最近、妹の様子がおかしい   作:酉柄レイム

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第3話 朝霧家長男、大立ち回り

 校門前で自作の旗を掲げ、姉ちゃんと一緒に待機する。最初にこういうことした時は先生たちが慌てて出てきたものだったが、俺たちがここの卒業生であり『朝霧姉弟をどうにかできるのは朝霧茜か夕凪虎鉄』だという答えがでてからは先生は出てこずに、茜と虎鉄が一緒に出てくるのがお決まりになっている。

 

 でもよく考えたら茜が隠してることを虎鉄に聞くのに、茜も出てきたら意味なくね?

 

「姉ちゃん」

「私も同じこと考えたけど、茜ちゃんがいる高校にきて茜ちゃんと会わないなんていう選択考えられないわ」

「じゃあ俺たち無駄に後輩をビビらせてるだけじゃん」

「茜ちゃん以外に気を遣う必要、あると思う?」

「見た目がリンゴに似てる果物」

「なし」

 

 まぁ虎鉄なら後で連絡すればいいだけだしな。つまり俺たちは茜を迎えに来ただけだ。あんなに可愛い茜ならきっとストーカーが100人くらいいるはずだし、危険から守るために俺たちがついていないと。この前警察に「うちの妹が100人くらいにストーカーされてるんです」って言ったらいい病院を紹介されたから、警察は頼りにならないし。

 

 なんてことを考えていると、スマホから『蒼にぃ、見て!』という茜から連絡がきたことを報せる通知音。通知音に使うから録音させてくれと言って一度断られ、録音させてくれなきゃ悪い形で歴史の教科書に載ってやると言ったら録音させてくれた。やはり俺の妹は天使だ。

 

「茜ちゃんから? なんて?」

「んー、なんかこの前俺が助けた女の子が友だちらしくて、お礼したいって言ってるらしい」

「あら、そんなことしてたの? 帰ったら一緒にお風呂入っていい子いい子してあげる」

「身の危険を感じるから遠慮しとくわ」

「どうすればお姉ちゃんである私に性的興奮を覚えてくれるのかしら……」

 

 一生答えが見つからないことを祈りつつ茜に返信しようとした時、姉ちゃんと同時に校舎へと目を向けた。この溢れ出んばかりの可愛さオーラは、茜!!

 

 やはり俺たちの感覚は正しかった。校舎から少し恥ずかしそうに歩いてきている愛しの茜と、その隣に並ぶ虎鉄。二人に隠れて姿がよく見えないが、もう一人女の子もいるからその子がお礼したいって言ってる子だろうか。

 

「姉さん、兄さん! いっつも学校にこないでって言ってるじゃん!」

「うっ、ぐっ……茜ちゃんの『外だし翠ねぇと蒼にぃって呼ぶの恥ずかしいから、姉さん兄さんって呼んでるけど絶妙に言い慣れてない感じ』が可愛すぎて、私は一度死んだ。しかし可愛さとは攻撃力と癒しの力を兼ね備えており、あの世へ行くはずだった魂は再び私の体へと舞い戻ってきたのである」

「そんなんだから彼氏できねぇんだよ」

「蒼。私のどこが悪くて彼氏ができないか教えてもらえる?」

「それがわからないところ」

 

 もうここまでおかしいとまともになったら姉ちゃんじゃないって思っちゃうからこのままでいいけど、このままだと朝霧家の遺伝子は根絶する可能性がある。姉ちゃんはこんなのだし、俺は彼女が出来たら姉ちゃんが殺害しにくるし、茜はそもそも彼氏ができる前に俺と姉ちゃんが殺害する。終わったな、朝霧家の遺伝子。

 

 そもそも茜はともかく俺と姉ちゃんは後世に残すほど立派な遺伝子でもないから別にいいか。ごめんご先祖様。朝霧家はここで終わりました。

 

「翠ねぇ、蒼にぃ。俺の名前をそんな旗に書かれると、これからの高校生活がヤバくなるからやめてほしいんだけど……」

「おい!! 姉ちゃんが頑張って作った旗に『そんな旗』ってどういうことだ!!!」

「お姉ちゃんと呼びなさい」

「俺のフォローよりそっちのが気になるのかよ」

 

 そんなことを言いつつも、確かに茜の隣にいる虎鉄が変な目で見られたら茜にもマイナスになるなと考え直し、旗をしまうことにした。こんなに妹のことを考えている兄と姉は世界で俺たちだけだろうな。誇らしいぜ。

 

 さて、と一息ついて、二人の後ろに隠れている女の子に目を向ける。さっきは遠目だったからはっきりとわからなかったが、こうして近くで見てみると確かにこの前助けた女の子だ。美人な女の子がチャリを蹴り倒してたから、人の顔を覚えるのが苦手な俺でもちゃんと覚えている。ちなみにその光景を見て仲良くなれそうだなとも思った。

 

「茜。後ろの子がさっき言ってた子?」

「うん。十六夜龍奈って言うの」

 

 茜がキュートに体を逸らし、十六夜ちゃんの背中を軽く押す。顔が赤い。視線を俺から逸らしている。何か言おうとしては口を閉ざす。

 

 ……なるほどな。

 

「あっ、あのっ! 私、十六夜龍奈って言います! あの時はありがとうございました!」

「いいよいいよ。むしろ、カッコつけさせてくれてありがとう。俺もまだ男らしく振舞えるんだなって自信ついたわ」

「えっ、優しい……。え、えと、何かお礼させてほしいです!」

「じゃあこれからも茜と仲良くしてやってほしいかな。つか俺自己紹介してねぇじゃん。茜の兄の朝霧蒼って言います、よろしく。えーっと、十六夜ちゃんって呼んでもいい?」

「犬とお呼びください!!」

「オッケー犬。隣にいるのは姉ちゃんで、朝霧翠」

「途中まで完璧で流石私の弟と思ったのに、犬呼びで台無しになったわね」

 

 え、だって向こうから犬って呼んでくださいって言ってたから、その通りにした方がいいかなって思って……。なんか動物に例えたら犬っぽいって言われてそうだし、そういうことかなって思ったんだけど違ったか?

 茜が咎めるように俺を睨んでいる。どうやら違ったらしい。

 

「蒼にぃってそんな風にできるんだな……」

「年下の女の子が相手で、しかも茜の前なら見栄くらい張るだろ」

「見栄を張ってるのに女の子に対して『犬』は相当やばいよ」

「あ、茜! 私は嬉しいから大丈夫だって!」

「姉ちゃん、十六夜ちゃんは嬉しいらしいぞ。間違ってたのは姉ちゃんだから謝ってくれ」

「私のことはお姉ちゃんって呼んでくれないのに、龍奈ちゃんのことは犬って呼ぶの!!? 信じらんない!! サイテー!!」

「彼女の温度感でブチギレてくんな」

 

 あまりにも恥ずかしい身内の恥を隠すために校門前から移動する。三人とも荷物を持ってきてたし、そのまま下校するつもりだっただろうからちょうどいい。茜も俺と姉ちゃんといるところを見られるのが恥ずかしいからか、しきりに移動したそうにしてたし。茜の考えていることが手に取るようにわかる俺、兄の鑑。

 

「つか、俺に用あったんだろ?」

「あぁ、別になくなった」

「その程度で済まされるのに、あんな旗用意されたのかよ……」

「細かいこといちいちうっさいわね。モテないわよ?」

「蒼にぃ、何か言いたそうだね」

「翠ねぇのが死ぬほどモテねぇだろとか言ったらひどい目に遭わされるだろ。触れないでくれ」

「今日は一緒に寝ましょうか」

 

 どうやら俺は今日ひどい目に遭わされるらしい。クソ、茜が余計なこと言わなかったら切り抜けられたのに、愛しいやつめ。

 別に、姉ちゃんと風呂に入ったり一緒に寝たりするのが死ぬほど嫌なわけじゃない。お互い社会人と大学生で流石にきついだろと思うことはありつつ、こういう時の姉ちゃんの誘いを断るとそっちの方がきついことになるから甘んじて受け入れられる。こういう時に姉ちゃんが姉ちゃんじゃなかったらなと思ってから、でも性格終わってるからどっちにしろ無理だわと考え直すのがお約束だ。

 

 ただこんな会話を今日あったばかりの十六夜ちゃんに聞かせるのは忍びないにもほどがあるから、話題を逸らす。基本的に他人の前で姉ちゃんと話すと次の日から避けられ始めるから、そうならないうちにカバーしておかないと。

 

「うちと虎鉄の家近いし、せっかくだから十六夜ちゃん送っていこうか?」

「えっ!? いや、えっ、そんな、いいです! お礼したいって言ってるのに、またお世話になるなんてだめです!!」

「まぁいいんじゃね? お言葉に甘えれば。つか蒼にぃ十六夜が可愛いからって狙ってんの? 大学生にもなると手が早いんだなぁ」

「虎鉄。蒼が私以外の女の子を狙うはずないじゃない。おかしなこと言うわね」

「おかしなこと言ってるの翠ねぇだよ」

「?」

 

 茜に注意された姉ちゃんは首を恐ろしいくらい曲げて不思議がった。その角度バトルマンガでしか見たことねぇよ。十六夜ちゃんも怖がってるかと思いきや「お姉さんすごーい!!」って喜んでるじゃねぇか。じゃあいいや。

 

「送っていくのはいいけど、女の子なんだから丁寧にしなさいよ? 傷の一つでも付けたら私にも傷つけてもらうから」

「まさか下ネタじゃねぇよな?」

「ちなみに私は処女よ」

「行こう十六夜ちゃん。ごめんな、うちの姉ちゃんが化け物で」

「えっ、あっ、構いません!」

 

 姉ちゃんが化け物であることは否定しないようだ。ウケる。

 

 姉ちゃんたちと別れ、十六夜ちゃんの家へと向かう。そういや年上の男が年下の女の子の家を知るって世間的にまずくねぇかと思ったが、別に大丈夫か。十六夜ちゃんは同じ高校の生徒に知られるのは嫌だろうけど、俺が茜の兄だって説明すれば『朝霧茜は可愛すぎるから、その兄なら他に愛を注ぐなんてことありえないか』って思ってくれるだろうし。

 

 さて、ここまでくれば茜には聞かれないだろう。一応後ろを見て十分離れたことを確認し、十六夜ちゃんに声をかける。

 

「十六夜ちゃん」

「はっ、はい!!」

 

 俺が声をかけるとピシっ、と固まって目を泳がせる。やはり顔が赤く挙動不審で、どう見てもまともな状態じゃない。

 

 俺はかなり察しがいい方だ。十六夜ちゃんは会ってからずっとこんな調子。そして、俺の知る限りこの状態の女の子が何を考えているか、それくらい簡単に理解できる。

 

 恋。それしかないだろう。

 

「十六夜ちゃんって、茜のこと好きなんだろ?」

「……? 好き、ですけど」

 

 ビンゴだ。十六夜ちゃんが挙動不審だったのは、『大好きな茜のお姉さんとお兄さんに挨拶!? そ、そんな、変な子だって思われちゃったらどうしよう、しっかりしないと! でもやっぱり緊張する……』って思っていたからだと踏んでいたが、やはり正解だったらしい。いやぁよかった。茜の相手が男ならすぐに殺すところだったが、女の子なら応援できる。恋愛に関して男を信用できることなんて一ミリもないけど、女の子なら信用できるからな。

 

「よし、連絡先交換しよう」

 

 茜とのこと応援したいしな。

 

「!!!?? い、いいんですか!!? え、ほんとに!?」

「姉ちゃんも俺が説得しておくよ」

「お姉さんを説得!!!??」

 

 自分にとっていいことが起こりすぎてびっくりしている十六夜ちゃんと連絡先を交換し、困惑している十六夜ちゃんを無事家まで送り届けた。帰ったら姉ちゃんに報告しよう。きっと、茜の悩みもこのことについてだったんだろうしな。

 

 そういえば虎鉄もなんか変な感じしたから、また話聞いてみるか。ふっ、頼れる大人を演じるのも楽じゃないぜ。

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