SASUKE逆行伝   作:koko22

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ヒルゼン視点


90.闇と光

 

 ヒュルリと吹き抜ける風が無数の木の葉を舞い上げていく。

 彼方へと散る小さな影に目を細め、ヒルゼンは吐息のようなため息を一つ落とした。

 

 

「やはり手を組んでいたか……いつからじゃ?」

「フフ、利害の一致がありましてね。しかし、いつからと言われても……ねぇ?」

 

 

 首元に押し付けられたクナイがクツクツとした嘲笑とともに揺れる。

 風影の面を剥ぎ取って正体を表した大蛇丸は、そう言って傍らのダンゾウへと意味深な視線を向けた。

 

 

「そうか……最初から、ということか」

 

 

 ダンゾウは答えずとも、その意味をすぐさま察して苦々しく呟く。

 十数年前、大蛇丸が里を抜けた時から何かしらの繋がりを保っていたに違いない。

 

 片や禁術を開発し、部下すらも手にかけた大蛇丸。片や復権のためうちはを陥れ、数多の死者を生みだしたダンゾウ。その両者の関係性が後ろ暗いものであることは言わずとも知れる。

 厳しい眼差しでダンゾウを睨み据えるも何故とは問わぬ。

 その答えは容易く予想ができていた。

 

 

「ダンゾウよ、ではこの木ノ葉崩しもまた『木ノ葉の為』と言うつもりか?」

「そうだ。これは、お前の甘さが招いたこと……その甘さが里を滅ぼすのだ。もはや、お前にこの木ノ葉を任せてはおけぬ」

「詭弁を言うでない!!ならば儂だけを狙えばよかろう!木ノ葉は疎か、砂隠れまでも巻き込み大戦を繰り返すつもりか!?」

 

 

 躊躇い一つない肯定に、カッと頭に血が上る。

 奥歯を噛み締めダンゾウを睨み付けたヒルゼンは、怒りのままに声を張り上げた。

 

 その手にこびりつく血が、眼下に広がる戦いの最中に一人また一人と潰える命が。

 それが、お主には見えぬのか?

 これが、木ノ葉の為だと?

 

 

「多少の死傷者は出るであろうが、ワシにとっては必要な犠牲だ───ワシが火影になるためのな」

「ダンゾウよ……そこまで落ちたか……!」

 

 

 そう言い切ったダンゾウの瞳は、仄暗い悪意と野望に爛々と光っている。

 もはや相容れることはない、そう悟った。

 

 

「下がれ、大蛇丸。ヒルゼンはワシが殺る」

「好きにしたらいいわ。既に回り始めている風車を、敢えて止める理由もない……」

 

 

 ヒルゼンの首からクナイが離れていく。

 退いた大蛇丸に代わって、殺気を放つダンゾウと対峙した。

 火影の衣と笠を投げ捨て戦装束を身に纏えば、肩を並べ戦った日々が蘇る。

 

 

『火影には選ばれたが、俺はまだまだ未熟者だ。ダンゾウ、頼む!力を貸してくれ』

『俺とお前で、この木ノ葉を守るんだ』

 

 

 瞑目と共に過ぎ去った過去を消し去り、嘗て握りあった手と手に刃を掴む。

 その鋼の冷たさをやけに鮮烈に感じながら、ヒルゼンは決然と目を開いた。

 

 

「たとえ儂を排そうとも、木ノ葉の民はお主を認めぬ。お主が火影になる日は決して訪れんぞダンゾウ!」

「フン……認めぬと言うならば、殺すまでよ」

 

 

 重いチャクラが大気を震わせ、殺気と共に風が吹き荒ぶ。

 ひらりと舞いこんだ一枚の葉の柄を掴んだ大蛇丸は、それをクルリと指先で回す。

 

 

(フフ……木ノ葉の光と闇、表裏一体だった彼らが戦うなんてねぇ?どんな戦いが見られるか、楽しみね)

 

 

───たとえ、その結末はたった一つだとしても。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 ハラリと葉の落ちる微かな音と共に、ヒルゼンとダンゾウは同時に印を組んだ。

 

 

「忍法・手裏剣影分身の術!!」

「風遁・真空玉!!」

 

 

 煙と共に分裂した数多の手裏剣が、ダンゾウの繰り出した風の刃とぶつかり合う。

 甲高い金属音と共に弾かれ、足元へ突き刺さっていくそれらをヒルゼンはチラリと目で追った。

 

 

(くっ……!やはり、威力は劣るか)

 

 

 互いに相殺し合ったかに見えながらも、力なく消える手裏剣とは対象的に、威力を殺しきれなかった風の刃は屋根瓦に深々と傷跡を残していた。

 里随一の風遁遣いであるダンゾウだ。その風遁の切れ味は腕も首も容易く飛ばすものであることを、ヒルゼンはよくよく知っていた。

 

 

「余所見とは、余裕だなヒルゼン!」

 

 

 掠める手裏剣の波を掻い潜り、ダンゾウが眼前に迫る。

 咄嗟に構えたクナイが火花を散らし、間近で交差する鋭利な音が鼓膜を震わせた。

 

 

(奴の風遁は危険じゃ……ならば!)

 

 

 一瞬の鍔迫り合いの後、弾き合うようにして飛びずさり、着地すると同時に再び地を蹴るダンゾウ。

 その手にある風遁を纏わせた刃を一瞥し、ヒルゼンはグッと身をかがめた。

 

 

「土遁・土流壁!」

 

 

 隆起した岩壁が、ダンゾウの刃を受け止める。

 そびえ立つ壁の上、ヒルゼンはすぐさま次なる印を組み上げた。

 

 

「火遁・火龍炎弾!」

 

 

 放たれた業火がうねりを上げ、壁下のダンゾウへ襲いかかる。火遁は相性が悪いと瞬時に判断したダンゾウは、風遁の刃を消し水遁の印を組む。

 炎と水がぶつかり合い、濛々と激しい水蒸気が上がった。

 だが、風遁に特化したダンゾウだ。得意性質ではない水遁では威力は削がれども完全にはヒルゼンの火遁術を無効化できず、水の壁を叩き割った炎は勢いのままにダンゾウへと襲いかかった。

 

 

「チッ……」

 

 

 咄嗟に身を躱すが間に合わず、爆炎によって後方へと吹き飛ばされたダンゾウは結界の壁に叩き付けられ───煙となって消え失せた。

 

 

「ッ!?」

「何を驚くヒルゼン。影分身も使わずに突っ込んでいくなど愚か……もっとも、貴様はその括りに入るようだがな」

「馬鹿な……!」

 

 

 咄嗟に振り返れば、無傷で佇むダンゾウの姿が目に入った。

 驚愕に目を見開くヒルゼンに、観戦していた大蛇丸が堪えきれぬといった風にククッと笑い声を上げた。

 

 

「猿飛先生。あなたは影分身を使わないのではなく、使えないんじゃないですか?」

「……」

「哀れですねぇ。かつて忍の神と謳われたアナタですら、老いには敵わぬとは!ハハハハ!!」

 

 

 大蛇丸の嘲笑に眉を顰めながらもヒルゼンは沈黙する。

 その言葉は事実であった。現存するチャクラを均等に分散してしまう影分身は、下手をすればチャクラを捨てるようなものだ。

 全盛期の頃より随分と衰えた体力にチャクラ、十全に使いこなすことの叶わぬ忍術……よる年波には勝てぬものと、ヒルゼンは己の衰えを自覚していた。

 

 

(しかし……おかしい。それは奴とて同じ筈じゃ)

 

 

 共に里の創設と同じ年に生まれ、互いに切磋琢磨し合った。

 チャクラ量はほぼ互角、否、ヒルゼンの方が僅かに上回っていた筈だった。衰えを自覚しているからこそ、ダンゾウもまた影分身を使えぬものとそう思っていた。

 だが、そんな思考を読み取ったかのように、ダンゾウは影分身の印を結ぶ。現れた影分身と、それに大して驚くでもない大蛇丸を交互に見やった。

 

 

「そういうことか……ダンゾウ。大蛇丸と、随分と深く接触しておったようだな」

「当たらずとも遠からず、とでも言っておきましょうか。副産物のようなものですがね」

「……大蛇丸、無駄口を叩くな」

「知ったところでこんな老いぼれに何も出来やしないわ。どうせ彼はここで死ぬのだし……冥土の土産に、アレを見せてあげてもいいんじゃない?」

 

 

 大蛇丸の言に暫し逡巡していたダンゾウは、やがて無言で右腕の包帯を解いた。

 右腕に埋め込まれた赤い瞳。そして見覚えのある人面が、肩口から覗いていた。

 

 

「初代様……」

 

 

 尊敬する初代火影・千手柱間の植え付けられた顔に、愕然としたヒルゼンは言葉を失った。

 追い打ちをかけるように、大蛇丸がその顔面を剥がす。その下から現れたのは見知らぬ若者だった。

 

 

「どうです、素晴らしい研究でしょう?初代の細胞を埋め込んだ特製の義手ですよ。驚異的な自然治癒力、チャクラ量の大幅増加、身体エネルギーによる身体能力向上……その恩恵は数え切れない。里を出て十数年苦労しましたが、その細胞を元に、ようやく私は不老不死の術を完成させた……!」

 

 

 嘗て大蛇丸の里抜けのきっかけとなった禁術を思い出す。そしてその人体実験に主に使われたのは、ダンゾウが関与した人身売買によって得た実験体と後に知った。

 繋がっていく点と点に、こみ上げる吐き気を抑えきれず膝をつき嘔吐いた。

 

 

「アナタはここで死に、私は更に若く美しく強い体を手に入れる。そう……里の平和のため、アナタが犠牲にした子供───うちはサスケ君ですよ。まあ、彼はもう少し私好みに育ててから乗っ取るつもりですがねぇ?」

「諦めろヒルゼン。もう何をやっても遅い……ワシはとうにお前を超えた。このワシこそ里に蔓延るうちはを排し、忍の世界に変革を成し、忍の掟を徹底させる───希代の火影となるのだ!」

 

 

 ドス黒い欲望を隠そうともせぬ音が、その狂気さえも感じる歪さにぐわんと反響して聞こえる。

 胃液を拭いながらふらりと立ち上がったヒルゼンの額に、ビキリと青筋が浮かび上がった。

 

 

「黙れ……その腕と術を手に入れる為に、何人の里民を手に掛けた!!」

 

 

 ヒルゼンの怒号が轟き、ビリビリと四方を囲む結界が震えた。

 数多の死者を生んだ千手細胞の研究。それを何年にも渡り続けていたのだ、それが何の犠牲もなしになどあり得ない。そしてその犠牲を、その腕の幾つもの写輪眼こそが証明していた。

 

 その右目が、その右腕が、何にも見えぬよう覆われ始めてから数十年が経つ。大蛇丸の里抜けよりも、更に前のことだった。

 蠢く瞳は三つ。少なくとも二人の忍の死があったと知れる。その中に、シスイの父の瞳もあるのだろう。

 

 一族の誇りたる瞳を息子へと譲らんとしていた覚悟を。瞳のない遺体を前に、シスイの流した涙を思い出す。

 そんな犠牲を当人らが望んでいた筈がない。他者へ犠牲を押し付ける、それは自己犠牲などではなくただの人殺しにすぎぬ。

 

 

『木ノ葉の同胞はオレの体の一部一部だ。里の者はオレを信じ、オレは皆を信じる……それが火影だ!』

『サルよ。里を慕い、貴様を信じる者達を守れ。そして育てるのだ、次の時代を託す事のできる者を……明日からは、貴様が火影だ!』

 

 

 初代様の声が、二代目様の声が、この胸を締め付ける。

 眦に浮かんだ涙がつうっと顎を伝った。

 全て、見て見ぬふりをしていた───それこそが、儂の罪だった。

 

 

「貴様らを葬り、嘗ての過ちを今正そう……その為ならばこの命、欠片とて惜しくはない!!」

 

 

 ダンゾウと大蛇丸を相手どる老いた我が身を顧みる。この絶望的な戦力差を覆す術はただ一つ。

 闇を照らす火の意志を胸に、ヒルゼンは躊躇いなく印を組んだ。

 死への覚悟は、とうに決まっていた。

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