目が覚めて羞恥に悶えるしかないヘーマ君推定八歳です。
どうしよう、恥ずかしくて布団から出られそうにない。みんなの前で大泣きした挙げ句寝落ちするとか子どもかおれは。いや子どもだけども。
窓から見える景色はすでに暗くなっているため、数時間は眠っていたと思われる。つまり、おれの醜態は船全体に広まっている可能性がとても高い。いっそ記憶を消させろ……!
ベッドでぐずるおれにピクテルがせっせと世話を焼き、着替えさせる。どうしてお前はおれをこのベッドから引きずり出そうとするんだ。
──え、早く絵を描きたい?
無くしてしまったスケッチブックは、ピクテルも一緒に描いている一冊だった。無くしたことは悲しいし、でも新しく描きたいからおれを急かしているらしい。
ん、そうだな。お前がおれを置いて絵を描きに行かなかったことには感動するし、新しく描きたい気持ちもよくわかる。切り替えって重要だとは理解している。
でもな、おれの羞恥心は無視しないでほしい、って実力行使はやめよう!?
ピクテルに腕を掴まれ、扉に向かって引きずられるおれ。八歳ボディの軽さが口惜しい、抵抗の甲斐無く部屋の外に出されたおれは、そこにあった壁にぶつかった。どうして扉の前に壁が?
「起きたかよい」
落ちてきた声にそうっと見上げると、微笑んでいるマルコさん。……微笑んでいるマルコさん?
挙動不審になったおれを気にせず、マルコさんはひょいとおれを抱え上げた。おれは歩けますけど何故ですか。
「もうすっかり夕食の時間でねぃ。今日はデッキで食うから外にいくぞ」
「デッキで、ってなんで」
「バーベキュー用の肉が大量に手に入ったからなァ」
なるほど、あの海牛の胴体部分を海から引き揚げていたらしい。大量すぎて冷蔵庫が空いていないから、それならできる限り食べてしまおうってなったようだ。
やっぱり肉扱いなのかあの生き物。どんな味なのか気になってソワソワし始めたおれを、喉で笑って抱えたままマルコさんは歩き出した。わーい、降ろしてくれなーい。たすけて。
「おっ、起きたかヘーマ」
山盛りの肉が載った大皿を持ったサッチさんが、近寄ってきたおれたちに気付いて振り返った。サッチさん達コックメンバーの傍にはいくつもの大型のバーベキューコンロが並び、肉や野菜を串に刺して焼いている。
その向こうではすでに食とお酒が進んで盛り上がっているようだ。なんか一発芸してる人もいる。
「ほらよ、これ持ってオヤジのところに行ってこい」
「船長さんの分ですか?」
「お前とマルコの分だ。おかわりは取りに来いよ」
「ありがとよい」
マルコさんが受け取った大きめの皿には、長い串に美味しそうに焼けた肉と野菜が刺さっているものが、五本のっている。具が大きいからおれは一本でお腹いっぱいになるだろうな。
船長さんの元にドナられるのは、昼間の説教だったりするんだろうか。おれが大泣きしたせいで詰問はされても叱られてないし。逃げだそうにもマルコさんはがっちりおれを抱えているし、肉が載った皿を持っているから暴れると落とすし……うん、諦めよう。
後で聞いた話では、このときのおれはひどく穏やかな微笑を浮かべていたらしい。
* * *
ねぇ、みんな。いまおれはどこにいると思う?
答えはね、船長さんの膝の上です。
船長さんの指示でマルコさんがおれをそこに乗せました。肉串が一本載った皿を持たされているので、降りることもできません。皿を傾けたら船長さんのズボンが汚れる。
まずは冷めないうちに食えとのことで、モグモグ咀嚼しているのだけど、上の方からじっと見下ろす視線を感じてちょっとだけ味がわからない。たぶん美味しいのはわかるけど。
マルコさんも船長さんの隣に座って食事中だ。おれのヘルプの視線を完全無視している。あっ、お酒まで飲み始めたな、ずるい。
「ちび。随分と無茶したらしいな」
「無茶……はい、無茶しました」
食べ終わったのを見計らって、船長さんは声を掛けてきた。現時点のおれの実力で、あの質量に立ち向かうのは無茶としか言い様がない。完全にノリだった。そこは反省しているので素直に頷く。
「形がデカくなるやつの負担はどれくらいだ」
「あれは、スケッチブックから物を出すときと違って、負担はないです。キャンバスひとつ作るのに時間はかかりますけど」
「ならちょっとデカくなってみろ」
おれも見てェ、とニヤリと笑う船長さん。おっと、これは説教ではなくてどっちかというと宴の余興的なやつだな?
仮面を外したピクテルがおれの姿を成人のものへ変え、おれの隣に同じように腰掛ける。まるで対照的な双子に見えるだろうおれたちに、船長さんは面白そうに目を細めた。
「仮面の下はそっくりじゃねェか。そのスタンドってのがちびの分身って意味がようやくわかったぜ」
「ピクテルは女の子ですけどね」
「グラララ……人の顔ってのは角度によって見える表情は違うもんだ。ちびの顔にもそういう面があっただけだろう……気にすることじゃねェ」
……おれ、顔赤くなってないかな?
知ってた、薄々気付いてた。船長さんのそういう威力が強いだなんてわかってた。
おれをゴリゴリ攻略していくマルコさんたちが、揃いも揃って慕う人だぞ。大分想定より威力が高かったけれども!
これは漫画で人気キャラ確定だろ。絶対カッコいい登場シーンとかありそう。くそ、おれも読みたかった!
スタンドについての誤解というか、本体に似ている方が珍しいということは、混乱するだろうし黙っておこう。
あっ、やめてピクテル。船長さんの首に抱きついた挙げ句、頬にキスしないで。おれの内心がダダ漏れしちゃうだろ、戻ってこいお願いだから!
「美女のキスだなんて羨ましいぞオヤジ!」
「グララララ、役得だなァ!」
戻ってきたピクテルを膝にのせて、ぎゅむと抱きしめてこれ以上の行動を縛る。
船長さんが笑ってくれたからいいけど、ピクテルが首に抱きついた一瞬、場がピリッとした。おれはなるべく物理的に船長さんに近づかないようにしていたのに、刺激しないでくれピクテル。
こくりと頷いた彼女は、おれの頬にキスした。この癖直ってないのかよ。おれもしろって、はいはいわかったわかった。
「そう並んでいると、本当に双子みたいだよい」
「仮面を外せば、能力者以外のおれたちにも見えるんだなァ」
マルコさんと酒片手に寄ってきたイゾウさんがまじまじとおれたちを眺める。たしかに、前世ではスタンド使いにしかピクテルは見えなかったから、こんな大人数に認識されることなんてなかった。
今のおれはピクテルと同じ緑の瞳だから、違うのは性別と髪の色だけだ。これなら同じような格好をしてカツラを被れば、どっちがおれでしょうクイズができるかもしれない。
……ピクテルお前なんでいま拳を手のひらに打ち付けた?
嫌な予感に腕の中のピクテルを見下ろせば、ぐるんと回る視界。それがクリアになった時には、ピクテルの犯行は完了していた。先ほどとはサイズダウンした身体と、長くてウェーブのかかった黒髪。臙脂色のクラシックドレスとショートブーツ。
見事に双子コーデされたおれ、誕生。満足げにやりきった顔しないでピクテルお前ぇぇぇ!!
「とんでもない美女だ」
「ヘーマは女の子だったか……?」
「今も昔も男です! これは格好だけ! いいか! おれは! お・と・こ・だ!!」
「……ピクテル、もうそれくらいにしてやれよい。ヘーマくらいの年頃にゃ酷だ」
嬉しそうなピクテルに背後から首に抱きつかれながら、困惑でざわつく声に全力で否定する。マルコさんのたしなめる声にピクテルは素直に従い、おれは本来のサイズに戻った。もう仮面に戻っているから、本当にやめたんだろう。なんかとてもつかれた。
お疲れさまとばかりに頭を撫でる手についすり寄る。ピタリと手が止まりナデナデタイムは終わりかと目だけで見上げると、何故か身動きせずに固まっているマルコさんと視線が合い、その後グシャグシャと髪をかき混ぜるように撫でられた。
急に荒っぽい……てか長い!
「やめてよお父様」
撫でる手をはね除けようとして、口走った言葉にバチン、とおれは手のひらで口を塞ぐ。勢いつけすぎてジンジンと痛いが、血の気が引いて冷えた顔には丁度良いかもしれない。
グシャグシャと乱暴に頭を撫でるような人物に心当たりはない。前世ではおれを子ども扱いする人間は、総じて優しく撫でていた。前々世では性別が女だったからか、優しく撫でられるばかりだった。
乱雑に頭を撫でる対応をするとしたら、今生の、記憶にない──お父様と呼んでいた、誰かしか。
────。
「お父様でいい」
言葉を抑えようとするあまり、呼吸すら止めていたことに気付いたのは、抱きしめられた後だった。
おれはいつの間にかマルコさんの胸に右耳を当てる体勢になっていて、ドクドクと動く心臓の音が大きく聞こえてくる。
「マルコ、さ」
「おまえのお父様はおれだよい」
いったい何を言っているんだと、おれは混乱しきりだった。マルコさんはおれの恩人だ。二度も命を救われて、その後もなにかと気に掛けてもらっている。
他の人よりもだいぶ懐いているのは自覚しているし、そんな彼に父性を感じなかったわけじゃない。でも、父親になってほしいとまでは望んでいなかった。
「もうおまえの記憶に残ってねェ、おまえを傷つけたどこかのクソ野郎じゃなくて、このおれだよい」
頭を撫でられる。温かい腕に抱きしめられる。この船に乗ってから、たくさん与えられるようになったこの二つは、あまりにも心地良すぎて、いとも簡単におれから抵抗する意志を奪った。
上書きするようにマルコさんから与えられる言葉が、カラカラになっていた小さなおれに染みこんでいく。みるみるうちにぼやけて歪む視界で、船長さんが柔らかく目を細めた。
「おまえのお父様はおれ以外いねェ……いいな、ヘーマ?」
「──ゔん!」
「仕切り直しが必要だな」
成り行きを見守っていた船長さんがニヤリと笑う。
「マルコに息子と……! ──おれに孫ができた祝いだァ!」
「はっ! そうか、おれたちにとっては甥か!」
「甥っ子ができたぞー!」
船長さんの声に酒が入っている男たちが思い至った、というような表情を浮かべている。
まご、そっか。マルコさんがお父様なら、そのオヤジである船長さんはおじい様か。
「──新しい家族に」
「新しい家族に!」
それぞれ自分の木製ジョッキを掲げる。おれもそっとサッチさんにコップを渡された。あ、オレンジジュースが入ってる。
「乾杯だァ!!」
がちゃんと音を立ててジョッキ同士がぶつけられた。おれも手に持ったコップをサッチさんと──お父様とぶつけ合った。 どこか思考がぽわぽわとするような、ぬるい温泉に浸かっているような感じだ。じっと皆の様子を見ていると、頭に大きなものが載せられた。おじい様の手だ。
「ヘーマ……ここはもうおまえの家だ。好きなように世界を見て、そしていつでも帰ってこい」
「おじい様」
「グララララ……! おれがおじい様って呼ばれる日がくるとはな……!」
実際に呼ばれるとくすぐってェもんだ、と愉快そうにおじい様は笑っている。
それを見て、イゾウさんもサッチさんも、皆も、お父様も笑っている。
なあ、ピクテル。おれは本当に、ここにいていいみたいだ。
肩に載る彼女の手に自分の手を重ねて、おれは賑やかな光景を記憶に残すように見つめ続けた。
* * *
翌日、二日酔いに苦しむ面々がデッキに転がっている。うわ、前世ではお酒をガブ飲みするような知り合いは少なかったから、とても新鮮な光景だ。
パッショーネの構成員たちはやっていそうだけど、ボスが顔出したらリラックスして飲めないだろうから行ったことはない。俺が行けばディオも行くから。かわいそうだろ。
いま他の海賊に襲撃されたら大変なことになりそう。負けるって意味じゃあなくて、反撃の力加減がまったくされなさそうって方面で。二日酔いの時に大きな音を立てられたら殺意が湧くよね。
さて、眺めていても陸揚げされた面々が減るわけでもないし、さっさと介抱し始めますか。前世のサプリを渡せたらよかったんだけど、この世界でも同じ効果があるかわからないからなぁ。重篤な副作用があったら怖すぎる。
よし、まずは食器を片付けよう。よろけて踏んで壊すのもマズイ。ピクテルも手伝ってくれるか?
彼女は指で丸を作ってから仮面を外した。ああ、うん、確かに手だけよりも腕も使えた方がいっぱい持てるからな。
ひょいひょいと皿を重ねた上にジョッキをいくつか抱えて、ピクテルはふわふわと食堂へ飛んでいく。あ、おれを大きくしてもらった方が運べる量が増えたな、と彼女を見送った後に気付いた。
くそう、と今の体格で持てるだけ食器を重ねて運んでいると、正面から大きなスープ鍋を持って歩いてくるサッチさんと鉢合わせた。
「やっぱり起きていたな。おはようヘーマ」
「おはよう、サッチさん」
さっきピクテルともすれ違ってな、と笑う彼は二日酔いにはなっていないようだ。持っている鍋を覗き込むと、シジミっぽい匂いがする。おそらく二日酔いに効果があるものなんだろう。
「その皿を運び終わったら、このスープ配るの手伝ってくれるか? 片づけは後で二日酔いどもにやらせるから」
「わかった。すぐ戻ってくるね」
転ぶなよー、というサッチさんの声を後にして、おれは急ぎ足で食堂へ向かう。
皿洗い用の流し台に皿を置き、朝食を作っているコックメンバーからピクテルともども焼いたベーコンを口に放り込まれ、咀嚼しながらデッキへ急ぐと、スープを器に注いでいるサッチさんを見つけた。
デッキに転がる人数が多いため、スープを飲ませるまで介抱せず、顔の前に器を置いていくだけらしい。
おれにしてくれた介抱と比べて丁寧さが段違いで低い。生死を彷徨っているのと二日酔いとの間には深い断絶があるとはおれも思うけど。
ピクテルにスープの器を並べたトレーを持ってもらい、声を掛けながら配っていく。弱々しい声で返事をしてくれるのだけど、やっぱり飲むのを手伝った方が良いんじゃあないだろうか?
残り少なくなったからトレーを自分で持ち、追加をもらいにピクテルがサッチさんの所まで戻っているときに、ちょっと先に起きて座り込んでいる人物を見つけ、おれは近寄る。
「おはようティーチさん。二日酔いはある?」
「ゼハハハ、おはようヘーマ。大丈夫さ、もう大分抜けてるからな」
「でも水分は取った方がいいよ。はい、スープ」
「ありがとよ……ん? ヘーマ、なんでそこに二つ置いた?」
おれはティーチさんにスープの器を渡し、後二つ床に並べて置いた。
え、なんでって。
「あと二人分いるかなって」
「……ゼハハハ、どうしてそう思った?」
「……なんとなく?」
ちょっとだけ怖い雰囲気を感じる。これがわかるのは前世の経験値によるものだろうから、周りの皆は気付いていないだろう。そんな微かな敵意。やべ、ちょっとティーチさんのセンシティブな部分を突いてしまったっぽいな。
三人分必要だと思ったのは、本当になんとなくだ。ティーチさんは眠ったことがないという特殊な体質をしているとは聞いているけど、それは脳への負担を心配することはあっても、スープが三人分必要だとは思わないだろう。体型から連想したのか、いやいやティーチさん並の体格の人にも一杯しか渡してないし。
はて、と首を傾げているおれをじっと見ていたティーチさんは、怖い雰囲気を引っ込めてゼハハハハと笑う。
「まあ、多めに貰えるって考えれば断る理由はねェな!」
「あっ、もしかして飲めない人が出てきちゃうのか」
「そこは気にしなくてもいいだろう、余るように作ってるはずだ」
笑いながらうまいとスープを飲む姿には、先ほどまでの負の面はまったくない。んんん、この世界こころに闇を抱えている人多そうだな。
まあそんなの、どの世界にもあることだ。スタンド使いなんかは、穏やかに死ぬことはとても難しかった。
力に溺れて破滅するやつが大半で、力に怯えて孤独に生きるようなやつもいた。この世界でも、安心して幼少期を過ごせるような、そんな人は少ない気がする。
「さて、と。スープ配り再開しないと」
「おう、転ばねえようにな」
「みんなそれ言うのどうして? ……おかわり欲しかったらこっそりおれに言ってね」
「あん?」
「あと一杯くらい誤差でしょ」
しー、と口元に一本指を立てる。なんか余計なことしちゃったみたいだし、お詫びも兼ねて一つだけなら融通しよう。なんならおれの分を渡せばいいし。
ウインクしたおれにティーチさんは目を瞬かせ、ゼハハハハと笑い出した。ちょ、声が大きいバレるって!
「そんときは頼むぜ、ヘーマ?」
「まかせとけ」
ニヤリと悪く笑ったティーチさんに、おれもニヤリと返す。実は結構悪巧みはとくいなんだぞ。なにせ前世ではギャングのボスだってやったことがあるんだからな。
うむ、そう考えるとおれの海賊適性って結構高いのかもしれない。ギャングのボスはできて海賊はできないとは言えない。どんどん拒否する理由がなくなっていく……。
ピクテルが持ってきた分を含め、手持ちを配り終えてサッチさんの元に戻ろうと振り返れば、彼の隣にお父様が立っているのが見えた。
「おう、おはようヘーマ」
「お父様!」
二日酔いにはなってなさそうなお父様に駆け寄り、お父様の羽織っているシャツを下に引っ張る。しゃがんでほしい。
おれの誘導に膝をついてくれたお父様の首に腕を回しぎゅっとハグをする。その後左頬を合わせてリップ音を鳴らした。続いて右頬も同じく。
「おはよう、お父様」
「……」
頬を離して満足げに言葉でも挨拶すれば、お父様は微動だにせず、サッチさんはスープの器を取り落としていた。おわ、中身なくてよかった。拾って器を差し出すと、呆然としたままサッチさんは受け取った。
「ああ、ありがとよ……いまのは挨拶かヘーマ」
「うん。お父様になって最初の挨拶だからキスするでしょ?」
「そっかぁ……ここはもういいからオヤジにこれを持っていってくれるか。もう起きてるだろうから」
「わかった」
おじい様用の大きなスープの器が載ったトレーを受け取り、こぼさないように運ぶ。あ、お父様からキス返されてないけど、もしかしてこの世界じゃこの挨拶って少数派だったりする? ハグもしなかったり?
驚かせたかなと思ったが、おじい様にも同じ挨拶をしたら喜ばれたので問題ないっぽい。
ミンク族っていう動物が後ろ足だけで立ってるような種族がいて、彼らがやっているガルチューという挨拶に似ているらしい。なるほど、ファンタジーだ。
キスの挨拶は一般的じゃないようだし、ガルチューで統一した方がいいのかも。次からはそうしよう。
そう言ったおれをおじい様が何故かとても優しい目で見ていたのはなんでだろう。
後日、ガルチューの方がマイナーということをおれは知った。おじい様、からかうなんてひどい。
「……行ったぜマルコ」
「助かったよい……おれの息子がかわいい」
「わかっちゃいたが、格段におまえに懐いたよな。あれがヘーマの『お父様』への普通かぁ」
「……」
「戻ってくるまでにはその顔直しておけよ」
「あー、悪ぃな」
「元お父様に思うところがあるのはおれたちも同じだ。だが、ヘーマにはバレねェようにしないとだろ?」
「ああ……絶対に探し出して、落とし前はつけさせるよい」