SASUKE逆行伝   作:koko22

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サスケvs我愛羅➁
我愛羅→カカシ先生視点

こたつから出られぬ……。


80.暴走

 

 

『ヒッ!やめろ、やめてくれ……!!』

『くっ……同盟国を裏切るというのか!?』

 

 

 中忍選抜試験、本戦開始から少し時は遡り───選手控室からも観客席からも離れた人気のない暗い回廊に、怯えきった悲鳴と哀願が響いていた。

 

 

『黙れ。裏切ったのがどちらか、お前達はよく知っているだろう』

『そ、それは……』

 

 

 我愛羅の冷たい眼差しに見据えられ、砂に全身を絡め取られた男達は口籠る。

 その額当てに刻まれているのは草隠れの紋様だ。大方、観戦に来ている大名の護衛という名目で入り込んだのだろう。

 

 ダンゾウの里抜けは緘口令を引いた所で、裏の者達から外部へと情報が流れている。木ノ葉崩しに一枚噛んでいた草隠れは、砂の勝機が薄いと悟るや否やすぐさまこの件から手を引いた。

 そして、奴らが“証拠”の隠滅を図りにくるだろうことは簡単に予想がついた。迎賓館は結界で閉ざされていた為に、こうして監視が緩む本戦の日を待っていたのだ。

 

 

『どのみち、ソレは我が里の物だ!砂隠れが口出しすることではないだろう!?』

『どうして貴様が庇い立てをする……!』

『我らは木ノ葉に組みした訳では無いが、砂がそう出るのであれば明確な敵対行為とみなし───』

『黙れと、言った筈だ』

 

 

 聞くに堪えない喚き声にすぐさま掌を握り潰した。

 静まり返った通路に血の匂いが満ちていく。もはや肉塊と化したソレを眉一つ動かすことなく打ち捨て、我愛羅は後ろに蹲っていた影を振り返った。

 

 

『……行くぞ』

 

 

 ブルブルと震える体に手を差し出そうとして、止めた。

 己の掌には汚れ一つ無いというのに、べったりと黒い血がこびりついている、そんな幻影が見えた気がした。

 

 

『失せろ。俺の前に、二度と顔を見せるな。次に会うときは───お前を殺す』

 

 

 壁の向こうへと、振り向くこともなく走り去っていく背。それをぎゅうと胸を抑えながら見送った我愛羅は、近づいてくるバキの気配にそっとその場を離れた。

 

 

『身体が……勝手に、動いちまったんじゃん……』

『やっと兄貴らしいこと、できたじゃん』

『俺はお前にも生きてほしい』

『信じてくれ、我愛羅』

『わかんねぇよ……そんなのが、命より大切なのかよ……!!!』

『俺たちってば敵かもしんねェ───けど、友達だ』

『我愛羅、お前は化物なんかじゃない。人間で、私の弟だ。だから……泣きたければ、泣いたっていい』

『お前は───友、だからな』

 

 

 このたった一ヶ月の記憶が頭を駆け巡る。

 砂に染み込んだ血の生臭さは消えることはない。どんなに人の温もりを求めようとも、はじめから母の命を糧に生まれ落ちた化物なのだと俺に知らしめる。

 それでいいとそう思っていた筈なのに、俺は変わってしまった。

 

 繋がりが俺を変えたのだ。ならば、この繋がりを断ち切れば、俺は俺に戻れるだろうか。

 この胸の痛みを。心臓が握り潰されるような苦しみを、消せるだろうか。

 

 

『降りてこい、サスケ───俺は、お前の死を望む』

 

 

 恨めばいい。憎めばいい。

 そして、俺の心を殺してくれ。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 迷いと共に握り潰した砂から、確かにあった筈のサスケの身体の感触が消え去った。

 動揺に目を見開き、思わず手を開いた我愛羅の視界に、黒い衣と青白い雷光を纏う姿が映る。パチリと光が弾けた音を我愛羅の耳が拾った時には、サスケは目と鼻の先に居た。

 

 

(砂は間に合わん……!)

 

 

 瞬時にそう理解した我愛羅は、振り下ろされた拳に咄嗟に腕を交差させた。

 受け止めた腕から、ミシリと嫌な音が鳴る。砂で固定しようとする前にサスケは拳を引き、今度はその鳩尾を蹴り飛ばした。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 地面を抉りながら飛ばされ、会場の壁へと叩きつけられて息が詰まる。

 砂が背後から衝撃を和らげなければ意識が刈り取られていただろう重い蹴りに、全身を覆っていた鎧は一溜まりもなく崩れ、呻きながら何とか立ち上がる。

 

 対するサスケの眼には先程殺しかけたというのに怒りも憎しみも、殺気の欠片すらもがない。ただ静謐な光を宿した黒い双眸に、己の心の内を見透かされるような気がして、ギリ、と歯を噛み締める。

 

 

「何故だ……何故、憎まない!断ち切らせてくれない……!俺は、お前達を裏切った敵だぞ……!」

 

 

 殺す覚悟も、死ぬ覚悟もした筈なのに、胸を押し潰すような痛みは増すばかりだ。

 我愛羅の悲鳴じみた叫びに、黒い瞳がゆっくりと瞬く。暫しの逡巡を終え、サスケはフッと何かを懐かしむように小さく微笑んだ。

 

 

「お前が苦しんでいる姿を見て、俺も痛くなった。理由なんてそれだけでいい……そう俺に教えてくれた友がいたからだ」

 

 

 理解と憐憫の入り混じった眼差しが、我愛羅の脳裏で誰かと重なる。

 それが誰かは分からなかった。ただ、胸が詰まってどうしようもなく苦しい。

 

 

「だから、もう誰も。お前の心だって殺させない」

「黙れ……黙れッッ!!お前に俺の何がわかる!?繋がりこそが俺を苦しめる!お前と俺の目は違う、憎しみ一つないお前に俺の何がわかるというんだ!!」

「確かに……俺は人柱力じゃないからな。お前の苦しみ全ては、俺には解らない。それでも……憎しみも、その果ての孤独も、俺はよく知っている」

 

 

 だからこそ、俺はお前を───。

 

 その音が紡がれるよりも先に耳を塞ぐ。これ以上、サスケの言葉を聞くわけにはいかなかった。

 我愛羅の眼から、音もなく涙が零れ落ちる。それが落ちるより早く砂が舞い、我愛羅を全てから守るように殻の中に覆い隠した。

 

 

【そんなに苦しいのなら、変わってやろうか】

【全てを忘れて眠ってしまえ……幸せな夢に浸っていれば、もう苦しむこともない……】

 

 

 閉ざされた闇の中で、囁く声がする。

 ただ、この苦しみから逃れたくて、目を瞑った。

 

 

◆ ◆

 

 

 卵のような砂の殻にピシリと亀裂が走った。割れた狭間から、背がゾクリとするほどに膨大なチャクラが洩れ始めていた。

 そのヒビを中心に暴風が吹き荒れる。間近にいるサスケは顔を手で庇い飛ばされぬように足を踏みしめるも、全てを拒絶するようなそれに近づけないようだった。

 

 

「あれは……まさか、人柱力の暴走か!?まずいぞ、観客達を避難させねば……!」

「待ちなよ。もう暗部達が結界を張っている。下手に動けば、一般人がチャクラにあてられて危険だ」

 

 

 駆け出していきそうなガイを引き止めたカカシは、しかし、厳しい顔つきで暴れるチャクラを見詰めた。

 砂隠れの忍らの焦った様子を見るに、彼らにとってもイレギュラーな事態なのだろう。

 

 

(確か、一尾こと“守鶴”の人柱力は精神を檻として尾獣を封じている、だっけ)

 

 

 暗部の調査情報を記憶から引き出す。

 各里によって尾獣の封印術は異なるが、砂隠れはその力を最大限に引き出すため、最も人柱へ負担のかかる憑依という形を取っていた筈だ。

 故に、守鶴に取り憑かれたものは不眠症を患う。あの我愛羅も例外ではなく、目の周りを囲む隈はその現れだった。

 

 

(もし、あの我愛羅という子がその手綱を離したら……)

 

 

 十数年前、九尾の妖狐が襲撃した際に半壊した里を思い返す。

 もし完全に暴走した尾獣が暴れたなら、そんな簡易の結界程度では防ぎきれない。特にこの会場は里の中枢に近く、その近辺には家屋や商店街が並んでいる。里の被害は甚大なものになりかねなかった。

 

 最悪の予想に、カカシの額にじわりと汗が滲んだその時。

 霧が晴れるように風がぴたりと止まった。

 殻を割り開くように現れた砂で覆われた両腕は、人のものではなかった。

 

 

「グァァァアアアア…!」

 

 

 異形と化した我愛羅……否、我愛羅ではなく、厄災と恐れられた尾獣が一柱“守鶴”だ。

 不幸中の幸いにもまだ完全体という訳ではないのか、会場の十分の一程度を占める体躯しかない。だがその尾が地中を削るにつれて、砂がその量を増し、少しづつ質量を増しているのが遠目にも分かる程だった。

 

 

「カカシ先生、あれって……!!」

「砂隠れの老僧の生霊と恐れられた……正真正銘の、化物だよ」

 

 

 理性もないのか、手当たり次第に会場の木々を破壊している。まさに暴走状態だ。

 その爪による攻撃が結界を打ち叩き、ギシギシと軋む音が聞こえた。何とか持ちこたえてはいるがそう長くは保たないだろう。

 

 

「キャアアア!」

「ヒッ!化物、化物だ……!」

「早く逃げろ!」

「おい押すな!俺が先に行く!」

「いや、俺が先だ!」

「落ち着いて、席へ戻ってください!順番に誘導をしますから……!」

「出られないぞ、この結界を解いてくれ!俺たちを殺す気か!?」

「お願い、子供がいるの……!」

 

 

 興奮したように観戦していた観客らも、ついに様子のおかしさに気がついたのか、最前列にいた女性の悲鳴を皮切りに我先にと逃げ出し始めた。

 パニックが人から人へ広まっていく中、結界を張る暗部達に恐慌の矛先が向き始めていた。

 

 

(まずい……このままでは結界も維持が……!)

 

 

 暗部へと人波が詰め寄る。その間も絶え間なく、結界は一尾に揺さぶられ続けている。その両面からの攻撃に結界が綻びかける。

 だが、結界が解かれればチャクラ耐性のない一般人達は一溜まりもなく昏倒するか、悪ければ即死だ。決して、結界を破られる訳にはいかなかった。

 

 この混乱にか、それとも一尾のチャクラを感じ取ってか、震えるサクラ達をちらりと見下ろす。

 子供達の前ではあるが仕方がない、武力制圧しか道はないかとカカシが覚悟した時、会場に響き渡るような一喝が轟いた。

 

 

「皆、落ち着くのじゃ!」

 

 

 各々の脳裏に響く声は三代目のものだった。恐らくは山中家の秘伝忍術を使っているのだろう。

 決して大きくはなくとも、重厚な声に皆が動きを止めざわめきが静まっていく。

 

 

「出入り口に一度に多くの人が殺到すれば危険よ」

「俺は火影の息子、猿飛アスマだ。俺達が必ず貴方がたを守る。今は誘導に従ってくれ!」

 

 

 アスマと紅が会場2箇所の出入り口からそう声をかける。

 次第に落ち着きを取り戻したのか、皆誘導に耳を傾け、数列づつ結界の穴を抜けて会場から避難していく姿にホッと息をつく。

 

 

「流石は火影様だな……」

「数十年に渡り里を守ってきた三代目への信頼が、里の住民達を落ち着かせたんだろう。あっちはアスマと紅に任せよう。俺達はこの混乱に乗じて動こうとする奴らの警戒だ」

「しかし……アレはどうする。避難が終わる前に奴が完全体になるぞ」

 

 

 そう言ってガイが視線を投げる先を見た。

 確かに、その体躯は大きさを増し、既に会場の四分の一を占めるほどに肥大化していた。その分、攻撃も威力を増しているのか地面には巨大なクレーターが幾つもできている。

 放っておけば間違いなく、この会場全体を押し潰すほどの大きさになるだろう。

 けれど、結界はある程度避難が終わるまでは解けない。つまりは、誰も入れないということだ。

 

 そう───既に、その中にいる者以外は。

 

 

「大丈夫。アイツがいるからね」

「アイツ?ゲンマは感知タイプだ、対人ならまだしもああいう巨体相手の大技は……」

「違うよ、もう一人いるでしょ?」

「……!」

 

 

 カカシの意図する所に気がついたガイが、ハッと会場に目を凝らす。

 先程から結界への攻撃が止んでいた。

 砂ぼこりに霞みながらも、化物の間を縫い、その注意を逸らしている残像にガイは目を見開いた。

 

 

「サスケ君……!」

「ダメ、早く逃げて!!」

 

 

 一同が息を呑む先、化物の元へと駆け出していくのはサスケだった。

 その砂でできた巨大な腕がサスケへと伸びる。

 サクラ達が悲鳴を上げた時、スパン、と光を纏った一閃が迸った。

 

 

「大丈夫って言ったでしょ。だってアイツは、俺の一番弟子なんだから」

 

 

 叩き切られた右腕に、化物が怒りに満ちた咆哮を放つ。

 崩れていく砂塵の合間から出てきたサスケの手には、蒼白い輝きを放つ一振りの長剣が握られていた。

 

 

「な、何だ?あの剣は……」

「あれって、チャクラ……!?」

 

 

 サスケの手に握られた剣には刃がなかった。揺らめくチャクラの流れに合わせ、その刀身が波打つかの如く明滅している。

 チッチッと鳥の囀りの如き音に、その正体を悟ったガイが目を見開いた。

 

 

「アレは……まさか、雷切か!?」

 

 

 雷切、またの名を千鳥。

 カカシのオリジナル忍術であり、雷を斬ったという事実に由来する異名である。その極意は肉体活性による突きのスピードと腕に一点集中させたチャクラ。

 初めてその術を目にしただろうサクラ達へ説明を加えたガイは、「だが……」と言い淀む。

 

 

「俺もあんな形は初めて見る。剣状に形態変化させたのか?」

「そ。雷切、つまり千鳥の形態変化を限界まで高めてる。千鳥光剣って名付けたそうだよ」

「名付けた?」

「俺が教えたのは飽くまでも千鳥なんだけど……教えた途端に、アイツが色々付け加えだしてねぇ……」

 

 

 カカシはガイの胡乱げな視線に肩を竦める。千鳥を教えたのが三日前、一度教えただけで容易く発動した術に感心できた日が懐かしい。

 そこから千鳥光剣に始まり、サスケは大義名分を得たとばかりに応用技を次から次へと編み出し始めた。その多彩さに驚かされると共に、その術の練度がカカシと同等かそれ以上と知れては何とも言えない気持ちになったものだ。

 終いにはカカシも諦めと好奇心が勝って、千鳥の応用技について開発談義するに至る。

 

 

『お前、どうして千鳥使えるの?』

『アンタが教えたからだろ』

 

 

 そんなやり取りをいったい何度交わしたことか。

 遠い目でこの三日間を回想するカカシの心情を他所に、ガイはふむ、と顎に手を当ててその雷剣を眺めていた。

 

 

「確かにアレならリーチが長い分、敵の間合いに入りにくい……しかし、伸ばした分だけチャクラが分散し、攻撃力が落ちるのではないか?雷遁が土遁に有利とはいえ、硬度において土遁に及ぶものはない」

 

 

 そんなガイの懸念に答えるかの如く、一尾は身体を肥大化させるのを止めると、砂を圧縮して身に纏わせ始めた。

 つまりは、あの分厚い砂の鎧に加えて、化物を構成する大量の砂までもを貫かなければならないということだ。

 

 

「確かにそれはあるけどね……まぁ、見てなよ」

 

 

 巨大な腕を、振り抜かれる砂の尾を躱し、雷光の如き光を帯びて駆け抜けるサスケをジッと見つめたカカシは、含みのある笑みを浮かべた。

 

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