群青色を押し花に   作:保泉

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クソガキ

 

 

「あれかな。うわ、部隊で完全に囲んでるやつ」

「パッと見る限りケリがつくまで時間はねェな。もう少し被弾すりゃ頑丈な魚人でも耐えられねェだろ」

 

 おれとソルはとりあえず山に登ってみて現場を探したところ、村を出てからわりとすぐの広い荒野で戦闘が始まっていた。

 

 おれ達は岩に隠れつつ上からそれを観察していたが、どうも戦闘とは言い難いかもしれない。数で囲み、距離を取ることを徹底し、銃で対応している……これはもう狩りだな。

 

「うーん……魚人の人、かなり怪我してるよなァ。海兵の銃弾に覇気は纏ってないよね?」

「ねェな。……あの海賊が覇気を覚えてねェのか、使えねェのかはわからんが」

 

 件の魚人の海賊はかなり体格がいい。周りの海兵達と比べて、おじい様並に大きいだろう。生来の力だけで戦えるのならこの楽園で覇気を習得してないのも頷けるが、それとも使えないくらいに自信を無くしているのだろうか。

 

「そもそも手元から離れるモンに覇気を纏わせ続けられンのは高等技術だ、一般海兵程度ならできる奴はいねェぞ?」

「おれでもできるのに?」

「……おう、お前の覇気の技術はスゲェって思っとけ」

 

 尖った成長してんなぁ、とソルは呆れの色が強い声で呟いた。

 ちょっとイゾウさん、誰でも出来る技術って言ったのウソだったのかよ。誰にも習得できる『可能性はある』技術の間違いだったとか言ったら、流石におれだって怒るぞ。

 どっちにしろ短期集中で詰め込む必要はなかったのかと、おれは気付いてしまって落ち込んだ。

 

「──そろそろやるか。よしヘーマ、アイツら全部倒してこい」

「えっ、ソルが相手するんじゃねェの? おれ、あの魚人の人回復させようと思ってたのに」

「あー、最初は時間を稼いでやる。終わったら交代な。そんで、真っ正面から戦え」

 

 んもー、さらりと難易度上げてくなよ。

しかし悲しいかな、おれは無茶振り自体は前世で慣れてるんだ、修行とかそういう分類においては特に。見聞色の覇気が無い世界で気配察知を覚えた男だぞ。

 

「了解……あーあ、色々策を練ってたのになァ」

「ほー、たとえば?」

「まずスタングレネードで目を潰して、その隙に股間へ覇気攻撃。痛みで頭の位置が下がるから、頭を木刀で武装色フルスイングして気絶させようかと」

「この間まで急所攻撃が出来なかったヤツのセリフじゃねェ」

「急所狙えって言ったのソルだろ」

 

 ソルはおれの両肩をガッシリと掴んだ。強制的に目を合わせられて、黒い三白眼が睨み付けられたように強い圧を感じる。どうした。

 

「たとえ海賊でもやっちゃいけねェ攻撃はある……いいか、キンタマだけは狙うな!」

「いやでも急所……」

「例外だ! しかも武装色は止めろ、男として再起不能になっちまうだろうがァ!」

 

 海賊って難しいな。同じ急所なのに攻撃してはいけない違いはなんだ。後で治すと言ってもダメなんだろうか、ダメなんだろうなァ。

 とりあえず頷いたおれを力強い目で見ていたソルが、やるなよと再度念押しした。やらないから落ち着け。

 

「今回搦め手はナシだ。剣と覇気だけで乗り切ることが目標だな」

「無茶振り過ぎない? 相手海軍将校なのに」

「あれは良くて少将くらいだろ、ヘーマの剣なら十分対応できる」

「少将……ホントかよ」

 

 将校とは覚悟してたけど、まさか将官とは思わなかったな。遠目に見える姿をまじまじと観察する。

 ……あの海兵、やけに頭が長すぎないか。福禄寿みたいな頭になってるが、脳とかどうなってんだ。全部に詰まってるのか?

 こんな状況じゃなきゃスケッチをお願いしているところだ。とても残念。

 

「ああ、それと最初にだな──」

 

 ソルの初手の提案に、おれはコクリと肯いた。

 

 

***

 

 

「……いまだ倒れないか」

 

 海兵による包囲網の中心、巨漢の魚人の海賊は全身に銃弾を浴びながらも未だ立ち続けていた。

 だが既に満身創痍、至る所から血を流している姿は、痛々しいを通り越して無惨だ。

 

「流石は魚人、人間より頑丈だな。だがそろそろ血を流しすぎた頃だろう」

「……!」

 

 この場の支配者である海兵、ストロベリー少将を魚人の海賊ことフィッシャー・タイガーは負傷した身体をものともせずに睨み付ける。

 

 ──そんな時。突然、タイガーの背後にいる海兵達の全てが口から泡を吹き、地面へ倒れた。

 

「!?」

「おい、お前達!?」

「なんだ、新手か!?」

 

 驚愕に顔を彩ったその場全員の耳に、柔らかく高い子どもの声が聞こえてくる。

 

「あ、やべ失敗した」

「魚人のヤツを巻き込まねェようにしたんだろ。綺麗に半分だけ気絶させるたァ器用だな」

「うぐ」

 

 まるで卓上ゲームで間違えただけのような、軽い口調の声が二種類。

 

「見てな……こうやンだよ」

 

 その声の主を辿る前に、ずん、と重苦しい圧力が辺りを覆い、残り半数の海兵達が気を失ったように倒れた。

 

「海兵共が次々と倒れていく……」

「これは……まさか覇王色の覇気!」

 

 痛む身体を気力で支えていたタイガーは呆然とした顔で呟いた。

 海兵達の中で何故か覇気の範囲外にいたストロベリーは、こんな楽園の海にいる覇王色の覇気の持ち主の出現に、額から汗が滲むのを抑えられなかった。

 

「すごい、魚人の人とあの海兵の人だけ避けてる! ソルって見た目より器用だよな!」

「わはは、それは褒めてンのか? このくらいのコントロールは、ヘーマの器用さならすぐにできるようになるぜ」

 

 現場にそぐわない明るさの、楽しそうな少年達の声が荒野に響いた。ザクザクと土を踏みしめる音にタイガーの後方にストロベリーが視線を向けると、そこには年齢の異なる二人の少年が立っていた。

 

 一人は十代半ば位の少年、ゴーグルを付けているため顔はわからない。もう一人は十歳前後の非常に美しい……おそらく少年。

 

「君たちは……」

「どうも、いろいろお邪魔します。ソル、しばらくよろしく!」

「おう、とりあえずコイツの足止めだな。しばらく遊んでやるぜ」

「邪魔立てするつもりか……!」

「勿論」

 

 背中に担いでいた剣を抜き、斬りかかってきたゴーグルの少年──ソルの攻撃を受け止め、その重さにストロベリーは呻いた。

 

 一方、年下の美しい少年──ヘーマはタイガーの傍へ駆け寄った。目的はタイガーの治療、出血量をみて早急な手当が必要と判断したからだ。

 

「じっとしてて」

「……いい、おれに触るんじゃねェ」

「ちょ……じっとしてろと言ってんだろうが! いいからそこを動くな!」

「ぐっ!?」

「弾丸が身体の中に残ったままになりたくたかったら、大人しくして!」

 

 手当をしようとするヘーマを大きな手で留め、戦闘を続けるため動こうとするタイガーを、ヘーマが思いっきり殴って物理的に制止した。

 

 まさか殴ってくるとは想定してなかったタイガーは、思わず動きを止める。その隙にヘーマは波紋をタイガーの身体に送り込み、内部から傷を治していく。

 徐々に痛みが和らぐ感覚に、タイガーは銃弾を受けた傷を見た。痛々しい穴が開いていたそこは、再生した肉が穴を埋め、既にうっすらと皮膚が覆っている。

 まるで早送りした速度で治癒していく傷。なんだこれはと、タイガーは自分の傷を治療した子どもをギョロリとした目で見下ろした。

 

「──よし、とりあえず重要な内臓の修復と大きな傷は塞いだよ。でも血が結構失われているから、後で輸血してね」

「何故、人間がおれを助けた」

 

 自分より遥かに大きい魚人を恐れることなく、さりとて侮ることもなく。ヘーマはコテンと首を横に傾げた。

 

「……なりゆき?」

「あ?」

「ごめん、おれこれからあの海兵さん相手しないといけないんだ。ソルー! こーたーい!」

「おうよー!」

 

 そしてストロベリーに向かってヘーマは笑う。無邪気さを装って、だからこそ恐ろしく見えるように。

 

「あらためて海兵さん、今度はおれと遊んでくれる?」

「こんな子どもが……!」

「せーのっ!」

 

 ヘーマが振り上げた木刀に合わせ、ストロベリー少将が剣を振り下ろし──

 

「──なんちゃって♡」

「な、ガッ!?」

 

 捻じ伏せようとした剣の勢いを逸らされ、ストロベリー少将の膝を足場にしたヘーマが思いっきり彼の喉を突いた。

 よろめいただけですぐに退勢を整えたストロベリー少将の様子に、ヘーマはニンマリと笑みを浮かべる。

 

「よかった、覇気使えるんだな海兵さん。それならおれも思いっきりやれる」

「その、覇気は……気のせいではなかったか!」

 

 黒く染まった木刀から、バチッと黒い雷が弾ける。それが意味するのは目の前の少年が覇王色の覇気の持ち主であるということ。

 そして、先程までストロベリーを翻弄していたゴーグルの少年も同じく覇王色の覇気を持っている。

 

「ヘーマ、向こうから海賊の仲間が迎えに来ているみてェだぞ」

「よしよし、魚人のおじさんはお仲間さんに任せればいいな。じゃあ、それまでおれに付き合ってね海兵さん♡」

「わかっているのか、大犯罪者を庇う行動に天竜人の所有物、その回収の妨害……これは世界政府への反逆になるぞ」

 

 岸の方から野太い声が聞こえてくる。船長に加勢しようと怒りを持って近寄ってくる彼らに気付いて可愛らしく笑うヘーマに、ストロベリーは固い声で忠告する。

 

 ──だが。

 

「ああ、それが?」

 

 気安く、日常の他愛のない会話のようにヘーマは言う。

 

「そんなもん怖くて海賊なんかやれるかっての」

 

 まるで宗教画と見紛う程の清廉さと穏やかさで、世にも美しい少年は笑っていた。そして笑顔のまま、黒く染まった木刀をストロベリーに突きつける。

 

「それより続きをやろうよ……ははっ、なんか楽しくなってきたんだ」

「子どもとはいえ致し方ないか……悪の芽はここで摘まねば」

 

 ピンと張り詰めた空気が漂い、次の瞬間両者共に地面を蹴った。

 

 

 

 

「タイのアニキ!」

「おめェらか……」

 

 急いで来たのだろう弟分達に、タイガーは地面に腰を下ろしたまま片手を上げた。流石に出血をしすぎたため、身体を動かせそうになかったからだ。

 

「酷い出血じゃ、すぐに手当てを!」

「いらねェ、もうほぼ治ってる」

「……なんじゃと?」

 

 声を掛けてきたジンベエにタイガーはグイッと服の袖をめくり、腕に付いている血を拭ってみせる。そこには出血量と程遠い軽症の傷しか存在しなかった。

 どういうことだとジンベエがタイガーに目で問うが、タイガーは複雑な表情を浮かべるだけで、答えない。

 

「大アニキ、この状況はどういったことだ!? なんで海軍と人間のガキがやりあってんだ!!」

「おれにもさっぱりわからねェよ。あの海軍少将以外全員気絶させたと思えば、あっという間におれの怪我を治療して、あの通りだ」

「わけわからねェ……!」

 

 血の気の多い船員のアーロンは、タイガーの負傷は想定していたものの、人間──しかもこの島に送り届けた子どもと同じ年頃の少年が、武力で対等に戦っていることに混乱していた。

 見るからに華奢な体躯で、自身の倍以上の海軍少将に、危なげも無く剣を交わしている。

 それに加えて魚人であるお頭を治療した? 人間が?

 事実ばかりを並べている筈なのに、それがより事態の把握を阻害する要因となっていた。

 

「おーい、そこのやつら」

 

 混乱している魚人達に声を掛けたのは、少し離れた場所でひらひらと手を振るもう一人の子どものソル。

 先程までストロベリーを相手に圧倒していた姿を思い出して、コイツも何者なんだとタイガーは訝しむ。

 

「後はおれたちでやっとくから早くソイツ連れて退きな。怪我は治っても血はかなり失ってるらしい、早めに輸血して──」

「いらねェんだよ!!」

「うん?」

 

 体調を考えてこの場からの撤退を促したソルに、タイガーは噛みついた。

 勢いに押されて流されていたが、この海軍の襲撃はそもそもタイガーを狙ったもの。しゃしゃり出ているのは人間の子どもの方であり、タイガーこそがこの難局を打破すべきなのだ。

 

「人間なんかに、恩を売られてたまるか!! これはおれに売られた喧嘩だ、邪魔すんじゃねェ!!」

「……わははは、そうか! なら仕方ねェな!」

 

 邪魔立てするなと吼えられて、ソルは怒ることもなくただ笑って了承する。

 それを聞き咎めたのは戦闘中のヘーマだった。

 

「ちょっとー! 重傷人にバトンタッチするのはおれとしては見過ごせないんだけどー!」

「──何を余所見してい」

「しーてーまーせーんー! ちょっと外野に文句言っただけでーす! ていっ!」

「……! 斬撃をも飛ばせるのか!」

「あ、できたっ。ソルー! おれ初成功したー!」

 

 ソルに文句を言いながらも戦闘を続けており、なにやら技を初めて出来たとはしゃいでいる子ども。

 

「おー、よかったな」

「のんきか」

「なんなんだあのガキ」

 

 本部少将と戦ってるとは思えないほどの吞気な様子に、魚人たちはどんな反応をすれば良いのか困惑しきりだった。

 

「なに、人間じゃなけりゃいいンだろ? ならそこの青いの、お前がヘーマと代われ」

「わしか……お頭」

「……任せた」

「おう。……小僧、わしと交代じゃ!」

「あいよー!」

 

 のしのしと自身に近づくジンベエに、ヘーマは明るい声で返事をした。

 

「おじさんゴメンな、最後まで遊べなくて」

「随分となめられたものだな……」

 

 すまなそうな顔のヘーマに、ほんの少し眉を顰める海兵少将。

 その一瞬、交代のため動きを止めた少年に向かって。

 

 

「じゃあ次はわっしと遊んでくれるかねェ~?」

 

 

 間延びした声がかけられた。

 

 

「──! あぶなっ?!」

 

 ぞわりと警告を発した見聞色に従い、ヘーマはその場から横に飛び避ける。直後、一筋の光が彼がいた場所を貫き、遠くで爆発音が鳴り響いた。

 

「「「はあ!?」」」

 

 轟音と上がる噴煙。その威力に驚くタイヨウの海賊団を尻目に、いつの間にか一人の男が立っていた。

 

「おォ~~? これを避けられるなんて、見聞色もちゃんと使えるみたいだねェ~。まだ小さいのにすごいコだよォ~」

「ボルサリーノ中将」

「念の為に早めに来てよかったよォ、怪我はあるみたいだけどねェ~~」

「申し訳ございません、予定外の乱入者が現れまして」

 

 長身の男はボルサリーノ中将とストロベリーに呼ばれ、被っていた帽子を片手で押さえながらじっとヘーマを見ていた。

 

「中将だと……」

「まさか悪魔の実、しかもロギア系か!」

 

 本部中将の登場にタイヨウの海賊団がどよめいている横で、ヘーマはボルサリーノを見返しながら、隣に移動してきたソルに声をかける。

 

「なあ、ソル」

「ん?」

「今のおれじゃ無理か?」

「んー、ちと足りねェな」

 

 ヘーマという少年の問いに、ソルは目を細めて答えた。悪魔の実の能力、体格、覇気の強さと練度。海軍中将となるには新世界の海賊達を相手取れる強さが必要になる。まだ覇気の練度が甘い少将は相対できても、それ以上の階級相手はまだヘーマには難しい。

 ソルの回答にそっか、とだけヘーマは言った。

 

「なら任せて良い?」

「よしきた」

 

 すらりとソルが再び剣を抜く。

 

「なぁ、魚人のおじさん。やっぱり交代は無しにしていい? 早くこの島から退却してほしいんだ」

「断るって言ってンだろうが」

「うん、そんな気がしてた! はい、青いおじさん交代!」

「わかっとる!」

「赤いおじさんは治療の続きをするよ。……嫌そうな顔をしない!」

「「「血塗れの怪我人を殴るンじゃねェよバカ野郎!?」」」

 

 ジンベエと交代して駆け寄ってくるヘーマに、タイガーは嫌そうな顔を隠さなかった。その態度に目を吊り上げたヘーマが再びタイガーをスパンと叩き、そのあまりの蛮行に周りが叫んだ。

 

「治療? そいつはちょっと困るねェ」

「まぁまぁ、そうはいかねェ。ちっとおれに付き合ってもらうぜ」

「! ……いやァ、そっちも覇気を使えるとは、コワイ子ども達だねェ」

 

 悪魔の実の能力で移動しようとしたところを、ソルの覇気で黒くなった刃が邪魔をする。その持っている剣を見て既視感を覚えながら、ボルサリーノは警戒を数段階引き上げた。

 

「よくもわしらを罠にはめてくれよったな、落とし前キッチリつけてもらうわい!」

「それはこちらのセリフである、これ以上の失態は許容できん」

 

 ソルとボルサリーノから少し離れて、ジンベエとストロベリーが相対する。睨み合う両者が地を蹴り、拳と双剣がぶつかり合った。

 

 

***

 

 

 いやー、キツかった。

 

 おれは先程までの戦闘を思い出して自身の頑張りを褒め称える。戦闘面で妥協しないことを決めたのはいいけど、いきなり海軍少将相手はやっぱりダメだろ。もっと段階を踏むべきだろ。

 

 リーチは向こうが数倍あるし、それに伴うパワーもあるから小廻りで切り抜けたけどキツイキツイ。ソルと模擬戦した経験がなかったら、あっさりずばっと斬られていたに違いない。

 あの少将さん、おれがワザとクソガキみたいに振る舞っても平然としているし……あ、これおれの印象がただ悪くなっただけじゃね?

 

 

「わははは!」

「こりゃあ予想外だよォ~、完全にわっしが遊ばれてるねェ~~……!」

 

 やってしまったことに気付いたおれの視線の向こうで、ソルとなんか日本の俳優さんを彷彿させる容姿をした中将さんが、物凄く速い速度で動いている。

 武装色の覇気ってあんなスピードでも耐えられるようになるのか……先は長いわァ。

 

「あっちに比べればおれって一般的だよな」

「比べる対象には同意するが、断じて少年は一般的ではない」

「真面目そうな人に言われるとすごく心に痛い!」

 

 ドカドカガンガン音を立てながら戦っている中将さんとソルを見つつ、そして漏らした感想にツッコまれつつ、赤い魚人のおじさんの手当をおじさんの所の人魚の船医さんと一緒に行う。

 一緒と言ってもおれはおじさんの背中に手を当てて、失った血液の再生に努めているんだが。

 なんでも船を落とされたらしく、珍しい血液型だったおじさん用の輸血パックを失ってしまったらしい。

 

 報復に海軍の船艦を奪ったそうなんだけど、そこに備蓄されていた血液は使いたくないそうだ。

 輸血は本人の同意が必要だし、異種族であれば同じ血液型でもなにか問題があるかもしれない。代替案として、おれが波紋を送ってエネルギーを補給しつつ、おじさんの身体に頑張ってもらうことを提案して、どうにか頷いてもらった。

 めちゃくちゃ疑い深く見られたけどな。波紋の治療、初見は誰でもそうなるからしょうが無い。

 

「これで、仕舞いじゃあ!」

「……!!」

 

 ドサッという音におれが顔を動かすと、勝敗が決まったところだった。立っていたのは青い肌の魚人のおじさん。

 

 ──よし、今が逃げ時だな。

 おれは仮面状態のピクテルから海楼石の手枷を取り出す。

 

「ソル撤退するよ! そのおじさんにこれ着けて!」

「なんだ? ……なるほどなァ」

 

 ソルに向かって投げ、受け取った彼は納得した顔を浮かべた後、素早くボルサリーノ中将の腕に付けた。言いだしっぺが言うことじゃないが、あの人めっちゃ素早いのに良くできたな。

 もしソルがいなかったら、たぶん全滅していた。存在が鬼札すぎる。頼り切らないように精進しなくては。

 

「これは、海楼石の手錠かねェ~? 用意周到なこった」

 

 ガクリとボルサリーノ中将が膝を突いて、枷が効果を発揮していることを確認する。これで海兵で追いかけてこられる奴はいなくなった。

 ピクテルにチェーロ・リベルタ号の荷台だけを出してもらう。

 

「赤いおじさん、これ乗って」

「……なんだこりゃ、椅子か?」

 

 治療をしたことで多少は信用されたのか、赤い魚人のおじさんは素直にチェーロ・リベルタ号に座ってくれた。

 

 しっかり掴まってねと声をかけて、と。

 

「全員撤退! それではお先に失礼します!」

「は?」

 

 隣にソルも乗り込んだことを確認後、おれは海賊達にビシッと日本式の敬礼をして、海岸に向かってチェーロ・リベルタ号を発進させた。

 事態を理解できていなかった海賊の皆さんは、数拍呆けたあと、すごい形相で追いかけてきた。うわ、子どもが見たら泣くぞ。

 

「「「待てやクソガキお頭を返せェ────!!」」」

「全員走れ──!!」

「「「うおおおおおおっ!!」」」

 

 走るのが遅い人魚は魚人が抱えて、必死に全力で走っている。まあ、船長を攫われているから当たり前だよね。

 

「おー、ちゃんと全員付いてきてる」

「そりゃそうだろ」

「おい、なんでわざわざアイツらを怒らせる真似をした?」

 

 身を乗り出すようにして後ろを見ているおれとソルに、おじさんの呆れた声がかけられる。

 

「んー、だってこうすれば、倒れている海兵さんにトドメ刺させないだろ?」

 

 勝利したといえどもあれだけ殺気立ってれば、倒れた敵に八つ当たりしかねない。罠に掛けられ船を失ったのなら尚更、怒りは溜め込まれているはずだ。

 罠は破り、怪我人はいても死者はいない。今でも十分海軍の面子は潰されている。ならこれで手打ちにしてもいいだろう。

 

「それに、おれが怒られるだけだしな」

 

 へらりと笑うおれに、ソルが無言でデコピンを仕掛けてきた。く、頭を固定されているから逃げられない、めっちゃくちゃ痛いんだがこれ。

 

「それ、あんまやるなよ。次やったときにゃ……こういくぞ」

「なんで怒ってんの……待って、お前の武装色でデコピンはヤバい、頭貫通する」

「おい、もう島の端を過ぎたが、どう止めンだこの椅子は」

「やっべピクテルストップー!!」

 

 引き返してー! と叫びながらUターンしてきたおれ達を、追いついた海賊の皆さんが何とも言えない目で見ていた。すいません、降ります。

 

 

 

 

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