群青色を押し花に   作:保泉

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新たな来訪者

 

 

 モビーディック号に帰り着いたおれは早々にお父様に捕獲され、ソル共々おじい様にカミナリを落とされた。ゲンコツでなくて良かったけど、久し振りの正座は少々ツライです。

 

「よお、ヘーマ。まさか今までオヤジに説教されてンのか? 大分絞られたな。まあ、これでも食え」

「おっと、ありがとうティーチさん」

 

 ソルを残しておじい様の部屋から出たおれが廊下をフラフラと痺れの残る足で歩いていると、前方からリンゴの詰まった籠を抱えたティーチさんと鉢合わせた。

 

 放り投げられたリンゴをキャッチする。おれはいつもティーチさんに出くわす度に食べ物を分けてもらってる気がする。……あ、このリンゴうめぇ。

 

「いやぁ、ノリで動くと良くないってわかってるんだけど、ついね」

「ゼハハハ、おれもよくオヤジに考えが浅いって言われてるからよ、身につまされんな!」

「へえ、たとえば?」

「ん? あー……シノギの確認に行ったときにな、違法薬物を勝手に捌いていたマヌケがいてよ。ソイツぶん投げたらランプが倒れて商品に引火した」

「それは浅い」

 

 白ひげ海賊団は四皇に数えられる勢力のため、喧嘩を売ってくる海賊が無いとは言わないがとても少ない。更には堅気から略奪するわけでもないので、本来の海賊として海賊団を維持する資金を得ることはできない。

 ならどうやって軍資金を得ているかと言えば、大半がナワバリからのアガリ──献上金だ。白ひげ海賊団の旗の下、他の海賊の襲撃を抑止する代わりに島全体の収益の一部を納めてもらっている。

 ティーチさんの話はそのナワバリのひとつのことだろうけど、四皇のお膝元でも馬鹿をやらかす人はいるんだな。いや、一般的な海賊ならオーケーを出すんだろうけど、白ひげ海賊団だからな。

 

「ついでに倉庫が全焼したぜ!」

「うわあ」

 

 いやいや被害がデカイわ。よく笑って話せるな、違反薬物の倉庫とはいえ他の商品もあっただろうに。

 怒られたでしょとおれが呆れた声で言えば、オヤジに殺されるかと思ったなと笑うティーチさん。まったく懲りてねぇな。

 豪快すぎるというか、頓着しなさすぎだろ。この人、白ひげ海賊団じゃなかったら、意図せず民間に被害が出て賞金首になってそうだ。面白そうで動くのはおれもおんなじだけどさ。

 

「ティーチさんって博打好きそう」

「博打ィ? まあ、嫌いじゃねェな」

「でも弱そう」

「こらテメェ」

 

 伸びてきた腕をひょいと後ろに跳んで避ける。ティーチさんの手はデカイから捕まったらおれの頭蓋骨がメキョッといっちゃう。

 

「まあいい。そういやまた海獣を仕留めたんだろ、サッチにはもう渡したか?」

「あっ、そうだった。じゃあおれ行ってくるなー」

「飯楽しみにしてるぜ」

 

 サボ達に肉を分けたから全員分あるかなぁ。そこは料理班に頑張ってもらおうとおれは針路を調理室に変更した。

 

 

「サッチさーん、コイツ美味い?」

「あらー、良い笑顔だこと。美味いけど今日は別のメニューが決まってっから、また明日なー」

「わーい」

 

 モビー・ディック号の調理室に足を踏み入れ昨日仕留めた海獣の肉をどーんと調理台に出せば、チラリとそれを確認した芋の皮むき中のサッチさんは手を止めて笑いながら此方に来てくれた。あっ、邪魔してすみません。

 

「んん、既に切り分けてンだな」

「ちょっとお詫びに渡してきた」

「ああ、あちらさんにビーム撃ち込んだンだって?」

「ふかこうりょくなんです……」

「スゲェ顔、それに声小せェな」

 

 思いっきり顰めた顔が面白かったのか、サッチさんが顔を背けて吹きだした。どんな顔してんのおれ。

 あと、ちょっと弟に極太ビーム当てるところだったトラウマが蘇るので、詳しくは突かないでいただけると助かる。

 

「あ、そうだサッチさん。おじい様の飲むお酒って個人管理?」

「いや、おれ達で管理してる。オヤジは手元にあると際限なく飲んじまうからな、食事の時に出してんだ」

 

 なるほど、おじい様が部屋でいつも飲んでるのは食事の時に出た残りのお酒なのか。長年の飲酒で肝臓が悪くなってきていると、医務室の前を通りかかったとき中に居るナースさん達が話しているのを耳にした。

 うーん、アルコールによって痛めた肝臓の治療は波紋で出来そうだけど、波紋ってつまりおれの生命力の譲渡だからおじい様が拒否しそうなんだよな。

 なら代わりにと、おれはピクテルにラム酒の樽を出してもらう。

 

「じゃあ、これおじい様用にしてくれるかな」

「コイツは、ラム酒か。見たことねェとこのだな」

 

 樽に印字された文字を読んでサッチさんは顎の髭を擦る。まあ、前世の酒だから見たこと無いのは当然だろうな。

 

「おれの生命力で出したから、飲んだ相手に生命力を譲渡できるんだ。たまに飲ませてあげてほしい」

「よしヘーマそこに座れ」

 

 笑顔なのにこめかみに筋が浮き出ているサッチさんがビシリと床を指差した。なぜお怒りモードに?

 疑問を浮かべながらもおれは素直に床に正座をする。

 

 おれ達のやり取りを見た他のコックメンバー達は、海獣をテキパキと小さいブロックに分けて下処理を始めているようだ。  あっ、彼らと全然目が合わない。これはおれ見捨てられたな?

 

 笑顔をしかめっ面に変えたサッチさん曰く、単独行動中になにかやらかしただろとのこと。

 ……えっ、どうしてバレてるんだ。

 

「普段からあれだけ使うなって口酸っぱく言われてる物質化を、なーんの躊躇も無くやってんだ。どんだけ物質化しまくったんだろうなァ、ええ?」

「しまったつい流れであいたたたたた!?」

 

 サッチさんのアイアンクローに頭を締め付けられたおれは悲鳴をあげる。皆の前では出さないようにしていたのに、あの島で大量に物資を渡した後だったから、これくらいならって樽を出しちゃったわ。基準が甘くなってた。

 あ、この頭部を締め付ける感じ、馴染みがありすぎるけどやっぱり痛いから手を離して欲しい。

 

「わーれーるぅ! はーなーしーてぇ!」

「武装色で防御しないあたり反省してんだろうが、マルコとオヤジに報告するからな」

 

 パッと頭が解放されたと同時に、おれはべしゃりと床に倒れる。なかみでるかとおもったわぁ……。痛みの余韻に呻くおれの傍でサッチさんはしゃがみ込んだ。

 

「弟への餞別か?」

 

 おれを覗き込むサッチさんの顔は優しい。見透かされていることに落ち着かなくなり、おれはサッチさんから目をそらしながら、そうだよと白状した。

 

 そうかそうか、寂しいなァとサッチさんはおれの頭をポスポスと撫でる。コルボ山は弟達の揺りかごで、会いに行こうと思えばすぐ会えた。それが出来なくなったのはとても寂しい。

 

「でもおれは兄ちゃんだから、弟に負けてられない」

「……そうか」

 

 でも自分が寂しいからって望む未来のために歩き出した弟を、邪魔するようなかっこ悪い兄にはなりたくない。

 サッチさんと目を合わせて言えば、彼は今度はグシャグシャとおれの髪をかき回した。ちょ、絡まるからやめて。

 

「でも心配だから次は島に残ってる弟の様子を見に行く」

「おっと早々に行けると思うなよ」

「え」

「か・だ・い、用意してっからな♡」

「またぁ!?」

 

 おれは思わず起き上がった。ニヤニヤ笑うサッチさんから想像するに、これは他にも課題が用意されているやつだ。多分、おれの今回のやらかしに対するお仕置きを兼ねていると思われる……くっそ、それでおれの弟に会いたい気持ちを阻めると思うなよ!

 

「よっしゃ、やってやろうじゃねーか。サクサククリアしてやらぁ!」

「おう、大分柄が悪くなってきたなヘーマも。じゃあ早速おれの課題を始めんぞ」

「わあ、大量の魚……捌けと?」

 

 どん、と用意されたサッチさんが楽々中に横たわれそうな大きいクーラーボックス。その中いっぱいに敷き詰められた、これまた大きめの魚に口の端が引き攣る。まあ、大きいお魚。

 

「早さと丁寧さを同時に身に付けような。今回は三枚おろしでいいから」

「この魚、おれの身長の半分くらいある大きさなのに!?」

 

 用意されたデカイ包丁とまな板に思わず叫ぶが、サッチさんは笑うばかりで何も返事してくれない。

 

 や、やってやらぁ!!

 包丁を持って魚に向かい合うおれに、今まで知らない振りをしていたキッチンメンバーから、お手々切るなよとヤジが贈られた。うるせぇ!

 

 

***

 

 

「わははは! 速ェな!」

「あははは! 速いな!」

「ぐま!」

 

 ひと月後、どうにか課題をやり遂げたおれは、高速で進むチェーロ・リベルタ号に乗って笑い転げていた。鳥力車を引っ張るのはピーコではなく、クマのぬいぐるみ姿のトットムジカである。つまりトットムジカ力車……語呂が悪いな。

 

 いやね、トットムジカが車夫をやってみたいと言うから試しにやらせてみたら、スピードが速いのなんの。キャンバスで浮かす補助が無くても車体が浮きそうなくらい速い。

 風で目が乾いて痛いからおれもゴーグルを装着した。顔隠れるし、常に付けてソルとお揃いにしようかな。パイロットヘルメットもいいな。

 

「もうちょっと乗り心地とスピード出せるような形にしようかなー!」

「なら船の形には出来ねェか? キャンバスで休めるとはいえ、座りっぱなしはどうもな!」

「確かにー! ちょっと考えてることあるから、ドーン島着いたら改良してみるよー!」

 

 風に負けないように大声で会話している間も、おれ達を乗せたチェーロリベルタ号は空を進んでいく。

 

「あ」

「なに?」

「ドーン島が見える」

「もう!? ……あー、本当だ凄いなトットムジカ」

「ぐま」

 

 本来の予定は明後日到着だぞ? どんだけスピード出てるんだ今。

 トットムジカにスピードを緩めてくれるようお願いして、おれ達はドーン島の裏に回るように旋回を始めた。

 

 

 

「ヘ~~~マ~~~!」

「おおう!?」

「ヘーマ!」

 

 おれを見つけたルフィが文字通り飛んできて、おれはまだ小さい弟の身体を慌てて受け止める。思わず避けそうになったぞ、後ろ海なのにそれはマズイ。

 エースも駆け寄ってきたけど、おれの近くに立つソルの姿に気付いてか、速度を落として歩いてきている。うん、まあ、コイツ誰だって思うよね。

 

「元気だったか二人とも! ああ、サボのことは知ってる。途中で会ったんだ」

「! そうか……挨拶できたのか」

 

 よかったと安心したように笑う弟達の頭を思いっきりわしゃわしゃと撫でまわす。んもー、本当に仲良い兄弟で可愛いなお前達は。

 

「なぁ、ヘーマ。そいつ誰だ?」

「おれか? おれはヘーマのダチのソルってんだ、よろしくな!」

「そっか。おれはルフィ、よろしく!」

 

 ゴーグルを外して仕舞っているおれに、ルフィはきょとんとした顔で聞いた。ようやくソルに気付いたようだ。

 ソルは見上げてくるルフィに向かってニッと笑って自己紹介する。いや、あっさり返すなルフィ。弟のコミュニケーション能力の高さと疑わなさに、ちょっと目が遠くなりそうだよ兄ちゃん。

 

「……ヘーマ、本当か?」

「おれの友達だよ。危ないところをよく助けてもらってる」

「……おれはエースだ、よろしく」

「!! ……おう、よろしくなエース」

 

 対照的に疑い深いエースは初見のソルを警戒していたようだが、おれの言葉もあってかひとまず警戒を緩めたようだ。右手を差し出すエースに、一拍あけてソルはその手を握っていた。

 

 ニカッと笑っているけど、おれはソルが泣きそうになっていることに気付いている。

 エースが生まれたのはソルが──ロジャーが死んだ後だ、幽霊として傍にいても認識されない日々は辛いことだったろう。でも今はちゃんと目を合わせて、声を交わして、触れ合うこともできる。

 エースの視線が外れたところで、触れた手をジッと見つめているソルに、おれは口元を緩めた。

 

「そうそう、紹介したいのはあと一人いるんだ」

「ぐま!」

「え」

「は?」

 

 ソルの背中に隠れていたトットムジカが顔を出して、ヒョイッと右腕を上げてみせた。

 

「え~~~!? ぬいぐるみが動いた~~~!?」

「しかも鳴いた~~~!?」

 

 いやあ、良い反応でとても嬉しい。驚愕した弟達の様子におれはニンマリしてしまう。今日も弟達がかわいい。

 驚いた後は好奇心が勝ったのか、スタスタと近づいてくる。切り替え早いな。

 

「生きものなのかコイツ?」

「まっ」

「違うってさ」

「じゃあなんなんだおまえ。ユーレイか」

「楽譜だよ。楽譜の化身みたいな?」

「ガクフノケシンか~、へんな名前だな」

「名前な訳あるかアホタレ」

 

 トットムジカの身長に合わせてしゃがんでる弟達。ピクテル、スケッチは頼んだぞ。

 チラチラとトットムジカがおれを見てヘルプを申請してきたので、おれは彼の横に立って紹介してやる。

 

「トットムジカだよ、挨拶して」

「ぐま!」

「これはどうも」

「あっ、これはドーモ」

 

 今度はペコリと頭を下げたトットムジカに、向き合う弟達は同じく頭を下げた。

 え、エースが丁寧な挨拶を覚えてる……!? 真似しているのかルフィもだと、何があった。

 

 詳しく聞いてみると二人はマキノさんに礼儀作法を習っているそうだ。なんでも将来海に出てサボ達革命軍に会ったとき、リーダーさん達にちゃんと礼を言いたいそうで。おれは思わずニコニコしてしまった。まずい、表情筋がしまらない。

 

「今は三人で旅してんのか?」

「そうそう」

「いやー、いきなり賞金首になって驚いた」

 

 いやそれは申し訳ない。

 おれとソルでトータルバウンティ八億ベリーだからな、この旅メンバー。そりゃ何があったのかって思うよな。

 

 詳しくは話せないので、ちょっと海軍とやり合ったとだけ伝えた。へー、の一言で全てを終わらせられたけど。もうちょっと興味持ってほしい。話せないけど。

 

 そしておれの手配書は記念だからとダダンさん達の家に額縁に飾ってあるらしい。

 

…………なにそれぇ。

 

 嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちが混合しておれは両手で顔を覆う。ソルが良かったじゃねェかと背中をバシバシ叩いてくるけど、うん、ちょっと賞金かけられたことに前向きになれたや。

 

「またしばらくここにいるのか?」

「ああ、二人の成長を確認してからトレーニング組み直したいしな」

 

 エースの問いに肯く。以前彼らに渡したメニューは余裕ができたら量と重さを増やすように言ってあるが、数ヶ月前もすれば現状に合わなくなっているだろう。

 特にルフィは能力者、先ほど飛んできた事といいかなり身体の使い方を学んでいるようだから、確認しておかないと。

 

「ならヘーマもじいさんと手合わせすりゃいい」

「じいさん? まさかルフィのおじいさんに?」

「違ェ」

 

 ガープ中将に遭遇したらおれはぶん殴られる運命なんだがと戦々恐々していたおれだが、弾かれるように身体を動かして弟達を背に庇った。

 

 森になにかいる。

 今のおれでは太刀打ちできない強さの──なにかが。

 

 コルボ山に生息する猛獣レベルじゃない、新世界の、下手をしたらあの本部中将以上の──ん? もしかしてガープ中将だったり?

 

「──ほう、君が彼らの兄か」

 

 混乱するおれを余所に森の奥から姿を現したのは、白髪が多めの長い金髪にゆったりとしたフード付きのコートをきた老年の男だった。あれ、海軍の制服じゃないな? もしかして、ガープ中将じゃない?

 

 いや、めちゃくちゃ強いのだけはわかるんだけど、その、どちらさまで?

 

「じいさん、今日は来るの早いな」

「なに、気になる気配を感じたのでね。フフフ……うむ、これは来て正解だった」

 

 老年の男に対して二人は全く警戒せず、むしろ親しいような……あれ、これまさか二人がお世話になってたりする?

 

「この人は」

「サボが島を出る少し前から稽古付けてもらってんだ。じじい並に強ェ」

「じいちゃんよりはやさしいけど、めちゃくちゃぶっ飛ばされる」

「おっと、そこはかとなくガープ中将の鍛練のヤバさが伝わってくるな」

 

 やっぱりお世話になってた。そしてガープ中将並に強いとのことだが、あくまで二人は子どもとしての感想だろう。おれもきっとそうなんだろうなぁ、と勘が主張しているけども。

 

 そしてぶっ飛ばされてもまだ優しいとか何? ガープ中将のトレーニングはどんなことさせているの?

 こめかみを揉んでいるおれを、正確にはおれとソルを凝視している老年の男はくっと喉で笑った。うわ。

 

「よろしくヘーマ君、そして後ろの君も。私はレイリーという」

 

 しがないコーティング屋の老人だよと微笑む彼から滲み出る、年齢にそぐわない男の色香に、おれはとてもモテそうだと戦慄した。

 

 

 




『兄弟』ルートが進行したため、『???』ルートの表示が変わります。
『レイリー』ルートが進行しました。
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