魔法少女に襲われています   作:ガラン・ドゥ

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02:反転した日常

 授業は滞りなく進み、空はすっかり茜色に染まっている。

 帰りのホームルームも終わり、ボクは芹と一緒に帰りの身支度を整えていた。

 夕暮れ時の廊下を同じ歩調で歩く。

 

「――それでね、ボクの家の手前で猫が仰向けになって日向ぼっこしてて、すっごく癒されたんだよね~」

「へーわたしも見たかったなー。明日葉ちゃんもスマホで写真送ってくれれば良いのにー」

「ごめんごめん。グデグデになった猫の衝撃が強くてすっかり忘れてたよ」

「うわー絶対かわいいやつだよぉ。良いな良いな~」

 

 ここにいない猫を想像しながら2人でふにゃりと笑う。

 周りに人がいなくて良かった。

 ニヤニヤしてるボク達のことを見られたら、絶対不審がられる。

 まあ、この学校の9割の生徒が部活に所属してるので、残っている人間はそうそう見かけないから多分大丈夫だろう。

 窓から外を見やると、さわやかなイケメンがサッカーボールをゴールに決めていたり、筋骨隆々のマッチョメンがラグビーに勤しんでいたりしている。

 

「いやあ、青春だねえ」

「え?……あ、部活の話ね。明日葉ちゃん高校でも部活に入るの?」

「うーん、どうだろ。バスケは中学校でもやってたしそれでも良いんだけど、バイトもやってみたいなって」

 

 中学校の時は決して強いチームではなかったけど、メンバー全員仲が良かったし楽しく過ごせていた。

 先にバスケ部に行ってる友達からも同じ部活にって誘われたりしている。

 でも今からバイトでお金を貯めておきたいという気持ちもあるので非常に悩む。

 

「前にも言ってたよね。どんなことやりたいの?」

「うーん、そうだなあ。無難なところでコンビニバイトとか……あとはファミレスなんて良いかもね」

「ウェイトレス姿の明日葉ちゃんかあ。すごく可愛いんだろうなあ」

「ボクよりも芹の方が似合いそうだけどね」

「明日葉ちゃんにいらっしゃいませご主人様って言われたりぃ……。えへへ~」

「おーい、せりー?」

 

 芹の意識が上空にぶっ飛んでいってしまっている。

 

「せり、帰ってきてー」

「ハッ! ごめんね明日葉ちゃん。つい……」

 

 10年以上芹と友達をしているが、たまに彼女のことが分からなくなる時がある。

 やたらボクのこと持ち上げたり、自分よりもボクの服装選びに力入れたり。

 その時の芹はいつも目がマジな雰囲気で断れない雰囲気になってしまい、ボクはただされるがままだ。

 顔面偏差値80を優に超えてる彼女に顔が良いと言われてもただただ疑問しか出てこないのだが、特に嫌味っぽく聞こえないのだからその性格を良く表している。

 

「芹は部活とか入ったりしないの?」

「え、わたし? ……ちょっと時間なくて無理かな~」

「中学生の時からたまに授業抜けてたりするよね。なんか忙しかったりするの?」

「あー、うーん。……内緒、かな」

 

 芹は困ったような笑みを浮かべつつ人差し指を口元に当てた。

 それがあまりにも似合ってて、これが男だったらイチコロだろう。

 

「へー。ボクにも話せないことなんだ?」

「うん。ちょっと今はまだ無理なの」

「今はって?」

「……全部終わったら話すよ。明日葉ちゃんは何も心配いらないから」

 

 なんだか芹の目が憂いを帯びていて、それ以上聞くことはできなかった。

 玄関で靴を履き替えながら話を変えることに。

 

「そういえばさ、駅前に美味しいスイーツ店できたんだって。ちょっと行ってみない?」

「え、スイーツ!?」

 

 さっきの困り顔が一気に明るくなった。

 この娘甘党なので、スイーツと言えばどこにでも釣られてしまうのだ。その癖体重もあまり変わらないので周りの女の子から羨ましい目で見られている。

 ……もちろんボクもその1人。

 

「なんかねー山のように大きいパフェが話題になってるっぽいよ。ほらこれ」

 

 ボクはスマホの画面を芹に見せた。

 そこには広い口の専用グラスから飛び出た具材達が、これでもかと主張している写真が映し出されている。

 すると彼女の瞳が一段と輝きを増した。

 

「わっ、すごーい! 絶対美味しいよ~。でもこれ注文したらお夕飯食べられなくなっちゃいそうだね」

「そこは2人で分けて食べれば良いんじゃない? ボクも興味あるし、芹が良かったらだけど」

「え」

 

 ボクの言葉に芹が目を見開いた。

 

「そ、そんな恋人同士がしちゃいそうなこと、良いの!?」

「う、うん、まあ。ボク達女だし別に問題ないんじゃないかな……? シェアする人達も結構いそうだしさ」

「うぅ~違うよ~。いや違わないんだけどぉ……」

 

 芹は腕を伸ばして見えない何か探すような動きでモダモダしている。

 

「えっと、ボクとじゃ嫌かな……?」

「え、い、嫌じゃないです……。むしろ一歩前進というか……」

 

 後半が聞き取れなかったが、拒否されてるわけではなさそうなので了承と受け取ることにした。

 

「良かった。早速出発しよっか」

「明日葉ちゃんとパフェ……。えへへ。じゃあ――」

「……うん? 芹?」

 

 芹は会話を途中で止め、ピタリと動きを止めてしまった。

 何事かと思わず振り返る。

 彼女はというと、真剣な目でボクとは違う方向に顔を向けていた。それからボクに向き直る。

 

「あの、ごめんね明日葉(あすは)ちゃん。用事あったの思い出しちゃって……! 今日行けなかったんだった……」

「あら、そうなんだ。じゃあここでお別れかな?」

「う、うん。ホントにごめんね。今日じゃなくても絶対行こうね!」

「分かった。いつにする?」

「うんと、そしたら今週の日曜日にしよ。その日は絶対に空けるから!」

 

 今日は月曜日なのでちょうど一週間後くらいか。

 その日なら予定も入れてないし問題ない。

 

「分かった。日曜日だね。芹の方で予定が入っても大丈夫だからあんまり無理しないでね」

「そんなことしないよ! 全部終わらせてから行くから待っててね。それじゃあ待たね」

「うん、バイバイ」

 

 よほど急いでいるのか、芹の姿があっという間に消えてしまった。

 芹がいないことで予定がなくなったボクはちょっと遠回りしてから帰宅することに。

 馴染みの商店街の手前で鼻歌を歌いながら歩いていると、下から気配を感じた。

 見下ろしてみれば、ボクの足元で小鳥がピィピィとか細く鳴いている。

 どうしたんだろうとすぐ横にある公園の入り口の1本の木へ目を向ければ、上に鳥の巣が見えた。

 なるほどここから落ちたのかと納得しつつ、小鳥を拾い上げると困ったようにキョロキョロとしている。

 どうやらまだ飛べないようひな鳥らしく、ボクの手から逃げる様子はない。

 ならこのままにはできないな、と木の傍まで歩く。

 巣のある枝まではそんなに高くはない。今のボクの身長でも登れるだろう。

 女の子が大股広げて木を登るなんてはしたない姿を見られたくないので、一応周りに人がいないか確認してから幹に手を掛ける。

 男だった時のことを思い出しながらヒョイヒョイと昇っていくと、簡単に鳥の巣が目の前に見える高さまで来れた。

 片手で持っていたひな鳥をそっと中に入れる。

 

「よしよし、もう落ちるんじゃないぞ」

 

 ボクの言葉に反応した訳ではないのだろうが、その子は再度ピィピィと鳴いている。

 元気な様子に顔をほころばせながら木を降りようとした時、不意にどこかから視線を感じた。

 やばい見られたか、と思い振り返ったが、誰もいる様子はない。

 慎重に辺りを見回してはみたが、ボク以外に人はいなかった。

 気のせいかと思いつつも何か違和感。

 でも人がいないことは事実だ。なんだか気味の悪さを感じてボクは足早に公園を出る。

 

「――見つけた」

 

 だから、その声がボクの耳に届くことはなかった。

 

 

 □

 

 

 特に何事もないまま帰宅して両親と夕食も取り、お風呂に入ったボクは自室でゴロゴロとしていた。

 二時間程前に芹にメッセージを送ったりもしたけど、未だ返事はない。

 まだ用事が終わってないってことなのかな。

 でもこれだけ遅くまで掛かる事って何だろうと疑問に思う。

 まさか悪い人間に目を付けられてしまっているのだろうか……?

 芹って可愛いし、目立つ存在であることは間違いない。

 それで断れずにズルズルとのめり込んで……。なんて考えつつも同時にそんなことないかとも思ってしまう。

 だって芹って分かりやすいし。

 何かあれば顔からすぐに読み取れる。腐っても10年来の付き合いなのだ。

 芹の母親も特に変わった様子はない。であれば心配するようなことはしてないということだろう。

 返信がないのも気付いていないだけかもしれない。

 ボクは芹を信じている。芹が大丈夫だというのなら大丈夫なのだ。

 ボクが今こうしてモヤモヤしていてもしょうがないし、そろそろ寝ることにしよう。

 そう思って部屋の電気を消してから、窓に付けたカーテンを閉めようと立ち上がる。

 月明りが夜空を照らしており、明るいとさえ感じてしまった。

 良い月だなー、なんて感想を抱きながら遮光すると、まっすぐベッドへと向かう。

 横になれば暗くて何も見えないし、何も聞こえない。

 両親はボクが寝る前にはすでに布団に入っているし、当然と言えば当然。

 何も考えず、あとは力を抜いて睡眠に意識を集中させるだけで、また朝がやってくることだろう。

 今日も良い1日だったなあ、と振り返りながら瞼を閉じる。

 

 ……なのだが、何か様子がおかしい。

 部屋が明るい。

 部屋の電気は消してるんだからそんなことはあり得ない。

 月の光にしたってこんなに部屋を照らすことは今までなかった。

 なのにこの明るさは一体なんだろう。

 たまらずベッドから起き、光源を探すことにした。

 明るさが集中しているのは、どうやらカーテンを閉めている筈の窓際。

 まるで布の後ろから直接ライトを当てているような、そんな様子を感じる。

 

(ストーカー、とか……? いやまさかボクに限ってそんなことは……)

 

 ゾッとするようなことを考えてしまうが、ここは2階である。

 上ってこれるような足場はないし、何よりこんなボクにストーカーとかいる訳がない。

 でも人だったら嫌だなあ、とカーテンを開けることを躊躇していたのだが、このまま横になっても気になってオチオチ寝てもいられない。

 

「……よし、女は度胸!」

 

 考えあぐねた末、とりあえず窓の外を見ることを選択した。

 下には家族が寝ている。もし不審者だったら起こして守ってもらうことにしよう。

 ドキドキする胸を抑えながら勢いよくカーテンを開けた。

 

「……えっと、なにこれ?」

 

 そこには人影なんて一切見当たらなかった。

 でも代わりにここにあったらおかしなものが1つ。

 

「でかい、リンゴ?」

 

 夜だというのに、その闇を消し去るように煌々と周囲を照らすリンゴのような果実が浮遊していた。

 黄金のリンゴ? いやまず浮いてるリンゴって何……?

 光源の正体は判明したが、逆に知らなければ良かったと思ってしまう自分もいる。

 あまりにも現実離れした光景に、混乱でうまく頭が回っていない。

 そのせいか、ボクは浮遊している果実を手に取る為に、自室の窓を開けてしまっていた。

 ゆっくりとした動きで恐る恐る果実に触れると――それはより一層強い光を放ち、ボクはその明るさに飲まれる。

 

「うわあっ!?」

 

 急な出来事に思わず声を上げてしまう。

 光はすぐに収まり、チカチカした目を開けて見ると、辺りには静けさが戻っていた。

 

「あれ、リンゴは……?」

 

 暗くなると同時に、目の前にあった果実が無くなっている。まるで最初からそこには何も存在してないかったかのように。

 どんどん状況が変わっていく為脳の処理が追い付いていない。めまいがしてきた。

 とはいえこのまま寝ますと言える程ボクの心臓は頑強ではない。一応母にでも報告しようかと1階に降りることにした。

 すぐに母の寝てる私室の前まで来た。

 

 

「お母さーん。夜にごめんね。ちょっと変なこと起きて……」

 

 コンコンと扉を叩き、反応を待つ。

 待つ、が、全然反応がない。熟睡してるのだろうか。

 

「お母さん?」

 

 恐る恐るドアノブに手を掛け、中に入った。

 寝てるので当然だが部屋の中は真っ暗だ。

 元々起こす目的だったので足音に気を配ることなくベッドへ。

 でも違和感。

 寝てるのであれば毛布がもっとこんもり盛り上がってても良い筈だ。

 なのにまるで人が入っていないかのように薄い。

 枕元まで来てようやく気付く。母はそこにいなかった。

 

「え、あれ?」

 

 辺りを見回しても当然人影なんてない。

 ボクが気付いていなかっただけで、お手洗いにでも行ったのだろうかと思い、早歩きでトイレに向かう。

 しかしトイレにも電気は点いておらず、中に母はいない。

 夜に外出したのだろうか? そんなこと今までしなかったのだけど。

 今度は父を呼ぶことを考え、そちらの部屋にも行ってみる。

 が、結果は同じ。お父さんも存在しなかったかのようにベッドから消えていた。

 

「ど、どういうこと……?」

 

 軽くパニックになる。

 分かるのはこの家から両親がいなくなってしまったこと。

 これは普通に事件では……?

 何とか大きく息を吸って落ち着こうと思うが、全く効果はない。

 それでも警察に連絡することを思いつき、急いで自室に戻ろうかと思ったその時――。

 

 

『ズドーーン!!』

 

 

 くぐもったような、何か落ちたかのような音が外から聞こえてきて、家を大きく揺らした。

 

「うえぇぇえ!? 今度はなにー!?」

 

 咄嗟に体を屈めたが、どうやら地震ではなさそう。

 次から次へと予想だにしないことが起きて、ボクは今とてつもなくパニックになっている。

 若干涙も出てきた。

 しょうがないじゃん。女の子なんだもん。

 とか言ってる場合じゃない。

 状況を確認するためにまずは外に出なければ。

 ガクガクした足がもつれそうになるのを必死にこらえつつ、なんとか上履きに履き替えて玄関の扉を開けると、その先には信じられない光景が広がっていた。

 

 まず、ボクの視界がオレンジ色で埋まっている。

 『それ』はどうやら液体状のもので構成されているらしく、向かい側にある住宅が透けて見えた。

 その高さは家よりも大きいことから、優に4Mは超えてると思われる。

 んでこれが何なのかって話なのだが、球体の液体らしいってことだけしか分からない。

 ここまでならただの不思議物質(?)。

 この物体の特質すべき点は、中心に大きな目玉が浮いているということ。

 血走った目で辺りを見るかの如くグリグリ動かしてるのがまた恐怖をそそる。

 

「……ゲームで言うところのスライムってやつ?」

 

 思わずぼそりと口に出てしまった。

 するとボクの声に反応してか、そのスライムらしきものは目玉だけで振り向き、ボクを認識すると瞳孔を収縮させた。

 まるでボクを獲物として見定めたかのように。

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