群青色を押し花に   作:保泉

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犯行予告

 

 

 集会場近くの家の人に手洗いを貸して貰って済ませた後、おれは無言で浜辺に向かって歩いて行く。

 

「おい、また怖い顔になってンぞ」

「……ふぅー……悪い」

 

 後ろから伸びてきたソルの手の平に目元を隠されて、おれは肺の中の息を吐ききった。いかんいかん、まだココヤシ村の中だってのに落ち着かなくては。

 

「ふざけるなっ!」

 

「なんだ?」

「あれは、海軍?」

 

 進行方向の先、並ぶ村人達の背中の向こうに、海を背にした海兵らしき白い制服の集団が見える。ああ、通報した結果来たのかな?

 ならおれ達が見つかると余計なゴタつきが出るため、顔を合わさないようにそっと反対側に向かって踵を返すべきなのだが、どうも彼等の様子がおかしい。

 

「何処を見たら『襲撃はない』と戯言を言えるんだ!」

「見事な血糊だとは思うとも。よく出来すぎて、少々演劇に熱が入って怪我をしたのも頷ける」

「あんた……!」

 

 怒鳴る村人とは反対に、ニヤニヤと笑いながらのらりくらりとしている海兵。うわ、嫌な感じだ。んー、それにしても先頭の帽子を被ってる奴、なんか見覚えがあるような気がするんだが、気のせいかな。

 

「考えてもみたまえ、こんな田舎にどうして伝説の海賊が現れると思うのかね?」

「……まさかあんたら、あの海賊とグルか!?」

「チチチ、大佐である私が海賊と手を組むなど、人聞きの悪い言い掛かりはよしてもらおう」

 

 完全に見下した表情で嘲る声音は、海兵には相応しくない下卑たもの。本当にコイツら海兵か? 海賊が海軍を詐称しているんじゃなくて?

 

「なんてことだ……」

「……」

 

 味方の筈の海軍に横っ面を殴られた形になった村人達は、道に点々と棒立ちになっている。彼等をするすると追い越して、おれは浜辺へと近づいていった。

 ネズミを彷彿とさせる顔立ちの海兵に向かって、おれは「なあ」と声をかけた。

 

「ん? ……は?」

「民間人が二人誘拐されている。この事実すらもアンタらはやらせ扱いするのか」

 

 問いかけたおれの顔を見てしばし固まった海兵は、慌てたように早口で言った。

 

「な、何を聞くのかと思えば、村人が二人くらいいなくなることは、よくあることだろう!」

 

「……そうか、それをお前達が言うのか」

 

 どんな組織も手入れをしなければ腐る、ということはおれも当然知っている。平和な東の海ですらこの状況だ、他の海では海賊の仕業に見せかけた海兵の暴挙なんて、珍しくないのかもしれない。

 

 まあ、それはそれとしてだ。おれは狼狽えている海兵達を見据えた。

 

 これでもさ、おれは頑張って抑えてるつもりなんだよな。こんな荒事に慣れてなくて、優しい村人の前で苛立って覇気を漏らさないようにさ。実際、おれが八つ当たりしたいだけだし、そんなの迷惑だろ?

 

 でもな、アンタらみたいなもん見てるとついついこう思っちまうもんだ。

 

 うっかりしても良いか、って。

 

「ヒュ──」

 

 引き攣るような呼吸音が喉から絞り出され、海兵達は糸が切れたように一斉に地面に崩れ落ちる。

 

「なんだ!?」

「海兵達が突然倒れたぞ!」

 

 慌てる村人の間に立ってじっと倒れた海兵達を見下ろしていたおれは、隣にいた村人のシャツの裾を引っ張った。

 

「隅に並べておいて。拘束しておきたいけど、その点を楯に貴方たちが悪にされるから」

「あ、ああ……」

 

 反応した村人の青年に海兵達を指差しながら頼むと、突然のことに戸惑いながらも了承してくれた。

 ソルと二人、再び村の中を通って反対側の浜辺へと向かう途中、「あてが外れたな」とソルがぼやいた。全くもって同感。

 

「あれじゃこの村を守りゃしねェだろ」

「わかりやすく腐ってたもんな。うーん、しかたないか。素直に助っ人を呼ぼう」

 

 おれはピクテルが取り出した電伝虫を受け取り、手頃な切り株の上に置く。ポチポチと以前聞いていた番号を押してから、おれは電伝虫の前の地面に座り込んだ。

 

「プルルルル、ガチャ」

『……もしもし、ジンベエじゃが、すまんがかけ直して──』

「ジンベエさん、海軍の偉い人に伝手とかある?」

『……いきなりなんじゃ、ヘーマ』

 

 おれがかけたのは王下七武海に就任しているジンベエさん。わりとあっさり出てくれたので、断られる前に用件を突きつける。まだ切られちゃ困るんだよ。

 

「ある? やっぱりない?」

『ハァ……七武海が集まる会合で、元帥達も同席するんじゃが、そのときくらいじゃわい』

 

 おれの押しに諦めてくれたのか、ジンベエさんは答えてくれた。ごめんね、マジで緊急事態なんだ。

 ん? なんだろう、電伝虫がチラチラと横を見ているような。これはつまり、ジンベエさんがそんな動きをしているということであって。ふむ。

 

「まさか今その会議中?」

『そうじゃが? だからかけ直せと──』

「あー、じゃあ手短に言うね」

 

 なんというタイミング。あまりの都合の良さにおれは顔に出ないように内心で笑った。会議中に出てバックが静かだってことは聞き耳を立てているってことだよな、なら存分に聞いて貰おうじゃないか。

 おれは通話先に投げ込む弾のため、口を開いた。

 

「ジンベエさんも知ってるおれの友達の村が、金獅子のシキに襲われた」

『なっ!?』

 

 まずはひとつめ。大海賊であり長らく活動が不明だった金獅子の存在。おじい様ですら数年間は会っていないそうだから、海軍はきっと拠点を割り出せていないだろう。

 

「死者なし、怪我人もおれが治したからなし。ただ、現地の海軍支部の海兵が金獅子に賄賂貰ってるのか、襲撃は捏造だと言ってる。村人が攫われているのにね」

『なんじゃと』

 

 つぎに二つめ。大海賊の行動を隠蔽する海兵の存在。ひとつめの存在の捕捉が出来なかったのは、今回みたいに海兵に情報の隠蔽を頼んでいたんじゃないかな。

 

「それでさぁ、おれは金獅子ぶっ倒してくるから、海軍本部の人に引き取りに来るよう伝えてくれる?」

『……は? 待てヘーマ、お前さん実は全く冷静じゃな──』

「お願いね、じゃ」

 

 最後に三つめ。金獅子の襲撃への予告。

これらの爆弾を投げつけて、電話先の制止を聞くことなくおれは通話を切った。

 

 

 

 

 

 

 ヘーマの手から受話器が離れる。俯いたその顔は髪に隠れて、ソルからは表情が見えない。

 

「ソル」

「おう」

「目標、金獅子をぶっ倒すでいいかな」

 

 いつになく少年がピリピリしているのは、友の身体と心を傷つけられたからだろう。普段は出てくるソルから見て消極的な作戦が出てこないのがその証拠だ。

 さっきは少し漏れたがまた激情を抑えているらしく、ソプラノのトーンの平坦さに加えて思考が物騒になっている。

 

「お前が売りたい喧嘩だろ、おれに聞くのか?」

「ソルもやりたいかと思って。まあ……」

 

 ヘーマの頭が僅かに傾く。

 さらりと揺れる髪の隙間から覗いた目は、普段のヘーマからは考えられないほど怒りの色を宿していた。

 

「おれの標的だ、譲れ」

 

 途端、ソルに叩きつけられた暗く重く肌が痺れるような覇気にソルの背筋にゾクリとした感覚がはしる。ゆっくりとソルの口の端が吊り上がった。

 それは、これから彼やレイリーではけして引き出せない、少年の全力の本気を観ることが出来るだろう期待に、表情が制御出来なかったため。

 

 喜びと同時にソルは羨ましい、と率直に思う。

 ヘーマの全力とぶつかれるシキが、とてもとても羨ましい。

 

 ヘーマは明らかに怒りで戦闘力が上がるタイプだ。しかも、怒りの許容量がかなり大きい上にその鎮火も早い。親しい者や好感を持つ者が相手では、真の実力の何割かしか出せないだろう。

 それが達人クラスの柔剣の腕を持ちながら、覇気の練度が上がってもなお、未だにソルとレイリーに一本も勝てない理由のひとつだ。

 

 今回、シキは偶然の結果それを引き出した。友を傷つけられた怒りはヘーマの中で煮えたぎったまま冷める様子もなく、持続し続けている。ならば少年はそれをエネルギーにして、けっして標的を逃がさないだろう。

 

 おれもやりてェな、という内心を押し込めてソルはニッカリと笑ってみせる。

 

「……今回だけな!」

「次回があんのかい」

「わかんねェけど、あるかもしれねェだろ!」

「伝説の海賊相手とか何度もやりたくねぇわ」

 

 それはそうと強い相手との戦闘機会を譲るのはかなりの譲歩をしているつもりなので、次はおれの番だとソルは主張し、ヘーマから呆れた目を贈られた。

 

 

 

 

 

「あの小僧切りよった……!」

「フフフ……フッフッフッ! 伝説に喧嘩を売りに行くとは、とんだイカれたガキじゃねェか!」

 

 ツー、ツーと話中音が流れる受話器を握り締めて、ジンベエが低い声で唸るように言った。

 その横で笑いに震えるのは王下七武海であるドンキホーテ・ドフラミンゴで、大きな体躯を丸めて笑う彼を不愉快に思ったジンベエは睨みつける。

 

「貴様……」

「ジンベエ、今の話は本当だと思うか」

「……フゥー……恐らく本当じゃろうな。このような嘘をつくような子じゃないわい」

 

 水を差すように海軍元帥であるセンゴクがジンベエに話を振ると、衝動を鎮めるように深く息を吐いた彼は、通話の内容を肯定した。

 会う度にイタズラ坊主になっていくヘーマではあるが、人を振り回すような嘘をつく意地の悪さはない。

 それ以前に、気絶した海兵にすら配慮をしていた少年がこうも攻撃的になっていることすら珍しいと、ジンベエは一度受話器を置いた。

 

「金獅子、やはり潜伏していたね」

「奴は空を移動するため、これまで拠点の特定も出来なかったからな」

「まったく、素直に隠居していればいいものを」

「海兵が海賊と癒着ねェ……随分とまあ海軍の面汚しがいるみてェだなセンゴク元帥?」

「……まったくだ、頭がいたいわ」

 

 椅子に座り長い足を組んだこの場の紅一点ことつる中将は、今回は何を企んでいるんだかと計略が得意な海賊の狙いを思案する。

 鼻の上を横切る傷の男、七武海のクロコダイルは葉巻をくわえたまま海軍の醜聞を鼻で笑い、正論過ぎて流石に反論が出来なかったセンゴクは苦い顔をした。

 

「それで、だ。白薔薇はガキらしく無謀にも金獅子のところに単独殴り込むつもりらしいが……その結果がどうであれ、確実にもう一つの伝説────白ひげを刺激する」

「そういや、白ひげ海賊団はあの子の動きを知っているのかねぇ」

「まあ、当然本船には連絡を──」

 

「……知らんじゃろうなァ」

 

 ポツリと呟いたジンベエの言葉にピタリとその場から音が消えた。

 室内の者全てが、電伝虫に向き合うジンベエの姿を凝視する。視線を察知している筈のジンベエは、気づいていないかのように続きをぼやく。

 

「手配書が出た時も、後から知って説教されとったわい」

 

 それはつまり。白薔薇は完全な独断で他組織の海賊団へ襲撃するつもりであり。そこに本船である白ひげ海賊団の意図など微塵も含まれておらず、彼等にとっても金獅子との対立は想定外ということだ。

 

 ──今日この日、そりゃヤバイ、と珍しく海軍と海賊の内心がここに一致する珍事が起きた。

 

「……ジンベエ今すぐ白薔薇にかけ直せ!」

「もうやっとる! あのクソガキ出よらん!」

「白ひげ海賊団の連絡先は知らんのか!?」

「知っとりゃ真っ先にかけとるわい!」

 

 子どもの喧嘩のノリで世界が揺らぎかけていることに気づいたセンゴクがジンベエに指示をすると、先ほどから既にかけ続けていたジンベエはキレた。

 通話状態どころか着信すら出来ない状態なので、あの小僧電伝虫をキャンバスにしまったなとジンベエは苛立ちのあまり舌打ちする。

 

 唐突に訪れた世界のバランス崩壊の危機に皆がてんやわんやし始めた会議室で、唯一ドフラミンゴだけは楽しそうに笑っている。それを五月蠅そうに横目で見るクロコダイルは、ゆっくりと葉巻の煙をくゆらせた。

 

「フッフッフッ、こりゃ議題どころじゃなくなったなァ?」

「……白ひげと金獅子がぶつかれば、どちらもただじゃすまねェ。そうなるとその隙に残り二人も勢力拡大に動くだろう。そこまでいくと余波でどっかの国が倒れる可能性すらある。わざわざ均衡を崩そうとするとは、野心家か、ただの馬鹿か……」

 

「馬鹿にきまっとるじゃろうが!」

「ちょっと落ち着きなジンベエ。センゴク、あんたもだよ」

「すまん、おつるさん」

 

 クロコダイルの言葉のはしに噛みついたジンベエをつるが宥める。同じく宥められたセンゴクは、ゴホンとひとつ咳払いをした。

 

「本部から現地へ実態を確認に向かわせる。ジンベエ、案内を頼みたい」

「……致し方ないか、あいわかった」

 

 気を取り直してジンベエに現地への同行を求めると、七武海の中でも温厚な彼は了承する。

 

「それで現地に向かう海兵は──」

 

「わしが行こう!」

 

 バンと勢い良く扉を開けたせいでけたたましい音を立てて現れたのは、海軍の英雄モンキー=D=ガープ中将だった。

 

「ガープ、ようやく会議に来たと思えば」

「直ぐ動く必要があるんじゃろう。丁度よかった、わしも白薔薇に用があってな!」

「待て、お前に行かせると決まったわけでは」

「待ちなセンゴク」

 

 妙に乗り気のガープを制するようにセンゴクは口を開くが、つるは発言を妨げる。

 

「いいんじゃないかい。シキが暴れることを想定するなら、一人で突っ込めるこのジジイでも問題ないね。第一、別の任務に就いている大将をすぐに動かせないよ」

「ぐ……」

 

 つるのガープの申し出を擁護する意見に、センゴクは唸った。

 珍しいことに、通常一人はマリンフォードに残るはずが、現在三人いる大将は全て任務に出ている。

 空中戦となるだろう金獅子が相手となれば、ピカピカの実の能力者であるボルサリーノ大将が一番適任だったが、本日は天竜人の護衛任務に就いていた。

 

 適任者が自由人なガープしかいないと気づいたセンゴクは眉間にシワを寄せてこめかみを揉みほぐし、「決まったな」とガープは歯を見せて豪快に笑った。

 

「じゃあわしはこれで」

「おい待てジンベエを連れていかんか、貴様場所がわからんだろう!」

「ん? おー、そうじゃったそうじゃった。さっさと行くぞ!」

 

 笑いながら会議室を後にするガープについていくジンベエ。勢い良く登場し同じ勢いで去った嵐のような存在に、海兵達はため息をついた。

 一連の流れを見送っていた葉巻の男は、ガタッと椅子から立ち上がって堂々と出入り口の扉に向かって歩き出す。

 

「何処にいくクロコダイル」

「すでに会議の空気じゃなくなってるだろうが。金獅子と白ひげの戦争なんて厄ネタ、早く戻って影響範囲を確認しないといけないんでな」

 

 ドアを潜り徐々に靴音が小さくなっていった後、つるは部屋に残った七武海に声をかけた。

 

「あんたは帰らないのかい、ドフラミンゴ」

「ヒデェなあ、おつるさんはおれに帰れってか。フッフッフッ、こちとら真面目に会議に出てるだけだってのによ」

「それは悪かったね。幸い、重要な議題は終わってるんだ。もう解散でいいんじゃないのかい、センゴク」

「その方が良さそうだな。また次の開催時期は追って連絡する」

 

 あからさまに追い出されていることに肩をすくめてから、ドフラミンゴはドカドカと足音を立てて会議室を出て行った。ドアが完全に閉まり海兵のみとなった部屋の中で、センゴクは小さく息を吐く。

 今日だけでかなりストレスを溜めた気がすると呟いた一人の中将に、全員が無言で同意した。

 

「敵と見なせば伝説ですら噛みつく、か……とんだ狂犬だな」

「集めていた情報ではわりと大人しい性格と記載されていたのにねぇ……身内思いな白ひげ海賊団らしいけどね」

 

 遥か上位相手にも果敢にぶつかっていくのは子どもらしい無鉄砲だが、その規模が大きすぎる。

 確か白薔薇は今十一歳だったはず、白ひげは何故少年を手元で育てないのかと、八つ当たり染みた思考になった頭を、センゴクは横に振った。

 問題は白薔薇だけではない、共に行動している若鬼に至っては、母体の組織すら浮かんでこない。

 

「未だ若鬼の所属は不明だったな」

「白ひげ海賊団ではないことだけだね、わかっているのは」

「今回、どちらが主導していると思う」

「反対してないなら、どっちだっておなじだよ」

「確かにな」

 

 

 

 

 

 

 フクロウの先導によっておれ達はとある島の近くまで来ていた。このフクロウゴーレムは某ファンタジー小説をモデルにしているだけあって、送り先の相手が何処にいるか分かる仕様になっている。

 これに気づいたときは、全世界の人間のビブルカードを持っているようだとおれは流石に戦慄した。ソルも口が引き攣ってた。だよね。

 

「わ~、島が浮いてる……」

「ありゃ普通の空島じゃねェな、シキの能力か」

「悪魔の実の能力ってすごいなぁ……」

 

 ここまで能力を使いこなせる悪魔の実の能力者は珍しい。超人系は基本能力者本人に作用するもので、自分以外のものに能力をかけるには『覚醒』という段階に至る必要があるそうだ。

 仮に覚醒に至っていないとしても、あの質量なら能力をかける時点で、相当な体力を消耗するはず。

 鍛えられた能力の練度は流石伝説の一角だということだろう。

 

「あの湖の畔、集落があるね」

「一番上の島はデカイ建物があるな。城か? あれが本拠地だろ」

 

 浮いている島はひとつだけではなく、大小様々で四季も違うのか、ある島は桜が咲き誇り、ある島は紅葉がひらひらと舞うという、ひとつの島の中でこうも違うのは偉大なる航路といえども類を見ない。

 フワフワの能力は関係があるのかな、どちらかというと高低差による気温の差が原因だろうか。

 

 それはそうと、この島々はいつまで浮いていられるんだろうな。定期的に小まめに能力をかけ直していたりするんだろうか。

 

「んー、もしかして悪魔の実の能力って気絶したら解除されたりする?」

「シキをぶっ飛ばしたときは落ちてたぜ」

「ダメじゃん。あの島落ちるやつじゃん」

 

 ふと思いついたことを聞いてみれば、あっさりと肯定されておれは裏手でツッコミを入れた。おい、あそこに人が住んでいそうなんだが? それじゃあ金獅子をぶっ飛ばせないじゃんか。

 先に住人を避難させないとダメだな、とおれはじっと浮いた島を観察する。

 

「島雲って、つまり雲だよね」

「雲だな」

 

 まとまりのない思考から漏れた言葉を口にして、ソルがコクリと頷く。そう、島雲は雲。

 

「つまり質量という点では水に比べて多くなくて、反対に表面積は大きいと」

「……ソウダナ?」

 

 島雲はある成分の密度によって形成されるそうだが、雲であることには間違いはなく、だからこそ主成分は普通の雲と同じ粒状の水や氷である。つまり同じ体積でも物質の質量は水に比べて非常に軽い。

 

 おれはチラリとピクテルに視線を流す。彼女はひとつ頷くとスケッチブックに手を差し込んだ。

 

 そうして取り出したものは、ふわふわとした白い綿のような──クッションサイズの触れられる雲。

 

「よっしゃ、いけたぞ島雲型ゴーレム!」

「なっ、なっ、これ乗れたりすんのかっ!?」

「待て待て、とりあえず量を出すから……よし乗ってみろ」

 

 ぽすぽすと手の平で叩いて質感を確かめるおれの横で、ソルが目を輝かせて雲ゴーレムを指差す。

 まだかまだかとソワソワしているソルを押し止めながら雲ゴーレムを出していくと、ソルがギリギリ横になれる程度の大きさになった。

 ここまで大きくなれば大丈夫だろ、とオーケーを出せばソルはひょいっと飛び乗った。

 成人男性以上の重さを受け止めた雲ゴーレムは、少しも重さで沈むことなく浮かんだままその場所に留まっていた。

 

「お~~~!!」

「よしちゃんとくっつくし、重量もオーケー。ソル、行きたい方向を指差してみて」

「ん、こうか? ……うおっ、進んだ~~!」

「進路の指示もよし、と」

 

 まるで筋斗雲みたいになったな、とゆっくりめで動く雲ゴーレムとソルを見て思う。誰でも乗れる代わりにスピードは出せないみたいだが、今回の目的にとってはなにも問題はない。

 

「さて、おれはこれから雲ゴーレムの量産作業に入る。それでこの島達を浮かすぞ」

「スゲェこと考えんなお前」

「良いアイデアだろ? 良さそうな島だし折角の機会だ、まるっとナワバリごと奪ってやるよ」

 

 このファンタジーな浮かんだ島は気に入ったんだ、どうせなら現状のまま手に入れたい。

 

「で、準備が出来たらどうすんだ?」

「そりゃあ勿論」

 

 ヒョイッと雲ゴーレムからチェーロリベルタ二号に戻ってきたソルは、肩に剣を担いでニッと笑う。なんだお前、わかってること態々聞くなよ?

 こそこそ侵入しても見聞色で見つかるんじゃ、一択だろ。

 

「海賊らしく、真っ正面から襲撃しようぜ」

「わはは、そうすっか!」

 

 

 

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