SASUKE逆行伝   作:koko22

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シスイさん→カンクロウ視点

ここから死ネタありの超シリアス&ダーク展開となります。今までもそうだったって?いやいや、序の口です。
どうぞ心のご準備を〜。


木ノ葉崩し編
82.木ノ葉崩し、始動


 

 うっすらとした陰影に、暗部として鍛え上げた勘、チャクラの気配と音の波。

 それが光を失いつつある、うちはシスイの世界だった。

 

 そんな暗闇の中にあって尚、尾獣のチャクラというのは余りに強大であり、その存在感と気配からはっきりと形まで脳裏に描けた程である。

 しかしその分、そのチャクラの前には唯人のチャクラはかき消される。

 感知タイプではないシスイは微かなサスケのチャクラに意識を凝らして、ようやく感じ取れるかどうかという所だった。

 

 

(クソ、まだ避難は終わらないのか……!?)

 

 

 通信機から入る情報を聞くに、避難が終わったのはまだほんの十分の一程度だ。

 暴走状態とはいえ、尾獣は尾獣、厄災そのもの。

 その力を抑えられる可能性のある写輪眼も、会場外からでは無力に等しく、ただ見守ることしかできなかった。

 

 

『尾獣が!尾獣が、倒れました!』

『結界を解除し───』

「いや……ちょっと待て!結界を解くな、何かおかしいぞ!」

 

 

 そんな折り、通信機から聞こえた歓声にすぐさまシスイは警告を発した。

 視覚を失い、人一倍気配に敏感になっていたからだろう。

 崩れていく人柱力の姿形とは裏腹に、その強大なチャクラが一点に収束されていく。皆が気を緩めた刹那の合間、その鮮烈な殺気が矛先を変えたことにシスイは誰より早く気がついた。

 

 

「火影様、風影様!お下がりください!!」

 

 

 すぐに影達を背に庇って、チャクラを瞳に集める。

 スサノオを発動させると同時に、両目に、細胞の一つ一つに負荷がかかった。陰影すらもが幅を狭め、黒一色に塗り潰されていく。

 そんな全身を蝕む痛みに、歯を食いしばろうとした時だった。

 

 放たれた筈の強大なチャクラが、唐突に消え失せた。

 何があったのか、見えぬ俺には何も分からなかった。

 

 

「ぅ……ぁ゙あ゙あ゙あああああ………!!!」

 

 

 少年の絶叫にハッと我に返る。戸惑いながらも気配を探れば、人柱力の暴走は止まっていた。

 そして、その代わりとでもいうかのように、会場内にあった筈のチャクラが一つ減っている。

 

 

「いったい、何が……ッ!!」

 

 

 状況を把握できぬまま、茫然とスサノオを解いて───最初に感じたのは、背から腹へと走る熱さにも似た刺激だった。

 

 次いで、激痛と共にコポリと喉の奥から込み上げた鉄の味。震える手で胸を辿り、行き着いた刃の切っ先を握りしめた。

 顔だけで背後を振り返る。淀んだ泥のような重い気配にその正体を悟った。

 

 

(ダンゾウ……!!)

 

 

 その名は音にならず、血の唾を飛ばしただけだった。

 ダンゾウはそんな俺に小さく鼻を鳴らすと刃を無造作に引き抜く。その後ろからは風影、否、クツクツと嗤う大蛇丸の声が聞こえた。

 崩れた身体から吹き出る血の飛沫と共に、何かがこぼれ落ちていく。そんな心地がした。

 

 

「無駄に酷使をしたようだな。右はかろうじて光が残っているか……まあよい。いずれ使い道はあろう」

 

 

 眼窩に指先が押し込まれる。抉り取られた右目に、もはや悲鳴すらも上げられない。

 意識が遠ざかる。視界も、指先の感覚もない。

 用済みだとばかりに宙に蹴り出された身体が、最後にその言葉を聞いた。

 

 

「恨むならば親を恨め。うちはに生まれ落ちたこと───それこそが罪だ」

 

 

 怒りが湧くよりも早く、暗闇へと落ちていく。

 絶望はまだ、始まったばかりだった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 我愛羅の悲鳴が会場に響くと同時に、視界に白い羽が舞い始めた。一般人や下忍程度ならば訳なくかかる、広範囲型の高度幻術だ。

 それに気付いたカンクロウは、テマリと瞬時に視線を交わし頷き合った。

 

 

((合図……!!))

 

 

 会場に降り立って、蹲る我愛羅を庇うようにテマリと共に立つ。

 既に影達のいる天守閣は結界で覆われ、そこかしこで激しい切り合いが始まっていた。

 木ノ葉の忍達と、他里の忍に紛れて潜入した砂隠れの忍達。その人数には数倍近くの差があったが、結界の維持によるチャクラ消費や避難誘導による戦力の拡散が、一時的にだとしても双方の勝負を拮抗させている。

 

 我愛羅の思わぬ暴走によって俺達の勝機、すなわち生存の可能性が上がったと言えるだろう。

 それでも、喜ぶことなんて到底できない。

 ちらりと見下ろした我愛羅は、頭を抑えてブツブツと呟いていた。

 

 

「違う……俺は……違う、違う!!俺は、殺したくなかった……!!」

 

 

 耳を傾けてみればソレは化物との対話なんかじゃなく、悲鳴のような懺悔だった。

 その理由が分かるだけに、ただ聞いているだけで息が吸いにくくなる。

 

 

(俺は……俺らは、どこで間違った?)

 

 

 我愛羅が香燐に化けていることに素知らぬフリをした時から、我愛羅には友を殺せないと分かっていた。

 あの時点で止めるべきだったのだろうか。

 それとも、いっそのことあの女を殺してしまえばよかったのか。そもそも、利用しようとしたこと自体が間違っていたのか。

 

 木ノ葉の忍に縋らなければ、俺があの蛇に殺されかけたりなんかしなければ、アイツらと出会うこともなかった。

 いや……それよりももっと、ずっと昔から。

 俺が我愛羅の兄で居てやれたなら、何かが変わっていたのだろうか。

 

 

「お前達、何をしている!もう作戦は始まっているんだぞ!?」

 

 

 尽きることのない後悔に拳を固く握りしめていると、俺達を追いかけてきたバキがそう叱責する。

 確かに本来なら自分達も戦闘に加わるべきなのだろう。それでも、こんな状態の弟を放っておける訳がなかった。

 

 

「こんな状態で戦わせるってのかよ!?無理に暴走を解かれてる、もう体力は限界じゃん!」

「それに、チャクラを相当消耗している!もう一度アレを使うのは、すぐには無理だ!」

「バカめ、合図を待たず勝手に完全体になろうとするからだ……!」

 

 

 バキの目にも今の我愛羅に戦闘は不可能と見たか、舌打ちが落とされる。

 その間にも、砂と木ノ葉の均衡は徐々に崩れていた。木ノ葉はすぐに指揮を立て直したのか隊列を組んでおり、同朋達は一人、また一人と倒れている。

 傍目にも砂隠れの劣勢は明らかだった。

 

 

「なあ……先生!俺達は……この戦いは、本当に正しいのかよ!?」

 

 

 もとより勝ち目のない戦いで、その末路は容易に予想がつく。里の未来はそこに見えなかった。

 潰えていく命と意味の見いだせない戦いに、襟首を掴み上げればバキの視線も揺らいだ。

 

 

「答えてくれ、先生!」

 

 

 そう詰め寄れば、バキは暫しの瞑目の後、風影のいるだろう結界を見上げた。

 バキが担当上忍となって数年。それ以上の年数、親父の懐刀としてバキは任務を熟してきた。

 担当上忍だからって、お互い全てを知っている訳じゃない。それでも、バキの根底に紛れもない里への思いがあることを俺は知っていた。

 

 暫しの沈黙が落ちる。

 試験官の男が構えるのを見て、クナイを懐から取り出したバキは意を決したように叫んだ。

 

 

「……我愛羅は砂の切り札だ。ここで失う訳にはいかん───逃げろ!お前達がいれば、砂隠れは再び立て直せる」

「!」

「里を、頼むぞ」

 

 

 その決断に驚きながらも頷き、テマリと共に我愛羅の肩を支えた。

 くるりと向けられた背にテマリが不安げに振り返る。

 

 

「先生は……?」

「俺は、コイツらを食い止める」

 

 

 バキの視線の先。試験官の隣には、サスケの同班員であるうずまきナルトがいた。

 

 

「待てよ……サスケをどこにやったんだってばよ!!」

 

 

 その問いに答えられる筈もない。

 目を逸らして立ち去ろうとした時、我愛羅が虚ろな視線をナルトへと向けた。

 

 

「俺が、殺した」

「ッ!!」

「俺が……殺したんだ」

 

 

 我愛羅の掠れた声に、背後でナルトのチャクラが跳ね上がる。

 その悍ましい程のチャクラに身体が凍りつくよりも先、バキの「行け!!」という命令に従って、俺達は駆け出した。

 

 

 会場の壁を蹴り、煙の上がる市街地を抜けて森の中に紛れる。

 抱える我愛羅からは、もう呻き声一つ聞こえなかった。力の入らぬその腕をもう一度背負い直して、じわりと滲んだ視界を乱暴に擦った。

 

 どこで、誰が、何を間違えた?

 そんなこと分かりやしない。きっと誰にも分からない。

 

 

「違う……!違う、お前じゃねえじゃん!アイツを、お前の心を殺したのは───バケモノだ……!」

 

 

 バケモノ。

 それは尾獣でも、我愛羅でもなく。

 人の悪意の織り成す、因果と呼ぶべき何かなのかもしれない。

 

 

◆ ◆

 

 

 ヒュウヒュウと吹き荒ぶ、風の音が聞こえる。

 遠くでキーと鳴く鳥の声に重い瞼をこじ開ければ、強い日差しに目がくらんだ。小さな点のような鳥が、蒼天を悠々と旋回しているのをサスケは茫洋と眺める。

 

 

(……成功は、したか)

 

 

 咄嗟に放った千鳥は尾獣玉の相殺など到底できなかったが、それでもほんの数秒の時間稼ぎはできた。

 その千鳥を起点として自分の身体ごと飛雷神の術で飛ばした先は、何千回と修行を繰り返した里外れの渓谷だ。

 

 だが、尾獣のエネルギーを一時とはいえ受け止めたのだから、無事で済む筈もなく。

 指先一つ動かない身体は、真夏日だというのに寒気すらも感じる。恐らくは相当に出血しているのだろう。

 

 

───どんなに苦しくたって、最後まで生きることを諦めるな。

 

 

 薄れゆく意識の中に、ふとカカシの言葉が蘇って、閉じかけていた瞼をかろうじて持ち直した時だ。

 ふと茂みがガサリと鳴る音がした。

 日差しを遮って視界に入ってきた赤髪に、サスケは目を瞠った。

 





「サスケ……!?おい、しっかりしろ!!早くうちの腕を噛め!!」
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