SASUKE 逆行伝   作:koko22

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我愛羅視点


87.一欠片の希望

 

 九尾の赤いチャクラが、光の粒となって空中へと消えていく。

 その中から開放されたナルト、そして同時に力尽きて倒れたサスケ。その二人を咄嗟に砂で受け止めた我愛羅は、光の溶けていった青い空を見上げた。

 

 

「終わった、のか……?」

 

 

 張り詰めていた息を吐き出せば、狭まっていた視界が開ける。

 周辺の木々は全てなぎ倒され、幾つものクレーターが地表を抉り、惨憺たる光景となっていた。

 一帯が更地となったために見通しもよく、森の奥から駆けよってきた人影に、その時になって我愛羅はようやく気がついた。

 

 

「お前は……!」

「歯ァ、食いしばれよ我愛羅!!」

 

 

 身構えたのも一瞬。その赤い髪を認めると同時、頬に拳が叩き込まれた。

 避けることは容易い程の速度に威力だ。それでも、どうしてか避けてはならないと感じて甘んじて受ける。

 ただし、纏っていた砂の鎧がその攻撃を阻み、さして痛みはなかった。

 

 

「いったぁ……!この馬鹿、ちゃんと殴らせろコノヤロー!!」

 

 

 却ってその小さな拳にダメージが入ったらしく、手を抑えながら涙目で睨んでくる香燐の剣幕に、我愛羅は一歩たじろいだ。

 

 

「……すまん。鎧を解いた、もう一度殴れ」

「そんな殊勝なこと言ったってな、ウチは許したりなんか……サスケ!?」

 

 

 視界の端にサスケを目に入れた途端、こちらには目もくれず駆け寄っていく所も相変わらずだ。

 しかし、どうして香燐がここにいるのか。

 ここにいては危険だと逃がした筈なのに……次に会った時には殺すと、そう脅した筈なのに。

 そんな思考が過った頭がくらりと目眩に揺れた。

 

 

「もういい……終わったんだ。終わったんだよ、我愛羅」

 

 

 ふらついた身体を支えたのは、香燐と共に追いかけてきたテマリだった。

 木ノ葉崩しはまだ続いており、状況はそう変わってはいない。

 ただ、香燐やサスケ、ナルト、サクラ、彼らとの間にあった憎しみもわだかまりも、罪悪感も。先程の赤いチャクラと一緒に消えてしまったかのように胸が清々しい。

 

 

「そうだな……もう、痛くない」

 

 

 フッと微笑んだ我愛羅にテマリが驚いたように目を丸くして、やがて優しく頬を緩める。

 テマリのその笑みは、夜叉丸と、きっと母にもよく似ていた。

 

 

「感動の再会に水をさして悪いがな。こっちに誰か向かって来ておる……知らん臭いだ。敵かもしれん」

「まだ遠いけど……あのチャクラ、ヤバいぞ」

 

 

 遠目にも明らかな戦闘に、いくら離れているとはいえ木ノ葉も砂も気がついたことだろう。

 その相手が誰だとしても、戦う余力は残っていない。木ノ葉の忍犬と香燐の言葉に従い、カンクロウやサクラ達のいる洞穴へとサスケらを担ぎ込んで身を潜めた。

 

 そのまま彼らを置いて去ることもできたが、何も言わずにはどうにも別れ難く。サスケの目が覚めるまでの間、香燐には当初の計画から現状に至るまでの全てを説明した。

 最初は利用しようとしていたこと、砂の計画が漏れて状況が変わったこと、そして風影の命令と俺たちの裏切りを。

 

 隣でパックンとかいう忍犬がピクピクと耳を動かしている。木ノ葉崩しの、そして大戦の火蓋が切られた今ではバレた所で何の意味もない。

 香燐はじっと黙って話を聞いていた。最初から突き放すよりも、こうして向き合うべきだったのだろうとそう思う。

 

 

「よかったら……アタシ達と一緒に、来るか?」

 

 

 テマリの誘いに香燐は暫し躊躇っていたが、やがて首を横に振った。

 ここで別れれば、もう会うことはない。そう思って咄嗟に引き止めようと開きかけた口を、何も言わないまま閉ざした。

 

 俺たちの側にいては再び里同士、或いは里内部でのいざこざに巻き込むことになる。それに今の俺たちは裏切り者でしかなく、里に受け入れられるかも怪しいのだから当然の選択だろう。

 

 

「だけど……香燐、お前どこに行くつもりだ?草隠れからは恐らく手配書が出てる。同盟国は抜忍の引き渡し条約があるから逃げられないぞ」

「それは……」

「───当てがある。心配するな」

「!!」

「……そうか。ならいい」

 

 

 会話に割って入ってきたのは、ゆっくりと身を起こしたサスケだった。いつの間にか目覚めていたらしい。

 その行先をぼかすような言い口に、テマリが追及しようとするのを手で制す。香燐を案じるが故に不安はぬぐえないが、それでもその言葉は信じることができて胸を撫で下ろした。

 だが、ふらふらと立ち上がったサスケにそんな不安も吹き飛ばされる。

 

 

「サスケ?おい、どこに行くつもりだよ!まだ動いちゃ……!」

「休息は取った、俺は戻る……木ノ葉を、守る。ナルトかサクラが目を覚ますまででいい、そいつらを頼むぞ」

「……拙者もカカシに報告せねばな」

 

 

 サスケの言葉に、どくりと心臓が音を立てた。

 木ノ葉に戻る。それは、再び戦闘に身を置くということだ。そしてサスケが戦うのは、俺と同じ砂隠れの忍で。  

 いくらサスケが強くとも、連戦によってボロボロでチャクラも底をついた状態の今、満足に戦えるとは思えない。サスケが消えた瞬間がよぎって背筋が寒くなった。

 

 加勢はできない。だが、そのまま行かせたくもない。

 そんな我愛羅の心情を読み取ったのか、無意識に動いた砂がサスケと忍犬の行く手を阻む。

 だが、止める資格などないとわかっていた。

 ジッと見詰める黒い瞳に耐えきれず、我愛羅は目を伏せ砂を解いた。

 

 

「なあ……でも、計画って一回バレたんだろ?警戒されてるってわかってるのに、どうして風影は強行したんだ?」

「それは……アタシ達にも分からない。ハッ、血の繋がった親子だっていうのに……情けない限りだけどね」

「───え?親子?」

 

 

 テマリの自嘲するような呟きを聞いて、香燐がきょとんと首を傾げた。

 洞穴から一歩外へと出ていたサスケがふと足を止めて振り返る。驚きに見開かれた瞳が、何かを探るかのように細められた。

 

 

「香燐……それは、どういう意味だ?」

「え?いや、その……血は、繋がってなさそうだから」

 

 

 言いにくそうに告げられた言葉に、動揺と疑念が胸に忍び込む。

 俺と血が繋がっていない?

 いや、あり得ない。守鶴を宿す器を作った父だ。そしてその父に、我愛羅は憎らしい程によく似た相貌をしていた。

 ……では、テマリとカンクロウがか?

 そんな父への疑惑に、狼狽えたテマリが身を乗り出した。

 

 

「何言ってるんだい!アタシ達は正真正銘、砂の三姉弟だよ!」

「うん。テマリもカンクロウも我愛羅も、チャクラがよく似てるよな」

「わ、わかってればいいんだよ……!」

 

 

 そこじゃないだろう、と思ったがやけに嬉しそうに腕を組んだテマリに何も言えなかった。たしかに似てると言われることは少ないから、多少気持ちは分からなくもない。

 だが、そこじゃない。テマリ達と血の繋がりが確かなのであれば、では血が繋がっていないのは───?

 

 

「香燐、お前は風影と会ったのか?」

「ああ……一回だけ。宿が同じだったから挨拶だけさせられたんだ。蛇みたいな奴で滅茶苦茶おっかなくってさ……絶対、我愛羅達とは血なんか繋がってないぞ!」

 

 

 サスケの問いに、香燐はそう言い切った。

 だが、俺達に聞こえていたのは『蛇』というたった一言だった。

 ザッと顔が青褪めていくのが分かって、同じく酷い顔色をしたテマリと顔を見合わせる。

 あの悍ましさを、あの恐怖を、忘れる筈がなかった。

 

 

「俺たちは……砂隠れは、騙されていたのか……?」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「香燐、すまなかった。二度にわたり救われたこと、アタシ達は決して忘れないよ」

「巻き込んだ俺達が言えることではないが……生きろ」

「うん。我愛羅達も、気をつけて」

「……またな」

「サスケほんとに大丈夫なのか?もう一回くらいうちの腕噛んでおいたほうがいいんじゃないか?サスケの試合写真とかでも……ハッ!そういやうちサスケの試合見れなかったぁぁぁ!!?サスケの応援用にうちわまで作ったのに……!!そういやアレ宿に隠したまんまじゃん……ほとぼり冷めたら絶対に戻ってくるぞ!そ、そしたら……うちと、付き合って……ぁ゙ああああ、やっぱりなんでもない!!なんでもないからな!?調子に乗るなよ馬鹿ァァァ!!!」

 

 

 サスケにズラズラと捲し立て、香燐は脱兎のごとく森の奥に消えていった。相変わらず、素直じゃない奴だ。

 

 目を白黒させているサスケの肩を叩き、俺はカンクロウを、サスケがナルトを、テマリはサクラを背負う。

 三人共にまだ意識はないが香燐曰く命に別状はなく、その内目覚めるだろうとのことだ。

 忍犬の先導の元、俺達が向かうのは木ノ葉隠れの里である。

 

 

『これを先生に伝えれば……砂隠れを、この戦いを、止められるかもしれない……!』

 

 

 もしも、本当に蛇こと大蛇丸が風影を操っていた、もしくは乗っ取っていたなら?

 そんな可能性でしかなかったが、一筋の希望が見えた気がした。

 たとえ僅かでもそこに里の未来があるなら、命をかける覚悟くらいできている。

 

 

 俺は砂の我愛羅───風影の息子なのだから。

 

 





「おやおや。尾獣同士で削り合って弱った所を、と思ったのですが……取り逃がしてしまいましたか。まさか暴走が収まるとは、なかなかやりますねェ」


 荒れ果てた大地を踏みしめ、大刀を肩にかけた異形の男は楽しげにニイと口角を上げた。
 一尾と九尾の姿はそこにない。チャクラの痕跡がそこかしこに残りすぎて、遠くには行っていないにしても行方を追うのは骨が折れそうだ。

 だが、外道魔像の準備にもあと数年はかかるとはいえ、尾獣二匹を手元に置けば手間が省ける。今回の第一目標は異なるが、あわよくば、そんな命を受けていた。


「二兎ならず三兎……欲をかきすぎて、逃げられたのかもしれませんがね」


 クツクツと笑いながら、開けた大空を見上げ思案する。
 南の空を細切れに切り裂くように、幾筋もの黒い煙が立ち昇っているのが見えた。


「あの方も始めたようですね。さて……どうしましょうか」


 追いかけるべきか、去るべきか。それとも。


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