群青色を押し花に   作:保泉

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ピクテルの悪癖

 

「ルフィのおじいさん?」

「ああ、もうすぐ来る時期だ」

 

 赤髪海賊団がフーシャ村を離れた後から、おれはダダン一家の家をよく訪れるようになった。フーシャ村に滞在している海賊はおれ一人になってしまったし、あまり余所者が長く村の中に居すぎるのもなんだからね。

 ダダンさん達は山賊だからか食料の手土産を持っていけばおれを追い返すことはしない。山賊にしては人の良いところがあるせいか、家の中の居心地が良いので入り浸っている。

 最近はルフィも猛獣に出くわさなければ怪我一つしなくなり、危ない場面もエースやサボがサポートしているため、午後の基礎トレーニングの時はおれの手が空いたことも理由だ。

 

 当初のおれがエースを狙っているという誤解はだいぶ前に解けている。警戒を気にせずに何回も訪問していたら彼らも次第に諦めたのか、世間話でおれに愚痴までこぼすようになった。今ではほぼお茶会兼子育ての相談会になっているけども。

 わからんでもない、エースはおれの忠告なら素直に聞くからなぁ。ダダンさん達は相当エースに手を焼いているらしい。

 

 そんなお茶会の場で、話の流れで出てきたルフィのおじいさんの存在。いや、両親と生活していないというか、村全体で彼の面倒を見ているのは知っていたけど、なんだおじいさんは存命だったのか。

 

「ルフィと離れて生活しているのは仕事の都合が何かで?」

「まあ、そうだな。おめェも海賊なら耳にしたことはあるだろう、英雄ガープの名前は」

「…………は?」

 

 ポリポリとスティックタイプのスナックをかじるダダンさんの言葉に、おれは聞き間違えたかと耳を疑った。

 

 英雄ガープ。

 海軍の中でもかなりの古参であり、かのゴールド・ロジャーと何度も対峙し、命があるだけでなく五体満足であり続けた、現在も海軍の柱の一人である海兵。

 話だけは白ひげ海賊団の皆から『危険人物(海軍編)』で聞いていたし、おじい様も懐かしそうに目を細めていたから覚えている。

 

 そんな有名人がルフィのおじいさん。海兵の孫が海賊になるって、もしかして原作のルフィはそのおじいさんに相当迷惑を掛けたのではないだろうか。

 

「その家族構成でどうしてルフィは海賊になろうとしたんだ……」

「そりゃ、赤髪の影響だろ」

「だよねェ」

 

 長閑な村に住む海兵の親族には、海賊になろうって発想はまず生まれない。ならその考えに至った切っ掛けは、ルフィが生まれて初めて出会った海賊だろう。

 

 この世界で最初の海賊がシャンクスさん……これはあれだ、ルフィの中の海賊のイメージだいぶバグってんな?

 だっておれも白ひげ海賊団の皆でバグったもの。うん、上澄みも上澄みが基準なら海賊になろうって思うよな。

 

 それより今おれにとって重要なのは、海軍の軍艦がこの島に来るという点だろう。曲がりなりにもおれは海賊、賞金首ではないけど捕まることはあり得るだろう。フーシャ村では海賊であることは隠していないし、ルフィについて聞かれれば年の近いおれのことは話題に上がりやすいはず。

 

「んー、おれどこかに隠れていた方がいい?」

「むしろこの島から離れた方がよくニーか? おめェ、結構長いこといるからぶん殴られるぜ」

「捕まえるんじゃなくてぶん殴るんだ。そうか、悪影響の一人だもんな」

 

 おれはドグラさんの言葉にコクリと頷く。おれも海賊だし、歳も近いからルフィに与えた影響は少なくない。海兵のおじいさんからすれば、そりゃあ排除したいだろう。

 

「ガープさんはこの家までくるからなァ、まーまー気をつけるにこしたことはねェ」

「うん、わかった。近々出ることにするよ」

「そうしとけ」

 

 彼らからの忠告をありがたく受け取ることにする。ルフィのおじいさんがどういう人なのかわからない状態で、無防備に遭遇することは避けるべきだとおれは判断した。

 

「しかしまあ、寂しくなるな。おめェがいるとエースの聞き分けが良いんだが」

「いっそ海賊辞めてウチの一家入らねェか」

「やだ。おれは海賊のままがいい」

「そういや、おめェどこの海賊団なんだ。まーまー有名なところか?」

「そうだなァ、言っても良いけどエース達には内緒にしてくれる? 驚かせたいんだよ」

 

 マグラさんの質問に、へらっとおれが笑みを浮かべると、ダダンさんは呆れた視線をおれに向けた。

 

「なんだい勿体ぶって。言わねェからさっさと吐きな」

「勿体ぶっているわけじゃ……白ひげ海賊団だよ」

「なんだ白ひげ海賊団…………白ひげェ!!?」

「おっと」

 

 放り投げられた湯飲みをキャッチする。おれが掴めたのはダダンさんの分だけだけど、他の皆の分も割れて無さそうだから問題ないか。

 

「一応本船に乗ってるよ。父親がそこ所属だから」

「あ、ああ……そうだよな、いくら白ひげ海賊団とはいえ下っ端はいるもンだ──」

「不死鳥マルコって知ってる?」

「第一隊長じゃねェか!? 知ってるよ!!」

 

 ナイスリアクション。望んだ反応を得ておれは満足げに親指を立てた。仰け反っていた身体を元に戻して、ダダンさんは胸に手を置いている。

 

「はぁー……心臓が飛び出るかと思った」

「ははっ、驚かせられるだろ? でも有名海賊の知識がないと良い反応はないからさァ、今言っても楽しくない」

「それで内緒ってか、酷い兄貴だな」

「顔笑ってるよダダンさん」

「フン、あたし達だけ驚かされるのは癪だ。絶対黙っておくから、いつかアイツらがどんな反応したか話せよ?」

「もちろん」

 

 ニヤリとと笑い合い、ガッシリと手を握手した。美味い酒とつまみも用意しておきますね。

 

 明日になったら、三人の弟達に挨拶してから出立するかなとおれは予定を組んでいた……のだが。

 

「そんなわけでドーン島から離れることにしたから」

「やだ~~~!!」

「おいルフィ、ワガママ言うなって」

 

 ここまでの反応は予想していなかった。原作ではシャンクスさんともわりとあっさり別れていただろ、まあ泣いてはいたけどさ。

 

 泣いておれにしがみつくルフィをサボが宥めるけど、効果はあまり無さそうだ。胸元でピーピー泣く弟の頭を麦わら帽子ごと撫でると、声がより大きくなった。しまった、ここがスイッチだったのか。

 

「いくなよ~~~!!」

「ごめんなァ、流石に伝説クラスの海軍本部中将と軍艦一隻にはまだ勝てないんだおれ。捕まると本船にも迷惑を掛けることになるし、また来るからな?」

「やだ~~~!!」

「んー、選択肢がループするなァ……」

 

 しっかりしがみついているからか、ルフィの身体を掴んで引っ張っても腕しか伸びない。きちんと鍛えたから握力が増してるなと、おれは困り果てた顔をした。

 そんなおれを見かねてか、エースがルフィの頬をぐいっと引っ張る。よく伸びる頬に痛みはないだろうけど、ルフィの意識はエースに向かったようだ。

 

「おい、いい加減泣き止めよルフィ。おれは泣き虫が嫌いなんだ!」

「ひぐっ、……」

「お、黙った」

 

 ルフィは唇を内側に巻き込むようにして、声が出るのをどうにか耐えている。彼なりに現状を変えようと努めている姿がいじらしい。頭を撫でたいけど、それをするとまた彼の涙腺が決壊するんだろうなァ。おれがじっとルフィを見ていると森の方からドグラさんとダダンさんが駆け寄ってきた。

 

「おーい、おめェら! 海軍の船が近づいてんぞ!」

「ヘーマ、出るなら早くしな!」

 

ああ、時間がきてしまったらしい。

 

「ルフィ、ほらぎゅーっ」

「ふぐっ、ぎゅー」

 

 おれより少し小さい身体に腕を回し、ぎゅっと抱きしめる。おれの言葉にルフィも同じように抱きついてきた。

 

「絶対また来るから、それまでちゃんと修行するんだぞ」

「ずる……!」

「よし」

 

 一旦身体を離し、ルフィのべしょべしょの頬と合わせてキスを贈る。ぼたぼたと涙が流れて止まらない弟の頭をひと撫でし、腕を解いた。

 

「エース、サボ。ルフィはまだまだ危なっかしい。お兄ちゃんとしてしっかり見てくれな」

「おう」

「まかせとけよ」

「ああ、よろしく頼む」

 

 二人まとめて抱きしめた後、片頬ずつキスを贈る。

 ルフィに比べて平然としているなと思ったが、小さく鼻を啜る音が聞こえる。なんだ、二人とも泣きそうなのを耐えてるだけか。おれが手を解いても背中に回った手が離れないことにクスクスと笑えば、そうっと手は離された。

 

「じゃあな!」

「絶対また来いよ~!」

「すぐに来いよ~!」

「あは」

 

 空に浮かび上がったチェーロ・リベルタ号に乗って弟達とダダンさん達に手を振りながら、おれはドーン島を後にしたのだった。

 

 

***

 

 

「行っちまったな……」

「ズビッ」

「まだ泣いてんのかルフィ」

「ないでねェ……」

「嘘つけ」

 

 三人でどんどん小さくなっていくヘーマの影を見送る。未だ鼻を啜っているルフィにエースが釘を刺すと、意地っぱりな返答が返ってきた。

 そんな弟に口元を緩めるエースだったが、すぐに真っ直ぐ引き結んだ。

 

「ルフィ、明日からおれ達はお前のサポートをしねェ」

「エース?」

 

 突然の言葉にサボが眉をひそめるが、エースはそれを無視して言葉を続けた。

 

「付いてきてるか確認しねェし、転びそうになっても助けたりしねェ」

「……うん」

「だから全力で付いてこいよ。強くなるんだろ」

「グスッ……わがっだ!」

 

 彼は決して視線をルフィに向けず、突き放すような内容を告げた。だが、弟の成長を願ったエースの言葉に、ルフィはぐっしょり濡れたままの顔で頷いた。

 

「ああもう、鼻をかめよ」

「うぷ」

「サボ」

「いいだろこのくらい」

 

 見かねたサボがハンカチを取り出してルフィの顔を拭って鼻をかませる。過保護だと見咎めるエースを気にせずに、サボは綺麗になった弟の顔によしと満足した。

 

「ルフィ~~~!!」

「げっ、じいちゃん!!?」

「じいちゃんに向かって、げっとはなんじゃあ!! 待たんかァ!!」

 

 聞こえてきた自分の名前を呼ぶ大きな声を耳にし、反射的に逃げたルフィを追って短髪白髪の大男が怒気を露わに走り去って行くのを見送り、エースはポツリと呟いた。

 

「……あのジジイ、なんかめちゃくちゃ怒ってんな」

「あれが海軍の英雄かァ。ルフィが海賊になりたがってるのバレたんじゃねーか?」

「それだ」

 

 逃げ出したルフィがガープに捕まり、襟首をつまみ上げられるのを見ていた二人は、このあと自分達もトレーニングとして地面に転がされることをまだ知らなかった。

 

 

***

 

 

 ちょっと寄るだけのつもりが随分長く濃い滞在になったなあ、とゴア王国での出来事を思い浮かべて、おれは小さなため息をついた。

 

「切実に恋愛相談する相手がほしい……」

 

 求む、海賊相手の恋愛に詳しい方。

 

 お父様達はお相手を船に乗せないから、なんとなく恋愛事情については聞きにくいのだ。まず恋人がいるのかどうかもわからないけど。

 そういう所を子どものおれに見せないようにしているのかもしれないが、息子としてはむしろ見せて相談にのってほしいよ。

 

 友だちの酷い怪我を防ぎ、かわいい弟達が出来たことに後悔はまったくないが、ウタまで兄弟に括られるとは思っていなかったのが誤算である。

 あの時のウタは完全に乗り気だった。お兄ちゃんかヘーマかで呼び方を悩んでいる彼女を見て、ショックで膝をつかなかったおれを褒めてほしい。よかった名前のままで。

 

 ウタの気持ちもまあわかる。彼女は同年代の知り合いが育つ環境もあって少ない。年一回会うことが出来ればともかく、海を船で旅していれば数年単位で会うことが出来ない。

 そうしているうちに記憶も薄れ、相手に忘れられてしまったらと怯えることもあるだろう。

 兄弟の繋がりはそれを防げる、妙手だったとおれは思う。

 

 よし、交流がないなら作れば良いだけのことだ。ある程度育つまではエースはあの島から出ない方がいいから、文字の練習も合わせて手紙のやり取りでもさせようか。配達役のおれもウタに会いに行けるし。

 

「ウタもお姫様とか好きみたいだけど、自分もなりたいとかは言わないしなァ」

 

 彼女の一番の興味は音楽だから、ステージ衣装とかの方が関心があるかもしれない。贈るならその方向がいいかも。

 

 それでもやっぱり単独でウタと話して、何かしら意識させないとマズイ気がする。おれとウタの間に兄弟としての関係が完全に構築される前に対処しなくては。

 ウタが兄弟をどう捉えているのかも確認しないとな。

 

「それによってはもうちょっと踏み込まないとダメだろうし」

「素直に好きだと言えばいいじゃねェか」

「それはそうなんだけど、まだ恋愛にそこまで興味なさそうだし、なのにおれががっつくのもダサくない?」

「会う期間が空くほどソイツも他に目が行くぞ。早めに捕まえる方がいいと思うぜ」

「やっぱそうなのかなァ………………ん?」

 

 さっきから会話が成立しているような。考え込むために俯いていた顔を上げ、おれは左を向く。

 

 そこには髭面のおっさんがニンッと笑っていた。

 

 おれはゆっくりと空気を吸って肺に送り込む。

 

「……どちらさま~~~~!!?」

「わっはっはっはっ!!」

 

 吸った息を全て使ったおれの心の底からの叫びに、おっさんは楽しそうに笑うだけだった。なに笑ってんだアンタ。

 

「誰だアンタ!? なんでこの車に乗ってんの!?」

「おう、これスゲェな! 空飛ぶ馬車なんて初めて見たぜ!」

「え、そうか? ……って質問に答えろよ!」

 

 ホントに誰だコイツ。チェーロ・リベルタ号を褒められてうっかり絆されそうになったけど。一体いつから乗ってたんだ全然気づかなかったんだが。

 まくし立て、目をつり上げるおれに、おっさんは困ったような顔をした。

 

「質問つってもなァ。そもそもおれがこうして、また何かを触れるようになってンのが不思議なんだが」

「……触れるようになった?」

「おう、おれはもうとっくに死んでるからな。あれだ、幽霊ってやつだ」

 

 幽霊。

 

 おれは首をかしげるおっさんの言葉を聞いてギギギと首を斜め上に向ける。いつも通りそこにいる彼女は仮面の姿で、何故かおれと視線を合わせようとしない。

 

 おい、そこの顔を背けてるピクテル。こっち向け。

 

 お前、お前────またやったな?

 

「そこの仮面の奴に白い板みてェなもんに放り込まれてよ、気づいた時にはこの馬車の上ってわけだ」

「ウチのピクテルが大変申し訳ございませんでした!」

 

 靴を脱ぎ、座席に正座して深々とおっさんに向かって頭を下げる。

 

 はい確定ィ! まぁーたやりやがったなこの阿呆たれ!!

 ジョナサンに続いて二人目の被害者だぞ、いい加減同意を得ることを覚えろこのお馬鹿!

 は、生きてなかったら人権侵害にならない? んなわけあるかァ!! 倫理観を何処に捨ててきたお前!?

 

 ……いや、これ、結局はおれのせいかもしれない。元々おれのスタンドは自我が強い分暴走しやすい。完全に制御された承太郎や典明とは違い、二手に別れて対応が出来るメリットこそあるが、反面スタンドが本体の制御を外れるデメリットは大きい。

 

 本体の精神状態はスタンドに直接影響を与える。今生は元々記憶を封じ込めるほど精神が悪化していたところに加えて、ここ数ヶ月間の出来事でさらに不安定だった。前世でスタンドが目覚めた時の暴走状態に近くなっているだろう。

 そもそも、ピクテルが非常時でもないのにおれに同意無しでいろんな服を着せている時点で気づかないといけなかったよね。あれ、生命力をガンガン使っているからね、波紋使えてなければぶっ倒れてるわ。

 

 まあ、つまりは現状の認識が甘すぎたおれが悪いということである。

 

 それにしても一体いつから、どの島で誘拐してきたんだろう、本船に直行する予定だったけどまずはおっさんを故郷に返してあげないと。おれは今まで立ち寄った島を脳内でリストアップしつつ、頭を上げておっさんに視線を戻して尋ねた。

 

「いったい何処の島でコイツに捕まりました?」

「ドーン島だな」

「今すぐ引き返します!」

「まあ待て」

 

 出たばっかりの所だった。だがピーコに指示を出そうとしたところで、おっさんにガッシリと肩を掴まれる。このおっさん、おじい様程じゃないけど背がデカいな、肩の範囲を越えて肘の近くまで手が覆っているぞ。

 座っているのに高い位置にある頭を見上げたおれに、おっさんは晴れやかな笑顔を見せた。おう、なんかやけに好意的だね……?

 

「確認するぜ、おれのこの状況はお前が作ってンだな?」

「はい」

「よし。おれがこうなってることにお前の負担はあるか?」

「特にはないけど……」

 

 生きている人間の場合、キャンバスの中に入れるだけではおれから生命力を分け与え続けるため、ある程度の負担は常時発生する。

 しかし額縁を付けた状態なら、封印された対象が飲食をすることでエネルギーを補給し、負担はかなり軽減される。

 

 今回のおっさんは自己申告によると幽霊だった、つまり存在を固定するためにもキャンバスに額縁が付けられているはず。つまりおれに負担はそれほどないのだ。

 

「ならよ、おれをこのまま同行させてもらえねェか!」

「へ」

「久方ぶりの感覚なんだ、折角だからもうちっと楽しみてェ」

 

 おっさんの懇願を受けて、おれは改めて目の前の顔をまじまじと見る。ハッキリ言って彼の顔は強面で威圧感のある顔立ちだ。ちょっと凄まれたら子どもは確実に泣くだろう。

 そんな容貌の成人男性が、遊び事が楽しみで仕方がない子どもみたいな、純粋な笑顔を浮かべている。

 

 その顔を見て、おれはそれも良いなと思ってしまった。

 初対面だし、幽霊だし、どう見ても堅気ではないけれど──コイツと一緒に旅をしたら楽しいだろうなって。

 

「……行き先はおれが決めるよ」

「お前の船だ、当然だろ」

「仲間を増やすつもりもないよ」

「ん? 増やしたくなったら増やせばいいだろ」

 

 おれの質問におっさんはあっさりと回答していく。いや、確かに増やしたくなったら増やせばいいのはわかっているけど。

 これからもこのチェーロリベルタ号だけで旅をするってことなんだけど、ちょっと伝わってなさそう。絵の中に入ればそれなりのスペースはあるけど、外だと座りっぱなしになることはいいのかね?

 ん、それは追々考えればいいことか。

 

「おれはヘーマ。職業は画家兼海賊で、世界中絵を描きながら旅をしてる」

「画家かァ。流石に馴染みはねェな、今度おれも描いてくれ」

「よしきた。……いや、海賊にはツッコまないの?」

「お前にはおれが海軍にでも見えんのか?」

「いや海賊にしか見えない」

「だよな!」

 

 やはりおっさんは同業者らしい。それならおれの家族達に会わせてもまあ、大丈夫だろ。おれの家族達がおっさんの仇だった場合を除くけど。その時はピクテルが無理矢理止めるだろうし、なんとかなるだろう。

 

「よし、今後ともよろしく。友だちと世界旅行も乙だよな」

「おれが友だちか、わっはっはっ!」

 

 兄弟と離れて寂しくなっていたこともあっさり提案を受け入れた理由だろうが、もう一つ思いつくことがある。

 

 前世で吸血鬼となった俺は日中人前に出られなかった。人間のままだったときはディオもジョナサンも日光は平気だったのに、俺の吸血鬼化が進むにつれダメージを受けるようになったからだ。

 完全に夜の住人になってしまった後は段々旅行に行く回数も減り、最期に太陽の光を浴びて終えるまで、ひっそりと穏やかに生きていた。

 だけど、いまのおれは人間だ。太陽だっていくら浴びても平気で、厳禁だった波紋法すら使える。世界のどこにだって時間帯を気にせずに動ける自由がある。

 

 それを誰かと共有できるのは──なんて楽しいことだろう。ベックさんには仲間はいらないって言っていたのに、おれの本心はこんなにも渇望していたらしい。

 

 おれの了承の言葉におっさんは嬉しそうに笑った。ガキの友だちを嫌がらないタイプらしく、なかなか相性は良いのかもしれない。

 

「それで、おっさんはどこの誰よ。生前が海賊なら賞金とか懸けられてたり?」

「……」

「おい?」

「あー、スマンスマン……まさか名前を尋ねられる日がまた来るたァ、わからねェもんだ」

 

 少し恥ずかしそうに頭を掻くおっさん。ううん、なんかどこかで見たことある気がするから、有名な海賊だったんだろうか。

 そんなおれの気楽な思考は、おっさんの回答で木っ端微塵となった。

 

「おれの名前はゴール・D・ロジャー。これからよろしくな小せェ友だち!」

「ごめん、クーリングオフって出来る?」

「エーッ!!? なんでだ!?」

 

 驚愕を全面に出すおっさん──なんかファミリーネームが若干違うけど間違いなく海賊王──におれはこめかみを揉みほぐした。

 

 なるほど、既に故人なら手配書で見たことはない上に、顔写真なんて持ってる奴はなかなかいないから、前世の記憶しかないな海賊王の顔なんて。

 いや、とんでもない奴捕まえたなピクテル。でもやっぱりレアだからって同意無しに捕まえるのはやめような。おれの心臓に悪いから。

 

 えぇー、おれこれから海賊王と旅をするの? アンタを連れてどんな顔して皆に会いに行けばいいんだ、特にエースとか。

 

 

 

 




『兄弟ルート』にて好感度が基準を超えました。
『■■■ルート』がアンロックされます。

『ロジャールート』が解放されました。
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