魔法少女に襲われています   作:ガラン・ドゥ

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04:帰ってきた平穏

 カーテン越しに太陽が部屋を照らし始め、意識が段々と覚醒していく。

 頑張って瞼を開けてスマホを探し時間を確認したところ、いつもの起床時間よりも全然早かった。

 なんだ。もうちょい寝れるじゃん。

 厚い毛布を再び自分の肩まで掛けて、ゆっくりと目を閉じる。

 昨日は遅くまで頑張ったから、まだ起きたくはない。

 休める時休むのがボクのモットーなのです。

 両親もまだ起きてきたばかりだろうし、今起きても特にすることはない筈。

 ……ん? 両親?

 

「忘れてたー!!」

 

 ガバリとベッドから飛び起きると、普段心掛けてるおしとやかさも金繰り捨てて、階段をドタドタと駆け降りる。

 階段を降りた先の廊下。その奥にはリビングがあるのだが、ボクが起こした騒音を聞きつけてか、1人の女性がヒョッコリ顔を出した。

 

「なあに明日葉? 朝から大騒ぎして」

 

 お母さんだ。

 怪訝そうな顔でこちらを見ている。

 

「……いる」

「いるって何が?」

「ふわあ……どうしたんだ明日葉。近所迷惑になるぞぉ?」

 

 ボクの呟きに首を傾げる母。それと自分の寝室からお父さんも出てきた。

 確かに2人とも存在している。

 昨日は色んなことが起きたけど、その始まりは両親が消えてからだ。

 それらは全部解決したようだけど、もし両親が消えたままだったらと思えば、居ても立っても居られなかった。

 でも2人とも無事なようで一安心。

 

「あ、えっと、ちょっと寝ぼけちゃって……」

「あらそうなの。何か怖い夢でも見た?」

「夢……まあ、夢みたいなもんだけど……」

「? 変な子ねえ」

「なんでもない。なんでもないよ……アハハ」

 

 お母さんは首を傾げてる。

 まさか本当のことを話す訳にもいかず、笑って誤魔化すことに。

 朝から走ったせいで息が上がってるけれど、それで昨日帰ってきてからシャワーを浴びなかったことを思い出して一先ず風呂場へ。

 

 脱衣所でパジャマも下着も全部脱いで、頭からお湯を被る。

 

「ふう……」

 

 ベタベタしていた肌から汗が流れ落ちていく感覚が気持ちいい。

 何気に朝にシャワーを浴びるのは初めてかもしれない。

 それも昨日動き回ったおかげではあるんだけど。

 昨日の出来事をまとめれば、この世界によく似たもう一つの世界が隣り合っていて、そこには魔物というものが生まれて、魔物と戦う魔法使いという存在がいて、しかもその魔法使いがボクの友人で、ということらしい。

 でも、自分の境遇を考えればちょっと納得がいく。

 ボクは前世の記憶を持つ人間だ。

 それはつまり普通の人とは違う生き方をしているということである。

 もの悲しい人生を歩んではいたけれど、それでも他人と特別なにか違うことはなかった覚えがある。

 それが今世になって、昨夜いきなり魔法や魔物といったものに触れた。

 ボクの経験も合わせると、この世界ではボクの知らないところでまだまだ不思議なことが溢れてるのかもしれない。

 

 そんなことを考えながら10分程シャワー浴びて綺麗さっぱりしたボクは、ドライヤーで髪を乾かすと下着姿のまま自室に戻って制服へと着替えた。

 髪型などおかしなところがないかチェックしてからリビングに降りて、いつものように両親と食事を取る。

 その最中にボクの朝の行動について再度聞かれたが、あんまり両親を心配させたくないので悪夢を見ただけと言ってごまかした。

 食器を片付けて歯を磨き、身だしなみを整えているとインターホンの鳴る音がした。

 

「ん? こんな朝早く誰だろう?」

 

 階段を降りて扉ののぞき穴を確かめてみる。

 そこには良く見知った人物が立っていた。

 

「……芹?」

 

 ドアを開ければ、こちらを視認した芹の顔が笑顔になる。

 

「おはよう明日葉ちゃん」

「おはよう。珍しいね、芹がボクの家に来るなんて」

 

 芹の家は学校とボクの家の間にあるので、道をわざわざ往復することとなる。

 だから朝に芹が来ることなんて無かったんだけど……。

 彼女はこちらの質問に答えようとした瞬間、ボクの後ろから声がした。

 

「あすはーお客さん誰だったのー……って芹ちゃんじゃない。久しぶりね~」

「おはようございます、おかあ様。ちょっと早起きしたものですから」

「あらあ、そうなの。芹ちゃんもしっかりしてるわねえ」

「いえいえ、明日葉ちゃん程ではありませんから」

 

 うちのお母さんと芹が世間話をしているけれど、何やら話があるんだろうし、早急に切り上げた方が良いのかなと思って割って入る。

 

「芹も来たことだし行ってくるよ。それじゃあねお母さん」

「はいはい。2人とも気を付けていくのよ」

 

 母親の言葉を背に、2人で通学路を歩く。

 

「明日葉ちゃん、昨日はよく眠れた?」

「うん、疲れてたからベッドに入ったらすぐ眠っちゃったよ」

「良かったぁ。体の方も心配なさそうだね」

 

 周りから見れば女子高生同士が他愛のない会話をしているように見えることだろう。

 それはボク達に昨日何が起きたか知らないからだ。

 

「……ビックリしたでしょ。わたしが魔法使いだって知って」

 

 芹は、若干声を潜めながらボクの方を向いた。

 

「うーん、確かに驚いたけど、もう受け入れつつあるっていうか……」

「そうなんだ。流石明日葉ちゃん。大人びてるっていうか、すごく落ち着いてるよね」

「そ、そうかなあ? 普通だと思うけどね~……」

 

 精神年齢的には倍近く生きてると知ったら、彼女はどんな顔をするのだろう……。

 

「ううん、普通はもっと驚くと思うよ?」

「まあ、確かにそうかもね」

 

 昨日の時点では色んなこと起きすぎて、めちゃめちゃ驚いてたし。

 落ち着いているように見えるのは、一晩寝て気持ちの整理が付き始めてるからだ。

 芹的にはもっと驚いてほしかったのだろうか。

 でも横を歩いている彼女はどこか安堵したような表情をしている。

 

「わたしは嬉しかったなあ」

「嬉しい?」

「うん。明日葉ちゃんなら受け入れてくれるんだろうな、って思ってたけど少し不安で……。このまま別れることになったらどうしようかなって……」

「芹……」

 

 確かに、他人に言えないことを語るというのはかなりの勇気が必要だろう。

 それこそ本当に信頼できる人でないと。

 魔法のことを語ってくれたということは、芹にとってボクはそういう人間だと思ってくれたからか。

 それなら嬉しいな。

 

「昨日『また明日ね』って言われて、関係が何も変わらないんだなって分かって、心のつかえが取れたの」

「それはそうでしょ。ボクは芹に何があっても()()()()。そこは心配しないで?」

「……ありがと」

 

 なんか、若干落ち込んだような素振りを見せたけど、ボク何か変な言ったかな……?

 すぐに表情を戻して芹は続ける。

 

「でも、すごく恥ずかしい姿見せちゃったよね」

「え、何が?」

 

 芹の言いたいことがちょっと読み取れない。

 

「わたし、明日葉ちゃんの前で思い切り呪文唱えたりしたじゃない? 今までは1人だったから気にしてなかったんだけど、明日葉ちゃんから見ればイタイ子なのかなって思って……」

「あー」

 

 高校生がアニメみたいに必殺技を叫んだりするのが恥ずかしいことだという気持ちはとても分かる。

 ボクも前世では……いやこの話は止めておこう。

 

「本当は全部終わってからわたしの部屋でただ変身した姿だけ見せて、わたしが魔法少女だって伝える予定だったの。それなのにまさか明日葉ちゃんが幽界に来ることになるなんて……」

「でも別に良くない? ボクと芹と、ディナだっけ? あの妖精しか見てなかった訳だし近所に見られたんじゃないんだからさ」

「う~……そうなんだけどぉ。明日葉ちゃんにドン引きされるのは嫌なの」

 

 要はボクには戦う姿を見られたくなかった、ということなのだろう。

 ここは慎重に言葉を選ばないと芹を傷つけることになるかもしれない……。

 いきなり難易度の高い問題が発生した。

 顎に手を当ててちょっと考えてみる。

 

「……いや、ボクはイタイ子なんて思わなかったな。だって芹はこの世界に被害が及ばないように働いてたんでしょ? それはすごく立派なことじゃない。しかも何の見返りもなくやってるんだからすごくカッコいいよ。それに、ボクは芹のこと尊敬してるしね。ずっと昔から」

 

 芹は一度決めたことは絶対に曲げない意思の強さを持ってる。 

 彼女によって救われた人もいるし、そんな芹だからこそ周りに人が集まるんだろう。

 

「あ、明日葉ちゃんがわたしのこと尊敬してる……?」

「え、うん。頑張り屋だし、責任感もあるし、何にでも全力だよね」

「あわわ……恥ずかしいよ明日葉ちゃん」

 

 頬に手を当てて真っ赤にしている芹の様子がとても可愛らしい。

 ボクが女でなかったら彼女にしたいくらいだ。

 ……いや、何を考えてるんだボクは。もし男のままだったら高根の花過ぎて近付きすらできないだろうに。

 でもまあそれくらいの魅力が彼女にはあるということだ。

 ボクには持ってないものを、芹はたくさん持ってるということである。

 

「駄目、駄目だよ」

 

 しかし、当の本人の様子がおかしい。

 

「明日葉ちゃんがわたしなんかを尊敬しちゃいけないよ! 尊敬されるのは明日葉ちゃんの方なんだから!」

「…………なんて?」

「明日葉ちゃんはわたしなんかを敬っちゃ駄目なの……! 明日葉ちゃんはね、とってもすごいんだよ。誰にでも手を差し伸べるし、いじめも止めてみせたし、すごく勇気があるの。わたしにできないことを簡単にやっちゃうの。それから――」

「いや待って。待って芹。そんなことないから。ボクはそんなだいそれた人間じゃないから」

 

 突然芹が暴走してしまった。

 なんとか静止しようと試みるが、彼女の勢いを止められない。

 結局学校に着くまで芹のトークが止まることはなく、ボクはそれはもう真っ赤な顔で教室に入りクラスメイトから心配されることとなった。

 うぅ、なんでこんな目に。

 

 

 □

 

 

「ひどいよ、芹……」

「ご、ごめんね、明日葉ちゃん」

 

 太陽がちょうど真上に位置した昼下がり、ボク達は屋上に出てご飯を食べていた。

 朝から十数分にわたって、惚気話のように永遠と恥ずかしいことを言われたボクのメンタルはすでにボロボロだ。

 午前の授業もどこか上の空だったことからも、ボクの状態が伺いしれるだろう。

 芹の方はすっかり冷静になったようで、さっきからしきりに謝っている。

 別に悪口言われた訳ではないのだけれど、やっぱりちょっと仕返ししたくてジト目で彼女を見つめると、芹は更に縮こまってしまった。

 その様子を見ると流石にいたたまれないのでここら辺で許すことに。

 

「……はあ、もういいよ。芹も悪気があってのことじゃないし」

「本当にごめんね……。ずっと思ってたことだから止まらなくなっちゃって……!」

 

 実際問題、芹の言う通りにボクが誰かを助けたりしたことなんてのはあまり記憶にない。

 いじめを止めることができたのだって、たまたまそういう現場を見たからに過ぎないのだ。

 あれは芹が一緒にいてくれたおかげである。

 彼女がいたからボクは動いただけで、自分の力だとは思えないんだよね。

 そう考えると、芹はボクのことを持ち上げすぎなだけだ。

 てか、この話題はもういい。

 

「じゃあ代わりに魔法のこと教えてよ」

 

 このままションボリしたままの芹の姿は見たくないので、話題を変えることにする。

 

「そんなので良いの?」

「うん。でも魔法のこと話しちゃいけない制約とかあったりしない? 大丈夫?」

 

 他の生徒達とは離れてるから聞こえる心配はなさそうだけど、一応声のトーンを落として話す。

 芹はと言うと、箸を置いて「んー」と考え込んでいた。

 

「別にないと思うよ。昨日だってディナの方から説明あったんでしょ? わたしだけ喋っちゃいけないなんて言わないと思うし、良いんじゃないかな」

 

 そんな簡単に決めちゃっていいのか……。

 まあディナも色々教えてくれたしそういうものなのかもしれない。

 まずは最も気になってるところから。

 

「早速だけど芹っていつから魔法少女になったの?」

「中学2年生の時の春だったからちょうど2年前かな? ちょくちょく授業抜けたりしてたと思うけど」

「ああ、そんなことあったね」

 

 確かに2年生になってから、授業をすっぽかしたことのない芹が具合悪いと言って早退したり、休んだりするようになった。

 おかしいなとは思っていたけれど、あれは魔法が原因だったのか。

 ようやく腑に落ちた。

 

「じゃあその時にディナと会ったってこと?」

「うん。幽界が大変なことになってるから手伝ってほしいって言われてね? あの時は忙しかったな~。昼間は学校に行かなきゃいけなかったし、その時に魔物が現れたらって思うと気が気じゃなくて。何回も休んじゃうと親にも先生にも申し訳ないし」

「そうだよねえ。でも、それだったらボクに言ってくれれば良かったのに。何かあれば手伝ったよ」

 

 芹は1人で抱え込みやすいから、ボクの方から声を掛けるようにはしてるんだけど、それでも話さない時があった。

 魔法のことみたいによっぽど重要なことだとは理解してるけど、大変なら相談してほしかったという想いが強い。

 でも芹は首を振った。

 

「ううん。昨日の魔物に襲われて分かったと思うけど本当に危険なの。明日葉ちゃんは責任感強いから平気そうにするだろうけど、最悪なことが起きたらって思うと、どうしても話せなくて……」

「そっかあ。まあ確かに怖い思いしたよ。あれは魔法なんてものがなければあっという間に死んじゃいそうだね。気遣ってくれてありがとね」

「わたしもなんだかスッキリしたかも。安全が分かるまではって思ってずっと話さなかったけど、ようやく打ち明けられて安心したよ」

「そっか。魔物とかにボクができること何なさそうだし、芹に任せっきりにしちゃいそうだね」

「それで良いと思うよ。伊達に2年も魔法少女やってないし明日葉ちゃんが心配することは何もないからね」

 

 芹は唐揚げを食べながらとびっきりの笑顔を見せた。

 それが心のつっかえがようやく取れたことから出る表情だと分かると、なんだか申し訳ない気持ちになる。

 それをそのまま話すと、また芹の顔が曇りそうだから言わないが。

 質問を続けることにする。

 

「それで、ボクの家の前にあったマナの実って見つかったの?」

「ディナが今探してると思うけど、全然連絡こないし駄目そうかなあ」

「そっか。まあマナの実が何なのかもいまいちわかってないんだけどね……」

 

 卵焼きを食べながらぼやく。

 それについて、芹が詳しく説明してくれた。

 

「昨日ちょっと説明したと思うけど、マナの実はその名の通りマナを生み出す果実なの。マナって言うのはこの世界の生き物と、ディナ達のような存在が生きていく為に必要不可欠な物質なんだって。これがないと生物はたちまち死滅して、幽界みたいな世界になっちゃうんだよ」

「え、すっごい重要なものじゃん」

「そう。だからわたし達も必死に探してるの。それともう1つ大変なことがあってね。現界でマナの実に触れた人は、魔法が誤発動しちゃって勝手に幽界に連れてかれちゃんだって」

「……昨日のボクみたいにか」

「助けられてホントに良かったよぉ。明日葉ちゃんが死んだらと思ったら、わたし……」

「でも芹のおかげでこうしてピンピンしてられるんだからさ。あまり気に病まないで?」

 

 芹が間に合わなかったら、ボクは行方不明者として処理されていたことだろう。

 想像しただけで怖い。

 

「ありがと。ディナの推測ではマナの実を手にしたせいで幽界に迷い込む人が出てくるかもって」

「急がなきゃいけないね……。それってすぐに見つけられないものなの?」

「うーん……明日葉ちゃんも昨日見たけど『サーチ』の魔法を使わないといけないの。でも感知範囲はそんなに広くないから一定区間ごとに掛けなきゃいけなくて……」

「あれを何度もかあ……」

 

 範囲としては家10軒分くらいといったところか。それを何度もやることになると考えると気が滅入る。

 

「わたしが休んだら不味いだろうってことで、日中は現界をディナが1人で探してくれてるの。なんか申し訳ないけど、日常生活優先だって」

「それで見つかれば良いね。てゆうかあの実ってどこにあったものなの? 急に生えてきたとかじゃないよね?」

 

 そんなことになったら世界的にニュースになっていることだろう。

 でもそうではなさそうだ。

 

「マナの実はディナ達の住んでる『妖精圏』って世界に実ってるんだけど、なぜか一昨日の夜に幽界と現界に落ちちゃったみたいなの。

 幽界のものは魔物が取り込む分見つかりやすいんだけど、現界の方はどうなるか分からないからちょっと怖いよね」

「それってなんで落ちてき――」

「あ、待って明日葉ちゃん」

 

 「なんで落ちてきたの?」と聞こうとしたら芹に手で制止される。

 

「ど、どうしたの?」

「誰か屋上に上がってくるみたい」

 

 ボク達が座ってるのは、ちょうど屋上の入り口がある塔屋の真正面だ。

 入口との距離はおおよそ4M程だから、もしかしたら話を聞かれるかもしれないということで話を遮ったのだろう。

 それにしても、魔法って人の接近まで分かるのか……。ホント便利だなあ。

 思わず塔屋の方を見やると、すぐに扉が開かれた。

 現れたのは2人の男子学生。

 

「ここにいるって聞いたけど……」

「お、ちょうどそこに2人ともいるじゃん」

 

 1人がキョロキョロと辺りを見回してる最中、金髪の男がこちらを見つけて、2人で近付いてくる。

 

「おう、岸波と初霜」

「昼飯のところ悪いね。ちょっといいかな」

「飯野君と七尾君。どうかしたの?」

「おいっすー」

 

 先程の話を聞かれてないかドギマギしながら、適当を装い挨拶する。

 芹が飯野と呼んだ男子生徒の名前は飯野(いいの)(まなぶ)

 黒髪ではあるが垂れ目と仄かに太い眉毛が特徴的な爽やかイケメンである。

 一年生の間では超がつくほど人気であり、他校にもファンがいるんだとかいないんだとか。

 もう1人は七尾(ななお)俊輔(しゅんすけ)。金髪でツリ目という不良みたいな容貌だけど、これまた容姿が整っており、2人が揃ってるだけで歓声が上がるほど。

 どちらにしろ知名度が高いということだ。

 2人とも小学生の時からずっと同じ学校であったから面識があるけれど、何の用事で来たのだろうか?

 幾人もの女の子を虜にしてきた笑顔を見せながら飯野が答える。

 

「先生に同じ委員会のメンバー集めてほしいって言われてさ。昼休みに悪いんだけど、初霜に着いてきてほしいんだ」

「え? わたしは良いけれど……」

 

 そう言って芹がこちらをチラリと伺う。

 話の途中だったからどうしようかと思ってるのかもしれない。ボクの方は急ぐこともないので飯野の方を優先させる。

 

「ボクのことは気にしないで。飯野もあんまり芹に無茶させないでよね?」

「あはは、それは大丈夫。ちょっと手伝ってくれたらあとは俺らでやるからさ」

「明日葉ちゃんが良いなら……」

 

 芹はお弁当をしまうと、飯野の横を歩きながら塔屋をくぐる。

 その間何か話してたようだけど、ここからは聞き取れなかった。

 ……しっかし、超絶美少女と超絶イケメンが並んで歩く姿は様になるなあ。

 ベストカッリング賞みたいなのがあったら確実に優勝することだろう。

 ボケーっと見てる間、七尾はボクの傍を離れなかった。

 

「あ、ごめん。俊輔は何の用事だったの?」

「いんや、俺は(まなぶ)についてきただけ。なんかある訳じゃねえよ」

「そうなんだ。じゃあ教室に戻らないの?」

 

 扉の方を見ると、身長の高い飯野の後ろ姿が一瞬確認できた。

 

「……岸波もさ、学のこと……」

「うん? 飯野がどうしたの?」

 

 塔屋を見ていたボクに対し、七尾が何か意味ありげなことを口にした。

 でもそれ以上の言葉は、頭をガシガシと掻くだけで出てこない。

 

「やっぱいいわ。んじゃ俺は教室戻っから岸波も遅れんなよ」

「え、うん。わかった」

 

 それだけ言って七尾は屋上を後にした。

 残されたのはボク1人だけ。

 午後からの授業まではまだ時間もあるし、自分のペースでゆっくり食事を取ることにしよう。

 卵焼きを箸で口に運びながら、ボクは空を見上げた。

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