私には姉と兄がいて、二人ともイカレている。
どこがイカレているかと述べようとするとキリがないが、代表例としてあげるとするなら私への異常なまでの愛……自分て言うのも気持ち悪いけど、本当にそう言うしかないから仕方ない。
まず授業参観があれば絶対に二人ともこようとするし、私の感情の変化がすぐにわかって何も言ってないのに色々察するし、私が虎鉄以外の男の子と喋ってるところを見かけようものなら縛り上げて生まれてきたことを後悔させようとするし、色々無茶苦茶だ。
そして私には最近、悩み事がある。それはもちろん姉と兄のことで、それが家庭内で済む話なら全然よかったんだけど、そうもいかない。
「ねぇー、お兄さん紹介してよ! 一生のお願い!」
「だめ」
なんと友だちから、うちの兄を紹介してというトチ狂ったお願いをされているのだ。最初このお願いをされたとき精神科をお勧めしたが、何の異常もなかったらしい。こういうので精神科勧められて本当に行く人いないでしょ、普通。
そう考えれば兄とお似合いな気がしなくもない。うちの兄は私が関わらなければバイト代を酒とパチンコスロットとタバコに溶かす大クソ野郎だから別に……だめだ、『私が関わらなければ普通にいい人』って言おうとしたのにダメな部分が目立ちすぎてフォローがまったくできない。
「というかそもそも、なんで蒼にぃ……兄貴を紹介してほしいの?」
「蒼にぃって呼んでるの? 茜可愛い!!」
「……バレたくないからあんまおっきな声出さないで」
言いつつ、周りにいる何人かにはバレたことが視線でわかる。やっぱり教室でこんな話するんじゃなかった。蒼にぃに興味持たれたら終わりだって言うのに、なんて迂闊なことをしてしまったんだろう。あんなゴミが私の兄だと思われたくない。
……でも、この子なら蒼にぃと会ってもゴミだったって言いふらすことはないだろうし、蒼にぃを真人間にしてくれる可能性もあるからむしろ会わせてもいいかもしれない。
「んー、なんで紹介してほしいって言われるとねぇ、この前ね、会っちゃったの」
「蒼にぃと!!?」
「バレたくない割にゲキ大声じゃん。ヤバ」
「取り乱したってことにしておいて」
「真実じゃん」
てっきり虎鉄あたりから蒼にぃの顔はいいって聞いて、それで紹介してほしいのかと思った。そんな勘違いをしてたから最近虎鉄が話しかけようとしてきても「黙れ」って突き返しちゃってたから、虎鉄には悪いことをしたなと思う。
もしかして私も異常者なのか? いや、そんなことはないはず。翠ねぇと蒼にぃがヤバすぎるから相対的に見て自分がまともだと思ってるなんてことないはず。
「会ったって、どこで?」
「この前ね、自転車停めるな! って書いてあるところに自転車停めてあったから、ムカついて蹴り倒したんだけど」
「これからの付き合い考えてもいい?」
「親がめちゃくちゃ喧嘩しててむしゃくしゃしてたんだよねー」
「え、ほんと? 大丈夫?」
「……はっ、ヤバ。心配してくれる茜が可愛すぎて妊娠したかと思った」
「大丈夫そうだね」
顔の横でピースをしてウィンクする龍奈に内心ほっと胸を撫でおろす。まぁ、本人はこう言ってても心配かけないように明るくふるまってるだけかもしれないから、ちょっと気にしておこう。
「んで、運悪く自転車の持ち主の悪いあんちゃんたちに囲まれちゃって」
「そこで兄貴がきたってこと?」
「そう! マジでカッコよかった! 『チャリしか乗れねぇようなやつらが女の子囲って恥ずかしくねぇの? バイク乗ってからにしろよ、そういうことすんの』って割って入ってくれて!」
「すごい偏見……」
不良を諫める言葉はともかく、蒼にぃそういうことするんだ。絶対そういう場面はスルーする人だと思ってた。もしかしたら龍奈が可愛いかったからかもしれないけど、それでもそういう場面で助けに入れる人ってそうはいないから、ちょっと見直したかも。
「その後、『でも、駐輪禁止のところに停めるのもよくねぇけど、それを蹴り倒すのもよくねぇよ。お互いごめんなさいして自分の悪かったところ受け止めて、喧嘩やめてすっきりした方が今日食う飯がうまくなるぜ。以上、朝霧蒼の名言』って言って、お互いごめんなさいしたの!」
「多分兄貴酔ってるね、それ」
「それでお礼を言う暇もなく倒れてた自転車起こして、それに乗って帰っていったの」
「停めちゃダメなとこに停めてた上に飲酒運転してるね、それ」
「かっこよかったー!」
どうやら龍奈の感性はズレにズレているらしい。確かに不良から助けるところまではかっこいいって言っても……まぁ……なんとか言ってもいいかなって思うけど、二連続の細かい犯罪はまったくかっこよくない。ていうか龍奈が外に出られる時間ならまだ夜も深くないだろうし、そんな時間にお酒飲んでたんだ。帰ったら注意しないと。
「だから、仲良くなりたいけどお礼言いたいって言う方が本音かな。ね、いいでしょ?」
「だめ。あんなのに会って龍奈が変な影響受けるのよくないもん」
「教えてくれなかったら家までついていく!」
「だめったらだめ!」
「いんじゃね? 紹介してやってもさ」
「おー! いいぞ夕凪くん!」
頑なに拒否する私と縋る龍奈の間に割って入ったのは、幼馴染の虎鉄。唯一私が話していても翠ねぇと蒼にぃが殺さない男の子で、私に男の子が話しかけようとすると止めてくれるありがたい役割も担ってくれている。そのせいで、私と虎鉄が付き合ってるって噂が流れるのはもう仕方ないことだと受け入れた。
「別に、蒼にぃはクソだらしねぇけど悪い人じゃないんだしさ。あの人も流石に年下の女の子相手ならまともな対応するだろ」
「パチンコ打ちすぎて朝電気つけて起こしたら『激アツか……?』って言いながら起きるような人だよ?」
「かわいい……」
「ごめん、ほんとにどこが?」
今のエピソードのどこに可愛さを見出したんだろう。私にはまったくわからない。もしかしたら龍奈と蒼にぃは本当にお似合いなのかもしれない。むしろ今龍奈を逃したら、蒼にぃはこの先一生彼女ができないのでは? あんなカスゴミを好きになってくれる人、龍奈以外現れないだろうし。
……でもこんなにいい子なのに犠牲者になるなんて、私はおかしいと思う。自分の兄の恋人になることが『犠牲』って思うことに抵抗がないくらい蒼にぃはダメな人だから、私がなんとかしてストッパーにならないと。
「あれじゃね? 蒼にぃがダメな人だから会わせないって言いつつ、朝起こしてる茜が可愛いとか」
「普通にお兄さんが可愛いって言ったんだけど」
「おい茜。お前に対して可愛いって言う恥ずかしい真似までしてフォローしただけで、俺はそう思ってねぇからな」
「好意を隠す思春期男子か。わかってるよ」
「仲いいねぇ」
「付き合ってないから」
「何も言ってないじゃん! それに夕凪くんは茜のお姉さんが好きなんだもんねー」
「おいバカ!!!」
「は?」
今龍奈はなんて言った? 虎鉄が、翠ねぇのことが好き? あの翠ねぇ? 彼氏がまったくできなくて、この前やっと人生初デートができたと思ったら『君はパワフルで破天荒すぎる』って言ってフラれたあの翠ねぇのことが好き? パワフルか破天荒のどっちかならまだしもどっちもだよ? 見た目は完璧だから男が寄ってくるけど、数分後には一人になってるあの翠ねぇだよ?
私には聞かれたくなかったのか、虎鉄が慌てて言い訳をしようと何か口を開く。すかさず「おいバカ!!! って反応したってことは本当ってことだよね」と攻撃すれば、口を閉じて渋々頷いた。
マジかよ。
「そっか、だから龍奈の味方してたんだ。裏で協力して私の姉貴と兄貴と仲良くなろうっていうこと? 本当にやめといた方がいいよ」
「いじわるで言ってるんじゃなくて、100%善意で言ってるんだよなこれ……」
「えー、でも誰が誰を好きになってもいいじゃん。ね? 会うだけ! ほんとにお兄さんがヤバかったらすぐ離れるからさ!」
「……虎鉄は手助けしないから」
「お、なんで好きなのか追及されるかと思ってたわ」
「あとでね」
「あ、ハイ」
こういうことはしっかり聞いておかないと、あとでもやもやして絶対翠ねぇと蒼にぃに勘づかれる。私の状態の変化にめちゃくちゃ鋭いから、常に平常心でいられるような状態にしておかないと本当にまずい。ただでさえ最近龍奈のことで悩んでて、それが勘づかれてそうなのに。
ポケットからスマホを取り出して、蒼にぃにメッセージを送る。『この前不良から助けた子いるでしょ? その子私の友だちで、お礼したいって言ってるんだけど』と簡潔に。蒼にぃのことだから『覚えてねぇや』とか言ってくれないかな。それならなんとか龍奈にダメだったって言えるかもしれないから、そう返ってきてほしい。
そんな私の願いは、教室にやってきた生活指導の先生によって打ち砕かれた。
「朝霧、夕凪!! 姉と兄が校門前でバイクに乗りながら『夕凪虎鉄を出せ』って書かれた旗を掲げてるぞ!! なんとかしろ!!」
「二人とも、考え直さない?」
「直さない!!」
「ははは……」
龍奈は目を輝かせ、虎鉄は「仕方ないなぁ」と笑った。あんたらおかしいよ。