルトが掘り進めた穴から伸びた影がアタシを捉えていた。

 

 

(限界距離も、パラシュートも……全て伏線!?)

 

 

 この男……何手先を読んでやがる。

 絶句するまま、シカマルの動きに合わせて身体が勝手に前に動いていた。

 身動き一つできないアタシは袋の鼠だ。あの影で首を絞められるのか。無様な悲鳴を上げることになるのか。

 ギュッと目を瞑った瞬間、奴はアタシと共に片手を上げた。

 

 

「まいった、ギブアップ!」

 

 

 思いもよらなかったその言葉に、アタシは勿論、会場の全員が目を見開いた。

 どよめきの広がる中、ただ啞然と男を見詰めた。

 

 

「な、何だと……!?」

「影真似の連発でチャクラ使いすぎてもう十秒も捕まえとけねー。で、次の手を200手くらい考えてたんだけどよ、どうも時間切れくせー……それにこの試合終わっても次やんのはチョウジ、泥仕合にしかなんねーから棄権一択。だったらここでギブアップしたほうが試合数が増えんだろーし……もうめんどくさくなっちまった、一試合やりゃいいや」

 

 

 つらつらと欠伸をしながら語る奴は、先程までの切れ者具合はどこへやら。

 一生の不覚である。

 そんなやる気があるのかないのか読めない『奈良シカマル』という男に───ほんの少しだけ、ときめいてしまったなんて。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「バカ!お前なんでギブアップなんかしたんだってばよ!?」

「うるせー超バカ!もういいだろ、そんなことは───見ろ、お出ましのようだぜ」

 

 

 シカマルの言葉に顔を上げれば、どこからか流れてきた砂が形を取っていく。

 

 

「下がれテマリ……次は俺の戦いだ」

 

 

 現れた我愛羅は観戦席にいるサスケを睨み上げた。

 その無事な姿にホッとする間もなく、滲み出るどす黒い殺気に身体が震えた。

 こんな我愛羅は久しぶりだ。いや、今までの穏やかさこそが異常であって、この十数年の見慣れた姿といえるだろうか。

 

 嘗てなら余りの恐怖に後退っていただろうに、アタシはただそこに立ち竦むばかりで。

 その殺気も、その瞳も、酷く恐ろしい。なのにどうしてか、泣きたくなるような悲しみが胸に湧く。

 

 

「降りてこい。サスケ───俺は、お前の死を望む」

 

 

 高空にあった太陽は既に傾き始めている。

 逆光で翳る瞳の奥に、孤独な鬼の姿が見えた気がした。

 




第二試合 勝者:奈良シカマル
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