「──それで、不死鳥は寿命がくると自分から炎に飛び込むんだ」
鎮魂祭の翌日、おれとウタはレッド・フォース号の船室の上、船の後方に座って雑談していた。
「えっ、燃えちゃうよね」
「燃えて死ぬね」
「不死鳥なのに死んじゃうの!?」
「灰の中から蘇るって言われているから、不死鳥なんだ」
「へぇー、ふしぎ」
赤髪海賊団がエレジアに到着してから既に数日が経過しているため、当初おれを見つけると挙動不審になっていたウタも、前のようにおれと接するようになっていた。
あわあわしている彼女はとてもかわいいけど、普通にお話もしてほしいからよかった。
「蘇るって大人の不死鳥のままで?」
「大人の不死鳥。……いや、三日で大人になるって記憶にあるから、雛なんじゃない?」
「じゃあ卵になるのかも」
「灰の中から卵かァ……熱そうだけど不死鳥なら大丈夫、なのかな?」
「たぶん?」
今はお父様の食べたトリトリの実のモデルについて、ウタに説明している途中だった。そういえば前世の不死鳥の話をしているけど、これって今世でも同じ扱いなんだろうか。
「お、ここにいたか」
「ヤソップさん」
「なーに?」
「お頭達が渡したいもんがあるみてェだから、二人ともこっち来てくれ」
ハシゴを登って頭を覗かせたヤソップさんがおれとウタを手招きする。
ウタと二人で付いていくと、甲板のタラップの近くにシャンクスさんとベックさんが並んで立っていた。
「お。きたか二人とも」
「シャンクス、渡したいものってなに?」
「これだ。おれ達とゴードンさんから」
そう言ってシャンクスさんは彼の足下に置いてあったリボンのかけられた大きい袋を、おれとウタにそれぞれ渡す。結構大きい袋だな、ウタの身長の半分以上あるぞ。
「クマのぬいぐるみ……?」
「ウサギのぬいぐるみだ!」
開けて良いとのことなので、二人でリボンを外して布袋を開けたところ、中身は大きなクマのぬいぐるみだった。隣を見るとウタのはウサギだったらしい。大きさはおれのぬいぐるみと変わらないやつだ。
「昨日の鎮魂祭で突発的に参加しただろう、その御礼と謝罪だそうだ」
「贈り主におれ達も入ってんのは、楽器ごと家を贈ろうとするゴードンさんを止めたからだな」
「家」
「家だ」
家……?
確かにエレジア国民の強い要望があって、急遽おれはピアノを、ウタは歌を披露することになったけど、それでも流石に家を贈られる報酬は額が大きすぎて不釣り合いだぞ?
楽器を贈る口実なのか、家を建てさせる口実なのか、はたまた両方なのか……おれの直感では両方だな。無理矢理この国に縛り付けようとかそういうのではなくて、今回おれ達やタイヨウの海賊団がエレジア国民に突撃されることが多かったから、ゆっくり出来る場所を作ろうとされたんだと思う。
そこで国民を止めないのがゴードン様らしいけど。
包みからぬいぐるみを完全に出してぎゅっと抱きしめてみる。
ふむ……手触りもよくてモフモフしていて、お高いテディベアのような手足がジョイントするタイプではなく、だらんとした抱き心地がよいタイプのもの。
ふかふかの毛並みが顔をくすぐる。もふもふだ、全然チクチクしない。
すりすりと頬ずりしても肌触りの心地よさは変わらない。
うむ……これはよいものだ。
「気に入ったか?」
「すごくうれしい。ありがとうみんな」
頬が緩むまま、おれは笑みを向けた。ぬいぐるみを貰うなんて随分久しぶりだ、おれにとって家よりよっぽど嬉しいプレゼントだ。
「タイヨウの海賊団のみんなに自慢してくる!」
「あっ、待ってよヘーマ!」
今の時間ならほぼ全員船にいるはず。みんなにこのさわり心地を自慢しようと、おれはレッド・フォース号のタラップを駆け下りた。
***
「……まさに天使の笑顔」
「あんな顔もできたのかアイツ」
満面のという表現が適切な、あまりにも愛らしい笑顔を浮かべたあと、船のタラップを駆け下りるヘーマを見送ったヤソップ達は、しみじみとした声をあげた。
「お頭達胸を掴んで耐えてンぞ」
「まさか副船長までやられるとは」
「気持ちはわかる。普段の反応といつになく子どもっぽい反応の落差がこう、心に刺さる」
視線の先にいる胸元の服を掴んでやや前傾姿勢で震えている二人に、パンチとホンゴウがウンウンと同意で頷いていた。
シャンクスとベックマン達赤髪海賊団は自他共に認める友だちのためヘーマは今までも少年らしい笑顔を見せていたのだが、今回みたいな幼い笑顔を向けられたのは初めてだった。
「……あ? そういやなんでウタまでついて……」
「……あっ」
「ホホー、いつの間に」
「なにがだ?」
ふと、ヘーマの後を付いていったウタにスネイクが疑問を覚え、何かに気付いた表情をした。その反応にガブが察し、ルウがニヤニヤと笑う横で、ライムジュースが首を傾げる。
「やっと気付いたか……この前からヘーマの後をウタがずっとついて行ってンのを」
「前はそこまでベッタリじゃなかったのによ」
「つまり…………ウタに春が来た」
気付いた者はニヤリと笑い、気付いていなかった者はピシャーンと背後に雷が落ちる。
「ウタは嫁にいかせねェぞ!?」
「気が早すぎるわバカ」
「十年は後だろバカ」
「声がデケェわバカ」
「全員殴ることはねェだろ!?」
頭を次々に叩く仲間たちに、ライムジュースは叩かれた部分を押さえて文句を言う。
「それなんだが、お頭が前に婿に来るなら許可するって言ったらしいぜ」
「は? 白ひげと戦争するつもりか?」
「船員の引き抜きって、白ひげ海賊団が一番嫌がるだろ」
なんでそんな喧嘩を売るような真似を、と顔を顰めどうにか撤回させようと思案する彼等に、背後に近寄ってきていたシャンクスがボソリと口にする。
「ならウタを嫁に出すか?」
「よし、その時に備えて戦略考えようぜ!」
「まずヘーマを味方につけるのは絶対だろ」
「確かにそれは確実だが、『お父様』と離れることに頷くか?」
「いけるだろ、今でも離れて旅してんだからよ」
まだ子離れしたくない男達はくるりと手の平を返し、来る可能性の未来を話し合った。
***
嬉しさのあまりタイヨウの海賊団のみんなに報告すると、優しい顔で代わる代わる頭を撫でられて、ようやく外側から見たおれの姿に気付いた。正気に戻ったとも言う。
「ガキがプレゼントを貰って喜ぶのは普通だろ、なんでそう落ちこんでンだ?」
「喜び方が子どもっぽいからだよ……」
甲板の隅でうずくまり頭を抱えるおれに、ソルは手すりに座りながら首を傾げる。見た目以上に幼い振る舞いをした自覚があるから、あまりツッコまないでほしい。
「嬉しかったンだろ?」
「嬉しかったけど!」
「ならいいじゃねぇか」
良くねぇから羞恥に悶えてんだよ。
ソルはおれの隣に飛び降りて、うずくまったままのおれの頭をポスポスと叩く。お前の気持ちもわからんでもない、と彼は静かな声を出した。
「寂しいんだろ、タイヨウの海賊団と離れるのがよ」
「…………うん」
幼稚な振る舞いをしてしまうのも、おれがかなり彼等に懐いた証拠だった。タイヨウの海賊団のみんなはおれの事情を知っている。知っていて態度に出さないように気づかってくれている。
家族とは違う、感覚としては近所の兄ちゃん位の近さで、子どもとして構われるうちに、すっかりおれは離れがたくなっていた。
「わかるぜ、ダチと離れるのは寂しいよなァ」
「……ソルも寂しくなったことがあるの?」
「まあな。おれは連れていきたいヤツは大抵船に乗せてきたけどよ、中には絶対に頷かないヤツもいたモンだ」
故郷は離れられないって言われてな、と当時を思い出しているのか、ソルの目がボンヤリと宙を彷徨った。
「しぶしぶ別れて其れっ切り、二度と会えてねェヤツもいる。国王が代替わりして国が荒れたり、別の海賊に襲われたり……理由は色々だがな」
どっかで生きてるとは思うけどな。
そうソルは言うけれど、可能性は限りなく低いんだろう。大海賊時代が始まる前、生前のロジャーが活躍した時代には、今のようなにわか海賊がいない。
海賊一人一人の質が高く、海を渡るには相応の技量が必要だったこともあり、その襲撃は街ひとつ壊滅することも珍しくなかったと聞く。
四つの海でさえ、素人が船を出したところで遭難して餓死するのが関の山だ。
「だからこそ、別れに悔いは残すンじゃねェぞ。言いたいことは全部伝えていけ、心に残しておいても重石にしかならねェからな」
「重石か」
「ビビってんじゃねェよ。とっとと行ってこい」
「うわっ」
ソルはおれの服の襟を掴んで無理矢理立ち上がらせた。ついでとばかりに背中を押され、よろめいて転びそうになるのを耐える。振り向いてじっとりした目を向けても、ソルは笑うばかりで相手をしなかった。くそ。
ふらふらと歩いたタイヨウの海賊団の船の中、船長室の前に立ったおれは、意を決して扉をノックした。入れ、と扉越しに声が掛けられ、ガチャリとノブを回して扉を開くと机の上に海図を広げているタイガーさんがいた。
「タイガーさん」
「ん、ヘーマか。なんだ、ぬいぐるみの自慢か?」
「それはもう終わったよ!」
目を合わせるなり揶揄わないでほしい。誰だタイガーさんに情報回したのは、はっちゃんか?
「お前らも明日には出るンだってな。準備はできてンのか?」
「だいたいは。今は挨拶回りしてる」
「そうか……お前らにはおれと同胞が本当に世話になった。案内してはやれねェが、いつか魚人島にも来るといい」
「うん、いつか絶対行くよ」
確かにタイガーさんが魚人島を堂々と歩いたら、海軍と役人がすっ飛んできそうだもんな。
隠れ住むならまだしも、表に出てくるならリュウグウ王国としては庇いたくても、それをしてしまえば世界政府を敵に回す。そして同胞を守らなかったことに国民が王族に失望して、クーデターでも起こしかねない。
国が割れれば喜ぶのは人間屋の連中だろう。内紛の隙を狙って人魚を攫いやすくなるだろうから。
あまり長居するのもあれなので、おれは挨拶もそこそこに入ってきたドアに近づいた。
『別れに悔いは残すんじゃねぇぞ』
ドアノブを握ろうとしたところで、先ほどのソルの声が再生される。
このままこのドアをくぐれば、おれとタイガーさんは一時共闘した海賊という間柄で終わる。
海賊の関係としてこれは間違ってはいない。同じ船の仲間でない限り、海賊が行動を共にすることはない。
これからもおれはおれの目的の為に旅を続けるし、タイヨウの海賊団も彼等の目標を目指してこれからも旅をするのだろう。
でも。
確かにそれだけじゃあ、味気ないよな。
おれはくるりとその場で振り返った。丸いタイガーさんの目とバッチリ合う。
「タイガーさんは嫌かもしれないけど……おれは、みんなを友だちだと思ってる」
同じ釜のメシを食った仲となり、結構な期間を過ごした。彼等は総じて仲間思いであり、人間嫌いでもあり……でも、けしておれ達を冷遇することはなかった。
一番突っかかってきていたのはアーロンだけど、これはあえて彼が乱暴に振る舞うことで他を牽制していたようで、やっぱり優しいヤツでもあった。
たまにおれの反応を確認していたし、タイヨウの海賊団全体的がおれ達に友好的になったら、彼は突っかかることもしなくなった。
「この広い海で今度会えたら、また宴をしよう。別のお酒を用意しておくからさ」
ニッコリと意識して笑う。去り際も笑顔でいれば、変に気にさせることもないだろう。
「──ヘーマ、こっちに来い」
軽く手を振って今度こそ退出しようとノブに触れたとき、タイガーさんがおれを呼んだ。手招く彼に近づいて、一・二メートルほど離れた位置でおれは立ち止まる。
「ありがとうよ、あいつらに黙っていてくれて」
「……」
距離を詰めようとしないおれにタイガーさんは苦笑すると、礼を言った。彼が言っているのはおれが彼の過去──おそらく天竜人の所有物だったことを察したことだろう。
別に感謝されることではない。友だち相手に言いふらすようなことじゃあないし。
「……おれも理性では人間にも良い奴がいるとはわかってんだ。だが、どうしても感情が拒む」
タイガーさんの顔は強ばり、目を伏せる。
「人間が憎い。これはおそらく一生変わらねェ。
リュウグウ王国の王妃様はな、人間とわかり合えると主張されているが……おれには到底、受け入れることが出来ねェ。
どれほど時間が経っても、おれが息をしている限りは憎み続けるだろうと確信して……いた」
あれ、とおれは疑問を覚えた。『いた』……どうして過去形なんだろう?
「だけどよ、ヘーマ。お前らだけはどうやら別枠みたいでな」
「あ……」
彼の身体はとても大きいから、離れていても楽々おれに腕が届いた。そうして、ぎこちなくおれの頭を撫でる。
「この国に来てからずっと、おれ達に被害が来ないように立ち回っていただろう。
ソルをおれ達に付けて、強引な手を使いそうな相手からはお前自身を囮にして。お前自身、余裕があったわけじゃねェってのに」
だってエレジア国民の強引さは身を以て知っているから、慣れてないタイヨウの海賊団にはあしらうのが厳しいと思ったから。
仲良くしたい相手だから、ちょっと頑張っただけだ。とても気疲れしているはずだから、なるべく彼等が休めるように、と。
「こんなにおれ達を守るのに必死になるような人間を、嫌いなままでいられねェよ」
「……!」
別に好かれようとなんて思ってなかった。むしろ気に障らないように近づかないでいた。でも離れているおれに魚人のみんなは声を掛けてくれて、輪に入れと誘ってくれた。
タイガーさんの手は微かに震えている。こんな子どものおれにまで荒ぶる感情を抱えて、それでもなんとか前に進もうとしている。
やっぱり、おれは彼等が大好きだ。
「おれと、友だちになってくれますか……!」
「勿論だ……ずっと気を遣わせて悪かったなァ」
「ずびっ……いいよ、役に立てたなら良かった」
「目を擦るな、人間はおれ達よりずっと肌が弱いんだからよ」
滲む視界にぐしぐしと目を拭おうとすれば、大きな手で腕を取られた。タイガーさんはそっと近くにあった布でおれの目を覆い、涙を拭ってくれるのだった。
扉を閉めて階段を上がると、ソルが壁にもたれて座っていた。目を閉じていたがおれが近づくとこちらを見た。
そしてニンッと笑う。
「よかったじゃねェか」
「────うん!」
***
「ヘ~マァ~~、ホントに行っちまうのかよ~~!」
「寂しいじゃね~かよ~~!」
「もうちょっと一緒に居てもいいだろ~~!」
「引き留めるんじゃねェよ、お前ら」
「お頭~~!」
「だってよ~~!」
次の日、おれは港でぎゅうぎゅうと六本の腕に締め上げられていた。はっちゃんに抱きしめられているとも言うが、力がかなり込められているので、締め上げるの方が正しい。
「また絶対会いに来るから、な? そんなに泣かないではっちゃんもマクロも」
「ヘ~~マ~~~!」
う、更に強くなった。
ピットリと頬が彼の胸元にくっついて潰れる。武装色で強化してなかったらきっとおれは頬だけじゃなくて物理的に潰れてたな。
ドバドバ涙を流しているはっちゃんとフクロウナギの魚人のマクロに声を掛けたことを少しばかり悔いつつ、おれはされるがままとなっていた。
ソル、ソル、助けて。笑ってないで助けて。
「まったく、どちらがガキなんだかわからんのう」
「おいハチ、いい加減にヘーマを放せ。出発出来ねェだろうが」
笑っているジンベエさんと対照的に、呆れ半分苛立ち半分のアーロンがおれからはっちゃんをひきはがした。助かる。
「また会おうぜ、ヘーマ。達者でな」
「うん、タイガーさんも。何かあったらいつでも連絡してね。飛んでいくから」
「はは、そりゃあ心強いな」
ものすごく大きいタイガーさんの人差し指を掴んで握手する。
「元気でな~~!」
「ちゃんとメシ食えよ~~!」
「親戚のおじさんかよ」
「おまえ食わねぇもんな」
船の上で元気に手を振る彼等に思わずツッコむ。みんながよく食べるだけだっての。
おれはソルと並んで段々と小さくなっていく船を見送った。
「それじゃ、おれ達も行くよ」
「そうか……」
すっかり船影がなくなったあと、傍に立つシャンクスさんを見上げて出発を伝える。彼はおれの言葉に鷹揚に頷いていた……が。
「ねぇシャンクスさん、伸びるからおれの服掴まないでくれる?」
「……もうちょっと居てもいいだろ!」
「デジャビュはいらないんだけど」
「おー、随分がっちり掴んでんな」
「なにやってんだお頭」
なんかシャンクスさんがゴネ始めた。ソルと別れたくないからって何言ってんだこの人は。拘束しやすいおれに絡むあたり確信犯だろ……いや、初対面からまだ交流の浅いってことになっているソルに、直接言えないだけか?
名前を最初に呼んでるんだから、昔に何処かで会ったでいいだろうに。二人の間になんかあるのはバレてるだろうし。
「ほら、シャンクスさんしゃがんでー。はい、ギューッ」
「……ん」
「今度来るときは美味しいものいっぱい持ってくるからさ、また宴しよう。今度はソルも一緒に」
「おう、そんときは飲み比べでもしようぜ」
「……わかった、楽しみにしてる」
まったく、わりと寂しがりなこの人はよく平気な振りをするのに、行動に出るなんて珍しいことだ。
ソルに会ったことで船長としてのシャンクスさんよりも、海賊王の元クルーとしての彼が出てきているのかもしれない。
しぶしぶ、本当にしぶしぶおれの服を離したシャンクスさんを、木箱に隠れて彼の仲間がこっそり笑っていた。
「おいおいお頭、ヘーマに子守されてんぞ」
「ギャハハッ! どっちが子どもなんだかわかんねェな!」
「しーっ、ルウ声デケェよ……!」
「……聞こえてんぞお前らァ!!」
「ヤッベ、こっち来たァ!?」
あ、凄い勢いで向かっていったシャンクスさんに逃げてるルウさんが捕まった。体格のせいでヘッドロックが仰け反る形できまってるからきっと苦しい。腕をバシバシタップしてるもん。
「ベックさんも」
「……………………ハァ」
「けっこう溜めたね」
「こうすりゃいいのか」
「! ベックさん!」
仲間のじゃれ合いを笑って見ていたベックさんの前で両手を広げて待機してみれば、沈黙の後に息を吐き出して膝をついてしゃがんでくれた。
おお、ベックさんに初めて拒否されなかった……!
おれは喜びながら勢いよくベックさんの首に抱きつく。……ビクともしない筋肉羨ましい。
「今度はまた絵を描かせてね」
「ああ、男前に頼む」
ベックさんの後も次々とみんなにも挨拶していった。大人組を全員終わらせて、くるりと辺りを見回すと、ホンゴウさんの後ろに隠れる小さい人影を見つけた。何してるんだろう。
「ウタ」
「う、うん」
声を掛ければおずおずと前に出てきたが、緊張気味の彼女に内心苦笑する。意識してくれるのはとっても嬉しいが、おれとしては見送りは笑顔の方がいいな。
「今度はルフィ達の手紙も持ってくるよ」
「えっ、本当?」
「短いかもしれないけど、そこは勘弁な?」
「ううん、貰えるだけでうれしいよ!」
兄弟の話に水を向けてみれば、ぱっと明るい表情になったウタが、おれに飛びついてきた。勢いがいい。
ハグといつもの挨拶が終わった後、おれは彼女の頬にちゅ、とキスをおとす。
「……え?」
「「「ああ~~~!?」」」
「またな、ウタ」
ニカッと歯を見せるように笑って、おれはチェーロ・リベルタ号に飛び乗った。
「じゃあねみんな!」
「わっはっはっ!」
ピーコが羽ばたき、チェーロ・リベルタ号のスピードが上がっていく。
「このマセガキィ~~!」
「どこでこんなの覚えてきやがった~~!」
陸地でなにやら叫んでいるが、おれには何も聞こえません。
「スケコマシ~~!」
「誰がスケコマシだっ!?」
聞き捨てならない単語に思わず振り向いて叫んだ。その呼称は断固として拒否するぞ、誰が女性に目のない誰でも口説く女ったらしだ。
振り向いた先には笑って手を振るみんながいたため、揶揄われたのだと理解して苦笑して手を振り返した。
島が見えなくなるまでしばらく飛行を続けた後、おれは隣の席に座るソルに声を掛ける。
「なあ、ソル」
「なんだ?」
「ソルの正体のこと、おじい様に話す?」
「……そうだなァ」
ソルはおじい様とも古い付き合いのようだし、シャンクスさんにはバレたからあと数人くらいは話しても良いだろう。そう判断したからこそ、おれはソルに希望を尋ねたんだが。
「高い確率で殺し合いになるかもしれねェが、いいか?」
「なんでそれでおれがOK出すと思った!?」
想像の何倍もバイオレンスだったよ! なに、そんなにおじい様と仲悪かったの!?