群青色を押し花に   作:保泉

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大海賊

 

 

 石畳の道を青年は足早に歩いていた。

 

(ああ、良かったまだ卵の在庫があって)

 

 卵パックがいくつも詰め込まれた箱を抱えて、安堵の息を吐きながら仕事場のカフェまで急いで帰る。

 今日は少々気温が低いことが理由なのか、普段よりも温かいメニューが出ているためキッチンが調理で慌ただしくなっていた上に、仕入れていた卵のほぼ全てをひっくり返して割るというトラブルがあり、割った当人である青年が店長に緊急の買い出しを命じられた。

 仕入れ先に頼み込んでどうにか卵を不足分だけ手に入れることができ、青年は転ばないよう注意を払いながら必死に早足で歩いた。

 

(──あれ、テラスにお客さんがいる。今日は寒いって殆ど店内を希望してたのに)

 

 店の裏口に回るため横の小道に入ろうとしたとき、表のテラス席に座る客を見つけて青年は思わず足を止めた。

 

 一人は背の高い黒のサングラスを掛けた男で、品の良い服のコーディネートだが仕草が似合わず荒々しい。だが笑い方に裏社会特有のいやらしさが全くないため、何故か清々しい印象を受ける。

 もう一人は白い帽子とサングラスを掛けた、黒いロングヘアの女性。華奢な体躯は下手すれば少女のように見えるが、隣に座る幼児を手馴れた様子で世話をしているので、おそらく母親なのだろう。

 

 口元しか見えていないのに相当な美女だと分かるくらいだ、旦那は幸せ者だなと彼女のいない自分と比べて青年は落ちこみつつ、修羅場の厨房へ続くドアノブを握った。

 

 

 

 

 早々にウォーターセブンを出たおれ達は、「春の女王の町」ことセント・ポプラに来ている。

 この島は春島のため年中暖かく、美しい街並みと咲き誇る花々が観光のメインとなっているはずだ。造船用の木材の輸出もしているため、この度海列車の線路で接続された町でもある。

 

 前にエレジアに行ったのは、この町行きの船を乗り間違えた結果なんだよなぁ。当時はあまりの自分の情けなさにがっくりきていた。色んな出会いがあったから帳消しだと納得してはいたけど、前からここに来たかったことは変わりないので、おれは嬉々として観光と写真を撮っている。

 

 ……流石にエニエス・ロビーに近い島で絵を描く時間をとらない理性はあるよ、うん。

 

「花のアイスっていうからどんなかしこまったモンかと思ってたが、意外とうまいな」

「紅茶の茶葉も混ざっているからかな、香りはしっかりとあるのに美味しい」

 

 なんとも可愛らしい色のアイスをつつくソルは、いつものラフ(ピクテル基準)な姿とは違って、品の良いスノーシャドウのシャツとベージュの網模様のニットセーターに白のスラックスと栗色の革靴という爽やかなテイストだ。

 ……正直なところ、歩き方や座り方がどう好意的に解釈してもその道の人間にしか見えないので、どう足掻いても一般人には思われないだろう。ソルの少年のような笑顔で相殺できているといいなあ。

 

 町の一角にあるカフェのテラス席に座り、先程まで観光していた疲れを回復させつつ、この町の美味しいものに舌鼓を打つ。くい、と袖を引かれて右側を見下ろすと、幼児サイズのトムさんがおれを見つめて……訂正、おれの持つアイスを凝視していた。食べたいのね。

 

「はい、トマくんあーん」

 

 アイスを掬ったスプーンをトムさん改めトマくんの口元に近づけると、パカッと口が開いたので中に突っ込む。

 モグモグと咀嚼する彼の目が輝いているのを見て、順調だなとおれはニッコリと笑みを浮かべた。

 

「食欲はすっかり戻ったみてェだな」

「やっぱり身体が大きな人って子どもの頃からいっぱい食べるんだね。さっきパフェ食べたばっかりなのに、もうお腹空いたのかな」

 

 次の催促か口を開けた彼に再びアイスを食べさせつつ、想定より良い回復傾向にうんうんとソルと二人で頷いた。

 

 当初、トムさんには安全なキャンバスの中で過ごしてもらう方法も考えたが、ひと月拘束された経験から自分の意思で出られない部屋に彼を居させるのはあまり心に良くないのでは、とおれ達は考え直した。

 

 そこで未使用のキャンバスにトムさんを放り込んで幼児の身体にして連れ歩くことをしてみると、これが功を奏したのか虚ろだった目が時折光を灯すようになっていった。

 今のところ反応が強くなるのは美味しいものか造船に関わるものを見つけたときのみだが、この町に来ただけでこの回復具合、いずれ本来のトムさんに戻ると確信でき、ソルと胸を撫で下ろした。

 

 幸いトムさんはコンゴウフグの魚人で肌の色が人間に近いのもよかった。ファンデーションで肌色を整えた上で額の角を帽子で隠し、ぷくぷくとしたお手々は水かきがついているため長目の袖で隠せば、どこからどう見ても可愛い人間の幼児だ。

 

「そうしていると本当に母親みたいだな!」

「ははは……いまおれがピンヒールを履いていない幸運を噛みしめるんだな」

「ごめんなさい」

 

 自画自賛できるほど美しく完璧な微笑みを向ければ、少し顔色を悪くしてソルは謝ってきた。ついでに膝を閉じて股間をガードしていた。ははは、まったく……今はやらないよ?

 

 現在おれの身長は145センチ程なんだけど、10センチの厚底サンダルで誤魔化せばちょっと小柄な成人女性程度の身長になる。もう一度言う、成人女性程度の身長になる。

 ゴーグルを外し真っ黒なサングラスをかけたソルが父親役で、同じくサングラスをかけつばのおおきい白い帽子を被り、より女性らしいシルエットのロングワンピースを着たおれが母親役という設定で、観光に来た親子に見えるようにした。

 

 ちなみにこれはピクテルの発案で、嫌だとごねようにも最適案過ぎてできなかった。サングラスで顔を隠しただけで周囲からの視線が格段に減り、案外おれも過ごしやすくなったのは複雑な気持ちだよ。さっさとやればよかったのか、いやでも女装するのは。

 

 アイスを食べ終わって店を出て、トマくんを抱えるソルの隣を歩く。以前に来たことがあるのか迷いなく進むソルについていくと、人気の無い東屋があった。少し古びているから随分と前に作られたらしい。だからソルも知っていたのかな。

 手入れのされた花壇に囲まれた屋根の下に置いてある椅子に座り、今後の予定について話し合う。

 

「それで、預け先についてなんだけど、まずレイリーのところはダメだろ」

「ダメだな」

 

 レイリーの住むシャボンディ諸島はそもそも居住に向かない。あそこのヒューマンショップ潰したいなあ、潰してもすぐに何処かで再開するだろうし、再建の資金で一層人攫いしそうだからやらないけど。

 

「白ひげ海賊団で匿ってもらうにも、もうちょっと意識がハッキリしてないと難しいし、シャンクスさんやダダンさんのところとエレジアも同じ」

「おまえエレジアを候補に入れんのか……」

「念の為だよ」

 

 一時的という形なら白ひげ海賊団に匿ってもらうのは悪くないけど、現在の意識がぼんやりしたままじゃ、敵船の襲撃があったとき逃げることが出来ないから受け入れてもらえないだろうし。シャンクスさんのところも同様だ。

 ダダンさんのところは定期的にガープ中将が来るからなぁ、隠れるにも身体が大きいから隠れにくいし、そもそもあそこは半野生みたいなところがあるから、今の無防備なトムさんは無理。

 エレジアは……まあ、ソルも引いて頷かない通り、最終手段ってところかな。こっちから色々対価を渡せば匿ってくれるかも、ってくらいの。対価が怖いから、出来れば選びたくない選択肢でもある。

 

「というわけで、偉大なる航路(グランドライン)から離れたアーロンのところはどうかな」

「なるほど、良いと思うぜエレジアよりよっぽど。あいつは面倒見がいいからな」

 

 アーロンは原作でも分かるとおり、非常に同族に対しては面倒見がいい。基本的に兄貴肌なんだろうな、人間のおれもあれこれ世話を受けたくらいだし、トムさんのことを任せるのなら一番安心出来る場所だろう。東の海(イースト・ブルー)だから比較的治安もいいのも好条件だ。

 

 ピクテルがスケッチブックからフクロウを一羽取りだし、おれが書いた手紙を持たせる。

 空高く飛び上がる姿を見送って、本来フクロウってあんなに速く飛べないはずなんだけどな、とゴーレムになると元の生物の規格を越えてくる不思議におれは首を捻っていた。

 

 

 

 

「親分!」

「ん?」

 

 玉座のような大きな椅子に腰を下ろし、グラスに注いだ酒を飲んでいた大柄な男に、ピエロのような白衣の男はおならのような音を立てて歩いて近づいてきた。

 

 若干嫌そうな大柄の男の横で腕を回したり何かを飲む仕草をしたりと忙しなく動き、身振り手振りで報告するピエロの男の言いたいことを把握しようと大柄な男はジッと見た。

 

 ピエロの男がピタリと動きを止める。

 

「お寛ぎのところすみません、ひとつ報告が」

「普通に話すんかい!」

 

 大柄な男のツッコミを受け流して、ピエロの男は手に持っていたバインダーの紙をペラリとめくった。

 

「先日立ち寄った島で連行した気象予報士の男ですが、なにやら酒場で妙なことを耳にしたようで」

「妙?」

「ええ、なんでも海で遭難したある男が近隣の島の者に助けられた際、その村の子どもが特異な才能を持っているのを見たと」

「ほう、勿体ぶるな。どんなものだ?」

 

 少し気を引かれたのか、大柄な男は好奇心を目に宿してピエロの男に続きを促した。今の組織の中では古い付き合いだ、つまらない報告をするような人間ではないことはわかっている。

 男の期待に応えるように、ピエロの男はニヤッと笑った。

 

「雲一つ無い快晴だというのに、一時間後の雨を予知したようですね」

「それは、それは……素晴らしい才能だな」

 

 ニヤリと大柄の男が嗤う。気象に関する才能、それは大柄な男が最も欲しい人材だ。あらゆる島から優秀な気象予報士を攫うことを繰り返しているのは、弱点である嵐を避けるため。

 幼いながらも優秀さの片鱗があるのなら、手元で育てればどれ程の逸材となるか。これは手に入れるべき人材だと、大柄な男は現在の予定を変更することを即決した。

 

「何処の島だ」

「東の海にあるコノミ諸島、ココヤシ村です」

「……進路を変える! 目的地は東の海、コノミ諸島だ。風向きと天候を再計算させろ!」

 

 大柄な男の声に怯えながら慌ただしく人員が動き始める。目下のざわめきを眺めながら、大柄な男はグラスの中の丸いロックアイスを揺らした。

 

「東の海か……良かったぜ、今が八年後じゃなくてよ。折角の才能を燃やし尽くすところだった」

 

 ジハハハ、と大柄な男の笑いが響く。

 

 

 

 

「ホー!」

「あいたた!?」

「チュッ、何やってんだハチ」

「あいつ鳥に負けてるぞ」

 

 漁から帰り、後片付けをしている魚人達の中で、はっちゃんだけが頭にフクロウを乗せて呻いていた。

 フクロウの爪が若干頭に食い込んで痛いのか彼は涙目で、そんな彼に呆れ顔で近づいてきたチュウは、フクロウの胸元にポーチが付けられていることに気がつく。

 

「なんだァこれ……取れって?」

「ホー」

「それよりも先にどいてくれよ~」

「ちょっと待て」

 

 フクロウの促しにチュウはポーチの中に手を突っ込む。指先に感じるのはかさりとした薄く乾いた感触、彼はそれを摘まんで引き出してみた。

 

「何が入ってたんだ?」

「手紙だな」

 

 ポーチの中から出てきたのは封筒に入った手紙だ。宛先には「みんなへ」としか書かれていないが、裏面にはしっかりと差出人の名前があった。

 

「ヘーマからだな」

「お」

「なんて書いてあった?」

「おれにも見せろ」

「まだ開けてもいねェよ!」

 

 わらわらと集まっては手を伸ばす同胞達から手紙を死守して、チュウはびりっと封筒の端を破いて中の紙を広げる。

 

“みんなへ

 

 久しぶり、元気だった? おれもソルも元気に旅を続けているよ。みんなは良い村に辿り着けたって聞いた。彼にはっちゃんの手紙を見せて貰ったんだ、楽しそうで何よりだよ。

 

 実はみんなにお願いしたいことがあってそこの村に向かっているんだ。訳ありの魚人の人を助けたんだけど、できればその村で匿ってもらえないかなと思っている。

 

 詳しくはそこに着いたら説明するよ。また美味しいお酒を準備しておくから楽しみにしておいてね。

 

 ヘーマより”

 

 チュウが読み上げた手紙の内容に、一同は揃って目を見合わせた。なんでも自分でこなそうとするあの少年のお願い、一体どんな難易度なのかと魚人達が困惑したからだ。

 

「ヘーマからのお願いだってよ」

「あいつまた誰かを助けてンのか」

「訳ありの魚人なァ……詳しく聞かねェと判断できねェな」

「アーロンさん」

 

 空になった木箱を数箱抱えて歩いてきたアーロンは、クロオビにこれも片付け頼むと言って空箱を渡す。

 

「ヘーマの頼みだ、聞いてやりてェがこの村にはおれ達より身体の弱い人間の方が多い。もしソイツが乱暴者なら受け入れる訳にはいかねェ」

「そ、そうだけどよ……」

 

 キッパリと断言したアーロンに、魚人達はでも、けど、とゴニョゴニョ言いかけては止めている。恩人である少年の頼みを断ることに後ろめたさを隠しきれないようだった。そんな同胞達にアーロンは話を聞けと呆れた顔を彼等に向けた。

 

「まずは会ってみないとわからねェって言ってるだけだろうが、今からもう落ちこむんじゃねェよ。ヘーマが連れてくるんだ、どうせあいつ並のお人好しだろうさ」

「確かにそうだな」

「よーし心配終わり! 飲むぞー!」

「「「おー!」」」

 

「切り替えが早すぎんかお前達!?」

 

 かんぱーいと先程までの落ちこんだ雰囲気を投げ捨ててジョッキを掲げる呑兵衛達に、騒ぎを聞きつけて何事かとこの場に来ていたゲンゾウは思わずツッコミを入れた。

 

「ねぇねぇアーロンさん。ヘーマって私と同じくらいの男の子なのよね、どんな子?」

「どんな子っつってもなァ……」

 

 ナミに尋ねられてアーロンは脳裏にへんにゃりと笑うヘーマを思い浮かべる。取りあえず衝撃の強すぎる三億の賞金首ってことは最後に伝えた方がいいな、とまずは当たり障りのないことから伝えることにした。

 

「そうだな、顔が良い」

「顔が良い」

 

「真っ先にあげるべきはそこなのか」

 

 アーロンの言葉を復唱したナミの横で、ゲンゾウが呆れた顔を浮かべた。

 

「第一印象は重要だろ。知り合いに聞いた話だが、べらぼうに顔が良いからアイツが微笑んだだけで気絶した奴もいるらしい」

「それはまた……」

「へー……ベルメールさんよりも美人?」

「…………あー、悪いが美人だな」

 

 そうなんだ、と納得したナミから視線を泳がせているアーロンに、周りはニヤニヤと含み笑いを向けた。

 ナミが懐いている関係で少女の養母であるベルメールと交流が多くなってるアーロンは、彼女の前職が海兵であってもかなり親しくしている。

 生温い視線を向けてくる同胞を睨みつけてから、アーロンは気を取り直して次の話題に移った。

 

「あとは……まあ、強い。言いたかねェが、おれ達の誰よりもな」

「えっ、子どもなのに?」

 

 驚く少女にアーロンは小柄な体躯が甲板の隅で筋トレをしている姿を思い出す。細い身体に見合わない量を、全然効果が出ないと文句を言って休憩しつつも、少年はすべてこなしていた。

 子どもである彼があのレベルまで強くなるには、身体を痛めつけて死にかけるほどの努力がいる。本人は文句ばかり言っていたが、どんなに厳しい鍛練もやり遂げ投げ出したことはなかった。

 魚人達はそんな少年を見ているからこそ、彼の努力に裏打ちされた強さを羨んだりはしない。

 

「他にはないの?」

「あ? ……ホー、なんだそういうもんに興味を持つようになったか小猿が」

「小猿言うな! もう、そういうのじゃないの!」

「やめとけやめとけ、確かにあいつは将来有望だけどよ、既に惚れた相手がいるみたいだぜ」

「なんだナミ、もうフラれたな」

「気にすんな別の出会いがあるさ」

「みんなホント失礼!!」

「シャハハハハ!」

 

 本気で憤慨しているナミに、ただの興味だったようだなとアーロンは内心でため息をついた。

 ナミも姉のノジコも贔屓目に見ても可愛らしい少女だ。同世代のはな垂れ小僧にちょっかいを掛けられては口で負かしている姿を見かけては、満面の笑みでナミがアーロンに駆け寄り、小僧共にアーロンが嫉妬で睨まれる光景がよく繰り広げられている。

 別に人間の子どもに睨まれてもアーロンにとって気にすることではないが、少女が無事に人生の伴侶を見つけられるのか心配になってきたところに、ナミはヘーマの話題に食いついた。

 なんだ面食いだったか、と思えば単なる興味だったと知って、アーロンは落胆と安堵の感情を同時に覚えていた。

 

「あー、お人好しの性格をしている割には揶揄うのが好きだとか……あとは空飛ぶ馬車をもってたな」

「空飛ぶ馬車!?」

「ああ、車輪はついてないが、こう、すーっと空を泳ぐように進んでいたな」

「ふぅん、あんな風に?」

「……あんな風?」

「あれ」

 

 ナミが指差す先を見上げた彼らが見たものは、いつもの空の景色と違い、そこになかった筈の宙に浮かぶ大きな島。目をこらしてよく見ると、櫂と帆があるため船であることがわかる。

 

「なんだありゃ、船か?」

「まさかあれにヘーマが乗ってるとかねェよな?」

「それなら随分と大きいものも飛ばせるようになったんだな」

 

「──違うわ!」

「ベルメール?」

 

 直前に手紙で連絡を受けていたため、てっきりヘーマが来たと思い始めていた彼等に、鋭い声で否定をしたのは一人の女性だった。

 望遠鏡を片手に握り締めたベルメールは丘の上の自宅から走ってきたのか、荒い息で肩を上下させながら身を屈めて呼吸をする。

 

「すぐに村から全員避難させて! 船を空に飛ばして進む海賊に心当たりがあるの!」

「現役時代のお前の知識か」

 

 彼女の剣幕に村人達もただ事ではないと察知したとき、彼等のざわめく声に反応したかのように、空に滞空する島船からゆっくりと何かが降りてくる。

 

 それは人であった。鬣を彷彿とさせる金色の長い髪に、頭に突き刺さった舵輪のようなもの。ワノ国風の服の下から覗く両足には、靴ではなく剣の刃が突き出ている。

 腕を組みながら重力が無いかのように宙に浮く姿からは、一種の威厳すら感じ取れるほど。

 

「大海賊時代が始まる前、あの海賊王とも何度もやり合った伝説の一人……!」

 

 ベルメールは冷や汗を流しながら、声を張り上げるように警告する。平和なココヤシ村の仲間に伝わるように、偉大なる航路(グランドライン)の怪物の存在を叫ぶ。

 

「当時の強さは四皇に値する大海賊、フワフワの実の能力者……金獅子のシキ!!」

 

 己を見上げている村人達の視線を受けて、大海賊は目を細めて口の端を歪めた。

 

 

 

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