魔法少女に襲われています   作:ガラン・ドゥ

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03:魔法少女現る

 今、岸波(きしなみ)明日葉(あすは)は人生史上最大のピンチを迎えていた。

 目の前には特大サイズの生きたスライム。それがまっすぐボクの方を見ている。

 とても対話でどうにかなるようには見えない。

 じゃあそんな奴が何をしてくるかと言うと……。

 

「とびはねたー!?」

 

 当然襲ってくる訳だ。

 スライムは体を縮ませると一気に上方向に自分を伸ばして宙に浮いた。

 その巨体がボクに降り注いでくる直前、咄嗟に前方へ体を投げ飛ばすことで何とか避ける。

 直後にものすごい爆音が後ろから聞こえた。

 それを確認する為にスライムの方を見やると、図体がめり込んでボクの家の半壊している姿が……。

 

「あわわわ……」

 

 あれが自分だったら、と思うと一瞬で背筋が凍るような感覚に襲われる。

 

「とにかく、逃げなきゃ……」

 

 地面にダイブしたがために全身から悲鳴が上がっているが、そんなことを気にしてる場合じゃない。

 痛みを我慢して立ち上がると、すぐに道路を走りだす。

 後ろを横目で見やれば、家にもたれかかっていたスライムがボクの方へ向き直って飛び跳ねながら追っかけてきていた。

 

「た、たた、助けてーー!!」

 

 大声を上げながら足を動かし続ける。

 中学生の時に運動部だったおかげで、体力には自信があるつもりだったが、緊急事態の時にそんなのは関係ないってことをすぐに思い知らされた。

 ボクが10M進んでる間に、あっちは一跳びだけで15M進んでくるのだ。

 そんなのすぐに追いつかれるに決まってる。

 追ってくる音にたまらず後ろを見たが、もう肌が触れ合う寸前までやってきていた。

 もう一度スライムがジャンプしたら、ボクはぺしゃんこになるだろう。

 もう駄目だ、と思いながらも手で頭を覆いながら目をつぶった。

 

 ……しかしいつまで経ってもその瞬間がやってこない。

 おそるおそる目を開けて振り返ると、そこにはまばゆい光を放つ『壁』のようなものがいつの間にか現れて、スライムの攻撃を防いでいた。

 それと、壁とボクの間には白いローブを着る少女の姿が。

 どうやらこの少女が壁を出したみたい……?

 その少女が振り向くが、ボクは目の前の彼女に()()()()()()()()()()

 

「貴方魔法使いでしょ! なんで魔物から無抵抗で逃げ──って明日葉ちゃん!?」

「えっ。は、はいそうですが……」

 

 強い語気だった彼女だがボクの顔を見るなり、目を大きく見開いてこちらの名前を言い当てた。

 彼女とは全くの初対面の筈。

 

「明日葉ちゃんも魔法使いになったの!?」

「魔法使いって……? というか何でボクの名前を知ってるの?」

 

 こんな切迫した状況下で何呑気に質問を、と自分でも思ったが無意識に口に出てしまったのだからしょうがない。

 ボクの言葉に目の前の少女はあからさまに動揺した様子を見せている。

 

「え!? 明日葉ちゃんわたしだよ――って、この格好じゃ分からないか……。えっと、先に魔物を片付けちゃうから、明日葉ちゃんは安全な場所にいて!」

 

 こちらの返答を待たないまま、目の前の少女はボクから離れると杖を構えながら何かを唱えだした。

 日本語でもないし、英語でもないみたい。全く聞いたことのない言語。

 少女が唱え終えた途端、スライムとボク達を隔てていた壁が縮小していく。

 それが小さな球体にまで圧縮されたかと思った途端に、強烈な衝撃波を放ってスライムを大きく吹き飛ばしてしまった。

 

「はいっ!?」

 

 4M程もある大きさのスライムが、まるで軽いボールのように舞い上がると弧を描きながら遥か後方に墜落した。

 あんぐりとしているボクを尻目に、少女はそれを追いかけるように空へ上昇する。

 そう、飛んだのだ。

 アニメや漫画に出てくる超能力者の如く自由に空を飛ぶ彼女は、あっという間にボクの視界から消えた。

 

 黄金の果実。消えた両親。地球上に存在してはいけない形状をしたスライム。魔法のようなものを扱う少女。

 一晩で色々なことが起きすぎてオーバーロードしたボクの頭が出した結論は1つだった。

 

「――いやこれ夢でしょ」

 

 あれだ、ベッドに最初に入った時点でボクは寝てたんだ。その直後に黄金に輝くリンゴが浮かんでる夢を見た、と。

 そう考えれば全ての出来事に納得がいく。

 物理的にも論理的にもありえないことだらけで混乱してた自分が馬鹿みたいじゃないかー。

 

「あははそっかー夢かー。じゃあさっさと起きないとなー」

「残念ながら夢じゃないヨ」

「え……ぎゃわーー!?」

 

 急に横から声がしたと思ったら白いウサギを模したようなぬいぐるみが浮いていた。

 

「に、人形が喋ってる……!」

「もちろん喋るサ。ワタシは妖精だからネ」

「妖精……? 夢がまだ続いてるの……?」

 

 ぬいぐるみが首を横に振った。

 

「繰り返しになるがこれは現実だヨ。明日葉と言ったネ? ちょっと着いてきてくれないカナ? 道すがら話せることは話すヨ」

「う、うん……」

 

 ボクに危害を加える気配は感じないので、とりあえずこの場は従うことにしよう。

 ぬいぐるみが前を飛ぶのを追っかけながら、さっき少女が飛んでった方向へと向かう。

 少ししたところでぬいぐるみがこちらに振り向いた。

 

「まず明日葉、君は魔法使いになって幽界へ来たのカナ?」

「魔法使いって、さっきの子も言ってたような……。それに幽界って何?」

 

 なんか小さい子供と大きなお友達が喜びそうな単語が聞こえてきたが、そんなの現実でいたなんて聞いたこともないんだけど……。いやあってたまるか。

 

「ふーむ、契約した気配もないし、ただ迷い込んだだけ……? これは多分――」

「あのー?」

 

 ボクからの返答に、ぬいぐるみはブツブツと独り言を話している。チョイチョイと人差し指でつっつくとこちらを向いた。

 

「ああ、ごめんごめん。一通り話すつもりだけど、先にワタシの名前を教えておくネ。ワタシはディアンシー。別世界から来た妖精サ。長いからディナとでも呼んでくれ」

「よ、妖精ね。……えっと、別世界からボク達のいる世界に来たってこと?」

「そうだネ。ただ今君がいる世界は現実世界じゃない」

「え、どういうこと?」

 

 爆発のような音が段々と大きく聞こえてくる。

 どうやらあのスライムとさっきの少女の戦闘場所へ近付いてきているらしい。

 とその前に色々聞きたいことがあるためディナと名乗った妖精を見る。顔らしきのところには丸い点と三角の口しかないため、表情から何かを読み取ることはできそうにない。

 

「ここは『幽界』と呼ばれる世界でネ。君達が普段生きている場所を『現界』と言う。現界と幽界は隣り合っていて、生き物が存在しない以外は全て現実世界と同じもので構成されているんダ」

「あっ。そういえばお母さんもお父さんも家にいなかった……」

 

 まるで存在しないかのように消えてしまった両親。それはボクが幽界という場所に移動してしまったからなのか。

 

「魔法使いにならなければ普通はこっちには来れない筈なんだが。不思議だネ」

「ああそうだ、魔法使いって一体何なの? ボクも魔法使いなの……?」

 

 さっきの少女も魔法使いというやつらしいけど、彼女みたいにスライムを吹き飛ばしたり空を飛ぶなんて芸当出来る気がしない。

でもディナは首を横に振った。

 

「君は魔法使いではないようダ。魔法使いとは文字通り元々魔力を持つ人間が、妖精らと契約して魔法を扱えるようになれるものサ。()()()()()()()()()、幽界に来ることは稀な筈なんだけどネ」

「そうなんだ……」

 

 まあ確かにさっきの子も、フリルのついた白いローブに付け襟のようなものを重ねていていかにもな格好をしていた。

 可憐で物理法則を無視した力を行使できて、とアニメや漫画に出てくる魔法少女そのものと言える。

 そーいうのに憧れを持つかと聞かれれば「No」と答えるが、飛んでみたいとはちょっと思う。

 

「じゃあさっきのスライムみたいなのは?」

「あれは魔物だヨ。幽界に溜まった魔力の淀みが実体化して、ワタシ達や人間に害をもたらすようになるんダ」

「魔物……。本当にこれが現実なの……?」

「君の気持ちも分かる。まあ今回の件はちょっと複雑でネ。あれはただの魔物ではないんだけど、君に説明すると結構長くなりそうだネ。一旦ここまでしておこう」

 

 会話してる内に、爆発音がさっきよりも近くなっている。

 それはさっきの魔法使いの少女とスライムの戦闘場所がすぐ傍であることを意味していた。

 

 

 

 スライムの頭頂部がチラリと見えたのは住宅街から少し離れた一軒家の向こう側。

 距離にしてここから20Mと言ったところだろうか。その家の周りには大きな平地が隣り合っていて、ボク達は家を迂回するように歩く。

 すると、さっきの少女がスライムと対峙している場面が視界に映った。

 でもスライムはと言うと、すでに息も絶え絶えといったところか。

 丸々太っていた体はあちらこちらが削れ、そこから体を構成していた液体がみるみる流れていっている。

 ボクと最初に邂逅した時には殺意むき出しの瞳をしていたのに、今はどこか怯えたような印象を受けた。

 立ち止まってお互いの様子を見ていたら、少女が杖を上に掲げる。

 

「今度はもう逃さないよ。『セイヴァー・フォール』!!」

 

 少女が魔法(?)を唱えると、上空から光の十字架が4つ降ってきて、スライムの周りを囲んだ。

 そうしてスライムの足元に巨大な魔法陣が表れ、次の瞬間には目を開けてられない程の光が放たれる。

 もう一度視線を元に戻した時には、すでにスライムの姿は跡形もなく、その場所には巨大なクレーターが残っているだけだった。

 

「すご……」

 

 本当に一瞬のできごとであった。未曾有の経験にその二文字の言葉しか出てこない。

 住宅と同じ高さを滞空していた少女が、ゆっくりと地面に降りる。

 するとディーナが彼女の元へと飛んで行った。

 

「お疲れ様、アロン」

「ありがとディナ。それに……明日葉ちゃんも来たんだね」

「は、はい」

 

 ディナからアロンと呼ばれた少女は、ボクの顔を見ると何とも複雑そうな表情になった。

 あれ、ボク何かした?

 でも助けられた訳だし感謝の意は伝えておかないと。

 

「えっと、助けてくれてありがとうございます。貴方が来てくれなかったら危なかったよ」

「ううん、助けられたのはただの偶然なの……。でも、何事もなくて良かった」

「ちょっと擦りむいたりしたけどね。そんなことより貴方は一体誰なんですか? ボクのこと知ってるみたいだけど」

「あ、それは……」

 

 少女が言い淀むと、ディナは諭すように彼女の周りを飛んだ。

 

「アロン、いずれ明かす予定だったんだから今言っちゃった方が良いと思うヨ」

「うぅ~わかったよ~」

 

 観念したかのように少女は顔を上げた。

 杖を自分の胸元に掲げると、全身を包むように光が生まれる。

 光が収まると、そこにはボクの学校のものと同じ制服に身を包んだ少女の姿が……ってあれ?

 肩まで掛かる髪はサイドテールにして、顔立ちの整った女の子を、ボクは良く知っていた。

 

「え……(せり)……?」

「あはは……こんばんは、明日葉ちゃん」

 

 ボクの幼馴染、初霜(はつしも)(せり)は困ったような笑いを浮かべている。

 

「え、なに、どういうこと? さっきの女の子が芹なの!?」

「うん、そうだよ。わたし魔法使いなの」

「…………えーー!!?」

 

 衝撃の真実を知らされたボクは夜中だというのに大きな声を上げてしまった。

 芹が魔法使い……?

 こんな細い腕にあのスライムを倒す力があるってこと……?

 ヤバイ。今日の出来事の中で一番驚いてるかも。

 

「なんでなんで!? 芹が魔法使いってどういうことなの!?」

「ゆ、揺らさないで~……!」

「明日葉、一旦落ち着いてくれないかい?」

「あ、ごめん……」

 

 無意識に芹の肩を掴んでしまっていた。

 ふう、と息を吐いて心を静めながら芹を見つめ直す。

 

「……芹がさっきボクの家の前に現れた魔法使いで、スライムも倒してくれたってこと?」

「うん。驚かせるつもりじゃなかったんだけど、ごめんね」

「いや謝る必要ないよ。でも……顔が別人になってたけどあれも魔法なの?」

「そうだよ。でも実際に顔が変わってる訳じゃなくてね? 認識阻害っていう、『それが何なのか』わからなくする魔法なの」

「はえー……。覆面被るみたいな?」

「うーん、ちょっと違うけど、明日葉ちゃんが理解できるならそれでいっか。つまりはわたしみたいな魔法使いは変身すると自動的にわたしのことを芹だって認識できなくなるってこと」

「それで芹だってわからなかったんだ」

「そういうこと。あとは――」

「芹、明日葉と話してるところすまないけど、()()()()が回収できたヨ」

 

 芹からの説明を受けてる途中、ディナが割り込んできた。その小さい手には金色に輝くリンゴのようなものが握られている。

 

「あっそれ!」

「え? ああ、これは『マナの実』って言ってね? ディナ達が住んでる世界に生ってる果実なの。理由は分からないんだけどこっちの世界に落ちてきちゃって。それを回収する為にわたしが動いてるんだよ」

「マナの実って言うんだ……。それと同じ物がボクの家の前にも落ちてたよ。そのせいでボクは幽界に来ちゃったんだ」

「「え?」」

 

 芹とディーナが同時に振り向く。

 2人ともすごい勢いで詰め寄ってきた。

 

「明日葉ちゃんの家の前に……? そ、それ、どこに行ったの!?」

「う、うーん。どこ行ったんだろ? ボクが触れたら光って消えちゃったからさ」

「てことは明日葉ちゃんの家の近くにまだあるのかな……」

「え、さっきのスライムが持ってたものじゃないの?」

 

 ボクが触れた果実=今ディナが手に持ってるもの、みたいに思ったんだけど、芹は首を振っている。

 

「ううん、違うものだよ。あのスライムはわたしが夕方からずっと戦ってた魔物だもん。この実とはまた別の実が明日葉ちゃんの家に落ちてたって思う方が自然なの」

「そうなんだ。でもどこに行ったかボクにもわからないし……」

「そうだよね……。明日葉ちゃんはどこでマナの実を見つけたの?」

 

 芹からの質問に、ボクは必死に思い出す。

 たしか、寝ようとした時に部屋が明るいことに気付いて……。

 

「えっと、自分の部屋の窓の外かな。そこに光る果実を見つけて、気が付いたら幽界(こっち)に来てた、と思う」

 

 確証がないから曖昧なことしか言えない。

 でも芹とディナはお互いに頷いていた。

 

「ということはまだ明日葉の家の前にあるかもしれない。一旦そこまで戻ってみよう」

「そうだね。落ちてるかもしれないし、急いで探さないと」

 

 また来た道を引き返すのかと思うと気が滅入るが、四の五の言ってられないだろう。

 と思ったら、芹が手を差し出してきた。

 

「明日葉ちゃん、わたしの手を掴んで」

「え、手を繋ぎながら歩くの?」

「……それも魅力的な話だけどちがくて、魔法で一気に飛んじゃうの」

「そんなことまでできるの!? 便利だね……」

 

 大人しく芹の言うことを聞き、手を握ると彼女は目をつぶった。

 

「指定座標設定完了……対象は3名。――『ジャンプ』」

 

 すると、視界が一瞬暗転して、気が付くと見知った道にボク達は立っていた。

 

「うわ、ボクの家の前だ!」

 

 ほんとに帰ってこれた。これが魔法か……。

 

「じゃあディナお願いね」

「承知したヨ。『サーチ』」

 

 ディナの小さい体の足元に魔法陣が生まれた。

 そこから細い光の線のようなものが伸びていき、あちらこちらに散らばっていく。

 しばらくしてから、芹がディナに話しかけた。

 

「どう、ディナ?」

「ふーむ。マナの実の反応は無いネ。もしこの周辺にあるのならマナを発してないことなんてことは無い筈」

「明日葉ちゃんが触ったから逃げちゃったとか?」

「それこそあり得ないかナ。マナの実に意思がある訳じゃないから、その場を動くということはできないのサ」

「じゃあ現界に置いてけぼりになっちゃのかな?」

「無い話ではないだろうけど、普通は果実を手に取った瞬間一緒に幽界に飛んでしまうと思う」

「でもこっちに無いんだったら、現界を探すしかないと思うよ?」

「そうだネ。芹の言う通りにしよう」

「明日葉ちゃんごめんね。もう一回わたしの手を握って」

 

 再び芹がこちらに手を伸ばしてきた。

 特に拒む理由もないので言うとおりに。でも気になることを1つ聞いておこうかな。

 

「ところでマナの実ってそんなに危険なものなの? ただのリンゴみたいな果実にしか見えないんだけども……」

 

 芹の方へ身を寄せて手を握りしめながら聞くと、真剣な目で頷いてくる。

 

「マナの実事自体が問題にはならないんだけど、その名の通りマナを生み出すものなの。マナは生き物が生きていく為に必要なのと同時に、幽界で魔物も出てきちゃうんだ。魔物は人を襲うから駆除しなきゃいけないんだよ」

「ボク達の世界にも魔物は現れるの?」

 

 芹は首を横に振った。

 

「現界には出てこないよ。でも本来マナは現界には存在しないから、マナが供給されることで何が起こるか分からないの」

「それで急いでるんだね……」

 

 ひょっとしたら大変なことが起きるのかもしれないのか。想像できない分、かなり恐怖を感じる。

 

「そうだヨ。明日葉の家にまだ残ってるのなら早急に回収したい。芹の方は準備できたかい?」

「もう魔力は溜まったよ。明日葉ちゃんちょっと気分悪くなるかもしれないから気を付けて――『リバーサル』」

 

 芹が再び魔法を唱えると、足元が消えるような感覚を覚え、辺りの景色がグニャリと曲がる。

 それは一瞬で収まり、パッと見変わったように見えなかったけど、ハッキリと変化したことがあった。

 それは音だ。

 先ほどまではボク達3人の会話しか聞こえなかったのに、遠くから車の音が聞こえてくる。

 人がいる証拠だ。

 しかもスライムに潰されたボクの家も元通りになっていた。

 これで、ようやく元の世界に戻ってきたということなのだろうか。

 なんだか自然とため息が出る

 

 ボクが1人で安堵している間に、芹達はこちらから離れて話し合いをしていた。

 

「ふーむ……、こっちにも無さそうダ」

「本当に? 明日葉ちゃんが幽界に飛んだ衝撃でどっかに行っちゃったってこと?」

「可能性は低いが、それも視野に入れなきゃいけないカ……」

「「うーん」」

 

 芹とディナが同時に首を捻ってしまった。

 素人のボクが口を出したところでなんにもならないだろうし、その様子を静観しておくことに。

 しかし、あーでもないこーでもないと議論を交わしても、結局結論は出ないみたいだった。

 ディナが諦めたように息を吐く。

 

「しょうがない。今日はもう探索は無しダ。2人も学校があるだろうから休んだ方がいいヨ。マナがすぐに影響をもたらす訳でもないし、明日でも大丈夫だろう」

「うーん、それしかないかあ。じゃあ明日葉ちゃんとはここでお別れだね」

「でもボクの家、鍵閉まってるんだけど……」

「そこは大丈夫だよ。ちゃんと部屋まで送り届けるから」

 

 芹がそう言ってさっきの『ジャンプ』の魔法をまた唱えると、一瞬でボクの部屋まで跳んだ。

 どういう原理で作用してるのかさっぱりわからない。きっと一生理解できないことだろう。

 

「じゃあ、わたし達も帰るから明日葉ちゃんもゆっくり休んでね」

「あ、えっとね、芹」

「うん? なあに明日葉ちゃん」

「また明日ね」

 

 ボクが口にした言葉に、芹は何故か驚いたような表情を作ったが、すぐに大きな笑みを作った。

 

「うん! また明日!」

 

 そう言うと、芹とディーナは浮遊してから一瞬で消えて、部屋にはボク1人だけとなる。

 ハッとして自分の服装を見ると、地面に飛び込んだせいでボロボロになっていた。

 流石にもう着れないだろうということで着替えることに。

 その際ちょっと汗をかいてしまったことが気になったが、今からシャワーを浴びる体力はないので寝間着を取り替えてすぐにベッドに入る。

 

 今日あった出来事を思い出そうとしたけれど、どうやら体の方は思ったより疲れ切っていたらしく、すぐに眠気がやってきた。

 頭が混乱しすぎて目が回りそうだったが何とか生きている。

 それだけでも儲けものなのだろう。

 何が起きているのか、それは芹に会えば分かることだ。

 質問を考えながら、ボクはすぐさま眠りについた。

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