サスケさん視点。
今話で2月連投は終了です。次話より月1〜2回投稿となります。どうぞ気長にお楽しみ頂ければ幸いです。
NARUTO新作情報を願いつつ、完結まで頑張ります(・人・)
88.人柱力
(やはり……大蛇丸だったか)
この無意味な戦いを一刻も早く終わらせる為、サスケは我愛羅達と共に木ノ葉への道を急いでいた。
その道すがらに思うのは、尾獣玉の前に飛び出した折にチラリと見えた風影の姿である。
顔は覆面で隠されていたものの、そのドロドロとした執着を隠さぬ眼差しは確かに奴のもので。
そして、成り済まされた風影の安否は知れず。我愛羅達は言及しなかったが、きっと既に亡きものと悟っていただろう。
(助けられる道は、本当になかったのか?)
意識のないカンクロウを背負いながら、ただ前を見据える我愛羅を窺い見る。
未来で和解が叶うとはいえ、現状として我愛羅の命を狙っていた風影だ。生存していた場合、次代の風影に我愛羅が選ばれる可能性は低くなる。
世界の行く末を思えばこれでよかったのだと、そう自分を納得させようとする傍らで、曇るテマリの眼差しにそんな取り留めのない思いが浮かんでは消えていった。
───君は決断することになるだろう。
ミナトはそう言ったが、俺は自分の無力さを知っている。風影と接触する手は最初からなく、置かれた立場は俺を雁字搦めに縛りつけていた。
過去を救うか、未来を壊すか。
選べるようでいて選べない。それが今の現実だ。
背負うナルトを、眠るサクラを後ろ目に見やる。
守りたいものを取りこぼさぬようにと掌を握りしめた。その手のちっぽけさを、ただ苦く思った。
「待て、誰か来るぞ」
もう少しで里の市街地へと出る所で、前方を走っていたパックンが足を止めた。
砂か、木ノ葉か、ダンゾウや大蛇丸の手の者か。何れにせよ我愛羅達と行動を共にしているのだから、誰だとしても敵になる可能性がある。
我愛羅も俺もチャクラが回復していない今、ナルト達を庇いながらでは分が悪い。なるべく戦闘は避けたい所だ。
目配せ一つで各々が散り、身を潜めたサスケは葉の合間から目を凝らす。
カラン、と木の枝を打つ軽やかな下駄の音がした。
(あれは……!)
長い白髪。油と書かれた額当て。目尻から顎まで伸びる赤い隈取り。若草色の甚平に、忍ぶことを忘れたかのような真っ赤な羽織り。
女相手にいつもデレデレと崩していた相貌は、今や笑み一つ浮かべぬ冷徹さを宿している。
足を止めた彼───三忍の一人、自来也は隠れているサスケ達を順に見回した。
「出てこい、そこにいることは分かっておるぞ」
意識のないナルト達は気配を隠せず、元より三忍を相手に逃げ隠れなど不可能だった。
九尾の暴走を知り駆けつけたという所だろう。そう当たりをつけて、ナルトを背負い直して茂みから進み出た。
「……サスケか?」
険しい眼差しがサスケとナルトを捉えると同時、重苦しい殺気が溶けていった。
けれど、その場に漂う緊張感はそのままだ。姿を現した我愛羅達と俺達とを、細められた目が行き来している。
自来也の出方が分からない以上、隙を見せる訳にはいかないと距離を保った。
「ふむ、どうやら九尾の暴走は解けたようだな。サスケ、お前か?」
「俺じゃない。四代目火影だ」
「四代目が?そうか……あ奴のやりそうなことだのォ」
懐かしげに細められた瞳がナルトを見つめる。
嘘は言っていない。確かに封印をかけ直したのは四代目であり、彼がいなければ九尾を抑えられなかったのだから。
ただ、暗部入隊の契約を思えば、写輪眼のことはあえて触れたくはない。
写輪眼を直接目にしたのは我愛羅だけだ。後で口止めが必要になるだろう。
「それで……砂隠れの人柱力とお前らが、何故行動を共にしている?今の状況を知らぬ訳ではないだろう」
そんな考えを見透かされるかのような言葉に、内心ぎくりと冷汗が流れる。
うっすらと砂を纏い始めた我愛羅を制するより早く、その足元にいたパックンが一つ吠えた。
「それは拙者から説明した方がよかろう」
「お主は確か……」
「うむ。カカシと契約しておる忍犬だ。ナルトを止める為に追ってきたのだがな……」
パックンがかい摘んで状況を語る。九尾の暴走のことから、我愛羅達との共闘、大蛇丸の陰謀、この戦争を止める為に手を組んだこと。
傍から聞けば、その情報量にげんなりする程の濃密さである。
「大蛇丸か……確かに、あ奴ならばやりかねん」
そんな説明を聞き終えた自来也は目を伏せ、何やら考え込んでいるようだった。
火影や大蛇丸、砂隠れの上忍らがいる会場へはまだ距離がある。この先で他の忍と遭遇し交戦になる可能性はまだ高く、三忍の協力があれば無駄な戦闘も減る。
しかし、もし協力を得られず我愛羅達を殺そうとするならば───。
期待と一抹の不安を隠せぬまま、落ちた沈黙にサスケはゴクリと唾を飲み込んだ。
「話は分かった。力を貸してやっても良い、が……」
自来也の言葉に安堵する間もなく。
その節くれ立った指が我愛羅をビシリと指差した。
「お前は駄目だ」
自来也の言わんとすることを瞬時に悟ったテマリが、その視線を遮るように我愛羅を背に庇った。
「これがもし嘘だったとして、里の中心部で暴走なんぞされては堪らん」
「違う、嘘なんかじゃない!」
「伝えるだけであれば、女、お前が一人おれば解決するだろう。一尾の人柱力、お前はその黒服とここに残れ」
「……そんな……」
砂隠れは元々、里内での我愛羅の尾獣化を企てていた。それに意図したものではなくとも、我愛羅は一度会場内で暴走し影達へと明確な殺意を向けている。
自来也の考えは理解できた。だが、俯く我愛羅を見てしまえば、その言葉にどうしたって納得はできなかった。
「なあ、エロ仙人。それならさ、俺も……木ノ葉には戻らねェ」
「ナルト……?」
耳元からの声に振り返れば、金色の睫毛が震えて持ち上がる。
いつの間にか起きていたらしいナルトは、今にも泣き出しそうな顔でギュウ、と拳を握りしめていた。
「うっすらだけど覚えてる。サクラちゃんもカンクロウも、我愛羅もサスケも……俺が暴走して傷つけた」
「……」
「俺も我愛羅と一緒だ。もし我愛羅が駄目だってなら、俺も戻らねェ。だって俺がまた暴走して、木ノ葉を滅茶苦茶にするかもしんねーだろ」
「……馬鹿を言うな。お前は木ノ葉の忍で、ワシの弟子だ。ワシは……ナルト、お前を信じておる」
「だったら!人柱力だからって関係ねェ、もう我愛羅は木ノ葉を傷つけたりなんかしねェ!俺だって、我愛羅を信じてる!」
強い決意を宿した蒼眼が自来也を睨みつける。
そんなナルトの言葉に、我愛羅は呆然と顔を上げた。
「どうして……どうして、俺を信じられる……。俺はサスケを、お前達を、殺そうとしたんだぞ!?」
「───友達だからだ」
「……!」
「それに……なんでかなぁ……お前の気持ちは、痛いほど分かるんだってばよ」
同じ人柱力である、ナルトと我愛羅。
まっすぐに見詰め合う二人には、彼らにしか分からぬ孤独と痛みが垣間見えた。
人柱力というだけで危険視され、忌み嫌われる。本人達が望んで得た力でもないのにだ。そしてその力が意図せずに身近な者たちを傷つけ、その力に飲まれる恐怖。
人柱力でない俺には、どうしたって全ては分からない。
お前に俺の何が分かる、そう宣った過去の己の言葉が聞こえた気がした。
「でも……俺達ってば、もう一人ぼっちなんかじゃねェ。お前だって分かってる筈だろ」
我愛羅が目をゆるりと横へ向けた。そこには我愛羅を庇うテマリの姿があった。
次いで絡んだ視線にフッと口角を上げてやれば、その目が揺れてジワリと潤んでいく。
そんなやり取りを静かに眺めていた自来也は頭をかくと、ひたりと我愛羅と目を合わせた。
「馬鹿弟子共がそこまで言うとはな……。我愛羅といったか。お前は、こいつらに応えられるか?」
信頼への応え。その意図は戦争を止める、それだけではないと察する。
自来也を見つめ返した我愛羅は、やがて力強く頷いた。
「ああ、約束する。俺は砂隠れの我愛羅───風影になる男だ」
「風影……ククッ、そうか次期風影か、そりゃあ信じねぇわけにいかねーのォ!」
我愛羅の言葉に自来也は大笑いしていたが、期待しておるぞ、と肩を叩く様子からして、どうやら我愛羅のことが気に入ったようだった。
「やったな、我愛羅!」
「ああ……ありがとう」
「我愛羅、アタシも応援するからな……!」
照れたように鼻をかくナルトを眩しげに見詰めながら、我愛羅は穏やかな微笑みを浮かべていた。テマリが感涙を浮かべながら力説するのにクスリと笑う。
そんな人間同士の一悶着を静観していたパックンが、ようやく終わったかと欠伸混じりに起き上がった。
「まったく……笑ってる場合ではないぞ。もう時間を随分と使った、急いで戻った方が良い。もし砂隠れの上忍や火影が命を落とせば、更に事がややこしくなろう」
確かにパックンの言う通り時間を費やしはしたが、大蝦蟇の背にでも乗れば一飛びで会場まで行ける。
それに下忍の言葉より三忍の言葉のほうが格段に説得力があるものだ。砂と木ノ葉、双方の和解は我愛羅と自来也がいれば問題なく成せるだろう。
だが、時間がないのも事実。それに大蛇丸と交戦している三代目も気がかりだ。
「そうだの。よし、ジジイがぽっくり逝っちまう前に戻ると───!」
「ッ!」
口寄せの印を結ぼうとした自来也が言葉を切ると同時。サスケも掌にクナイを忍ばせ、森の奥をジッと見詰めた。
ほんの一瞬、確かに視線を感じた。敵意はないが、恐らくは味方でもない。
次第に増していくプレッシャーに観念したのか、そいつはスッと木の影から姿を現した。
「すごいな、気配は完璧に消したつもりだったのに」
動物を模した仮面に、肩に炎の入れ墨、闇に紛れるような黒い装束───暗部だ。
しかし、その淡々とした声にはどうしてか聞き覚えがあった。
まさか。そんな嫌な予感に、じとりとした汗が滲んだ。
「里の大事に、暗部がこんな所で何をしている?」
「僕は戦闘向きではないので、砂隠れの人柱力の追跡を命じられたんですが……でもそちらも話がついたようですし、自来也様にお任せしますよ。僕は、『彼』を連れて行かないといけませんから」
怪訝そうな自来也へそう答えながら、暗部の少年はゆっくりと歩いてくる。やがて眼の前で立ち止まると、あの別れの時と同じように片手を差し出す。
どこか無機質めいた黒目が、愕然とするサスケを写していた。
「上層部からの命令なんだ。サスケ君、僕と一緒にきてくれるかな」
───写輪眼の開眼、おめでとう。
仮面を外したサイは、そう言ってにっこりと微笑んだ。