群青色を押し花に   作:保泉

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絆に乾杯を

 

「さて、お腹も膨れたところで」

 

 エース達を巻き込んでおれ達がシチューとバーベキューを楽しんだ後、なし崩しに煎れたお茶を渡してしばらくまったりしていたが、そろそろ彼らが訪ねて来た本題に進むべきだろう。

 おれがエースが座っている方向に向きなおると、視線に気づいた彼はコップを地面に置いた。

 

「エース。君がここに来たってことは、目的は一昨日おれが言った身体の使い方のことかな? それとも伝言のことかな」

「……身体のつかい方のことだ」

「伝言? ……おいエース」

「後で話す」

 

 一緒に来たサボくんがなにやら小声でエースを咎めているが、彼は一言の返事でそれ以上の追求を止めた。

 んー……これは、二人の間にはかなりの信頼関係があるな。おれは気づかれないように注意をしながら、少年達の表情を観察する。

 

 エースは伝説の海賊の話については、ルフィくん達もいる場で聞くつもりはないのだろう。まあ彼の秘密に直結することであるし、予想していたことだ。

 それと、現状で一番エースが頼っているのはサボくんみたいだな。もしかしたら隠し事すら打ち明けている可能性がある。そうか、信頼できる友達がいたのか。おれは口の端を少し吊り上げた。

 

「オーケー、なら身体を実際に動かす前に少しお勉強をしようか」

「おべんきょ~~?」

「わぁ、嫌そう。ルフィくんは勉強嫌いか?」

「よくわかんねェと眠くなる」

「それは誰だって同じだよ、興味のない話ほどの子守歌はない。でもな、強くなるには頭も必要なんだぞ」

 

 勉強の単語だけでもの凄く嫌そうな顔をするルフィくん。まあ、テキスト開いてお勉強はこの場にいるおれ以外全員ダメだろうから、安心してほしい。

 エースはおれの言葉に引っ掛かりを覚えているのか、また眉間のしわが凄くなっている。この年からそういう顔ばっかりしていると癖になるぞ。

 

「頭が良くなけりゃ強くなれねェのか?」

「ある程度なら感性だけで強くなることはできる。けど『どうやって目の前の相手に勝つか』を考える癖がないと、その先には行けないな」

 

 聞いている面々を見渡すと、大抵首を傾げている。わかっているのはシャンクスさんだけだ。まあ、この人は経験も豊富だろうし当然だろうけど。

 

「そうだなァ、エースは武器として鉄パイプを持ってたよな。どうして持つようになった?」

「おれは大人に比べると手足のリーチも短いし、力も弱ェ。でも鉄パイプを使えば大人にも負けねェからだ」

「うん、自分の弱点を理解した上で、補強する為に鉄パイプを使っているということだね」

「……なるほど、それで頭」

 

 四人の中ではサボくんがいち早くおれの言いたいことを理解したようだ。やっぱり彼は教育を受けているな、やけに人の話を聞くことに慣れている。直情的なエースとは対照的に物事を俯瞰して考えられる、この歳でそれができるなんて、生まれも育ちもスラムではありえない。

 まあ、あえて追及することじゃない。おれは気を取り直して声に力を込めた。

 

「真っ正面からぶつかるだけなら、身体がデカくて力が強いやつが勝つに決まってる。でも実際にはそうはならない。身体が小さくても力負けしていても『どうやって勝つか』を考えたやつがいるからだ」

「どうやって勝つか……」

「身体がでかいなら大きい分足元は見づらいだろう、おれなら小回りが利く分スピードで翻弄することもできるな。

 力が強いなら、そもそも力を発揮できないように罠を仕掛けて身動きが取れないようにしてやることもできる」

 

 これは人間が動物を捕獲する時のアイデアなんだが、この世界には普通に数メートルサイズの人間がいるからな。それでも巨人じゃないって驚きだよ。

 

「自分自身にとってどう動くのが一番良いか、それを考えられるようにするには頭がいる。そして、頭も鍛えればよく動くようになる──もうわかったな?」

 

 こくりと四つの頭が上下し、キラキラと好奇心で輝いている。うんうん、学ぶ準備ができたようだ。

 

「じゃあ先ずは体力測定だな。いまどれだけ動けるかを確認してからメニューを組むぞ」

「おう!」

「ルフィくんもやるか?」

「やれば強くなるんだろ、おれは強い海賊になるんだ!」

 

 先ほどまでの勉強を嫌がっていた態度はどこへやら、ルフィくんはワクワクした様子で拳を握りしめている。お、なるほど。彼のくすぐりポイントは強い海賊だな、覚えておこう。

 

「シャンクスさん、記録取りを手伝ってくれる? 見ているだけも暇だろ?」

「いいぞ。これに書いていけばいいんだな」

「ねぇねぇ、わたしは?」

「ウタも一緒にやろうな、ルフィくん達と」

「えっ」

 

 周囲の安全確保役のシャンクスさんに手伝いを振れば、あっさり了承される。一応後でお礼に好きな食べ物を用意しよう。

 参加せずに手伝うつもりだったらしいウタに、おれはにっこり笑いかけた。折角の機会だから基本的な動きだけでも覚えような。

 驚くウタの声に振り向いたルフィがキョトンとした顔を彼女に向けた。

 

「なんだウタ、おれのフセンショーか?」

「はぁ? そんなわけないじゃん。いいよ、また全勝記録のばしてあげる!」

「バカいえおれの全勝だ!」

 

 ルフィくんの無意識の煽りに引っ掛かったウタが、今度はルフィくんを煽り返す。子犬が吠えあってる姿を見て、エースが隣に立つサボを見てニヤリと笑った。

 

「勝負ねェ……おれ達もするか。負けねェぞサボ」

「いいねェ、おれが勝つけどよ」

 

 エースの誘いに楽しそうな笑顔を返すサボくん。やっぱライバル関係でもあったか、イイ感じに対抗意識がでたようでなによりなにより。

 

「よし、これでツーペアできたな」

「全員簡単にのせられちまってまァ……」

「素直でとても可愛いよね。おーい、先ずは筋力を測るからコッチに来てくれ」

 

 おれの手の平でコロコロされた子ども達を、何とも言えない目で見つめたシャンクスさん。これでも精神年齢に差があるんだから、転がせない方が拙いからなァ。

 スケッチブックから器具を取り出しながら、おれは向こうで盛り上がっている子ども達を手招いた。

 

 

***

 

 

 それから彼らのトレーニングにつき合う日々が始まった。

 身体面では森で狩りが出来るほどの基礎があるエースとサボは筋トレと素手での戦い方や長物の扱い方を、体力がまだないウタとルフィは山を使った移動やランニングに体勢の整え方から教えている。

 頭脳面では文字の読み書きや、彼らの興味を引く本の朗読から始めて、買い物や料理の取り分を例にした四則演算まで。

 

 因みに、教える側として甘やかそうとするおれの心を引き締めるため、くん付けを外した。呼ばれていた本人は特に気にしていなかったけれど、お子様扱いしてしまいそうになるので必須である。

 

 教える側として彼らの感触は、才能溢れてんなァと羨ましく思うほどだ。

 見る見るうちに成長を続ける彼らの実力は始める前とは雲泥の差が出てきている。ウタは赤髪海賊団の航海があるためトレーニングから抜けることもあるけど、船で出来るように作ったメニューを真面目に熟しているらしく、ルフィと切磋琢磨して動きがかなり良くなってきた。

 

 毎日顔を合わせて一緒にトレーニングをするうちに、数ヶ月経つ頃には警戒心の塊だった彼らもだいぶルフィとウタに慣れたようで。

 

「よし、ワニいくぞ」

「えっ、ワニっておいしいの?」

「ウタは食べたことねェのか? ワニ飯にするとうまいぞ」

「ワニ飯かー!」

 

 なんだかとても仲良くなってて微笑ましいんだけど、お兄さんちょっと寂しいぞ。

 

 和気あいあいと木の上から水面にいるワニを見下ろす子ども達を見て、おれは複雑な心境だった。

 

 接触時間の長さが相手への好意となることを見込んで、何かと四人で行動させていたことが成功したのは良いんだが。おれは講師役に徹したせいか、教わる相手として彼らに慕われているのは間違いないんだけど、些かフレンドリーさに欠けるのが悲しい。

 あれだけつっけんどんな対応をしていたエースも、危なそうなときはルフィやウタをフォローするなど情緒面でも成長を確認できるというのに、おれだけハブられているような気がする。

 

 ウタについても、このまま放置していたらおれにとってヤバイことになる気がする。この状況のままでいたら前世のトリッシュの時の二の舞になりかねない。流石のおれも無害枠に二回も収まるつもりは無いぞ。

 

 でも九歳女児に迫る精神年齢云千歳、って字面がヤバくてアクションが起こせねェ。クッソ、脳内の想像上のディオが『そもそもお前はロリコンだろう』と嘲笑しやがる。うるせェ、反論が何も出来ない指摘はやめろ胸が痛い。

 

 ──おっといけない、落ち着けおれ。

 

 思いっきり顰めそうになった顔をおれは両手で揉んだ。大きく吐きそうだった息を飲み込んで、ゆっくりと数回深呼吸をする。

 

 白ひげ海賊団では一番年下ということもあって、おれは四六時中子ども扱いされたため外見相応のお子様の精神状態でいられた。だがこの場ではおれが教師役ということもあり、昔の精神に意図して近づけていた弊害か、好きな異性の近くに同性がいるストレスが大きい。

 精神年齢を上げておけば大人の対応をすると思ったんだが、とんだ見込み違いだったらしい。おれの心が狭すぎる。

 

「あからさまに荒れてンなァ、ヘーマ」

「うるせぇ」

 

 時折、ニヤついて揶揄ってくるシャンクスさんのせいでもある気がするな。舌打ちを返すおれに喉を鳴らして笑顔を浮かべる彼は、ぐいとおれの肩を抱いて引き寄せてきた。

 

「なんだ、ライバルが現れてようやく焦ったのか」

「うぐっ」

「ルフィはまだまだガキだからか、完全に対応が友だちだったもんなァ? 将来有望な年の近い男が二人、ルフィとは違って年相応の女への興味もあるときた」

「ちょっと黙れこの野郎」

「! おー、コワイコワイ」

 

 半ば本気で殺気を込めてシャンクスさんを睨み付ければ、一瞬鋭い目になったけどニヤリと笑っておれの肩を手放した。

 はた、と好きな相手の父親を殺気立った目で睨み付けたことに気づいて、おれは一体何をしているのかと落ち込む。

 

「いや、まだまだヘーマも青いな」

「うう……こんなに不安定になるなんて予想外だよ」

「おれはお前のガキらしいところを知れてほっとしたが……あれだ、本気だったんだな」

 

 しんみりした声で呟かれて地面に頽れて手を着きたくなった。なんでいつも好きな子の親に想いがバレるんだおれは。そんなにわかりやすいのか、百人一首の小野小町なのか。

 

「そうだよ好きだよ悪いか」

「別に悪くはねェけどよ」

 

 えっ、悪くないの? 開き直った言葉へ返された内容に驚き、顔を上げたおれはシャンクスさんの鋼色と目がばっちり合う。

 

「ん、どうした。……ああ、反対されると思ったのか?」

「だ、だって前、少年のこと〆るって」

「そりゃあ、ロクに交流もしてねー相手にはそうなるだろ」

 

 確かにそうなんだが、今まで散々牽制されていた身としては、本気で言ってるのか判断がつかない。

 

「まあ、嫁にやるつもりはないがな!」

「どこが反対してないと?」

 

 実質的に断固拒否してるじゃねーか。半目になったおれを見たシャンクスさんはだっはっはと笑い、グリグリとおれの頭を撫でた。力が強い。

 

「婿に来るなら許可するぜ?」

「……は」

 

 耳元で囁かれた言葉におれが硬直している隙に、シャンクスさんはエース達の元へ歩いて行った。

 

 婿に来るなら、許可。婿。つまりウタの元へおれが婿入りする。ウタは赤髪海賊団のメンバーで、音楽家。そんな彼女に婿入りするなら。

 

 おれが、白ひげ海賊団から赤髪海賊団に移籍するということ。

 

「……やっぱり許可してないだろ」

 

 まだ彼女に告白すら出来ていないというのに、浮かび上がった将来の火種におれはため息を吐くことを止められなかった。

 

 

***

 

 

 さらに月日は流れ、とうとう赤髪海賊団が仮の拠点としたフーシャ村から離れる日となった。

 

 波止場では彼らが村人達と挨拶を交わし、別れを惜しんでいる。船橋に立ってその光景を眺めていたが、おれは抑えた音量で隣に立つサボに声をかけた。

 

「エースは?」

「取りに行くもんがあるってさ」

「なんだ忘れ物でもしたのか? 出航に間に合うかな」

 

 姿が見えないと思ったら、何を取りに行ったのやら。おれはコルボ山の方角を見て、エースの姿を思い浮かべた。

 

 昨日、マキノさんの酒場で設けられた送別会の後、シャンクスさんはエースを連れて席を外した。ついていこうとしたルフィは入り口付近に座るベックさんに止められ、サボもチラチラとスイングドアの方向を確認していたが、その場でじっと座っていた。

 もうお開きになるかと言う時間になってようやく戻ってきたエースは、赤く充血した目と拭いきれていない涙の跡があった。

 おそらく、シャンクスさんが知る海賊王の姿について話したのだと思う。

 

 心なしかスッキリした顔をしていたから、エースの中で何かしらの糧になったんだろう。シャンクスさんったら最終日までアクションを取らないから、つい老婆心で発破をかける寸前だったぞ。

 

 しかし何を取りに行ったのだろうか、とおれが首を傾げていると、村の中から声が聞こえてきた。

 

「なる!!」

「ルフィ……?」

「おれはいつかこの一味にも負けない仲間を集めて! 世界一の財宝を見つけて!」

 

 ──ああ、これは。

 

「海賊王になってやる!!」

 

 憧れの海賊に、野望を吠えた子ども。最早覚えていないが、原作のセリフとおそらく同じだろうそれ。

 

「……ハハハ、大きくいったなァ」

「ルフィらしいや」

 

 サボと一緒に笑いながら声の元に視線を移す。大声を出したからか息を荒げているルフィに、シャンクスさんは近づき──被っていた麦わら帽子を小さな頭に置いた。

 俯いているためルフィの顔を此方から見ることはできないが、たぶん泣いてるんだろうなと思う。あの子は感情が豊かだからこそ泣き虫だからなァ。

 

 満足そうに歩いてくるベックさんとシャンクスさんをぼーっと眺めていれば、その二人とバチッと目が合う。あ、目を擦った。

 

「……なァ、ヘーマ」

「なんです」

「お前なんで女の子の格好してるんだ?」

「おれが一番疑問に思ってるよ!!」

 

 シャンクスさんの疑問におれは全力で叫んだ。この服しか出してくれなかったんだよピクテルがな!

 

 繊細なレースで飾られた白のヘッドドレスに、上品な白縹を基調としたフリルと裾が広がるタイプの華やかなクラシカルワンピース、レースとパールで飾られたストラップシューズもこれまた白。

 髪も腰まで長くされて、柔らかく巻かれた上にハーフアップで丁寧に編み込まれている。

 

 どう見ても貴族のお嬢さんかガラスケースで飾られるお人形の格好だ。なんで選りに選って甘ロリのふわふわレースたっぷりのヤツなんだ。海賊船の見送りという場に不釣り合いすぎるよ。

 

 なんだよ出航の見送りに華を追加したいって、ならマキノさんを飾り立てればいいじゃんかよ。

 そのせいでルウさんがおれに近づいてこないんだぞ、挨拶できねぇだろうが。

 

「あ、着たくて着たわけじゃねェのか」

「今頃か。なんでサボは何も言わなかった?」

「あまりにも堂々と立ってたし、正直スゲェ似合ってるからツッコミ辛かった」

「だよね!? 困惑させてゴメンね!!」

 

 知り合いが突然女装してきたら反応に困るよな、すまんな。

 

「なんかヘーマが可愛い格好してる~!」

 

 少し離れた場所から聞こえてきた声に、おれの表情がストンと抜けた。おれが突然真顔になって驚いたのかサボの肩が跳ねるのが視界の端に見える。

 

「わあ! 近くで見るとすごくきれい! 似合ってる!」

「──ありがとう、ウタ」

 

 船にかけられたハシゴを降りてきたウタが、おれの正面に回り込んで目を輝かせた。可愛い笑顔におれは努めて微笑みを返す。

 おい、かわいそうにって言った奴は誰だ。テメェも着せるぞゴラ。ぐ、サボまで何かを納得した顔をしている。弟分にまでバレたぞちくしょう。

 

「すげぇひらひらした格好だな」

「ルフィ、スカートを引っ張るな。興味があるなら着せようか?」

「!? キョーミはねェ!」

「こらこら、被害者を増やそうとすンな」

 

 クイクイとおれのスカートをつまむルフィに向けてにっこりと笑いかければ、彼は全力で首を横に振った。なら、またの機会にな。

 

「そうだウタ、これあげる」

「え、なにこれ。綺麗だけど棒?」

「これはかんざしっていうヘアアクセサリーだよ。この花はスミレね」

 

 末端に立体的な紫色のスミレの花をあしらったかんざしは、棒のところには黒い漆を塗り金と銀の植物が巻き付くようなデザインになっている。

 

「先がとがっているだろ? こういう棒を髪に差すと魔除けになるんだってさ。ゴムでくくったところにでも差して……こんな感じに」

「わ、かわいい! ありがとう!」

 

 ウタの髪を解き、後頭部高めにポニーテールを作ってかんざしを差す。ノートサイズの三面鏡で後頭部を見せれば、彼女は嬉しそうに声を上げた。

 シャンクス見て見て、と駆け寄る姿を見送るおれに、低い声が落ちてくる。

 

「ヘーマお前……」

「よく知ってるね。ま、気づくヤツこそ牽制したいから」

「末恐ろしいガキだな」

 

 やっぱりベックさんは知ってたか。おれは彼が女好きと言われる意味を完全に理解した。ワノ国は鎖国をしているから文化があまり浸透していないため、バレないと思ったのに。男からかんざしを送る意味とスミレの花言葉なんて。

 

 かんざしは『あなたのすぐ近くで一生守りたい』、紫色のスミレの花言葉は『愛』。つまりは本人に気づかれないようにプロポーズしたわけだ。

 ピクテル製だからヘアピンの時のようなイレギュラーが無ければ、早々に壊れることはない。魔除けとして送ったのも嘘じゃないが、いざという時に武器にもなるから身に着けてほしいな。

 ま、他人から指摘されて意味を知ってくれれば、なお良いのだけど。

 

「おーい!」

「あ、エースが来た」

「なんだ、来ないつもりかと思ったぞ」

「よかったな、お頭。嫌われてなくて」

「うるせェ」

 

 コルボ山の方角から走ってくるエースの姿にシャンクスさんはホッとしている。まあ、昨日何か話したらしいし、ちょっと反応が気になっていたんだろう。

 

「はぁっ、はぁっ、間に合った……」

「何か取りに行ったって聞いたけど、その酒と器?」

「ああ、ダダンから盗ってきた。サボ、ちょっとパス」

「おう」

 

 酒の入ったビンと小皿のようなものが入った網を持ってきた彼は、サボにそれらを手渡すと近くにあった空の樽を転がしてきた。

 そしてエースはニヤリと笑う。

 

「知ってるかおまえら、盃を交わすと“兄弟”になれるんだ」

「兄弟~? ホントかよ~!」

「ああ、ウタはもうこの島を離れる。おれ達も海賊になる時、同じ船の仲間にはなれねぇかも知れねェ。だからこそおれ達五人の絆を“兄弟”としてつなぐ!」

 

 用意された盃は──五つ。樽の上に並べられたそれに、エースがビンの栓を外して酒を注ぎ込む。置かれた場所はエースの前にひとつ、サボの前にひとつ、ウタの前にひとつ、ルフィの前にひとつ。

 そして、おれの前にひとつ。

 

「ヘーマが長男、おれとエースが次男、ウタが長女でルフィが末っ子だな」

「年下の兄貴だが、文句あるヤツはいねェだろ?」

「おれはねェぞ」

 

 おれも、兄弟にしてくれるのか。おれを兄と思ってくれるのか。笑う彼らにジワリと涙が浮かび、おれはそっと目を伏せる。

 

「どこで何をやろうと、この絆は切れねぇ…!」

「そうだな、この世界のどこにいたって、兄弟であることは変わらないさ」

「……うん!」

 

 先ほどまでは努めて明るく振舞っていたウタも、溢れる涙をぬぐってコクコクと頷く。おれ達はそれぞれ盃を手に取り、掲げた。

 

「これでおれ達は今日から──兄弟だ!」

「「「おうっ!!」」」

 

 ──守ろう、おれの兄弟たちを。

 悲しいことが多いと知ってしまったこの世界で、少しでも明るく生きることを選べるように。

 生きたい道を望むまま進めるように、おれが知る限りのことを教えよう。

 

 今度こそ、必ず。

 

 

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