群青色を押し花に   作:保泉

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初頭手配

 

 

 タイヨウの海賊団と共にエレジアに到着してから、今日で一週間が経った。

 

 おれはゴードン様の絵を描いたり、エレジアの音楽家から自分の曲を弾いてほしいと頼まれたり、歌のレッスンを受けたり、タイヨウの海賊団からリュウグウ王国の音楽を聞きだしてほしいと頼まれたり、興奮しすぎた音楽家を鎮圧したり……途中変なのが混じっているが、わりと忙しい毎日を過ごしている。

 

 起床して身支度を整え、普段はキャンバスの部屋でくつろいでいる電伝虫を取り出して抱える。おれが借りている船室から出て甲板に出ると、早起きのタイヨウの海賊団メンバー達が捕った魚を捌いて処理していた。

 作業メンバーの中にはソルも混じっており、談笑しながらせっせと手を動かしていた。

 

 基本的にソルはキャンバスの中に入らずに普通に生活している。音楽活動にソルを巻き込むのもどうかと思ったので、ソルにピクテルを付けているから、彼は彼なりにエレジアを満喫しているだろう。

 

 十年以上の幽霊生活は活動的な彼にとって中々に辛い物があったらしく、今は積極的に何かに触れる行動をとっているようだ。

 だからなのか、おれはソルによく頭を撫でられるし、抱きつかれるし、手を引かれる。その光景を観て『姫と騎士』と言ったヤツはとりあえずボディを殴った。誰が姫だ。

 

 それ以来、ピクテルが髪を腰より短くしてくれなくなったんだぞ。まったく余計なこと言いやがって。

 さらさらと風に揺れる髪の重さに眉をひそめ、軽く首を振った。……忘れよう、朝から落ち込むことはない。

 

「おはよう。今出るとこ?」

「おう、おはよう。もう少ししたら売りに行くところだ」

 

 一番扉の近くにいたアーロンに声をかけると、彼は木箱を担いだまま片手を上げて返答した。

 

 金策のためにタイヨウの海賊団はエレジア近郊で漁をしている。治療費は無期限のツケとなったがそもそも航海中の食料を購入する資金すら不足している彼等は、最も得意なことで稼ぐことを決めた。

 漁以外にも手先が器用で力もあるため、工事や工房などでバイトしている者もいる。楽器製作の工房主から熱烈な引き抜きを受けている現場も見た。

 

「やっぱりさァ、魚人と人魚って海賊でも生活力が高いよね。基本の罠も仕掛けられない人間の海賊はとても多いのに」

「おれ達からすりゃ、漁も狩りも出来ねェでどうやって海の上で食いつなぐ気なのかと呆れるぜ」

「ホントだよねェ」

 

 本人が選ぶことだから介入せずにそっとしておいたけど、首を縦に振る可能性は低いだろう。人間に対する彼等の心の傷はまだまだ深い。

 

 だからこそ、こんな風にアーロンと談笑することになるとは、おれは想像してなかったな。

 

 今の時点での彼は同族想いなのは漫画と変わらないけど、堅気に手を出すような人格ではない。漫画の彼は、やはりタイガーさんが人間に裏切られて亡くなったことが切っ掛けで、同族以外の嫌悪が形成されたのかもしれない。

 おれとソルに対しては、タイガーさんの治療もあってか、かなり好意的に接されている。

 

「ヘーマは電伝虫の世話か?」

「うん、餌やりするんだ」

 

 レタスをはむはむ食べている電伝虫は見ていてとても癒やされる。今日もよく噛んでお食べ……。

 

 さて手頃な木箱はないかと電伝虫を置く場所を探して見渡していると、抱えたそれから電話の着信音が聞こえてきた。

 

「プルルルルルッ!」

「……」

「プルルルルルッ!」

「……」

「……? おい、取らねェのか?」

 

 

 鳴ってるぞと怪訝な顔をするアーロンに反応することなく、おれは無言で鳴り続ける電伝虫を凝視する。

 

 発信主は誰だろうか。おれの電伝虫の番号を知っているのは、白ひげ海賊団と赤髪海賊団だけ。つまり今架けてきているのはどちらかの組織になるんだが、おれの直感がヤバイと告げている。

 

「プルルルルルッ!」

「そろそろ出てやれよ、電伝虫泣いてんじゃねェか」

「……ハァ」

 

 うるうると訴える目に負けて、電伝虫を魚が載ったテーブルの端に置く。後でこの近くの魚は買い取ろう。

 

 周囲から視線を感じながら、時期的に赤髪海賊団の方かなァ、と覚悟を決めて受話器を取った。

 

「もしもし」

『──忙しいところ悪いねい』

 

 開幕一番、想定外の父親のドスのきいた声音に、おれは動揺し、息をのんだ。

 

「な、にかあった?」

『あったのはそっちだよい』

 

 なんで──そんな怖い声なの。

 どうしてそんなに怒っているの。

 何か不興を買ってしまったのだろうか。おれ、なにかしちゃったの。

 

 視界が狭まり、ぐるぐると思考が巡って考えが纏まらない。なにも考えられなくなって、呼吸が浅く、短くなっていく。

 

「ヘーマ、落ち着け」

 

 誰かが後ろからおれを抱え、ゆっくり頭を撫でる。だれ、この声は……ソル?

 

「おい、アンタ。何があったか知らねェが、威圧的に言うのは止めてやれ! コイツ顔真っ白になってんぞ!」

『──! 悪かったヘーマ! 少し動転していたよい!』

「う、ううん……へいき」

 

 おれから受話器を奪ったアーロンが電伝虫に向かって怒鳴り、いつもに戻ったお父様の声が少し遠くに聞こえる。

 

 カタカタと勝手に震える手を、おれの左側に寄って来ていたはっちゃんが、掬うように軽く握ってきた。

 

「ニュ~~……大丈夫かヘーマ」

「うん……ありがと」

 

 人間とは違う温度の低いひんやりとした手が、おれに現実感を取り戻させる。

 

 大丈夫、お父様はおれに怒ってない。おれはお父様に嫌われてない。お父様に捨てられない。大丈夫──

 

 バチンと、全力で自分の両頬を張った。

 

 あー……ほっぺがジンジン痛ェ。だがぼやけていた思考はマシになった。

 あぶな、もう一回飲み込まれそうになってたわ。おれは力を入れすぎて腫れてきた頬を撫でながら深く息を吐く。

 

 全部思い出したことの弊害か、以前に比べてちょっとした衝撃でフラッシュバックすることが増えた。今回はちょっと相手と状況が悪くて深かったけど、抜けられたならもう大丈夫だ。

 

 心配そうにおれを見るはっちゃんやアーロンに向けて、おれは気にしないようにニッと笑ってみせた。彼等が安堵したことを確認して、もう一度受話器を手に取る。

 

『すまねェ……こっちも落ち着いたよい』

「おれも大丈夫。あの、おれに関する情報かなにかあったの?」

『……今日の新聞は読んだか?』

「新聞?」

 

 

***

 

 

「う~!!」

「がんばれウタ~、あと十回だぞ」

 

 とある偉大なる航路の海域、エレジアに向かう航路の途中のレッド・フォース号の甲板。

 苦しそうに腹筋運動をするウタの隣で、同じく腹筋運動をしながらパンチが応援していた。反対側ではモンスターが応援のつもりなのかタオルをぐるぐると振り回している。

 

 日課のトレーニングをせっせとこなす娘の姿を眺めて、椅子の背もたれに腕と頭を載せたシャンクスは微笑ましさに笑顔を浮かべる。

 

「いつまで続くもんかと思っていたが、なかなか頑張るなァ」

「一回ルフィに負けたのが相当悔しかったみたいだからな。まァ、負けん気が強いのはいいこった」

 

 父親の呟きにコップを両手に持ったスネイクが反応し、片方をシャンクスに渡した。ありがとうと言って受け取ったシャンクスは、中身のコーヒーを啜る。

 

「部屋に籠りがちだったのがすっかりアウトドア派に転向したしよ、いろいろ良い経験だったな」

「虫も付いたがな」

「その虫おれらの友だちなんだが?」

 

 笑っているためシャンクスも本気で言った訳じゃないようだが、やはり娘を取られることに父親として思うことがあるのだろう。

 スネイクは小舅に対応しなければならない彼の美少年の健闘を祈った。

 

「まあ冗談はこれくらいにして、あとエレジアまでどれくらいだ?」

「三日もすれば薄ら島が見えるか、ってところだな」

 

 かなり気候が安定してきたため、島が近いのは間違いない。

 

「お、ニュース・クーだ。おーい、一部くれ!」

 

 仕込みを終えたルウが近くを飛ぶニュース・クーを見つけて声を掛ける。降りてきたニュース・クーにコインを渡して、一部新聞を受け取った。

 

「ほい副船長、今日の新聞」

「ありがとよ」

 

 ルウはベックマンに新聞を渡し、腹筋を終えて甲板に転がるウタの所へ向かう。それを見送って新聞を広げたベックマンは、折り込みの手配書をぺらりと捲った。

 

「──お頭」

「ん?」

「これを見ろ」

 

 沈黙していたベックマンがシャンクスに見えるように手配書をつまみ──

 

「………………ハァ!?」

 

 

***

 

 

「やっと帰りやがったあのクソじじい!」

 

 遠ざかっていく軍艦に向けて口をひん曲げて中指を立てるエース。

 ガープが滞在中、毎日のように殴られ蹴られぶん投げられとボコボコにされたため、頬に湿布を貼った彼の悪態は当然のことだった。

 ガープ曰く特訓とのことだが、十の子供にやることではないことは、エース達も薄々気がついている。

 

「ヘーマがどんだけ優しかったか身に染みた……」

 

 額に大きい絆創膏を付けたサボも、嵐が去ったことに安堵して深々と息を吐く。

 

 合理的に段階を踏み、けして怪我をしないように考えられたヘーマの教育と比べて、ガープのそれは荒っぽいものだった。

 

 実は予想以上に動けた孫達に嬉しくなってやり過ぎ、子供達が気絶したことにダダンがキレて、正座で怒られたことを彼等は知らない。

 

「ヘーマそろそろこねェかな~!」

「まだだろ」

 

 腕に包帯を巻いたルフィは帰ったガープよりも兄の来訪を心待ちにしていた。あからさまな懐き具合の差に、サボはガープの空回り具合に同情した。

 

「おいおめーら!」

「これ見ろ、大変なことになったぞ!」

 

 船を見送っていた三人の元に、ドグラとダダンが慌てて走ってくる。何があったと疑問を口にする前に差し出された紙を、三人は覗き込んだ。

 

「え」

「は!?」

「あ~~~~!?」

 

 

***

 

 

「大変だヘーマ、ソル!!」

「お前ら二人、賞金首になってンぞ!!」

「え」

 

 慌てて船に乗り込んで来たのはマクロとギャロだった。比較的人間に抵抗感が薄い彼等はエレジアの町の何処からか新聞を手に入れたのだろう。

 マクロは新聞に折り込まれた手配書をバンと音を立ててテーブルに叩きつけた。

 

 “DEAD OR ALIVE(生死問わず)

 『若鬼』ソル 

 五億ベリー”

 

 いや金額やべェな。

 

「懸賞金五億ベリー!?」

「おいおい初頭手配だろこれ!?」

「わははは! まずまずの金額だなァ!」

 

 あまりの金額の高さに目を剥いたおれや皆の横で、ソルが嬉しそうに笑っている。確かに生前のロジャーの十分の一の金額だけどさ、これ確実に海軍に目を付けられただろ。

 飯屋で取られた写真だろうけど、目がゴーグルで隠れていても、笑い方が思いっきり海賊王のやつだ。

 ……本人だとはバレてない筈だが、血縁関係は疑われているかもなぁ。

 

「海軍本部中将をあしらってンだ、これでも少ない方かもしれねェぞ」

「それで、ヘーマもか?」

「あ、そうだよおれにも懸賞金付いたの?」

 

 二人ってことはおれも手配書出たのか。 うーん、覇気込みでどれくらいになるんだろうな……身近な海賊の賞金額が高すぎてわからん。

 

「ヘーマはこれだ」

「……可笑しいな、目が霞んで文字が二重に見えてるからかゼロが多い」

「安心しろ、お前の目は正常だ」

 

 差し出された手配書に並ぶ0……あ、あれ? ソルはともかく最初は刻んでいくもんじゃないの、こういうのって。

 

「えーと、三千万ベリー……高すぎない?」

「バカ野郎、現実を認識しろ。三億ベリーだ」

「なんでだよォ!?」

 

 “ONLY ALIVE(生け捕りのみ)

 『白薔薇』ヘーマ

 三億ベリー”

 

 ダァンと荒ぶる感情のまま、おれは思いっきり机を叩いた。

 

「おれ海軍に茶々入れるただのクソガキだったじゃん! それに何だよ『白薔薇』って、髪飾りから取るなよ二つ名を!」

「やたら写りの良い写真だなこれ」

「無駄に神々しいな」

 

 アクセサリーから二つ名をつけるとか……あ、ルフィがそれだった。麦わら帽子被っているから付けられてんじゃん。白だとおじい様とお揃いだな……まあ、今はよしとしよう。

 

 使用されている写真は、背景の窓から光が差し込んでいるため、後光を背負って左側にいる誰かに微笑んでいるおれ。これもフールシャウト島で飯食ってる時のものだろ。

 ねぇ、もっとマシな写真あったろ賞金首にふさわしいやつが。漫画のルフィも楽しそうな笑顔だったけど、これは違うだろう。

 

「あのとき、おれは一般海兵しか倒してないのになんで……」

「覇王色の覇気で倒したからだな!」

 

 めっちゃソルが追い詰めてくるぅ……お前、おれに覇王色の覇気使わせたのって、懸賞金上がりやすくするためじゃないだろうな。……ニンッと笑うなこの確信犯。

 

 そりゃあ新聞を見たお父様が慌てて電話してくる筈だよ。三億ベリーもの懸賞金を掛けられた理由とか、なにかとんでもないことやらかしてるに違いないもの。

 

『覇王色?』

「あっ」

『どうやら聞き出すことが増えたみてェだねい……?』

「あわわわ……」

 

 通話が繋がっていたことを思い出した。説教カウンターが追加で一つ載ったことを悟る。

 

「金額もそうじゃが、ONLY ALIVE(生け捕りのみ)とは……ヘーマだけ変えた理由がわからんのう」

 

 目を游がせるおれを呆れた目で見下ろすジンベエさんが、手配書の文字をなぞりながら疑問を口にする。生け捕りのみか……良い予感はしないなァ。

 

『その事だが……ヘーマ、お前に賞金をかけてた奴を突き止めたよい』

 

 ゆらりと、おれは視線を手配書から電伝虫に移す。

 

『シャボンディ諸島を根城にする──人間屋(ヒューマンショップ)だ』

 

 お父様の言葉に、その場の全員の視線がおれに集まった。

 

「……つまり生け捕りを望んだのは世界貴族か」

 

 

***

 

 

「──次の議題はこの二名です」

 

 海軍本部が置かれる三日月型の島、マリンフォード。大会議室では現在本部にいる将官達が集められていた。

 

「随分とまあ、可愛らしい子だね」

 

 ボードに貼り付けられた写真に眉をひそめるのは大参謀つる中将。まだ幼い少年が海軍本部の会議で賞金額を話し合われる異様さに、他の面々も眉間に皺を寄せる者が多かった。

 

「見た目に誤魔化されてはなりません。髪飾りの少年はストロベリー本部少将と互角に戦い、ゴーグルの少年に至ってはボルサリーノ本部中将を翻弄するほどの実力です」

「なんだと!?」

「子どもがボルサリーノ中将を!?」

 

 驚きと共に振り向かれたボルサリーノ中将は、頭に手を当てながら申し訳なさそうな顔をする。

 

「いやァ~~~本当なんだよねェ~~~。完全に遊ばれちまってねェ~~」

「キサマがこんな小僧にか?」

「小僧って言ってもねェ~、覇王色の持ち主だったよォ……二人ともねェ」

「マジで? こっちの少年なんかまだ十歳くらいじゃないの」

「わっしが戦ったのはゴーグルのコだけど、行動の起こりを全て潰されちゃあ、流石になんもできないよォ」

 

 隣に座るサカズキ中将の睨みに、ボルサリーノ中将は手元の帽子をクルクルと回転させる。配られた資料に印刷された写真をクザン中将は指差した。

 

 上座側に座るセンゴク大将は、ゴーグルを付けた少年の写真から目を逸らさず凝視している。

 

「このゴーグルの少年……似ているな」

「……ロジャーにだね?」

「ガープの奴にも確認するが……写真の口元だけでもわかるくらい面影がある」

「それぞれの出身は?」

「白薔薇の少年は北の海(ノースブルー)ですが、ゴーグルの少年は不明です」

「まさか、海賊王の子どもなのか!?」

「最低でも縁者なのは間違いあるまい」

 

 ざわりと動揺が会議室に広がる。ゴールド・ロジャーの血を絶つため、南の海で起きた目を背けたくなる行為。それすらすり抜けて血を繋いでいたのだと、写真の少年が体現していた。

 

「年齢にしては高すぎる戦闘技能、そして覇気の練度に加え覇王色の持ち主。世界秩序に牙をむくことを厭わない思考に、ゴールド・ロジャーの関係者の可能性!

 初頭手配五億ベリーと三億ベリーは、けして高い金額ではないと愚考します!」

 

 もはや当初の子どもとして見る者はいなかった。新たな海賊王の誕生は、何をしてでも防がなくてはならない事であり、その筆頭レースに躍り出た少年達は、今後は海軍に執拗に狙われることとなるだろう。

 

「で、こっちの美少年、なんでONLY ALIVE(生け捕りのみ)なのよ」

「……世界政府からの要請です」

 

 クザン中将の疑問は、少将から答えにくそうに返答があった。

 

「元々この髪飾りの少年には裏社会で賞金がかけられておりまして」

「……」

「調査したところ、依頼者はシャボンディ諸島の職業安定所の支配人でした」

 

 会議室の全員が、苦虫をかみつぶしたような顔で拳を握り締める。

 

「理由は?」

「えー、見たとおりの容姿と能力が理由のようです。画家としての腕と、なんでも何も無いところから物を取り出せるそうで」

「あ~、それはわっしも見たよォ~」

「悪魔の実の能力者なのかい?」

「おそらくはそうかと」

 

 美麗な容姿に悪魔の実の能力者、なるほどさぞ高値が付けられることだろう。海楼石の錠さえあれば、高練度の覇気使いでも捕らえることは容易と考えたのだろうと推測できて、海兵達は吐きそうになるため息を飲み込んだ。

 

「さらにストロベリー少将の報告によると、瀕死の魚人に手を当てるだけで、怪我を治したそうです」

「うわ」

 

 能力の詳細は不明ながら、実に惜しいことだと思わず嫌そうな声を漏らしたクザン中将に、周囲はうんうんと同意する。

 治療できる悪魔の実の能力者は希少だ。それが海軍ではなく海賊の手にあるということで、どれほどの損失となるだろうか。

 

「それと、この情報は未確定なのですが」

「まだなにかあるのか?」

 

 さらなる詳細の追加に一堂が辟易していたその時。

 

「髪飾りの少年ですが、どうやら……白ひげ海賊団と行動を共にする姿を目撃されており……船員である可能性が」

 

 一番の爆弾が投げ込まれた。

 

 若い芽のうちに摘もうにも、四皇の配下となれば安易に手を出すことはできない。この情報が事実であった場合、確実に白ひげ海賊団とは戦争になるため、事実の裏付けができるまでは、下手すれば以後も迂闊な対応はとれなくなるということで。

 

「なんとも、面倒なことになっちょるのぉ……!」

 

 頭を抱えてしまった同僚達を一瞥しつつ、サカズキ中将は唸るような声で吐き出し、こめかみを揉みほぐした。

 

 

***

 

 

「何度も腹を括ったつもりだったが、まだ足りなかったな」

「ヘ、ヘーマ……おめェ、これじゃあ」

「大丈夫だよ、はっちゃん。おれを狙う奴がハッキリして、かえって気持ちが楽になった」

 

 気遣わしげにおれを見るはっちゃん。漫画だとお茶目な印象が残っていたけど、本来はとても優しい性格なんだろう。堅気の方が向いてると思うけど、同胞が心配で付いてきたんだろうな。

 そんな彼におれはニヤリとした笑みを見せつける。なんてことはないさ、いまのおれなら切り抜けられることだ。多分な!

 

「それに、おれを生け捕り? できるもんならやってみろっての、逃げるのは得意だぞ」

「わっはっはっはっ! 逃げに徹したお前の生け捕りは本当にキツイだろうな!」

「いてっ! 叩くなソル! 絶対、お前の影響でおれの金額吊り上げられてるだろ!」

「いいじゃねぇか高いほうが!」

「実力以上は困るっつってんだよ!」

 

 バシバシと背中を叩くソルに文句を言うが、彼の中に全く届いた気がしない。くそ、これが生粋の海賊のマイペースさか……!

 皆の前で強がってはいるけど、こちとら不安でいっぱいだぞこの野郎。おれ自体が危険になったから、世間から隠された弟達に会いにくくなったし……はァ。

 

『とりあえず、いま何処にいるんだよい』

「エレジアだよ」

『ああ、そういや鎮魂祭ってのをやるのか』

 

 話を軌道修正したお父様に現在地を伝えると何やら納得された。来た理由は別件だけど、タイガーさん達の名誉もあるしとりあえず黙ってよう。

 

『なら、用事が済んだら一旦本船に戻ってこい』

「わかった、用事が済んだらだね」

『オヤジが呼んでるよい』

「寄り道せずに帰ります!」

『そうしておけ』

 

 できる限り帰宅を引き延ばそうと思っていれば、察知されたのかお父様に即逃げ道を潰された。

 え、おじい様がおれを呼んでる……えっ、もしかして説教っておじい様からも……?

 

「どうしよう、おじい様に怒られる……」

「わっはっはっはっ!」

 

 通話が切れたあとしばらく、おれは笑うソルの横で未来を想像して頭を抱えていた。

 

「完全にイタズラがバレて焦るガキだな」

「アイツかなり強いんだよな?」

「あれ見てると忘れるよなァ」

 

 

 

 

 




『タイヨウの海賊団』との友好度が基準に到達しました。
『海軍』からの警戒度が基準に到達しました。
『世界政府』からの認知度が基準に到達しました。

『???』ルートが解放されました。
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