SASUKE逆行伝   作:koko22

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サスケvs我愛羅③
サスケ&ゲンマさん視点


81.残り火

 

 チチチ、と囀る雷光を手に、サスケは何本も伸びてくる砂の手を掻い潜り、足元が崩れるより早くその先へと駆け抜けた。

 近づくサスケに身の脅威を感じたのだろう砂の化身は、その巨体に大量の砂を圧縮させ身に纏い始める。九尾がスサノオの鎧を纏うが如く、一尾が砂の鎧を纏ったようなものである。

 

 それに一歩もたじろぐ事なく、サスケは千鳥光剣で斬り込んだ。先程の数倍は硬かったが、鎧の狭間へとそのチャクラの刃を差し込み、砂の結合の弱い関節部位を見極めて切り落とす。まさに神業に等しい百年の剣技と言えるだろう。

 

 しかし、削られる身に砂の化身が耳を劈くように吠えたけ、次の瞬間には砂と礫石を含んだ暴風が容赦なくサスケの身体へ襲いかかってきた。

 会場を覆いつくすようなその広範な攻撃は避けきれず、頬から流れていく血を拭いながらサスケは舌を打つ。

 その間にも、切り落とした筈の腕は既に再生が終わっていた。

 

 

(チッ……これじゃ、埒が明かない)

 

 

 斬っては再生され、再生されては切り落とし、先程からその繰り返しだ。

 再生に砂を使っている為か更なる巨大化は防げているものの、肝心の我愛羅は砂の中に閉じ籠もったまま姿を見せない。

 そしてその均衡さえも、幼い体を考えればそう長続きはしないだろう。現に上がりはじめた心拍と荒れる息の根に、サスケは歯を噛みしめた。

 

 

(持久戦は不利になるばかりか……確か、“前”ではナルトが頭突きをかまして暴走が解けていたが、我愛羅が顔を見せない以上はその手も通じない)

 

 

 朧気な記憶を辿り、化狸と化狐扮する大蝦蟇の悪夢のような戦闘を思い返す。

 こんな所で大妖怪戦モドキをすれば会場も観客らも潰されるだろうし、第一、大蝦蟇を口寄せできるナルトは結界の外側にいる。

 そもそも、何が影響したのか我愛羅本体は外に出てすらおらず、過去の記憶は全く当てにはならなかった。

 

 暴走を止めるには我愛羅の目を覚まさせるしかないが、砂の鎧を剥がし、大量の砂の中から我愛羅を引っ張り出す。言うには容易いものの、あの再生力を考えれば並大抵にはいかないことだ。

 絶え間なく続く攻撃を避けながら思案していれば、勝機の無さを見て取ったらしい試験官の不知火ゲンマが声を張り上げた。

 

 

「下忍のお前が敵う相手じゃねえ、止めるなんてバカなこと考えねぇで逃げろ!時間を稼げ、それで十分だ!」

 

 

 ゲンマの放った千本が絶対防御に弾かれる。

 攻撃は通らなかったものの、理性を失い本能のままに動く我愛羅とも尾獣とも言えぬソレは、サスケからゲンマへと容易くターゲットを変えた。

 一度動きを止めれば、雷遁による活性で超スピードを維持していた身体が悲鳴を上げる。片膝をついて息を整えながらも、サスケは逃げるゲンマと砂の化身をジッと見つめた。

 

 

(考えろ───どうすれば、我愛羅を砂から引き出せる?) 

 

 

 ジリジリと焼けるような夏日が皮膚を焦がし、刻一刻と体力が削られている。

 今はかろうじて逃げられているが、ゲンマのスピードでは長くは保たない。早く参戦しなければ彼が命を落とすのが目に見えている。

 汗を拭い、再び千鳥を使おうと左手にチャクラを集めようとした時だ。

 

 その掌に、ふと木の葉が舞い込んできた。流したチャクラに反応したか、その葉は縮れ、やがて炎に包まれ塵となり消えた。

 雷遁と火遁、その適正がサスケにはあった。

 

 

(理性のない奴なら───)

 

 

 強い輝きを放つ太陽を見上げ、ゴクリとつばを飲み込む。

 一か八か、下手すれば自滅を招くことだろう。それでも今できる方法は、他に浮かばなかった。

 

 砂の尾が掠め、ゲンマが壁に叩きつけられる。

 一刻の猶予もないことを悟り、サスケは覚悟と共に印を結んだ。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

(一瞬意識が飛んだ……なんて攻撃力だ……!)

 

 

 叩きつけられた拍子に、肺の空気全てが押し出されてゲホゲホと咳き込む。

 砂という重量を纏った攻撃は掠めただけでも致命傷もので、内臓にまでダメージがいったのか咳に混じって込み上げた血をゲンマはぺっと吐き出した。

 

 止まる訳にはいかない───俺の次は、あの子供だ。

 そう自分に言い聞かせ意識をかろうじて繋ぎ止めたゲンマは、続く攻撃を躱そうと震える足に力を込めて立ち上がる。

 そうして揺れる視界を開くと、そこは赤色に染まっていた。もしや血が目に入ったかと擦れば、視界が徐々に定まってくる。

 それでもなお、ゲンマの視界は一面の赤───文字通りの、火の海が広がっていた。

 

 

「は……?」

 

 

 結んだ焦点に呆けたような息が漏れる。

 そしてそれを成しただろう下忍らしくない下忍は、化物の攻撃を躱しながら、虎の印を結んでいた。

 

 

「火遁、豪火球の術!」

 

 

 その窄めた口から吐き出される火炎は、やはり下忍レベルなんてものじゃない。

 いや、今はそれは置いておくとして。

 その火炎は砂の腕に払い除けられて火の粉が飛散し、地面や倒された木々に着火して燃え盛っている。化物の風遁も合わさって火力は勢いを増し続けており、離れていて尚感じる熱気に、唖然としていたゲンマは我に返った。

 

 

「おい……何してる!?」

 

 

 必死に呼びかけるがサスケは一瞬こちらに目を向けただけで、再度化物へ火遁術を放っていた。

 やはり術は容易く弾かれる。攻撃が通るどころか、自分達を焼き殺す自殺行為に等しいように思えた。

 

 

(頭でも打ったのか!?無駄だ、アイツに火は……!)

 

 

 止めようと再び声を上げようとした時、ゲンマは化物の様子に気付いてハッと口を噤んだ。

 化物の動きが、確かに鈍り始めていた。

 サスケを攻撃する様子には、どこか切羽詰まった、まるで生命の危機に直面しているかのような切迫さが感じられる。

 やがて化物がその動きを完全に止めるのが見えて、ふらつきながらサスケの所へと歩み寄る頃にはその状況が理解できていた。

 

 

「まったく……まさか、化物を蒸し焼きにするとはな。良くもまあ、考えついたもんだ」

 

 

 真夏の陽射しに加えて火の熱による砂の温度上昇、延焼反応による二酸化炭素の増加に酸素の減少。

 要は、あの砂をサウナにした訳だ。砂の中にいた人柱力の少年は一溜まりもない。酸欠、そこまではならずとも体力はかなり削られただろう。

 

 

「二人の忍が競い合ったという、他国の寓話だ。引っ張り出すより、出て来させる方が楽だろ」

「ほー、化物を焼き殺すなんて大した物語だな。一辺読んでみたいもんだが」

「フン……子供向けの本だ。孫でもできたら読んでやれ」

「まだ子供もいねーっつうの。勝手にジジイにすんな、まだお前んとこの担当上忍とそう年は変わらねーんだぞ」

 

 

 サスケと肩を並べて軽口を叩きながら、さらさらと崩れていく砂を見つめていた。

 その他国の寓話とやらは知らないが、発想を得たとはいえそんな夢物語を現実化させるだけの実力は本物だ。

 口端を釣り上げ、審判であるゲンマは片手を軽く挙げた。

 

 

「第三回戦、勝者サス───」

 

 

 宣言をしかけたその瞬間、ドン、と背が押し出された。

 よろめいて蹈鞴を踏みながら振り返れば、俺を庇った子供の血で視界は赤く染まっていた。

 

 

◆ ◆

 

 

 倒れた我愛羅に気を取られ、背後に集まった砂への反応が一瞬遅れた。

 巨大な槍の如く尖った先端がゲンマに迫る。

 咄嗟に押し出した背に共倒れは防げたかと安堵するより早く、貫かれた横腹に激痛が走った。

 

 

「おい!しっかりしろ!!」

「……少し掠めただけだ。それより、来るぞ!」

 

 

 ゲンマへ注意を促すと同時、咆哮が轟いた。

 断末魔のようなその音に鼓膜が軋む。耳を抑えるが遮断して尚も頭蓋へ木霊している。

 歯を食いしばりながら薄っすらと片目を開けば、崩れかけた砂の顎がかぱりと開き、その中に真っ黒いチャクラが収束していくのが目に映った。

 

 

(まずい、尾獣玉か……!)

 

 

 避ければ結界に当たる。結界を壊すだけで尾獣チャクラの塊が止まる筈もない。

 ちらりと背後へと視線を向ければ、サクラ達が、そして数百数千の群衆が、祈るように、縋るようにこの戦いを見つめていた。

 避けるという選択肢はなかった。

 

 飛雷神の術はまだ自分を任意の地点に飛ばすのが精々だ。千鳥で相殺できるほどのチャクラは残っていないが、チャクラをこの命の限界まで込めれば、幾分か威力を減らせるだろうか。

 

 駆け巡った思考の中で、左手にありったけのチャクラを込めようとした刹那。

 ふと、その黄色く光る眼光と視線が絡む。理性が宿った瞳に、咆哮にかき消されながらサスケは友の名を呟くように呼んだ。

 

 

「───」

 

 

 その時、我愛羅は何を思ったのだろう。揺れた瞳の奥の感情は混沌としていて、読み取れなかった。

 ただ、尾獣玉が放たれたその矛先。

 それはサスケを、木ノ葉の住民を、大名達をも越え───ただまっすぐ『風影』へと向けられていた。

 

 

『俺は父さまに六度殺されかけ……その度に恐れ、恨んできた』

『だが影を継ぎ、歳を重ねるうちに父さまの考えも理解できるようになった。里と妻子を秤にかけ、そして里を取る……こうして子を持つ親となって、改めて父さまの痛みも分かるようになった気がする』

『俺は父さまから最後に(愛情)をもらったが……俺は、父さまに何も返せなかった……』

『……違うな、親は子の成長を何よりも喜ぶもんだ。風影となったお前を見て、お前の父が最後に何を思ったか……親になったからこそ、お前も分かる筈だろ』

『……そうか。そうだな』

 

 

 俯きがちに微笑んだ横顔に、流れた涙を。

 縁の欠けた猪口のざらついた感触を。

 その酌み交わした酒の味を。

 

 何故だか、鮮明に思い出した。

 

 

「駄目だ……やめろ、我愛羅ァァァ!!」

 

 

 風影の正体も、木ノ葉崩しも、砂も木ノ葉もその確執も。何もかもが頭から消え失せ、考えるより先に身体が動いていた。

 

 放たれた尾獣玉の先に、飛雷神の術で飛ぶ。

 黒い光に呑まれる瞬間。砂から完全に開放された我愛羅が目を見開いて、俺へと手を伸ばすのが最後に見えた。

 

 

 

 

「サ、スケ……?」

 

 

 静まり返った会場に一筋の風が吹き込んだ。

 砂埃を孕んだその冷ややかな風が、残火を消し飛ばしながら木の葉を攫っていく。

 まるで最初から何もなかったかのように、跡形もなく。

 

 

「ぅ……ぁ゙あ゙あ゙あああああ!!!」

 

 

 

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