SASUKE 逆行伝   作:koko22

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ダークシリアス超特急へようこそ。
R-15タグを追加しました。主要人物の死ネタも今後入りますので、どうぞ心のご準備をお願いします。

ちなみに、ミスリードに気づかれてた方はいらっしゃるかしら……(゜゜)


89.罠

 

 

───写輪眼の開眼、おめでとう。

 

 

 告げられたその言葉に、ただ漠然と七班の終わりを悟った。

 思考の止まった頭に過ったのは、川原で見上げた夜空で。今が続くように。そんな叶わぬ願い事を、瞬きと共に消えた流れ星を思い出す。

 差し出された手を取ることも体の良い言い訳もできぬまま、俺はその場に立ち尽くしていた。

 

 

「何だか、顔色が悪いようだけど……大丈夫?」

「ッ!」

 

 

 心配そうな台詞に似合わぬその無感情な眼差しに、ひやりとした悪寒が背に走って大袈裟な程に身体が揺れた。

 そんなサスケに構わず、サイは笑みを崩さぬまま更に一歩近づいてくる。伸ばされた青白い手から逃れなければ、そう思うのに身体は凍りついたまま動いてくれない。

 

 その指先が腕を掠めた刹那。

 ぐい、と思わぬ方向から肩を押された。

 

 

「サイ、お前どうしてこんなとこに……っつうか、お前暗部だったのか!?」

 

 

 サスケを押しやるように間に割り込んできたのはナルトだった。

 サイはパチパチと瞬きすると、サスケからナルトへと視線を移して小首を傾げた。

 

 

「なんだナルト、君もいたんだね。チビだから気づかなかったよ」

「うるせー、最初からいたってばよ!……つーかお前、暗部なんてすげーじゃん!なのになんで中忍試験に出てたんだ?」

「……任務でね」

「ナルト。こ奴は知り合いか?」

「おう!中忍試験の予選、死の森っつうとこで影分身が助けられてさ」

 

 

 警戒を解かず距離を置く自来也に、ナルトがつらつらと二次試験でのサイとの出会いを語り始めた。

 ナルトの素か意図してのものか、話の流れは明らかに写輪眼から遠ざかっている。

 そんな緩んだ空気に、張り詰めていた緊張感が解けて目眩がした。

 

 

「大丈夫か?まったく、こんな時に限って邪魔ばっかり入るもんだね」

「……行くな、サスケ」

 

 

 よろめいた身体が支えられる。いつの間にか傍らに、苛立ったようにため息を吐き出すテマリと気遣わしげに顔を曇らせる我愛羅がいた。

 彼らに庇われた、そう理解すると同時に視界が晴れていく。

 そっと浅く息を吐き出して、呼吸の仕方をようやく思い出せたような気がした。

 

 

(落ち着け……冷静に考えろ)

 

 

 そう自分に言い聞かせながら、思考を再び駆け巡らせサイの言葉を反芻する。

 ナルトの暴走を止める為、写輪眼を使ったのは事実だ。我愛羅との共闘の際に見られていたのだろう。

 シスイやイタチの警告から、里とうちはの契約に写輪眼開眼による即時暗部入隊が決定付けられていることも知っている。これが上層部の命令ならば従わねばならない。

 

 だが、そこにたった一つ違和感があった。 

 

 

(サイは、本当に暗部なのか?)

 

 

 確かに“前”においては、彼は『根』に所属する暗部だった。

 しかし現状として、その根を率いるダンゾウが失脚・里抜けをしており、サイが所属していた下忍班の二人は大蛇丸の部下と発覚していた。姿形だけで暗部と判断するには怪しすぎる。

 二重スパイをしていた可能性もゼロではないが、この木ノ葉崩しという緊急時に、あの上層部が今さら人質一人ごときを気にかけるとも思えない。

 

 断じるには情報が足りないが、もしも。

 もしも、サイがダンゾウや大蛇丸側の人間だとすれば、これは───罠だ。

 

 そう思考が行き着くと同時、グルル、と唸り声が足元から聞こえた。

 

 

「ナルト、すぐに離れろ!そいつは『敵』だ!」

「へ?」

 

 

 パックンの言葉が終わるよりも先、自来也のクナイがサイの喉元に突きつけられていた。三忍の名は伊達ではない、そう素直に思える身のこなしだ。

 だが、サイはクナイなど微塵も気にしてないかのように、平然と笑みを浮かべている。そんな姿にナルトも何かを感じとったのかジリジリと後ずさった。

 

 

「拙者の鼻を舐めるでない。体に染み付いた墨の匂いは隠せんかったようだな」

「……」

「敵って、どういうことだってばよ!?」

「そやつは木ノ葉崩しの首謀者、ダンゾウの部下である薬師カブトと密通をしておった輩だ。その術の匂いがぷんぷんしおる」

 

 

 思いがけぬ名とその繋がりに息を呑む。ここでまさか、カブトの名を聞こうとは。

 試験会場での出会いに続き、死の森での遭遇を振り返る。確かにこの中忍試験中、カブトとサイの立ち位置は嘗てとまるっきり入れ替わっていた。

 だとすれば。カブトがダンゾウの部下ならば、サイは。

 

 

『うちはサスケ君───貴方は必ず私を求める』

 

 

 過去も今も、ドス黒い執着を隠さぬ血走った瞳。

 瞼に触れた死人のように冷たい手が、サイのそれと重なった。

 

 

「ああ、バレちゃいましたか」

 

 

 呆気なく疑惑を認めたサイは、そう言って肩を竦めた。

 後ろめたさどころか危機感一つ覚えていない、そんな様子に自来也の眉間の皺が深まってクナイが肌に食い込んでいく。

 

 

「何が目的だ。お前の後ろにいるのは───大蛇丸か?」

 

 

 自来也も俺が大蛇丸に狙われていることを知っていたのだろう、半ば確信しているような問いだった。

 我愛羅達がビクリと身体を強張らせるのを横目に、サイは今さら隠すつもりもないのかあっさりと頷きそれを肯定した。

 

 

「ええ。サスケ君の身体を次の魂の器にと、大蛇丸様のご所望があって。彼を勧誘に来たんですが、どうも素直には来てくれなさそうだったので」

「一芝居打った訳か。フン、甘いわ。洗いざらい情報を吐いてもらう、覚悟しろのォ」

「……ああ、それは無理ですよ。僕はただの分身体にすぎませんから」

 

 

 首筋からたらりと流れたそれは赤色ではなく。サイの瞳と同じ漆黒をしていた。自来也が舌打ちと共に力を緩めるも、流れる黒は量を増して全身が泥のように崩れていく。

 鼻をつく独特のそれは墨の匂いだ。戦闘能力はないと言っていたのは嘘ではなかったらしい。三忍を相手にするつもりは最初からなかったのだろう。

 そんな溶けかけたサイの分身は、サスケへと形を失いつつある手を差し出した。

 

 

「サスケ君。君は、“仲間”の所へ早く帰ったほうがいいよ。誰も傷つけたくないなら、一人で来るんだ」

「仲間……?」

「早くしないと手遅れに───」

 

 

 そんな意味深な言葉を残して、パシャン、とサイの分身は墨となって弾けた。

 酷く呆気のないその終わりに、自来也が相手を失ったクナイを懐へ戻す。

 

 

「なあ……今のってどういう意味?」

 

 

 疑問符を浮かべるナルトに答えられる者はいなかった。

 俺の仲間、それは木ノ葉の忍であり第七班だ。一人で来いといっても、自来也にナルト、我愛羅達の居合わせた以上は不可能。罠とわかっていながら自ら飛び込む真似をするつもりもない。

 

 だが、手遅れという言葉に何かが引っかかる。

 言い知れぬ焦燥感に拳を握りしめた時。

 溶けた手から零れ落ちた何かに気づいた自来也が、身を屈めて首を捻る。

 

 

「何かあるのォ……こりゃ、花か?」

 

 

 呟やかれた言葉に、ドクン、と心臓が音をたてる。

 テマリを、我愛羅を、ナルトをかき分け、その手元を覗き込んだサスケの瞳が見開かれていく。

 

 黒い墨の中に、一輪の小さな白い花が浮かんでいた。

 

 それは何の変哲もない、ただの野の花だ。

 けれどそこに込められた本当のメッセージを、サスケだけが正しく理解した。

 

 

『俺、頑張ります!頑張って、いつか警務部隊に入ります!お父さんみたいな……あなたみたいな、強い忍者になりたい!』

『 一本じゃさみしいでしょ?だから、たくさん持ってきたんだ!』

 

 

 忘れられる筈がない。

 あの木漏れ日も、あの青い空も、あの笑顔も。

 

 

『あら、汚い雑草ね』

 

 

 踏みにじられた花も、大蛇丸の冷たい手の感触すらもが鮮明に蘇る。

 

 ぎり、と固く拳を握りしめた。

 何故、思い至らなかったのだろう。あの時から、うちはの幼い兄弟が大蛇丸に目をつけられていたということに。

 あの兄弟は人質だ。従わねば、彼らの身が危うくなる。

 そして俺の帰るべき場所は、この世界にはまだもう一つ残っていた。

 

 

(これは、罠だ。行くべきじゃない)

 

 

 そう分かっている。それでも。

 ナルト、我愛羅、テマリ、自来也、パックン。そしてまだ目を覚まさぬサクラ、カンクロウ。彼らを順に見回しながら、既に思考はこの場をどう抜け出すかを考えていた。

 体力もチャクラもまだ回復していない。飛雷神の術を使えるのは、あと一度だ。

 

 

「ったく……意味のわからん伝言に花とは、何がしたかったのやら。時間を無駄にしたわい」

 

 

 よっこいせと覗き込んでいた腰をあげた自来也が印を結ぶ。亥、戌、酉、申、未と結ばれたそれは、予想通り口寄せの術印だった。

 煙が立ちのぼったその一瞬、辺り一帯の視界が覆われる。自来也は現れた大蝦蟇の背の上、我愛羅達も巨大な大蝦蟇の出現に距離を取った気配を感じ取る。

 

 チャンスは今しかない。

 そう瞬時に理解して、煙に紛れて飛雷神の印を結んだ。

 だが、最後の印を組むより先、サスケの肩はがっしりと掴まれていた。

 

 

「サスケ!?」

「ッ、このウスラトンカチ……!」

 

 

 背後のナルトを振り返るも、術を止めるには遅すぎた。

 我愛羅達の叫ぶ声も、大蝦蟇も、煙も、全てが遠のく。

 一瞬で切り替わった視界にも慣れたもので、呆然とするナルトを突き飛ばして辺りを確認する。

 

 

(チッ……座標がズレた……!しかも風上だ、忍犬に嗅ぎつけられるのも時間の問題か)

 

 

 森の中、遠目にも大蝦蟇の姿が見える。時空間に閉じ込められなかっただけマシではあるが、もっと距離を取るはずがナルトの乱入により計算が狂った。

 

 自来也に取り押さえられれば全て終わりだ。どんなに説得しようとも、サスケが大蛇丸の罠に飛び込むのを許してくれる筈もない。

 戦争を止めるか、見知らぬ兄弟の命か。自来也の天秤がどちらに傾くかなど分かりきっている。

 

 

「サスケ!何してんだよ!?」

 

 

 今すぐにこの場を離れなければならなかった。

 なのに、そんな必死に呼び止める声に駆け出そうとした足が止まっていた。

 

 

「……行く所ができた。邪魔をするな」

「もしかして……お前、大蛇丸って奴の所に行くつもりなのか!?サイも言ってただろ、大蛇丸はお前の身体を容れ物として欲しがってるって……!」

「お前には、関係ない話だ。他人が首を突っ込むな」

「ッ!」

 

 

 痛む心を押し殺して、冷たくそう突き放した。傷ついたようなナルトを見ていられず顔を俯ける。

 大蛇丸の属する暁は九尾を狙っている。

 罠と分かっていながら連れていくことはできないし、もし再び暴走しようものなら今度こそナルトの命はないだろう。そして何より、ナルトをうちはの因縁に巻き込みたくなかった。

 

 

(だが……コイツは言って引くような奴じゃない)

 

 

 指先に触れた鈴を取り出そうとして、ふと躊躇いに手が止まる。

 鈴の音でナルトに幻術をかければ、この場から簡単に逃れることができるだろう。けれど、七班の絆の象徴ともいえるこの鈴を、ナルトに使いたくはなかった。

 

 そんな僅かな逡巡の間にナルトに間を詰められ、思いきり頬を殴られる。口の端を切ったのか、鉄の味がした。

 襟首を掴まれながら、ころころと転がっていく鈴をぼんやりと目で追いかけた。

 ポタポタと水滴が乾いた地面に落ちる音がして、顔を上げられなかった。

 

 

「……確かにオレってば、血なんか繋がってねぇし。写輪眼とか上層部とか……その呪印のこととか。お前のこと何も知らねぇ」

「……」

「けどお前と一緒に暮らし始めて、兄弟ってこんな感じかなぁって……オレにとっては、はじめてできた繋がりなんだ……!」

 

 

 この六年間の思い出が頭を駆け巡る。

 ナルトが拙い言葉で身振り手振り話すのをよく眺めた。ただ相槌しかしていないのに、何が嬉しいのかお前は笑っていた。

 何の変哲もない日常の中には、微睡みのようなただ穏やかな記憶だけがある。

 それがどんなに救いとなったかお前は知らない。その日々がずっと続くようにと、そう願っていたけれど。

 

 

「人質が取られた」

「……!」

「お前も会ったことがある子供だ。木ノ葉病院に行ったことを覚えているか?」

 

 

 ポツリ、ポツリと零れるままに語る。

 そんなことをしている場合じゃないと分かっているのに、言葉を吐き出すたびに胸の重石がほんの少し軽くなっていく気がした。

 

 

「大蛇丸に目を付けられたのは俺の責任だ。だから俺は、行かなきゃならない」

「だったら!俺も一緒に……!」

「駄目だ」

 

 

 九尾にのまれたナルトの姿はまだ記憶に新しく、思い出すだけで背筋が寒くなる。連れて行くという選択肢は最初から無かった。

 

 きっぱりとそう告げ顔を上げれば、予想通りナルトの顔はぐちゃぐちゃに濡れていて。

 過去も今もお前の手を掴めない。それが何だか息苦しくて、それでもそれを見せないようにと笑みを浮かべた。

 

 

「お前は里を守れ───火影になるんだろ?」

 

 

 潤んだ蒼眼に赤色が灯ると同時、ぐらついた身体を支える。

 サスケの紅に染まった瞳から、一粒の涙が落ちていった。

 






『すまない……ありがとう』


 薄れていく意識の中、そんな朧げな声を聞いた。
 日が暮れ始め薄暗くなった森の奥へ、サスケの背が消えていく。必死で伸ばしたこの手は、いつだってあいつに届かない。

          
(どうして……何で、またこうなっちまうんだよ!!)


 無意識に心の中でそう叫んでいた。そんな覚えのない痛みの記憶に疑問を抱くより先、力尽きた腕がパタリと落ちていく。
 それでもどうにか意識を繋ごうと藻掻こうとして、その指先に固い何かが触れた。チリン、と音をたてたそれをぎゅっと握りしめた。


(オレは、諦めねェ……!まっすぐ自分の言葉は曲げねェ、それがオレの忍道だ!)


 戦争を止める。
 そんでもって───必ずお前を、追いかける。

 だから……死ぬな、サスケ。

 その祈りと共にナルトの意識は途絶えた。
 数分後、駆けつけた自来也達が鈴を強く握りしめたナルトを発見する。
 その伸ばされた手の先には、誰の姿もなかった。

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