群青色を押し花に   作:保泉

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最初の一歩のお裾分け

 

 

「ここだな」

「ぐま!」

 

 肩にテディ姿のトットムジカを乗せたまま、ソルはある店の前に立った。道中、ソルの背が高いため注目こそ浴びなかったが、気づいた少数がチラチラと動くぬいぐるみを凝視している。

 

 さて、ここは所謂『若い女性の人魚とお酒が飲める店』──つまりキャバクラである。魚人島に観光客向けのその手の店は複数あれども、ソルは己の相棒が確実にこの中にいると確信していた。

 

 なにしろ──

 

「くそっ、あのジジイ独り占めしやがって!」

「顔が良いからって、許されることじゃねェ……!」

「……まあ、兄さん達の気持ちもわかりますがね、店内で暴れられるのは勘弁してくださいや」

 

「わかりやすくて助かる」

「ぐま」

 

 ──目当ての人魚にフラれた敗残兵が続々と店から出てきている為だ。

 

 一部は地面に泣き崩れている男達の横を通り過ぎて中に入ると、ソルの想像通りの光景に彼は吹きだした。

 

「久しぶりの魚人島だからってやってんなァ、相棒?」

「──ん? なんだお前も来たか」

 

 両サイドどころか座席の周りを美しい人魚に囲まれたレイリーは、入店したソルに気付くと手に持ったグラスを掲げた。

 

「あら、レイさんのお友達?」

「ソルだ。よろしくな姉ちゃん達」

「うふふ、ソルちゃんね」

 

 若い人魚にちゃん付けで呼ばれたことにソルが目を瞬かせている隣で、レイリーは必死に笑いに耐えていた。大笑いしながら彼の本名で揶揄いたいが、流石にそれはまずい。

 

「それで、あの子はどうした?」

「今は海の森で絵を描いてんぜ」

「あー、それでお前だけこっちに来たのか」

 

 どうにか笑いを収めたレイリーの隣に座ってソルがドリンクを注文すると、それを区切りとしたのか人魚の娘達は少し手を振ってから他の客の元へ移っていく。彼女達は偶々このテーブルに集まっていたようだ。

 

「お、海ぶどうじゃねェか、もーらい」

「おい食い過ぎるなよ」

「わかってるわかってる」

「わかってる勢いじゃないぞ、一旦止まれ」

 

 パシンと頭を叩かれ、皿を遠ざけられたソルは「覇気を纏わなくてもいいじゃねェか」とグチグチと口を尖らせた。

 

「……なァ」

「ん?」

「トムのこと知ってたか」

 

 一時的に閑散とした席で、ポツリと落とされた相棒の声に、「知っていたよ」とレイリーはカラリとグラスを傾ける。

 住処にしているシャボンディ諸島からウォーターセブンが近いからこそ、レイリーは情報を得られた。そうでなければ未だに知らないまま、ある日友の訃報を聞くことになったかもしれない。

 

「お前は誰から聞いた」

「トムの弟に会ってよ、デンって奴だ。ソイツからだな。おおらかな所がトムとよく似てた」

「そうか、トムの弟がここに」

 

 弟の存在は聞いたことはなかったな、とレイリーは彼と交流した記憶を思い出す。トムと付き合いの長いココロは知っていただろう。

 

「あ。そうだ、ここから出る時のコーティングをデンに頼もうと思ってんだが」

「願ってもない。是非とも頼もう」

「よしきた」

 

 デンのことを話題にしたからか、あっさりと了承したレイリーにソルは二ッと歯を見せて笑った。

 

「設計途中だった列車もできたらしい」

「ほう、それは知らなかった。ニュースにはなっていないぞ」

「線路はまだみたいだからな、完成したら出るだろうさ」

 

 座席の背もたれに寄りかかり、店の内装を見回して、ソルはゆっくりと息を吐く。

 

「十年は短いようで──長ェな」

 

 珍しいことだ、とレイリーは内心ソルの言動に目を瞠る。

 生前は終ぞ見せなかった気落ちした姿。隠し通したそれを見せて欲しいとは思っていたが、実際に目の前にすれば存外心地は良くなかった。

 

「……ロ──」

「お待たせ二人とも~! 貝のカルパッチョと海藻のカリカリかき揚げよ!」

 

 レイリーの声は元気よく戻ってきた若い声に掻き消された。両手に料理が盛られた皿を持った人魚の娘が、明るい笑顔でテーブルまで運んでくる。

 

「はい、ソルちゃんロックでよかったかしら?」

「おう、ありがとな!」

「いーえ! レイさん、おかわりは──レイさん?」

「……ああ、いやなんでもないさ。いただくよ」

 

 もうひとりの人魚の娘がウイスキーのグラスをソルに手渡しする。グラスが空になっているレイリーに声をかけたのだろう、どこかボンヤリしたレイリーに人魚の娘が困惑していることに気づいて、彼は微笑みを浮かべた。

 

 どうやらもう話してはくれそうにないなと、レイリーはちらりとソルの様子を観察する。娘達と笑いあう姿からは先ほどの陰鬱さは微塵も見つからない。

 

 話す気にならなければ、いくら問い詰めたって無駄なことはよーく知ってるレイリーは、ガツガツと料理を貪る相棒の頭をガシッと掴んだ。全部食うなと文句を言う。

 

 

 

 

「いやー、そこそこ食ったはいいが……足りねェな」

「昼食はヘーマと合流してからだぞ」

「別に良いだろ間食くらい」

 

 腹を擦りながら街を見回しておやつを探すソル。レイリーが彼の耳に届くはずもない苦言を告げているとき、広場の方から何かざわめきが聞こえてきた。

 

「なんだ?」

「火事、ではなさそうだな」

 

 広場の中央に置かれた大きな箱から火が出ているが、建物などから引火している様子はない。

 慌てて箱から何かを取り出しているようだが、ざわめきの合間に響く破裂音に海賊達は目を細めた。

 

「オトヒメ様が撃たれたァ~~!!」

 

 誰かの第一声を人々が認識する程、辺りは悲鳴に塗りつぶされていった。

 

「オトヒメ、確かネプチューンの嫁だったはず」

「アイツ結婚したのか!?」

 

 他人事であれば様子見しているだけだったが、知人の身内であれば話は別だ。騒ぎの元へ近づこうと人波をかき分けて進む上を、見知ったシルエットが通ったことにソルは気づいた。

 

「ピクテル!?」

「なに?」

 

 仮面状態の彼女はキャンバスに封印されているソル達か、悪魔の実の能力者しか見えない。警戒されることなく騒動の中心にたどり着いた彼女は、かぽっと仮面を外した。

 

「え……?」

「誰……?」

 

 突然現れた絶世の美女に、彼女を目にした者の思考が一旦停止する。美しいものへ向ける感動、そうして僅かばかりの好意を自らに持たせ、ピクテルは微笑んだまま力なく横たわる女性──オトヒメ王妃をキャンバスに入れた。

 次に、死の淵に立つ母親に涙を流しながら見送っていた王子達も、あっけにとられた表情のまま別のキャンバスに仕舞いこまれる。

 

 一連の仕事をこなしたピクテルは、再びカポッと仮面を付け、一般人から見えないように姿を消す。ぽっかりと空いて誰もいなくなった人垣の中央を見て、国民達は口々に騒ぎ出す。

 

「オトヒメ様が消えた!?」

「おい、王子様方もだぞ!!」

「さっきの女は何者だ!?」

 

「あー、レイリー」

「わかってる……後でヘーマに説教しておく」

 

 消えた王族にパニックになっている背後を気にせずに、ふよふよとソル達の元へ飛んで行くピクテル。本体のヘーマに説教することを決めて、ソルとレイリーは彼女の伸ばす手を受け入れた。

 

「──そこにおるのはソルか!?」

「よお、ジンベエ。海の森で待ってるぜ」

 

 その姿を見とがめたのは現タイヨウの海賊団船長のジンベエだ。

 

 仮面のピクテルは見えずとも、見つけた知己の姿にジンベエは声をかけ、ソルは手を振りながらキャンバスに消えた。

 

「──という感じでピクテルが王妃さんと王子さんを攫ってな」

「うちのピクテルが大変申し訳ございませんでした!!」

「ああ、頭をお上げなさいませ!」

 

 一連の流れを説明されたヘーマはその場に正座して深々と頭を下げた。美しい謝罪スタイルに頭を下げられた王族達はわたわたと慌て、人間の子どもの周りに集まってくる。

 

「ですが」

「確かに強引ではありました。ですが、その彼女の判断のおかげで私はこうして生きています。それに感謝こそすれ、罪を問うつもりはありません」

「王妃様……」

「些かどころか大いに問題がありますが、母上が助かったのはあなたの処置があってこそです」

「申し訳ありません……」

「また戻っちゃった!? せ、責めるつもりはないんだぞ~♬」

「大丈夫だから~、頭を上げてくれよ~♬」

「でも」

 

 オトヒメ王妃の言葉に頭を上げて、フカボシ王子の言葉に再び同じ体勢へと戻ったヘーマに、リュウボシ王子とマンボシ王子が焦ってあやしはじめた。

 騒ぎから興味を逸らしているしらほし姫は、キョトンとした顔ででんでん太鼓を鳴らす仮面を外したピクテルを見つめている。彼女なりにあやしているつもりなのだろうと、離れていた三人の男は見当をつけた。

 

「しっかし、本当に彼は根が真面目だなァ」

「ちったァ開き直ればいいのにな。こりゃ説教はいらねェか」

「まあ、そろそろ止めてくらァ」

 

 土下座から戻らなくなってしまったヘーマと、四苦八苦して止めさせようとする人魚達の攻防を、タイガーはヘーマを猫の子のように襟首を持ち上げて止めたのだった。

 

 

 

***

 

 

 いきなり叫んだジンベエに、指示をするため少し離れた場所にいたアラディンが泳ぎ寄ってきた。

 

「ソル……? おいジンベエ、いまそこにソルがいたのか? ならばヘーマもこの島に!」

「うむ、王妃様を連れていったのはヘーマのところじゃろう。まだ希望は消えとらん!」

 

 死にかけの魚人の命を救った少年がこの国にいるのなら、胸を撃たれたオトヒメ王妃も助かるかもしれない。不意に湧いた希望に二人の顔が明るくなる。

 

「ジンベエェ~~~!!」

 

 そんな二人の気を引き締めるように、ビリビリと大声と共に辺りに威圧感が立ちこめた。

 

「ネプチューン王」

「王妃は、わしの子ども達はどこじゃもん!?」

 

 彼の表情に浮かぶのは憤怒。

 愛鯨のホエに跨がり、鋭い目でジンベエを見下ろす姿は、王となる前の最強の騎士を彷彿とさせる堂々たる姿だった。

 

「ネプチューン王、わしがご案内いたします! オトヒメ王妃はそこで治療を受けとる筈です!」

「案内だと、ジンベエ貴様、まさか襲撃犯とグルではなかろうな!?」

「違う! わしは王妃達をここから連れ出した者に心当たりがあるんじゃ!」

 

 ネプチューン王の傍に控えた右大臣が、ジンベエの言葉を聞き咎めて睨みつけるも、ネプチューン王はじっと否定するジンベエの姿を見つめている。

 

「案内するんじゃもん」

「はっ」

「王!? 危険です!」

 

 引き留める声を背中に受けて、ネプチューン王は外の海に繋がるゲートに進路を向けた。

 用意されたリュウグウノツカイに跨がり、併泳するジンベエにネプチューン王が声を掛ける。

 

「ジンベエよ……オトヒメは助かるのか」

「おそらくは。過去にもタイの兄貴を助けてくれた子どもですからのぉ」

 

 

***

 

 

 

「オトヒメ~! フカボシ~、リュウボシマンボシ~、しらほし~!」

 

「あ、父上」

「父上様だ!」

 

 おれの緊張も解けて王族方と談笑していると、ものすごく大きい人魚の男性がクジラに乗って近づいてきた。あの方がおじい様のご友人のネプチューン王かな。

 

「あらあなた。迎えに来てくださったの?」

「お、おお、おおお~~!!」

 

 ネプチューン王はオトヒメ王妃を見るなり滂沱の涙を流している。

 うわー、びっしゃびしゃに泣いてる。身体が大きいからか、おれが涙の水力に流されそうなくらい泣いてる。

 

 ソル達がすぐ迎えに来るだろうって言ったので、皆でお茶して待っていたのだが、これはしばらく話せそうにないな。

 抱きしめ合う王族達を眺めながらティーカップに口を付けたとき、ジンベエさんと目が合った。……王様が大きすぎて気付かなかったよ、ごめんなさい。

 

「ヘーマ、久しぶりじゃのう! 少しは大きゅうなったか?」

「わわっ、ジンベエさんだ、久しぶり。七武海就任お疲れ様」

「……労られるとは思わんかったわい」

「面倒くさいでしょ、どう考えても」

 

 おれを抱き上げてグリグリと頭を撫でながら苦笑いするジンベエさん。久々の子ども扱いにびっくりしたが、そうか、最後に彼らと会ったときは、クマのぬいぐるみを自慢した後だと思い出した。子ども扱いされるのが当然だ。

 そしてジンベエさん目線だとおれの身長はあまり伸びていないらしい。そんな。

 

「おう、ジンベエお疲れさん」

「タイの兄貴……申し訳ない、わしらは近くにおったというのに、何もできんかった。丁度ヘーマがこの国に来ていたから誰も損なわれることが無かっただけじゃ」

「襲撃犯の捜索は」

「アラディンに任せとる」

「あ、それなんだけどさ」

「ん?」

 

 タイガーさんと話し始めたジンベエさんに、おれは挙手をして発言の許可を得る。襲撃犯の捜索は当然だと思うけど、結果が作られていないとは限らない。

 だから。

 

「犯人は人間に仕立てられると思うよ」

 

 おれの言葉に「どういう意味だ」と目だけでタイガーさんとジンベエさんが問いかけてくるけど、そのままの意味だ。

 

「王妃様達は地上に移住する署名を集めていたんだろ。これは人間側にしては特に悪い事じゃないんだよ。善人側も悪人側も両方ね」

 

 移住が無理矢理土地を奪うとかで無い限り、反対するのは人間屋を愛用する一部くらいじゃないだろうか。

 人攫いどもにとっても、地上に近いほど人魚が捕まえやすくなるから、阻止することはまずない。

 

「まず署名の紙が燃やされたなら、つまり王妃様の活動に対する反対の意思表示だ」

「同胞に、身内に王妃様の命を狙った下手人がいるとでもいうんか!?」

「いるよ」

 

 激高したジンベエさんに胸元を掴まれて、おれはぷらんと宙吊りになる。まだまだ気性は荒いなあ、ジンベエさんも。世界政府にそこを突かれなきゃいいんだけど。

 

 発言の撤回はしない。これはなあなあにしておいて良い問題じゃない。

 王族を手にかけた時点で、そいつはこの国にとって最大の危険因子だ。いずれ王子様方にまで殺意を向けかねない。

 

「何が何でも人間と仲良くしたくないなんて、珍しいことじゃないでしょ。仮に身内に被害があったのなら、猶更だよ」

 

 タイガーさんによって奴隷だった国民が帰国して、その凄惨な体験を言葉でなくても見た目で知って。大切な存在であるほど人間に対する怒りは募るだろう。

 

「誰かのためという名目は、時にとても身勝手になる。その誰かの願いを踏みにじることでさえ、正しい復讐だからと捨て置く程に」

 

 原作のアーロンの行動がそれだ。ナミの故郷に与えた被害は、大半が八つ当たりだとおれは思う。仮にタイガーさんはあの時亡くなったとしても、人間に復讐しろだなんて言うような人ではない。

 だからこそ、原作の彼は人間を許せなくなっていたのかもしれないけど。

 

「積み重ねられた人の思いは歴史となる。だが負の思いは時を経るごとに歪んでいき、個人に最善を許さなくなる」

 

 今日もきっとどこかで、親が子どもに言い聞かせる姿が見られるだろう。我が子を思って、偏見に塗れているとも気づかず、良くも悪くもどこか歪んだ自分の認識を、真っ白な子どもの心に塗りたくる光景が。

 悪い事だとは言わない。所変われば品変わる、その国では、その町では、それが常識というだけだ。

 

「王妃様、貴女がまず闘うべきはこの国の歴史や認識、そして生物としての安全を求める本能」

 

 誰もが嫌なものを目に入れたくないし、傍にいて欲しくない。違う種族は怖いものだと、すり込まれてきたのなら尚のこと。

 

「歴史の流れで取りこぼされてきた、弱い立場の者達の声、これらを聞かずに本懐は遂げられないでしょう」

「ええ、わかっています。それでも私は、諦めるつもりはないのです」

 

 治療をしたとはいえ、会ったばかりの人間の子どもの言葉を、オトヒメ王妃は真摯に受け止めたようだった。

 別にもうちょっと軽く流してくれてもいいんだけどな、今回は身辺警護に穴があって隙をつかれただけみたいだし。穴を開けさせた、のかもしれないけど。

 気まずくなっておれは誤魔化すことにした。

 

「──まあ、十一歳のガキの言う事なんですけど。変なこと言っていた奴がいたなー、くらいのノリで受け止めてくださいね♡」

「ヘーマ、それ、お前はふざけているつもりなんだろうがよ、似合いすぎててわかりにくいぞ」

「うむ、可愛らしいだけじゃわい」

「えっ……クソガキ感出てない?」

「「出てない」」

 

 あれぇ? もしかして前回の海軍に対するおれのクソガキアピール、全く伝わってなかった……? 

 心なしか皆に温かい目で見られているような気が……気のせいじゃないな、やめて内心でほっこりしないで。

 コホン、とおれは咳をして仕切り直すことにした。「照れてるな」とか言うんじゃないソルのバカ野郎。

 

「それと、ひとつ贈りものを」

 

 キャンバスから電伝虫を取り出す。ポチポチとボタンを押して手を止めると、電伝虫はプルルルル、と鳴き始めた。

 

『はい、こちらエレジア王国通信室です』

「もしもし、こちらヘーマですが」

『──少々! お待ちください!』

 

 おれが名乗るなり、通話先は慌てて受話器を机に置いたのか、バタバタと走る音が聞こえてくる。まだ用件も伝えてないけど、おれからの連絡はエスカレーションするように決まっているのだろうか。

 

「エッ」

「あー……」

「エレジア王国……?」

 

 引き攣った顔に訳知り顔にキョトンとした顔。キョトン顔が多いけど、どうやら気づいた面子もいるようだね。そう、今かけているのはおれの唯一の国家元首へのツテだよ。

 

『──待たせたね! こちらゴードンだ!』

「全然待ってないですよゴードン様。また足が速くなってませんか」

『最近は肺活量が増えて、金管楽器や木管楽器の表現の幅が……いやそうではなくて、何か私に用事かい?』

 

 用事というか、とても耳寄りな情報をお伝えいたします。

 おれはにっこりと、ある意味ゴードン様が引っかかる罠を口に出した。

 

「ええ。実はいまリュウグウ王国に来ていまして──隣にネプチューン王がいらっしゃるのですが」

『初めましてネプチューン王、私はエレジア王国国王のゴードンです。ところで貴国は我が国との音楽交流に興味はないだろうか!』

「は?」

 

 流石ゴードン様、初手に迷いがない。おれはそっとネプチューン王に受話器を差し出す。彼は困惑しながらも受け取ってくれた。

 会話こそ成り立っているものの、圧倒的にゴードン様の言葉が多いそれらから離れて、オトヒメ王妃の近くに向かう。

 ぽかんとした表情の彼女。怒濤の流れに呆気に取られるのは当然だと思う。おれもあの勢いの強さは体験済みだ。

 

「エレジアは音楽の国で、他国の音楽に目がありません。音楽狂ともいえる悪癖には注意が必要ですが、種族の違いを槍玉に挙げることはありません」

「ああ……」

「直接手が触れる距離でなくても、電伝虫越しだとしても、文化の交流です。人間との友好の切っ掛けにはなると思いますよ」

 

 口元を両手で覆って、ポロポロと涙を流すオトヒメ王妃に、王子様方がそっと寄り添う。

 近くで面と向かっては辛くても、安全が確保できる距離が離れていれば、共通の話題があれば会話は弾むもんだ。

 この一歩を進むかどうかはリュウグウ王国が決めることだから、おれはこれ以上口出ししないけど。

 

『良ければ我が国に貴国の楽団を招待したいのだが、都合の良い日程を教えていただきたい! いつでも! 大歓迎する!』

「す、すぐに回答はできないじゃもん……」

 

「──さて、おれはそろそろゴードン様を止めてきますね!」

「なんてすごい情熱なの……!」

「本当に大丈夫なんだろうか……?」

 

 はいはいゴードン様、現国王があまりの熱量に怯えてて未来の国のトップが不安になっているので、そこまでにしてください。ステイですよステイ。

 

 

 

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