群青色を押し花に   作:保泉

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一滴も残らなくなるまでは

 

 

「ほう、やけに上等な酒だな」

「だろ! ヘーマが能力で作ったンだぜ」

「美味ェ。身体のパーツ以外も作れンだな」

「この酒みてェに趣向品は全部ヘーマが作ってンだ。お陰で美味い酒には不自由はしてねェな」

 

 とろりとした酒の注がれたグラスを傾けて、シキはその風味に感嘆した。ここまで高級なラム酒は珍しい。酒蔵は大量に作れば端から海賊達が買うため質を上げることは少なく、作っているとしても上等なものなどは貴族に買い占められてしまい、市場に出回ることは少ない。こんな良いモンをいつも飲んでんのかと、シキは少し美味そうに酒を飲むロジャーをどつきたくなった。

 

「でもよ、ヘーマが島雲作って島を浮かすなんて言い出したときは、流石におれも驚いたぜ。そんでやってみたらできちまったしな」

「やっぱりまだこの島浮いてンのか。この手錠でとっくにおれの能力は切れてるってのに、なんでだと思えば……マジで空島を作ったのか。かーっ、惜しいぜ、おれなら有効活用できたってのによ」

 

 じゃらりと手枷から伸びた鎖の音を鳴らし、想定よりも遥かに汎用性の高いヘーマの能力に、シキは大げさに逃した魚を嘆く。つまみのナッツを噛み砕きつつ、ロジャーはもしシキに拾われていたらと思い浮かべてみた。

 きっとシキはヘーマをこの島から出さなかっただろうから、確実に少年はロジャーと出会っていない。更に彼がシキの思想に染まれば、少なくともシャンクス達とはそりが合わなくなるだろう。

 今は兎も角、悪党をさえ許容する『昔のヘーマ』であればあり得ないわけではないルートだと、ロジャーは思いっきり眉をひそめる。

 シャンクスやレイリーと合わないとなると、ヘーマが弟と大事にするエース達とも合わないということだ。コルボ山で仲良く遊ぶ子ども達を思いだして、ロジャーは彼らが敵対する未来でなくてよかったと安堵した。

 

「だいたいなんだコイツの能力は、今まで聞いたことねェぞ。あのそっくりなベイビーちゃんはなんだ」

「能力が形になったもんらしいぜ」

「実はよくわかってねェだろおめェ」

「わはは」

「誤魔化してるつもりか? 適当過ぎんだろ」

 

 若干気分を損ねたことを振り払うようにロジャーが適当に返事を返していると、シキは気のない返事に気づいて半目で睨んだ。シキは自身の敗因を分析するため、ヘーマの情報を聞き出そうとしていたが、ロジャーはヘーマを庇っているのかあまり口を滑らせない。

 

「ま、お前にとっちゃあの決着は消化不良だろうがよ、あれ以上、ヘーマにゃ時間がなかった。血を吐いたの見たからわかンだろうがな」

「それだ。なんで坊主はこんなにも弱々しくなってンだ。最初は元気が有り余っていただろう」

「んー、それはおれも疑問に思ってンだが、まあか弱いヘーマだしな!」

「あ? なんだそりゃ」

「ニューゲートのとこのヘーマに対する認識だ。ニューゲートとマルコ以外のな」

「全員正気か? 覇王色持ってんだぞコイツ」

「それが正気なんだよな~」

 

 正真正銘か弱かった頃のヘーマから数年しか経過していないため、仕方ないという事情もある。もう一つ理由があるとすれば、ヘーマが頑なに隠しているつもりの体調の事だろうと、ロジャーは後ろを振り返った。

 

「なあ、マルコ。実際のとこヘーマの身体はどうなんだ」

「……」

 

 眠るヘーマの近くに座っているマルコにロジャーが話を振れば、ちらりと二人を見て彼は口を開いた。

 

「本来は月の半分、ベッドから動ければいい方な重病人だよい。それを無理矢理動いてンだ……オヤジは、ヘーマが特殊な覇気の技術を使えなきゃ、船から出すつもりはまったくなかったよい」

「特殊な覇気の技術ねェ? やたら多い覇気のタネがそれか?」

「まあ、そんなとこだ。増やした覇気で強引に体調を整えてンなら、今の状態は反動がきてるっつーことか」

 

 ヘーマの身体、臓器は正常に機能しているとは言えない。検査で出るのは常人よりも低い数値で、生存において食事以外で純粋なエネルギーを得られる波紋法に依存しており、常に継続することが最早前提となってしまっている。

 過去の心身共に与えられた著しい負荷により傷ついた身体は、未だ完治に程遠い状態であり、通常では即行で入院するべき状態だった。ヤブ医者でも無い限り、本来は戦闘どころか旅すら許可しないだろう。

 そんな欠陥のある身体で格上の大海賊の根城に突撃していったのだから、どんな結果になろうともヘーマ本人は納得済みなのだろうが。

 

「つーことはなんだ……半病人に負けたのかおれは」

「そりゃ負けンだろ、めちゃくちゃ勘鈍ってたからなお前。おれなら初手で勝てたぜ」

「うるせェわ!」

 

 ロジャーから見ても、下手するとあっさりヘーマが勝てるかもと思うくらいには、シキの戦闘勘は著しく鈍っていた。最初の方でヘーマが失敗してなければ、早々にあの首は床に転がっていただろう。

 それを自覚しているからこそ、シキは額に手を当ててうなだれる。昔馴染みに指摘される程情けないことはない、旧知の奴らが覇権を奪おうとするタイプではないから拠点まで来ないだろうと、計画も止めはしないだろうと怠けた自分が全て悪い。

 

 シキは酒瓶を手に取り、ロジャーの空いたグラスにおかわり酒をトクトクと注ぎ、グラスに残ったストレートのラム酒を一気にあおる。

 

「ロジャー、何故海軍に捕まった」

 

 グラスをテーブルに置き、ポツリとシキは疑問を言葉に紡いだ。当時全く信じられなかった、海軍によるロジャー捕獲のニュース。

 

「海軍の弱兵共に捕まる程じゃねェだろ。第一、てめぇが捕まるならまずこう一報が出るはずだ。『ロジャー海賊団壊滅』ってな」

「あー」

 

 当時は頭に血が上って全く気づいていなかったが、ロジャーが船長として殿を務めるタイプだからといって、船員に被害がないことが可笑しい。特に冥王レイリー辺りは生き延びるより船長と共に散ることを選びそうだと、シキの指摘にロジャーは笑った。

 

「実はよ、おれは自首したんだ」

「はぁ!?」

「不治の病ってやつでな、あの時おれの寿命は尽きかけていた。なら最後に、ちょっと盛大に、ってよ」

「それであの宣言か……なるほどなァ」

 

 シキは気が抜けたように息を吐いた。自分が想像していたような体たらくを晒していない、つまりこの男は最後まで好き勝手生きたってことだった。

 衰え、弱り、成すすべもなく哀れに捕まったのではなく、最期まで男が好きな自由を選んで、自分で死ぬ場所を選んだ。本当に嫌な時は逃げ出す男だからこそ、東の海で終えることは納得していたのだろう。

 

 なんだ、おれが柄にもなく憤る必要は無かったってことか。シキは自嘲しクツクツと喉を鳴らした。

 

「それで、いまは好々爺よろしく坊主のお守りやってンのか」

「いーや、ダチと世界旅行だ!」

 

 ニカッと楽しそうに笑顔になったロジャーに、「旅行? そりゃ呑気なことだ」とシキは呆れる。旅行など、王族や貴族のお楽しみ以外聞いたこともない。空飛ぶ船をヘーマが持っているため海を進む船よりは不可能ではないが、偉大なる航路の悪天候は空を進もうが影響を及ぼしている。

 

「おう、なんならこの前まではレイリーも一緒だったぜ」

「なんだ冥王も知ってンのか。そのメンツでよく海軍にバレてねェな」

「それが、そろそろバレそうでよ……実はここにガープが向かってンだと」

「ブフーッ! ゲホッ、ゲホッ……マジ?」

「マジ」

 

 思わず口に含んだ酒を噴き出し、咽せたシキが口元を拭って聞き間違いか確認すると、ロジャーはコクリと肯いた。

 

 かつてシキが所属したロックス海賊団、その壊滅の原因は海賊と海軍、ロジャーとガープが手を組んだことが一因だ。その実力としつこさはシキも重々知っており、そんな厄介な男がこのメルヴィユに向かっている。

 それはつまり、ヘーマと戦い疲労が抜けない状態で、万全なガープとやり合うという可能性があったということ。

 

「勘弁願いたい状況だな……だが、海軍に捕捉されるようなヘマ、おれには覚えがねェンだが……?」

「お前東の海の海兵を買収してただろ。ヘーマがそいつに会ったときにキレてよ、ダチに電伝虫で連絡したらそいつが七武海でマリンフォードにいて、しかも会議中だった。まー、色々暴露してたぜ、海軍が動きやすくなるような言い方でな!」

「直接呼び込んでる!?」

「多分センゴクやつるも居たんじゃねェか? もしかしたらここに来るかもしれねェな~」

「呑気か!?」

「わはは、どーすっかな!」

 

 ガープ単体でも厄介なのに、センゴクやつるも来たら逃げられるかどうか。確実に拠点は放棄することになるだろうとシキは考え、額に手を当てた。

 

「どっちみちおれは詰んでたってことじゃねェか……ジハハハハ! あんの小僧、おれへの殺意が高すぎンだろ!」

 

 ヘーマは自分が失敗した時のことを考えて戦力を呼び込んだのだろう。確実に仕留めるという少年の意思を感じ取って、その執念深さにシキは思わず笑った。

 

「それで、今後はどうすンだ。坊主が回復するまで待機すンのか?」

「んー、ピクテルどうだ?」

 

 ロジャーに呼ばれたピクテルはひらりと紺のスカートをひらめかせて現れ、両手でスケッチブックを持って二人に見せた。

 

『捕まえたこの島の人たちを帰さないと出れない』

「お、それさえ終われば出港できンだな!」

『できる』

「いやなんでそいつ動いてンだ! 坊主の能力だろ……まさか坊主から独立してンのかよそれ!?」

 

 シキがぐりんと顔ごと動かして視線を向けた先には、すやすやと眠るヘーマがいる。寝ている、寝たふりとかではなく完全に眠っている。

 

 悪魔の実には悪魔が宿るという。

 食べることで悪魔は体内に移り、その者は実に宿った能力が使える、というのが悪魔の実の存在を知る者たちにまことしやかに語られる通説だ。

 それに準えるならあれは悪魔の実に宿っていた悪魔となるが、あそこまで自由意志を持つだろうかとシキは訝しむ横で、ロジャーはニヤニヤと笑っていた。

 

「ヘーマがピクテルの制御に四苦八苦する位には自由だな!」

「ロジャー誘拐の前科があるそうだよい」

「手際よかったぜ!」

「坊主より海賊向いてんじゃねェか? あー、おれの部下達もソイツの絵の中か……」

 

 わざわざ敵の本拠地の島を守るような甘ちゃんよりは、よっぽど海賊らしい欲望への忠実さだ。実はピクテルは本体であるヘーマと理性の程度に違いはあっても同質で、ヘーマも中々の押しの強さを持っていたりするのだが、それを知らないシキは憐れみを含んだ視線をヘーマに向けた。

 

 意識がない宿主の制御外で自律する、ロジャー曰く能力が形を取ったもの。能力で形作ったものと能力そのものでは結果が全く違う。そのあまりの自由さに『これは悪魔の実の能力ではないな』とシキも流石に気づいた。ただし正体にはさっぱり見当がつかないが。

 

「急いで出る必要があンのかよい?」

「海軍に、つーか世界政府にこの島を認知されたくないンだとよ。直接海軍の軍艦に乗り込みゃ知られずに済むからってな」

 

 この島をナワバリにするなら海軍に知られない方がいい。シキはこの島に生息する全ての動植物について研究した身だ。それが珍しいものであることも、海賊以下の世界貴族の娯楽になるだろうことも十分知っているため、「おれでもそうするだろうな」とロジャーに同意した。

 

 そうして、二人は、時折マルコも交えながら言葉を交わした。己のグラスが空になるまで、用意されたつまみが食いつくされ、ラム酒のビンから一滴も落ちなくなるまで。

 

「ロジャー」

「ん?」

 

 相変わらずどこか暢気な旧知の顔を男はじっくりと見る。

 

 これがシキとロジャーの最後の飲み会だ。

 シキはこれから海軍に引き渡される。前回インペルダウンから脱出したシキは、より牢内で厳重に拘束されるだろう。もしくは今度こそ処刑されるやもしれないと、彼は己の未来を冷静に見据えていた。

 万が一再び脱走できたとしても、ロジャーはもうこの世にいない可能性が高いだろう。死ぬと決めたら何処までも頑固な性分なのは、既に証明されていた。

 

「おれとてめェはとことん方向性が合わなかったが……まあ、楽しめたぜ」

「……わはは、おれも楽しかったぜ、シキ」

 

 奇妙な巡り合わせで実現した最後の挨拶に、男達はそれぞれの笑みを顔に浮かべた。

 

 

 

 

 ぱちりとおれは目を覚ました。

 唐突な覚醒に自分がどこにいるのかすぐに理解できなくて、おれは目を彷徨わせた。しゅんしゅんとストーブの上で蒸気を上げるやかんの音以外聞こえず、隙間から光が差し込むテントの中には、誰もいなかった。

 

 おれは傍に置いてあった濡れタオルを手に、寝転がったまま顔を拭く。まだ身体に力が入らないからだ。少しでも回復を早めるべく、徐々に波紋の呼吸を深めていく。全身に常に巡らせ続けられるようになるまでは、数日時間が掛かりそうだった。

 

「起きたのかよい」

「お父様、おはよう」

「おはよう。ほらこれを飲め」

 

 テントの入り口の布を捲って、お父様が何かを手にしたまま入ってきた。おれの背中を支えて起き上がらせてから渡された湯呑の中身は、掃除が必要な池みたいな暗い緑色をしていた。え、これ本当に飲んでいいものなの?

 

「何このどぎつい色の液体」

「薬湯だ。鼻つまんででも全部飲めよい」

 

 嘘だろ。おれはまじまじと湯呑の中身を凝視した。何やら細かく摺りつぶされているが、葉っぱや木のくずみたいなものが確認できる。煎じ薬じゃなくて薬草ごと飲むらしい。

 

 出来れば飲みたくないが、おれには飲まない選択肢が存在しない。

 

 ピクテル製の薬草であれば、他者には効果があっても本体であるおれに効果はない。能力で出した食べ物が何一つ栄養に出来ないためだ。そんなおれに飲ませるということは、薬湯に必要な薬草達を一から探してきてくれたということである。

 見知らぬ島で埴生を見極めて、手ずから作ってくれたこれを拒否する……できるかよ、恩知らずすぎる。

 おれは自分の鼻を摘まんで、グイッと湯呑を傾けた。

 

「臭いが無くても不味い……!」

 

 なんとか全部飲み干して後味の悪さに震えていると、お父様は水の入ったコップを差し出してきた。ありがたく受け取って一気飲みするおれの様子を観察しながら、お父様は枕元に近い椅子に腰を下ろした。ギシリと木が軋む音がする。

 

「ソル達は?」

「下の島だ。金獅子をキャンバスに放り込ンだ後、そこの集落に住民を帰しに行ったよい」

「えっ、おれも行きたかった」

 

 動ける範囲でテントの中を見渡して、ソルがいないことを確認する。そういえばピクテルも出てこないな。おれが起きるとここぞとばかりに世話を焼くのに、出てこないってことはお父様の言う通りソルと一緒なんだろう。

 

「栄養状態が悪そうだから、検診がてら波紋流そうと思ってたのに」

「だと思ったからアイツだけで行ってンだよい。昨日血を吐いてンだぞ、安静に決まってンだろい」

「ぐぬぅ」

 

 お父様に「まだ顔色が悪いから寝とけ」と布団の中に戻される。この時点で、おれは少々困惑していた。お父様から怒気を全く感じなかったから。

 

「怒らないの」

「怒ってほしいのか?」

「そうじゃないけど、その」

 

 絶対に怒られると、無茶をしたと咎められると思っていた。おれが玉砕覚悟でシキにぶつかったことは、きっとお父様にもソルにも気づかれているだろうし。

 そんなおれを見つめていたお父様はふ、と目を細めた。

 

「どういう形であれ大海賊を引きずり落としたンだ。もう一人前と認めるには充分だろい」

 

 伸ばされた大きな手が、さりさりとおれの髪を梳くように頭を撫でられる。

 

「これからもおれ達ァお前の無茶を心配するが、生き方について口出しはしねェよい」

 

 お父様の言葉はおれを褒めるものであり、同時に一人前だと叱咤するものだった。そっか、おれ、もう──

 

「つまり今後は課題しなくてもいいんだ、ヤッター!」

「喜ぶところはそこかい」

「あたっ」

 

 デコピンの衝撃に額を押さえて唸る。しまった、つい本音が飛び出てしまった。でもお父様、モビーに戻る度増える課題は結構ストレスになるもんなんだぞ。みんな面白がって段々高度化しているし、おれをどうしたいのって感じなんだぞ。

 ぶすくれているおれとは対照的に、お父様は真顔のままであったので、おれは慌てて顔を引き締めた。

 

「顛末はオヤジにはもう報告してる。お前が望むなら、『傘下として独立してもいい』だそうだよい」

「……今と何が変わるの?」

 

 おれはまだ白ひげ海賊団として仕事をしたことがないから、そのあたりを知らなかったりする。でも今も半分独立しているような状態じゃないのかな。船に乗っている期間の方が短いくらいだ。

 

「そうだねい、この島のナワバリ云々もあるが、モビーに来るときは一報入れる必要がある。傘下には本船から独立した奴らもいるが、海賊団ごと入った奴らもいるからそこはケジメだよい」

「独立しない!」

「即答……」

 

 おれは動かない腕でバッテンを作り、勢いよく拒否した。え、やだ。家に連絡入れないと帰れないってなんかやだ。それに、未来でエースが白ひげ海賊団に入るならおれも所属してないと驚かせられないし!

 

「ったく、親離れしてんのかしてねェのか……まだまだガキだねい」

「ほおはやめれー」

 

 お父様はムニムニとおれのほっぺたを指先でつまむ。おれを見る目は優しい。……だって、おれはお父様の子どもだからいいんだよ。

 

「おっ、起きてンな!」

 

 ばさりとテントの入り口の布が勢いよく開いて、ソルがひょっこりと顔を出す。その顔にゴーグルがしっかりついていることにおれはほっとした。そのまま顔出ししていったらどうしようかと思った……情報が封鎖されているなら新しい海賊のデータは更新されないから、島民達の海賊王の記憶が薄れていないってことなんだぞ。バレたらどうする。

 

「ソルだ。おはよう」

「おはよう。じゃあ行くか!」

「へ?」

「おい!?」

 

 おれの両脇に手を差し入れられ、ひょいと抱き上げられて片腕に乗せられる。目を瞬かせるおれの横で、お父様がソルの肩を掴んだ。あの、随分と力が入っていません?

 しかし、おれのヘロヘロさを知るソルが無理矢理連れ出そうとするなんて、何かトラブルが発生したのだろうか。もしかして既に海軍が到着したとか……大きな覇気は感じられないけどなぁ。

 

「何処に行くの?」

「下の集落だ。お前の体調が悪いのはわかってるが、アーロンとこの攫われた母親のほうがヤベェ」

「わかった」

 

 ソルの笑みのない言葉におれは即頷いた。ベルメールさんの体調が思わしくないのね、了解。シキ達に色々巻き上げられている集落では医療物資も乏しいだろう、ソルが至急だと判断したのなら、あまり時間がないだろう。

 

 ちらりと隣を見れば、理由が理由なだけに止められなさそうなお父様。「ハァ、おれも行くよい。医者が必要だろう」と快く協力してくれることになった。お父様はやっぱり格好いいな。

 

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