予想外のサボとの出会いに驚いたおれだが、全ての治療が終わった後に戻ってきたお父様に頭を下げて、おれとソルは後から合流させてほしいと願い出た。
するとお父様は二つ返事でOKを出した。即答におれが唖然とすると、お父様は既におじい様に話を通していて、元より許可するつもりだったらしい。
弟の話を聞いてやれよいって笑うお父様……世界一カッコいいと思う。好き。
「なあ、ヘーマ……そっちの奴って」
「うん」
用意して貰ったテントの中で、早速もの言いたげにソルを指差すサボに向かって、おれは口の前に指を一本立てた。
サボはエースと五歳の頃から親友だったようだから、おれが何も言わずとも気付くとは思っていた。でもここでは話せない。当然だけど見聞色で聞かれているからな。
「詳しくは言えない。でも関係者なのは肯定するよ」
「わかった。おれはサボ、よろしく」
「おう、よろしく! おれはソルって呼ばれてる。偽名だけどな!」
「偽名なのかよっ!」
息子の親友兼兄弟を前にソルの機嫌はとても良い。そっか、幽霊の時にエースの傍にいたのならサボも一緒に見守っていたんだろう。ソルにとって甥っ子あたりの感覚なのかな。
「ソルは白ひげ海賊団って訳じゃないけど、一緒に旅をしているんだ」
「へぇ」
「サボはどうしてリーダーさん達と一緒にいるんだ?」
おれはコルボ山で弟達に海の怖さを白ひげ海賊団の皆から聞いた実例込みで教えてきた。だからこそ知識も未熟で身体の出来上がっていない子どものうちに、彼らが海に出ようなんてするはずが無い。
なら、それを覆す理由は『海に出ないと危険だったから』だろう。
サボはおれが治したばかりの怪我をしていた頭に手を当てた。
「最初はおれが父親に見つかったことが切っ掛けだった」
***
『サボ!? サボじゃないか! 待ちなさい!』
『……!』
街の中でエースとルフィと逃げている途中、何故か中心街にいた父親に声を掛けられた。
その場は父親を無視して通り過ぎたサボだったが、三人の家まで辿り着いた後にエースとルフィから問い詰められることになった。
『貴族の息子!?』
『誰が!?』
『おれだよ!』
『『へー、で?』』
『お前らが質問したんだろ! 急に興味無くすな!』
貴族に生まれたこと、優秀な跡継ぎとしての能力以外は必要とされなかったこと……親がいてもひとりだったこと。サボが素直に自身の生い立ちを話せば二人は納得していた。
拒絶されなかったことに安堵しつつ、続けてサボは自身の懸念を告げた。
『次にグレイターミナルに行くとき、おれは単独行動をする』
『えっ、なんでだ?』
『今日の様子でわかった、アイツは“子ども”を諦めてない。おれのできの悪さを知っているくせに、どういう理由かわかんねェけどな』
案外、目的のために動く子どもが多ければいいとでも思っているのかもしれない。とっくに新しい子どもが──自分の弟か妹かわからないが──いるだろうと思っていたサボは、やっぱり思考が合わないなと顔を顰めた。
『どういう方法であれ、アイツはおれを捕まえようとするはず。だからあえておれはそのまま捕まってみる』
『ぶっ倒せばいいだろ』
『様子見をするって言ってんだよ。ついでに貴族にしか広まってない情報も盗ってくるんだ、やる価値はあるさ』
サボが高町にいたのは五年も前だ。以前は家の書斎なんか寄り付きもしなかったが、今なら理解できる内容が増えているかもしれない。
いくつか本を持ち出ししてもいいしな、とサボが軽い口調で言うが、エースは仏頂面のままだ。
『おれ達は強い。最近はじいさんにも鍛えて貰ってる……でも数に押されればまだ負ける』
サボの父親は貴族だ。家に兵として雇われた者達以外にも、端町のごろつきを雇える財力は十分ある。一対一では負けないと自負するが、四方を囲まれて切り抜ける程の突破力はない。
エースは自分を心配しているのだとサボは理解している。下手をすれば監禁されて戻ってこれない可能性はある。家の体裁を気にするアイツラなら、監禁したままにはしないはずなので、サボはそこまで気にしていない。
仕方ないなとさみしがり屋の兄弟に笑って見せた。
『頭を使わなきゃ強くなれねェ、わかるだろ。情報が必要なんだ』
『……三日だ、三日経ったら戻れよ』
『そんなすぐ終わるかよ、二週間だ』
『五日』
『十二日』
間を取って一週間とし、サボはグレイターミナルで単独行動をし、父親と雇われた海賊のブルージャム一味に拘束されたのだった。
そしてその様子をエースとルフィは身を潜めて見ていた。
──見ていたからこそ海賊達の会話を聞き逃さなかった。
『予定は一週間後だ、それまでに指定の場所へ置く荷物を準備しろ』
『いいか、絶対に衝撃を与えるんじゃねェぞ……死にたくなけりゃな』
大人しくサボが付いていったためか、貴族の護衛を部下に任せて船長のブルージャムはその場に残り、同じく残った部下達に何やら指示をしている。
海賊達の姿が瓦礫の向こうに消えた後、エースとルフィは物陰から顔をひょっこりと出した。
『……キナくせェな、衝撃を与えちゃマズイもんだと?』
『んー、ツボが割れるとかか?』
『それで済めばいいけどな、アイツラの言い方だともっとヤベェもんだろ。ルフィ、一度戻るぞ』
『おう』
一方、屋敷に連れ戻されたサボは両親に手配された家庭教師の授業の合間に、書庫で情報を漁っていた。
従順にしていたためか、はたまたヘーマの所作を真似たためか、両親はグレイターミナルにそぐわない上品さを持ったサボが、自ら家を出たという選択肢を消したようだった。犯罪に巻き込まれた息子として、社交の場で貴族達へ話をしているらしい。
部屋に監禁されるより都合がよいので、サボは何も否定せずにいた。
本の読み方、学び方はヘーマに教わっていたため、以前よりは本の内容が頭に入る。そういえばヘーマはいつも何かを新しく教えるときは、サボ達をその気にさせてから始めていたことを思い出す。
前にこの屋敷で生きてきた時は、本当に興味がなかったのになと、サボは昔見たことがある本を手に取り、へへ、と笑いをこぼした。
それに戻れば少しは両親に情が湧くかと思っていたが、既に後継者として養子を取っていることを知り、やはりここは自分が生きる場所では無いとサボは確信した。
『勉強熱心だなお兄様』
『ステリー』
夕食後の自由時間に出来るだけ知識を頭に入れて帰ろうと、頭に叩き込んでいるサボに、義弟──ステリーが声を掛けてきた。
当初は蔑視していることを隠しもしなかった義弟は、日を重ねるにつれ何とも言えない視線を向けてくるようになった。なんでこれで落ちこぼれなんだと顔に書いてあるため、サボは何度も噴き出しそうになるのに耐える羽目となった。
勉強の仕方がわからなかったからだと、わざわざ伝えはしなかったが。何も言わない方が勝手に想像して納得してくれる人間もいると、サボはこの数日の生活で理解した。
『本当に当主になるつもりは無いんだな?』
『無いって言ってるだろ、しつこいぞ』
そして、この質問を何度も繰り返した。質問の度に段々焦りを隠せないようになった義弟に、サボははてと疑問に思う。この義弟は相当腹黒だ、両親には完璧に擬態できているというのに、サボを前にして態度を取り繕えない程動揺しているのは何故なのか。
まさか、とサボは表情を動かさないように気を付けながら、おそるおそる義弟に尋ねる。
『何か、言われたのか?』
『……父様が、思ったよりお兄様が優秀だから、このまま育てばおれを補佐にするのもいいなって』
サボは顔を引き攣らせた。ありがた迷惑とはこのことか、アイツラは本当に余計なことしか言わないと内心で吐き捨てた。
彼は随分と落ち込んでいる少年を見下ろす。ちらりと周囲に人影が無いことを確認して、サボはステリーを手招きした。
『おれは三日後にこの家を出る』
『え』
怪訝な顔をしながら近寄ってきた少年に小声で告げると、ステリーは目を見開いた。
『元々わざと捕まったんだ、放置するとグレイターミナルの被害がデカくなりそうだったからな。だからおれが当主になることはあり得ない。跡継ぎはステリーだ』
『な、なんでわざわざゴミの中に戻るんだよ』
養子になれたステリーには、貴族を辞めようとしているサボは理解不能な存在だった。ゴミ山には整頓された住居も、清潔な衣服も、安全な食料さえない。綺麗な空気すら存在しないのに、なぜ戻ろうとするのかサボの思考が異様だった。
『ここはおれの生きる場所じゃない』
義弟の視線に、サボは困ったように笑った。この家は、この高町は息苦しい。このまま過ごしていけば、息苦しさに耐えきれず適応しようとすれば、今のおれではない嫌なモノになってしまうだろう。
そしてサボとは反対に、目の前の義弟はここでしか生きられないのだろう。初日の挨拶を受けた後、両親に育児放棄されたと聞いた。自身の居場所を得ようとする気持ちはよくわかるつもりだった。
ステリーはじっと義兄を見つめた。当主争いにならないのなら、ステリーがサボに敵対する必要は無い。ならば、この相互理解出来そうに無い義兄に向けて、ひとつくらい手土産を持たせてもいいと思えた。
両親にサボには話すなと言われていた件のことを。
『──五日後、この国に天竜人が来訪する』
『天竜人が……?』
『世界政府の視察団だよ。東の海を回っていて、次がこのゴア王国なんだ』
この国の王族や貴族は天竜人に憧れている。だからこそ今回の天竜人を歓迎するにあたって全力を尽くそうとした。
『王族達は少しでも気に入られようと、この国の汚点を全部焼き尽くすことにしたんだ。その燃えるゴミの日が三日後の夜』
『おい、待て……それは住人諸共か!?』
『声がデカい! ……言ったろ、この国の汚点は全部燃やすって』
サボは愕然とした。今まで何度も両親の貴族以外を見下す発言を耳にしてきた。だがそれはあくまで身分としてであり、ゴミ山の住人はお世辞にも清潔とは言えないため、慣れない貴族が嫌悪するのもわからなくないと思っていた。
まさか、人間扱いすらしていないとは思わなかった。
『おれには到底理解できないが、お兄様がゴミの中に戻るならそれ以降にした方が──』
『いや、もう戻る』
『はあっ!?』
『今じゃないと助けることもできない』
窓に近づいて開く。今が夜で良かった、見咎められる可能性が減る。
『じゃあな、ステリー。教えてくれてありがとう、元気でな』
『おい、ここ何階だと……!?』
窓枠に足を掛け、軽やかに飛び出した義兄が難なく着地する姿を見て、ステリーは唖然とした後窓をそっと閉めた。なんだあれ、どうしてあの高さで足を傷めていないんだ……いや、おれは何も見ていない。
屋根の上を飛び移りながら、サボは本日の仮宿の場所を探す。あの状況でステリーが嘘をついたとは思えないが、情報の裏付けを取らなくては。
『エース、ルフィ……この国は、貴族と王族はおれ達が思う以上に腐ってた……!』
時は数日前に戻る。一旦コルボ山に帰ってきたエースとルフィは、ダダン達の家に上がり込んでいた。
『衝撃を与えたらマズイもんねェ……』
『そりゃ爆弾じゃニーか?』
『爆弾!?』
『ああ』
十年と七年しか生きていない自分達より、何か思いつくものがあるのではと相談をしに来たのだった。
厄介事かと嫌そうな顔をしていた山賊達だったが、二人の話を聞いて考え込み答える。
『ツボじゃねェのか? このまえぶつかったら割れたぞ』
『アレお前らの仕業かよっ! それだと割れるのがマズイだけだろ。命に関わるってんなら爆弾……もしくは毒ガスか』
どちらにしろ碌な結果にはならねェ、とダダンは顔を顰めた。
『サボを捕まえたのはブルージャム海賊団だったか、アイツラにとってもグレイターミナルは稼ぎの場所、そんな所にそんなもんを置く……この国から離れるつもりかもな』
それにしてもゴミと不健康な人間しかいないグレイターミナルより、中心街や高町に火を放った方がよっぽど金目の物が集まるだろう。
『お頭もしかしたら、天竜人が来るからかもしれニー』
『この国にかよ!?』
『テンリュービト?』
ドグラの声に考え込んでいたダダンが驚き、知らない単語にルフィは首を傾げた。口にはしなかったがエースも首を傾げている。
『この世で一番腐った連中さ、あのガープすら嫌悪する程のね』
『ガープさんが中将から昇進しない理由は、大将だと天竜人の護衛の任務があるからってまーまーウワサだ』
あの老人は自身の感情を素直に口にするため、天竜人の前でも普通に罵るだろうことは想像に難くない。
『おそらくだが、ヘーマの手配書も天竜人が海軍に手を回してる。……
『いったい何に巻き込まれれば、三億も懸賞金が付くんでしょうねェ』
どういう目的で
『で、なんでその天竜人が来ることがブルージャム達がヤバイもんを置いて回る事になる?』
『ゴア王国は東の海で最も美しい国だと言われてんだ。なのにグレイターミナルっつーゴミ捨て場がある』
『おいまさか』
『ブルージャムは貴族と裏で繋がってる。後ろ暗い依頼を受けるためにな。なら、これもそうなんじゃニーか?
全部、全部燃やすつもりじゃニーか、そこに居る人間ごと……!』
その言葉に全員が息をのんだ。確定していない、あくまで想像上であるとはいえ、やりかねないと思う程度にはゴア王国への負の信頼があった。
『他国からは住人の性根なんつーもんはわからねェとはいえ……よくもまあ、美しいと自称できるもんだぜ』
吐き捨てたダダンの言葉に山賊達はうんうんと同意し頷く。
『サボは高町で情報を取るつもりなんだっけか』
『ああ。サボの持ってきた情報でこの件は確定するだろ。それまでおれ達にできることはねェ』
『えっ、アイツラが爆弾を置くのを邪魔しねェのか?』
ルフィはどうして危ない物をどかさないのかと疑問を口にする。それにダダンもエースも首を横に振った。
『グレイターミナルが燃えるのは防げねェよ』
『そうでしょうねェ。国の威信を懸けて必ず実行されるでしょう』
『それに爆弾を奪ったとしても、アタシ達には使えないようにする知識はねェ。下手すりゃここで爆発しちまう』
天竜人の来訪は確定したこと。それまでに実行するつもりなら、邪魔をする者は軍を使ってでも排除するだろう。
どれ程腐っていようが相手は国、一介の山賊が標的になればひとたまりも無い。
『だからなにか出来るとしたら、火が出た後だ』
そして四日後、サボがコルボ山に戻ってきた。
『──高町の奴らも知っていた、ただ貴族以外には漏らさないように注意を受けたんだ』
『どうりで中心街の住人は全く知らねェはずだ』
サボは高町でステリーからの情報の下取りをした後、他の住人にも聞き取りを行っていた。するとグレイターミナルに近い端町はもちろん、中心街の住人も貴族達の予定を知らなかった。
同じく情報収集をしていたエースは、突き合わせできた情報に顔を顰める。
『だが、おれ達に打てる手は殆どねェ』
『燃やされることを知ってるおれ達が犯人にされちまうだろうな』
壁の内側の住人は貴族以外知らないことが前提、知っているとすれば犯人だけだ。国やブルージャム達に耳にでもされれば、あっという間にこちらが元凶とされるだろう。
そこでだ、とサボは指を二本立てた。
『だから動くのは当日、二日後だ! できる限り噂を広めるのと避難経路を設定する』
森に逃げ込めば生木に火は移りにくい。乾燥した物の多いグレイターミナル内よりは生存率は高いはずだとサボは言った。
『ハッキリ言って、グレイターミナルの住人は鼻つまみ者が多い。でもおれは、それでもゴミのように燃やされるのが当然だなんて思えない』
『ああ』
『おれ達だって、人間だ……!』
いつも何処かで何かが燃えているせいで、ガスを吸って肺を病んだやつは多いし、躊躇なく誰かを刃物で刺すやつもいれば、ようやく得た稼ぎを盗むやつもいる。
それでも、生きている。病気になっても医者にかかれる中心街の住人と同じように、清潔な衣服と安全な食料を大量に得て、破棄している高町や王宮の住人と同じく。
『できる限りのことはやろう』
『……は~、仕方ねェな。ガキばかりだと何やらかすか不安でしょうがねェ』
『お頭!』
『おい紙を持ってきな、デカイやつだ!』
紙をテープでくっつけて大きい紙を作成しているダダン達の姿を、エースは無表情で見ていた。作業に加わりながらもサボはちらりとその様子を横目で見て、眉を潜めた。
その夜。エースはひとり海が見える崖に腰を掛けていた。月明かりに照らされた世界で見えるものは星の瞬く空と黒い海だけで、聞こえるのは強い風の音と波の音、そして虫の声のみ。
昼間の何処か透き通った景色とは逆の、大部分が暗色のみで構成された光景は、それでもエースには美しく映った。
『まだ起きてんのかエース』
『サボ』
『眠れねェのか』
『まあ……そうだな』
背後から掛けられた兄弟の声にエースは顔だけ振り向いた。
起きていたのか、または起こしてしまったのか。なんとなくエースは前者だろうなと考えた。サボは優しい奴だから。
『嫌か、他人を助けるのは』
『……』
だからこそ、彼に尋ねられる言葉もエースには想定できるものだった。
嫌、なのだろうか。エースは目を伏せ、内心でサボの言葉を反芻した。
エースにとって、正直に言えば大事な人間以外はどうでもいいことだ。だからこそ盗みをしてきたし食い逃げだってやっていた。育ての親であるダダン達の教えが、そういうものだったということもあるが。
『……散々』
だが、それ以外にも理由があるとしたら。
『グレイターミナルの連中にも、中心街の奴らにも……クソオヤジの偏見まみれな噂を吹き込まれてきた』
『まあ、そうだな』
『シャンクスから身内視点の海賊王について聞いても、それがおれになんの関係があんのかって気持ちの方が強ェ』
どんなに優しい一面があったとしても、結果的に海賊王は関係の無い奴らが大量に死ぬ原因になった。
『世界に悪名の轟く犯罪者から生まれて、山賊に育てられた。なら、おれだってグレイターミナルの奴らとなにも変わらねェロクデナシだ』
懸賞金こそ懸けられていないが、生まれたときから……いや生まれる前から手配書を配られてるのが自分であると、エースは幼い頃から自覚している。
世界的に見れば、グレイターミナルの住人よりもよっぽど犯罪者であろう。
『でもよ』
海賊は、仲間を裏切らない。なら、仲間以外を見捨てても、流儀としては間違ってはいない。
『ここであいつらを見捨てた方が、もっとダメになる気がする』
ブルージャム海賊団のような一般的な海賊の姿を、今まで強いと思っていたそれを成りたい姿だとは、エースにはもう思えなかった。
代わりに頭に浮かぶものは、初対面の兄の姿。見知らぬエース達に手を差し伸べた、お人よしの綺麗な笑顔。
『ヘーマに、兄貴に顔向けできねェなにかになって、戻ってこれなくなる気がする』
『エース……』
兄ならきっと見捨てない。とんでもない方法で全員助けてしまうだろう。だが、今ここにはヘーマはいない、そして動けるのはエース達だけだ。
だからこそ。
『頑張ろうぜ、兄弟』
『……おう!』
エースはグッと拳を握りサボにつき出す。いつになく柔らかい笑顔を見せた兄弟に、サボも歯を見せて笑って拳を合わせた。