群青色を押し花に   作:保泉

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自由な空

 

「おばちゃん、お湯沸いたよ!」

「ありがとう、そこの布を鍋に入れておくれ。五分煮込んだら冷ましてこの娘の身体を拭くよ」

「わかった!」

 

 シキから解放されたことで男たちが戻ってきた。そんな再会を喜び合うはずの村では、女達が慌ただしく動き回っていた。沸騰した湯の中に薄手の布を沈め、くつくつと煮た後取り出して冷まし、固く絞った。

 

「まず止血が先だ、包帯を持ってきてくれ!」

「うちのやつを使って頂戴!」

「あたしの家の包帯も取ってきたよ! ほら男はこの部屋から出て行きな!」

「わ、わかったから押すんじゃない!」

 

 シキに囚われ村人と共に解放されていた親子のうち、重傷を負っていた母親の容体が一気に悪くなった。逃げる途中で塞がりかけの傷が開き、青い顔でぐったりとする母親──ベルメールを背負って逃げていた村人の男が処置の為テーブルに彼女を横たえると、年配の女性陣にドアに向かってグイグイと背を押される。

 追い出される男達を背景に、寝台に横たわる母の手を娘であるナミはそっと握った。

 

「ベルメールさん……」

「ふふ……まだこれくらいへっちゃらよ」

「ナミちゃん、お母さんの手当てが終わるまでこの椅子に座っててね」

「うん……」

 

 血が足りない身体は思うように娘の手すら握り返せない。なんてことない様に微笑むベルメールを見て、ナミは口を固く結び泣くのを耐えていた。

 

「あの青年は何処に行ったんだ?」

「なんでも治療出来るやつを連れてくると」

 

 外に出た男達は、村まで連れてきてくれただろう背の高い青年を思い浮かべる。彼は怪我をしたベルメールを目視するなり上の島まで文字通り駆け上っていってしまったが、既に数十分が経過している。

 もしや落下したのではと心配し始めた村人達の耳に、ダンッと何かがぶつかる音が聞こえた。

 

「あっ、青ね……」

「待たせたな!」

 

 良かった無事だったと安堵しつつ振り返った男たちが見たのは、無邪気に口元で笑う青年と、彼に抱えられた小柄な人物。

 

「怪我人は何処ですか」

 

 波打つ青みを帯びた長い黒髪、青白いほど血の気の引いた透き通る肌、意志の強さを宿した宝石のように輝く緑の眼。輝かんばかりの美貌も合わさって、少年の持つ人間離れした妖しい美に男たちはぽかんと口を開けて固まった。

 反応が返ってこないことに少年の、ヘーマの整った眉がひそめられる。

 

「あー、多分こっちだろ」

「ソル」

「そのうち慣れる、気にすんな」

 

 ヘーマと行動を共にすることにより、少年の美しさに臆して動けなくなる人々を見慣れていたソルは、彼らの反応を気にせず村人が集まっている場所へ歩き出した。

 ソルに抱えられながらヘーマは僅かに目を伏せ俯く。体調の悪さ故に気が滅入りやすくなっているため、いつもは慣れてしまって気にも留めない村人たちの反応に少し気落ちしていた。怖がられるよりはいいけどさ、と内心で仕方ないと内心でため息を吐いた。

 

 そんなヘーマをソルはチラリと見下ろす。彼も以前に比べて、少年の美貌に過剰反応する人数が増えたことは気づいているが、流石に毎度見惚れている人間の頬を打って正気に戻すわけにはいかない。ただ、今回ばかりはヘーマの状態が原因なのでしようがない面もあるなと彼は判断していた。

 いつもの人の好さげな快活さが抜け落ち、いつも以上に肌が透明で白い。一見、手弱女のような楚々とした容姿でありながら、目は爛々と燃えるように力強く輝いている。この歪でチグハグな妖しさに目を奪われない者は、色に興味の薄い相当な朴念仁くらいだ。もし今が夜であれば、少年を人間だと思える者は多くはいない。

 

「ちょっと、この家はいま男子禁制だよ……ってあんた達無事だったのかい!?」

「よう、治療出来るやつを連れてきたぜ」

「失礼するよ、マダム」

 

 屈んで扉を潜ったソルに家主の女から叱咤が飛ぶ。すぐにソルに気づいた──ヘーマにマダムと呼ばれた彼女は、眉を吊り上げた顔を安堵で緩めた。

 

「なんだい急患かい」

「婆さま」

「顔色が凄く悪いじゃないか、その子もベッドに」

「おれはおかまいなく。……ああ、そちらですね」

 

 この村の薬師だという老女がてきぱきと残った包帯を片付けつつ、家に乗り込んできた二人を睨みつける。血の気の引いているヘーマに気づいた老女は空いたもう一つのベッドを指差すが、少年は首を横に振って視線をテーブルに向ける。

 そこで彼は全身に包帯を巻いたピンク色の髪の女性と、ミカン色の少女を見つけた。

 

『どんな子っつってもなァ……』

 

「あ……」

 

 現実を疑うほどの美々しい少年と目が合った途端、少女──ナミの脳裏に慕うアーロンの声が浮かび上がる。あれは確かシキが来る前に話していた、アーロン達の友だちの特徴で──

 

『そうだな、顔が良い』

 

「ヘーマくんだ!」

「んん?」

 

 大男が抱えている美少年に橙色の髪の少女はハッと声を上げ指差し、初対面の相手から名前を呼ばれたヘーマは不思議そうに綺麗な顔を傾けた。

 

 

 

 

 ヘーマが波紋でベルメールを治療している間、当初の予定通りマルコは村人達の検診をしていた。

 

「栄養失調気味の村人が多いのはこれから回復するとして、この緑色に変色した皮膚……ダフトという病気はおれも初耳だよい」

「この島特有の病です。ダフトグリーンという植物……これは動物が嫌がるにおいを出すのですが、それには毒素が含まれていて吸い込むことで発症します」

 

 幸いなことに、重病人となる者はいなかったが、その中に島特有の病気にかかっている者が複数名いた。

 ダフトグリーンの毒素が蓄積することで身体機能を阻害し、酷くなると壊死や呼吸困難をおこす。グランドラインの他の島にも猛獣を寄せ付けないにおいを発する植物は存在するが、それらはダフトグリーンのように毒性を持ってはいない。

 この特性は島独自の進化ということだろうと、マルコはカルテに情報を書き込んでいく。

 

「この対策は……まさか予防医療だけかい?」

「いえ、I.Qという花が解毒剤の材料なんですが……」

 

 解毒剤となる存在はあることはある。だが、その手を打つことが出来ない理由は海賊だった。

 

「昔はそこら中に群生していたのですが、今は全てシキが独占していて……王宮に研究施設があったのだと聞いています」

「王宮か」

 

 村人曰く、特効薬の原材料である植物はシキが独占するため全て取りあげたという。個人的に育てていた分も根こそぎといった状態で、王宮以外にI.Qがあるとすればダフトグリーンの外側ならばまだ自生しているだろう。

 だが、それを探すには猛獣達の住処をうろつかなくてはならないため、非常に危険だった。

 

「おい、ソル」

「なんだ?」

「王宮で見た覚えあるか?」

「いや、心当たりがねェ。ピクテルの方が知ってンじゃねェか?」

 

 マルコの問いかけにソルは首を横に振る。シキの兵を片っ端から気絶させたのはソルだが、ほぼ廊下に出てきた人間を相手しただけで部屋の一つ一つを確認した訳ではない。対して人質達の保護に向かったピクテルなら、細かく確認しているはずだとソルは水を向けた。

 

『わかるよ。でも多分瓦礫の下かも』

「そうか……よーし、なら掘り起こしだな。人集めてやるか!」

 

 案の定知っていたピクテルだが、肝心の部屋は屋敷の倒壊に巻き込まれているらしい。

 だがあるというなら掘り返すまでのこと。ソルは村の男達に声を掛け、シキの倒壊した屋敷を探すことになった。

 

「というわけで行ってくるが、安静にしておけよい」

「流石に手伝えないのはわかるって。……ああそうだ、ピクテル、トムさん出して」

 

 治療疲れで横になっているヘーマへ、マルコは念入りに釘を刺した。そんな父に苦笑いをする息子は、手伝いに行くピクテルへトムを出すように頼む。扉を通れる程度に年齢を若返らせて出された彼は、まだぼんやりとした目をソルとヘーマに向ける。

 

「トムさんと待ってるよ。いってらっしゃい」

「いってくるぜ! トム、ヘーマをよろしくな!」

「いっといで」

 

 ひらひらと手を振る二人にソルはニカッと笑い、元気よく外に出ていった。

 

 

 

 

 いや、視線が刺さるな。

 おれは目をつぶったまま苦笑いしそうになる表情筋を引き締めた。

 

 視線の主はおそらく幼いナミだろう。彼女はベッドに横になってるおれに気を遣っているのか、声をかけることこそないがチラチラと視線を向けている。

 そろそろ無視しているのがツライので、おれは瞼を開けてナミに微笑みつつ手招きした。

 

「ナミちゃん、だっけ」

「うん、そうよ」

「ヒマだよね?」

「え」

「ちょっと抜け出してみないか?」

 

 椅子から立ち上がっておれの近くに寄ってきた少女に、内緒話の耳打ちをする。この子には早いとこもう自由なんだと理解させた方がいいとおれは思ったからだ。

 自分の心を蔑ろにする決意をしてしまった彼女は、おそらく今も自分を横に置いている。おれをチラ見していたのも、自分達に何かしないか観察していたようだし、気を張っているのは間違いないだろう。

 

「でもヘーマくん、具合がわるいんでしょ」

「ちょっとくらいなら大丈夫だよ。ここでお話ししていると、君のお母さんを起こしてしまいそうだし」

「……行く」

「よしきた。トムさんも行こう」

 

 彼女のおれへと向けられた少々の好奇心を煽る。外に出た方がいい理由を付け加えれば、あっさりとナミちゃんはおれの提案に頷いた。まだ幼いからかちょろいぜ。

 

「トムさんって魚人なの?」

「コンゴウフグの魚人らしい」

 

 トムさんの手を左手で、ナミちゃんの手を右手に取っておれ達は家の外に出た。そのまま手を繋ぎながら村の道を歩くと、めちゃくちゃ視線を感じるが悪意はないのでスルーすることにした。おれ達全員よそ者だから、村の人からすればそりゃあ見るだろう。

 

 三人でテクテク歩いていれば、湖の近くまでたどり着いた。

 

「湖だ」

「湖……大きいのに海じゃないのね」

「そうそう。ほら、潮の匂いがしないだろう?」

 

 空の色を映した湖は青色だが海と違う色味が綺麗だった。絵を描きたい……スケッチブックやらは、全部ピクテルが持ってるからなぁ。とても残念なことに今は何もできないから目にしっかり焼きつけよう。

 大きい湖を見たことがなかったのかナミちゃんの目が輝いている。うん、元来好奇心の強い子なんだろうな。

 

「あれ、きみ起きてて大丈夫なのかい?」

「しーっ、ちょっとだけ見逃しておじさん」

「ウッ……」

 

 船橋から水面を覗き込んでいるおれ達に船に乗った初老の男性が声を掛けてきた。口の前に指を一本立ててウインクしたら男性は撃たれたように胸を押さえた。ええ……。

 

「あのっ、ここ湖って本当?」

「え……ああ、そうだよ。ほら、向こうに対岸が見えるだろう」

 

 おじさんの様子に気づいていないのか普通に質問したナミちゃんに、はっとした彼は回答しながら向こう岸を指で示した。広い湖と言えど島の大きさに比べれば小さい、対岸ははっきりと見えていた。

 

「……本当だ」

「この湖大きいもんな。わ、魚だ」

「これは焼くと皮がパリッとして美味しいんだぞ。ディルと煮込んだスープも最高さ」

「お酒が進む?」

「あはは、その通りだ」

 

 うーん、どんな味なんだろう。昨日食べさせてもらったスープは美味しかったから、そのスープも絶対美味いと思うんだよな。レシピ貰えないだろうか。

 思考が食欲に傾きつつあったおれの気を引くように、ナミちゃんがクイッとおれの裾を引っ張る。なにかな?

 

「ねぇねぇ、ヘーマくん」

「どうしたナミちゃん……あ」

「「「あ」」」

 

 ナミちゃんの視線を辿れば、壁から覗くいくつかの小さい頭の持ち主と目が合った。ひいふうみい……いや凄いいっぱいいるな? この村にいる子ども全員のぞいているんじゃないだろうか。

 おれに気づかれて逃げ出そうとする子ども達に向け、おれは口の横にメガホンのように手を添えて声を張った。

 

「なあ君ら! 湖での遊び方教えてよ」

「へ、遊び?」

「そう。おれ達湖で遊んだことないんだよね。いいだろ、その代わりにおれの知ってる遊びも教えるからさ」

 

 ニコニコ笑うおれに顔を見合わせていた子ども達は、しばらく悩んだあとこっくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 吹雪吹き荒れる最上の島で、海賊と村人達が共同で瓦礫を退かしていた。幸い、研究施設があったあたりをピクテルが覚えていたため、崩れた屋根を細かい部品に切り分けて、人海戦術で運び出していく。

 この屋敷を建てるためにも村の男達は働かせられたのだが、こうも壊れているとなんとも言えない虚しさを感じていた。

 

「あった、I.Qだ……!」

「本当か!?」

 

 声を上げた村人の所に集まり、瓦礫を退かす。ヒビ割れたガラスに覆われた天井の下に、ずらりと並んだI.Qが見えた。

 

「よかったこれで解毒薬が作れる……!」

「じゃあ手分けして株を全部運ぶぞ! 温室は壊れているから、このままだと枯れるだけだ」

「先ずは増やして種を取らないと」

 

 元は野原いっぱいに咲き誇っていたI.Qだが、シキ達によって野生動物達の生息域からも奪われているかもしれない。近年、やけに気性の荒い動物が増えたと村人たちは実感していた。その急激な変化にシキ達が関係していないとは思えず、何かしら実験をしていたはずだった。

 もし仮に彼らが定期的にI.Qを食べることもできずにいるとしたら、蓄積された毒素に苦しんでいるはず。増やして全島にI.Qの種を撒く必要がある。

 

「まて、この下はガラスだ。足を踏み外したら怪我するぞ」

「ピクテル頼めるかい」

 

 踏み込もうとした村人の一人の肩をソルが掴む。瓦礫が上に重なっても崩れなかったとはいえ素材はガラス、人一人分の体重が増えた瞬間に崩れる危険性が高い。

 マルコが横にふわふわと浮いているピクテルを見上げると、彼女はスケッチブックを持って『まかせて』と返答した。ガラスの下に滑り込み、せっせとI.Qをキャンバスに収めていった。

 

 それを見守っていたソルだったが、「そうだ」となにやら思いついた顔をして拳を打った。

 

「ついでにお宝も持っていこうぜ! 他にも椅子とか鍋とかなら村でも使えンだろ」

「……い、いいのか?」

「いいだろマルコ!」

「あー、持ってけ持ってけ、どうせここにありゃ朽ちるだけだ。大体はアンタらの村の財産だろい」

「……ありがとうございます」

 

 今後、この島は白ひげ海賊団のナワバリとなることはすでに村人達に通達されていた。情報が封鎖されていたこのメルヴィユでも知られている大海賊だ、比較的穏健派であることもあり村人達からは受け入れられている。

 敵が貯めこんだ財宝が全て持ち出されても、村人は文句を言える立場ではない。それを残すと公言してくれた白ひげ海賊団の懐の深さに、村人達は心からの感謝を伝えた。

 

 

 一通り宝も雑貨も掘り起こして収穫を得たソル達は、村まで戻ってきた。

 

 ピクテルが荷物を取り出している場所から離れてヘーマが休んでいる家を覗き込むと、家の中のベッドには誰一人いなかった。

 

「……いねェな」

「んー、家は間違えていねェはずだが……」

 

「……あら、戻ってたのかい。あの子達ならあっちだよ」

「アイツら安静という言葉を知ってるのかねい」

 

 まさか戻る家を間違えたかと、首を捻る二人に声を掛けたのは、洗濯物の籠を持った家主の女だった。どうやら安静にせずに全員外に出ているらしい。

 あっちと示された方向に男二人が進んでみれば、湖の畔へ続く道のようだった。

 

 そこでヘーマとナミ含む子ども達が、まるで昔からの友人のように仲良く遊んでいる光景を見つけた。

 

「うおおおお! あっ、おと、と!?」

「ぬおおおお! わ、わ、わあ~!?」

 

 木のさじに丸い果物を乗せ、落とさないように走る二人。まっすぐ走れずフラフラと時折ぶつかりそうになる様子に、観戦している子どもたちは声援を飛ばしている。

 

「ゴール!」

「「どっちが勝った!?」」

「……赤の勝ちー!」

「よっしゃー!」

「くそー!」

 

 勝者は拳を上に突き上げ、敗者はがくりと肩を落とす。走り終わった少年たちは木箱に座っているヘーマの元に駆け寄り、「おれ勝った!」「負けた!」と何やら報告しに行っていた。彼はそれに美しい笑顔で「頑張ったな」と頭を撫でるものだから、少年たちはテレテレとはにかんで顔を緩めている。

 

「お疲れさん。えー、赤チームに一点追加、と」

「ヘーマ兄ちゃん、次何やるの~?」

「そうだなぁ……二人三脚するか!」

「なにそれ~」

「これは難しいぞ~? 息が合わないと転ぶからな。じゃあ、やってみたい人!」

「「「はーい!」」」

「よし背の順に並べ!」

 

「楽しそうでしょ」

 

 次の遊びに移った彼らをぼーっと見ているマルコに、クスクスと笑いながら声を掛ける女がいた。

 

「ベルメール、だったか」

「うん、あってる。助けてくれてありがとうね」

 

 視線を移せば樽に腰かけているちょっと前まで重傷であった、シキに捕らえられていたベルメールだった。彼女は礼を言うと、再び元気な子ども達へ視線を戻した。

 

「最初は遠巻きにされてたってのに、あっという間にみんなのリーダー。拍手したいくらい見事だったわ」

「はぁ、安静にしろとあれだけ言っても足りなかったようだねい」

「子どもは大人の言いつけを破るもんよ」

 

 ニヤニヤと笑う女にマルコはじっとりとした目を向ける。「大人も破ってりゃ庇うだろうな」と指摘すれば「うわこっちに飛び火した」とばかりに目を泳がせるベルメールは、誤魔化すように咳ばらいをする。

 

「あー、んー……ああしてるのを見ると、シキを倒したのがあの子ってことが信じられないくらいね」

「誇張じゃねぇぞ」

「わかってるって。これでも元海兵なの……強さの対比くらいはできるわ」

 

 一方、ヘーマ達は足を括る紐が手に入らなかったようで、どうしようか顔を突き合わせて悩んでいるようだった。

 

「いい感じの紐がないかぁ、んー、他のやるか」

「おれ脱獄鬼やりたい」

「あたしもー」

「……あ! ヘーマくん、あっち見て」

「お、丁度良いな」

 

 ペシペシと背中を叩かれて振り向いたヘーマは、ソルとしっかり目を合わせると子どもらしく歯を見せて笑った。

 

「ソルー! お前次鬼な!」

「おう?」

「みんないいか、あの兄ちゃんに捕まったら橋の所に行くんだぞ」

「鬼がいないときにタッチすれば脱獄だよな!」

「そうそう、いいねぇ、ちゃんと覚えてるな。じゃあ……総員、離脱せよ!」

「「「アイ・アイ・マム!」」」

「おいこらぁ!? マムはやめなさい!」

 

 ふざけて敬礼する少年たちにトムに抱えられたまま逃げるヘーマが怒ると、蜘蛛の子を散らすように駆け出して行った。それを鬼役に任命されたソルが「わはは、いつの間にか参加させられちまったな」と笑いながら一歩前に出た。

 

「ふふふ、いってらっしゃい」

「一応自分で動いてねぇが……なるべく早くベッドに返却してくれよい」

「おうよ!」

「ギャーッ!? この兄ちゃん足早ぇー!」

「空だー! 空に逃げろー!」

「あっ、空は──」

 

 ダッシュしたその速度に目を剥いた子ども達は、空へ羽ばたいて逃げ出す。通常ならそれで逃げられるだろうが、あいにくソルはそれはそれは優秀な覇気使いだった。

 

「えー!? うそだろここまで来た……いやー!?」

「わっはっはっはっ!」

「フエンが捕まったー! 皆助けるぞー!」

「おー!」

「ナミちゃんもいこ!」

「うん、エバーちゃん!」

 

 空を走るソルに確保された少年が叫び、それを逃がそうと子どもたちが船橋へと走る。ナミも村の子どもに手を引かれて、きゃあきゃあと楽しそうに走り出していた。

 

 それは、昨日までは見ることも聞くことも出来なかった、空に響く子ども達の笑い声。

 

「──ああ、本当に」

 

 村の大人たちは、誰もがそっと上を見上げていた。ようやく戻ってきた、自由な青い空を。

 

「シキの支配は終わったんだねぇ……」

 

 

 

 


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