SASUKE逆行伝   作:koko22

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NARUTO連載25周年おめでとうございます!
1999年9月21日連載開始だったそうな。ジャンプラではミナト外伝や本編の無料公開中!ぴえ◯さんの出してくれた記念PVもすごく素敵なのでぜひ見て下さいな〜(*´艸`*)

ちなみにこそっと当作も100話目のようなので、94話続きのオビト救済ルートを置いておきます。ここまで応援してくださった皆さまに、感謝を込めて(⁠^⁠^⁠)



幕間
番外編.オビトが未来を生きる話


 

 燃えている。朽ちていく。熱とその狭間に感じる冷たさが、身体の奥底から俺を蝕んでいくかのようで。

 そんな果てのないような地獄が一変したのは、ほんの一瞬の出来事だった。

 

 

【……ト。起きて、オビト!】

 

 

 懐かしい声に導かれるように目を開けば、白い空間に俺はいた。

 苦しみも絶望も、両肩にのしかかっていた重みさえもが消え失せていて。そして何よりも、その視界いっぱいに広がる懐かしい面影が、これが現実でないことを俺に知らしめる。

 でも、何度も何度も過去をなぞる悪夢はいつだって血にまみれていたのに、目の前にいる彼女はあの頃と同じように微笑んでいた。

 

 

【待ってたよ、オビト。ちょっと早かったけどね】

『……リン?』

 

 

 そんな少し悲しげな声音に目を瞬けば、急に意識が鮮明になった。

 最後の記憶は延々と続く幻だ。逃れることもできず、ただ身を焦がしていく熱を、焼け爛れた喉の乾きを思い出す。

 

 

『俺……死んだのか』

 

 

 ぼんやりとそう呟いて、過去の己の小さな掌に視線を落とした。

 神威ですり抜けができたとしても、その使用時間には5分という制限がある。火の手があの部屋に回るには十分すぎる時間だった。

 そして、この状況こそがイザナミから抜け出せなかったその果てなのだろう。

 

 

『リン……俺、リンとの約束……』

 

 

 無限月読は成せず、約束も守れずに、どこまでも中途半端に全てが終わった。この手に何も掴めぬまま残してきたのは、俺自身が作り出した地獄だけだ。

 このまま消えてしまえたらと。そんな風にいつまでも逃げている、自分の情けなさに唇を噛み締めた。

 

 

【ううん。オビトは頑張ったじゃない】

『……っ!』

【ずっと……ずっと、見てたんだから】

 

 

 空っぽな手にそっと添えられた指先に顔を上げれば、リンはほんの少しも俺を責めるような目はしていなくて。

 言葉がでなかった。溢れていく涙を止めることができなかった。

 そうして幾ばくかの時間が過ぎていく。リンはそんな俺をただ優しく見守っていた。

 

 

『……参ったよな……いきなりカッコ悪いとこ見せちまって』

【少し落ち着いたみたいだね】

 

 

 鼻をすすりながら立ち上がれば、流した涙と一緒にすべての未練が溶けてしまったのか胸の内は穏やかだった。

 これが死への旅路だとしても、リンと一緒ならそれでいい。

 だからリンの手を引いてこの先へと歩き出そうとしたんだ。だけど、リンは慈愛を浮かべて俺を見つめるだけで、その場を決して動こうとはしなかった。

 

 

『リン?』

【まだ、行けないよ】

『あ……そうだよな、リンはカカシのこと……。ま、カカシが来るまで二人っきりで待つってのも悪くは───』

【違うの、オビト】

 

 

 リンの指先がそっと離れていく。その冷たさを失って、自分に残された温もりに気がついた。

 

 俺は、まだ生きている。

 それを認めたくなくて、離れたくなくて、ゆるゆると首を振って取り戻そうと手を伸ばす。

 だけどリンに触れる寸前、いつの間にか現れた男が俺の腕を掴み上げていた。

 

 

『お前、誰だよ……!どうしてここに!』

【この人は……】

【リン】

 

 

 リンが説明しようとするのを男が首を振って止める。絆さえ感じられるようなそんな二人の空気に、俺はキッとそいつを睨み上げた。

 人というには白すぎる肌。ウロコのようにひび割れた頬に、踝まで伸びる衣の裾。

 そして俺を冷たく見下ろすその顔立ちは。

 

 

『……俺?』

【いいや。俺達の道は、すでに分かれた】

 

 

 鏡合わせのように俺によく似た男は、強く掴んでいた腕を名残惜しげに離した。まるで羨望を、もしくは嫉妬すらも滲ませながら。

 意味の分からないことを言う男に困惑し、縋るようにリンへと視線を戻す。

 けれど、慰めるように男に寄り添っていたリンのその姿に、男のことも俺の生死ですらも頭から吹き飛んでいた。

 

 

『リン、なのか……?』

 

 

 リンの背は男よりも少し低いくらいに伸び、ほんの少し長くなった髪先が肩へサラリと零れる。長い睫毛から覗くぱっちりとした瞳は、それでもリンと同じ色をしていた。

 

 願い望んだ夢の中でさえ、リンの成長した姿なんて思い浮かべたことは一度もない。想像すらできなかったからだ。

 そんな姿を目の前に、俺は彼女を直視できなかった。

 

 

【ふふっ。顔が真っ赤だよ?】

『し、しししし、仕方ねぇだろ!リンが……綺麗すぎるんだから』

【……ありがとう。やっぱりオビトはオビトだね】

 

 

 クスクスと笑う彼女に俺がさらに顔を赤く染めていると、眉間に皺を寄せた男がリンの姿を隠すように立ちはだかった。

 

 

【もう帰れ。お前がここに来るには早すぎる】

『嫌だ!俺は、リンと一緒に……!』

【オビト……私ね。ずっとずっと未来の世界で、こんな大人になっているの】

『未来……?』

 

 

 未来なんて考えないようにしていた。

 過去に戻りたい。ただその一心でここまで来たんだから。

 だけど、語る未来を証明するかのように、大人になったリンはキラキラと輝くような笑顔を浮かべてくるりと回ってみせる。

 

 俺の知らないその表情に、未来という言葉がゆっくりと染み込んでいく気がした。

 

 ああそうだ。俺も未来を描いていたんだ。

 火影になるっていう夢を、リンのいる世界を、今でも捨てきれず過去の幻に。

 だけど、それは本物じゃないんだって、君の姿にそう気付いた。

 

 

【オビト、お願い。私たちの未来を奪わないで】

【無限月読の中に救いはない。俺は気がつくのが遅すぎたが、お前ならまだ間に合う筈だ】

『っ!待て、待ってくれ!』

 

 

 二人の姿が霞んでいく。

 いつの間にか俺は少年時代から、今の自分の姿に戻っていた。

 帰る時が来てしまったんだと理解しながらも、諦めきれずに必死に手を伸ばす。

 

 

【私たちの未来を救ってね、オビト】

『リン!!でも、俺はもう……!』

【間に合うさ。だから……俺のようにはなるな。新しい夢を描いて、前を向いて生きろ。カカシやナルト……アイツの力になってくれ】

『ナルトって、アイツって誰だよ!?そんなんじゃ分からねーよ!』

【大丈夫。また会えるよ。生まれ変わったら絶対、オビトに会いに行くから】

『リン!!!』

 

 

 記憶が塗り潰されていく。

 忘れたくない。そう強く願った俺の目に、嬉しそうに笑うリンの姿が焼き付いた。

 

 

 

【約束だよ】

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「リン……」

 

 

 伸ばしていた腕が、痛みとともに力なく落ちてゆく。

 長い、長い夢を見ていた気がする。求めていた何かが指の隙間からすり抜けていったような漠然とした喪失感を感じながら、俺は濡れた目尻を拭って身を起こした。

 

 辺りを見回してみれば、壁にかかる松明が薄暗い部屋の中をほのかに照らしていて。その光を反射させ俺の顔を映し出すのは、巨大な貯水槽───写輪眼の保存をするために俺が用意したものだ。

 その空っぽな中身が、かの計画の失敗を物語っていた。

 

 

「写輪眼は全部燃えたよ。残ってた最後の一つも、君に移植して残りはゼロ。まあ、差し引きマイナスってところだね」

「手痛イ損失ダッタ……」

「うちは一族はまだ滅んでいないけど、増えるまで手は出さないほうがいいかも」

 

 

 ヌッと床から生えるように現れたゼツに驚くこともなく、俺は違和感の残る左目を覆った。時間差で仕込んでいたイザナギによって蘇ったのだろう。

 イザナミにかけられて尚、俺がこうして幻術から逃れられたのは、己の業がこの地獄に引きずり戻したのか、それとも瞳の奥にチラつく女神の微笑み故か。

 そのどちらでもあるのだろうと、そんな馬鹿な考えが浮かんで消えた。

 

 

「うっ……」

「酷い火傷だったからいくらか移植しておいたんだ。まだ定着していないだろうし、無理すれば身体が千切れるよ」

「俺タチニ感謝スルコトダナ……」

 

 

 冷たい床に足を下ろせば、ズキリと全身に痛みが走る。よく見れば身体は包帯で覆われていて、半身は別個体を接合されたのか真新しく、思うようには動かせない。

 そんな痛みも足の震えも堪えて、俺は無理矢理に立ち上がった。

 籠もった空気に吐き気がしている。ゼツを視界にいれる度に嫌悪感が生まれる。

 一度死んだからなのか、何かが決定的に変わってしまったのだと。それを俺は自覚していた。

 

 

「何処ニイクツモリダ?」

「何処だっていいけど、コレを忘れてるよ?」

 

 

 置きざりにしていた仮面が差し出される。

 渦巻いたその仮面を被って十数年。外すことなんてほとんどなく、忘れたことなんて一度もなかった。それこそ、仮面がないことに違和感を感じる程に。

 だから、決して忘れた訳じゃないんだ。

 

 

「……もう仮面はいらない」

「ソレハ、ドウイウ意味ダ」

「月の眼計画から、俺は降りる」

「「……!」」

 

 

 目を見開く白ゼツと目を細める黒ゼツを、俺はまっすぐに見つめた。

 途端に、殺気と底しれない憎悪が俺を襲った。

 

 

「同胞を殺して、今さら怖気づいたのかい?でもさぁ……君、自分がやってきたことを覚えてる?」

「九尾ヲ解放シテ木ノ葉ヲ襲ッタノハ誰ダ?」

「師である波風ミナトとその妻クシナ。彼らを手に掛けたのは?」

「ウチハニ濡レ衣ヲキセ、迫害サセルヨウ仕向ケタノハ誰ダ?」

「マダラの名を継いで霧隠れを血に染めたのは?」

「木ノ葉崩シニ協力シ、忍デスラナイ砂ノ行商一家ヲ殺メタノハ誰ダ?」

「写輪眼を得る為だけに血の繋がった一族を殺したのは……ねえ、誰だったと思う?」

 

 

 列挙されていく罪は、拭えない過去の己の所業だった。一つ一つの言葉に込められた失われた命に、その重荷に、押し潰されてしまいそうだ。

 

 俯く俺に『マダラ』の仮面が差し出された。

 その偽りの名で覆ってしまえば、それを成したのは俺ではないのだと。愚かにも、そんな免罪符を得られるような気がしていた。

 

 

「馬鹿ナコトハ考エルナ。木ノ葉ハ貴様ヲ憎ンデイル」

「分かるだろ?もう君には、帰る場所も、仲間も、何もありはしないのさ」

 

 

 仮面を手に取り、ポッカリと空いた穴をジッと見つめて───俺はそれを砕いた。

 

 許されはしないだろう。

 生涯背負っていくのだろう。

 だけど、鈴を鳴らすような声を、背に添えられた手を感じるんだ。

 頑張れって俺を励ます、彼女の存在を。

 

 

「俺はもう逃げない。この地獄を生きて……償うよ」

 

 

 砕けた仮面が落ちてカラカラと音を立てる。

 掌の破片も捨て去ってはっきりそう告げれば、ゼツの表情は憎々しげに歪んだ。

 

 

「貴様……ココマデ来ルノニ、どれだけの時間をかけたと……!」

 

 

 黒ゼツの声音が変わる。それに目を瞠ると同時に、木の根が俺の胸を貫いていた。

 吐き出すどす黒い血が床へと流れていく。膝をつく俺を見下ろしたゼツは、刃のように研ぎ澄まされた根を振りかぶる。

 

 

「もうお前はいらないってさ。だから……バイバイ、“マダラ(救世主)”」

 

 

 落とされたその切っ先は、俺の頭を、俺の右目を串刺しにしようとして。寸前に発動した神威によって、誰もいなくなった床に突き刺さった。

 

 

「───!!!」

 

 

 怒りに吠えたける絶叫を最後に聞いた。

 そこから先を俺は知らない。

 この命が果てたとしても、もう二度と戻ることは無いだろう。

 

 

 

◆ ◆

 

 

 

「クソッ……地図なんて嘘ばっかりじゃん!」

 

 

 各里の街名や道が詳細に記された極めて貴重だろう地図をぐるぐると回し、やがて諦めたのか捨てようとして、しかし急に大切そうに頬ずりしては再度眺める。

 先ほどからそんな奇行を繰り返す赤髪の少女の隣で、俺は再び目を覚ました。

 

 

(……まだ、生きてるのか)

 

 

 その現実に安堵の吐息が零れる。

 神威空間を飛ぶも、流した血と開いた傷に俺は意識を失っていたらしい。死すら覚悟していたものだが……胸の傷も、痛んでいた火傷の痕も、全てが夢だったかのように消え失せている。

 

 ただ、神威を使った反動か、付け替えられた筈の右腕は肩から先が欠けていた。

 それが惜しいとは思わない。己の罪の代価としては軽すぎるくらいで、むしろ、奴らとの繋がりが薄れたと思えば清々しくさえ感じられた。

 

 

「目が覚めたのか?傷は治ったけど動くなよ、本当に危ないとこだったんだからな」

 

 

 赤髪の少女が振り返る。眼鏡の中で赤い瞳が瞬いている。このうずまき一族の少女が俺を助けたのだろう。

 だが、その血故に狙われる彼らは表立つことはしないし、里にあってさえ囲われるもの。こうして森の奥深く、地図を片手に迷子になるはずもない。

 

 俺のように如何にも不審な人物を助ける、その行動の裏にどんな意図があるのか。きっと『マダラ』なら、すぐさま幻術をかけて問い詰めていただろうが。

 

 

「……ありがとう」

 

 

 頭を回すことも、起き上がることさえも、今はただ億劫だったからだ。

 口からすんなりと出てきた呆れるほど単純な言葉に、そう自分に言い訳をしながら礼を言えば、少女は照れたようにはにかんだ。

 純粋なその眩しさに目を逸らすと、なけなしの警戒心をも解いたらしい少女が一歩近づいてくる。

 

 

「ウチ、香燐っていうんだ。なあ、あんたの名前は?」

「俺は……」

 

 

 狭められることなく広がる青空を見上げれば、輝かんばかりの陽光が何かを照らし出す。

 その面影を追うように手を伸ばして、確かに取り戻したものをそっと握りしめた。

 

 

 

「俺は───うちはオビトだ」

 

 

 

 小さく笑ってみた俺は、きっと未来の姿をしていた。

 





 世界への恨みも憎しみも、消えてはいない。
 夢も未来も、戻る場所もなく、これからどうしたらいいのかさえ分かっていない。

 だけど、いつだって冷え切っていた空虚な胸には、確かに温かな何かが満たされていた。
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