魔法少女に襲われています   作:ガラン・ドゥ

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08:新たな魔法少女

 放課後、ボクは再び芹の家にお邪魔していた。

 今度はディナも最初から居る。

 議題はもちろん『どうやってボクの体からマナの実を取り出すか』だ。

 それともう1つ話すことがあるとディナは言った。

 

「ボクの中の果実の処遇?」

 

 ディナはコクリと頷く。

 

「マナの実は人間が使う言葉で言うところの、『国宝』と呼ばれるものに等しい。そんなものが無くなったから妖精圏では大騒ぎ。しかもその1つが人間の体内にあると聞いて上層部は大層混乱していタ。中には明日葉を妖精圏に連れてきて永遠に封印すべきだと主張する者もいたヨ」

「え……」

「そんなの駄目だよ!」

 

 ボクが驚き、芹も抗議の声を上げる。

 

「もちろんワタシもその意見には反対した。明日葉は巻き込まれただけで故意にやった訳じゃない。それに、ワタシ達から現界への必要以上の干渉は避けなければならないしネ」

 

 ディナの言葉にホッとする。

 冤罪で逮捕なんてされたくはない。

 

「そうだよね。もしそんなことが起きてもわたしが明日葉ちゃんを守ってあげるから!」

「うん、ありがとう。芹」

 

 手をギュッと握ってくる芹に対して、ボクはその手を握り返した。

 ディナはそんなボク達を交互に見やる。

 

「君たち、ワタシがいない間に何かあったのかイ?」

「え?」

「昨日は気まずい雰囲気だったのに、もう戻っているというカ」

「うんまあ。仲直り、ってのが合ってるのか分からないけどうまい着地どころは見つけたよ」

「そう! わたしが明日葉ちゃんの心を射止められたら付き合うことにしたの!」

 

 芹はボクに抱き着いてきた。

 まだ付き合ってる訳じゃないんだから、そういう過度なボディタッチは止めていただきたい。

 めっちゃいい匂いもするし。

 ……ってこれじゃあ変態みたいじゃないか。

 芹をさりげなく剥がす。

 彼女は残念そうな顔をしたが、やるならもっと後にしてほしい。

 そんなにちょろい人間じゃないのだ、ボクは。

 ディナはと言うと、「なるほど」と頷いた。

 

「このままでは芹の魔法の活動にも影響が出そうだったし、仲が良好なのは良いことダ。それで、マナの実を明日葉が持ってることはとりあえずお咎め無しだ。とはいえ全部集めきる頃にはどうにか摘出しておきたい」

 

 それはそうだろう。

 ボクとしても、このまま妖精の世界の宝物を持っておくのは気持ちのいいものではない。

 

「それに、ボクの他にもマナの実を見つけた人がいたら同じ状況になるのかもしれないんでしょ?」

「そうだネ。そんな性質は無かった筈なんだが、現に今マナの実を取り込んでしまった人間が目の前にいるし。問題は山積みサ」

「なんか、ごめんね……」

 

 故意ではないとは言え、ディナと芹の仕事を増やしたような気がして申し訳ない気持ちが芽生えてくる。

 しかしディナは首を横に振った。

 

「偶然明日葉が最初だっただけで、誰がマナの実を手に取っても同じことだったヨ。現界の人間を守るのがワタシ達の役目だからあまり気に病むこともない」

「そっか……。うん、ありがと。それで、これからどうしよっか?」

 

 彼らとしてもやることは変わらない。

 即ち全てのマナの実の回収と、その過程でボクの体内のマナの実を取り出すこと。

 どちらも楽な道ではない。

 ディナと芹はあーでもないこーでもないと話し合っている。

 魔法のことは詳しくないから、ボクはあまり会話の中に参加できない。

 ボクにできることってないのかなあ。

 それこそ魔法が使えれば――ってあれ?

 

「あのさ、物は試しなんだけど……」

 

 ボクの言葉に2人は振り向いた。

 

「一昨日、ボクは魔法が使えたよね? だったらボクが魔力をコントロールできるようになれば解決するんじゃ」

 

 ディナは「ふーむ」と考える素振りを見せた。

 

「それは難しいと思うナァ」

「そうなの?」

「うん。魔法とは本来妖精などと契約して初めて使えるようになるんダ。そうすると教えることなく本能的に魔法を理解できる。これが魔法使いになるということなんだけど、明日葉の場合はたまたま間近でリバーサルの魔法を直視してたから、体内の魔力が反応して使えたってだけなんだと思う」

「簡単じゃないんだね……」

 

 良いアイディアだと思ったんだけど、そう上手くはいかないらしい。

 でも芹の方から助け舟を出してくれた。

 

「でも最初から否定するもの良くないんじゃないかな? 明日葉ちゃんはわたし達みたいな魔法使いとは違うんだし、もしかしたら上手く行くかもしれないよ?」

「……なるほド。芹の言う通りかもしれないネ。ちょっと試してみようカ」

「うん、じゃあ幽界の方に飛ぼっか。明日葉ちゃんはわたしに捕まっててね」

 

 芹に言われるままボクは彼女の制服を掴んだ。

 彼女が『リバーサル』と唱えるとグニャリと空間が歪む。

 一瞬後にボク達は幽界に来ていた。

 

 別世界の建物とはいえ、初霜家を壊す可能性があるので外に出たボクは芹達の真向かいに立つ。

 

「それじゃあ明日葉、魔力をコントロールしてみるんダ」

「頑張って、明日葉ちゃん!」

「いやいきなり言われても……」

 

 自分の感覚としては、体の様子に全く変化が無いからコントロールも何もないんだけど。

 試しに全身に力を入れてみる。

 ……駄目だ。筋肉が強張っただけで何か起きる気はしない。

 

「芹はどうやって魔法を使ってるの?」

 

 こういうのは専門家に聞くのが一番だ。

 

「わたし? わたしはね、体の中心に力を入れると全身に魔力が行き渡るの。それからどんな魔法を使いたいかイメージを膨らませながら魔力を杖に集中させると、魔法陣が自動的に描かれて、魔法が撃てるって感じかな」

「なる、ほど……?」

 

 言ってることは何1つ理解できなかったが、言われた通りにやってみよう。

 体の中心に力を入れてみる、が、何も起こらない。

 鳩尾のあたりを揉んでみても不快感はするだけだった。

 

「何か出せそうかイ?」

「冷や汗的なものなら……」

 

 これは思ったより上手く行きそうな気がしない。

 芹とディナは「うーん」と何かできないものかと考えてくれている。

 

「杖が必要なのかな?」

「芹のそれは生まれ持っての資質が形になったものだから、明日葉には合わないと思うけど……でもそうだネ。形から入るのは大事かもネ」

「じゃあ明日葉ちゃんこれ持ってみて」

 

 芹が自分の手を光らせると、一瞬で赤い宝石が埋め込まれたような杖が現れる。

 こちらにやってきた彼女はボクに杖を握らせて、後ろから操演のように腕を軽く掴んでくる。

 

「今明日葉ちゃんに向けて魔力を発してみてるんだけど、魔力は感じた?」

「何にも……」

「そっかー」

 

 芹は肩に手を当てたり色々試行錯誤しているようだった。

 次第に鳩尾に触れたり首元を揉んだり胸を触ったり……ってオイオイ。

 

「芹」

「あ、バレちゃった?」

 

 確信犯かい。

 彼女は舌を出しており、全く反省の色が見られなかった。

 

「途中からボクの体触るのが目的になってない?」

「だってぇ、明日葉ちゃんいい匂いするんだもん」

「芹ってそんな性格だった?」

 

 おしとやかで誰からも好まれる彼女がセクハラ紛いの行為をしてくるとは……。

 

「明日葉ちゃんに好きって言っちゃったもん。だったら何も隠す必要ないよね」

「えぇ……。そこは自重してよね……」

 

 こっちとしては溜まったもんじゃない。

 

「うーん、明日葉ちゃんが言うならそうしよっか」

「ボクが言わなくてもそうして……」

「イチャついているところすまないが、明日葉の方は魔力を感じ取れているかイ?」

 

 ディナがボク達の会話に割り込んでくる。

 イチャついてる訳ではないけれど重要なことを確認してるんだからそっちを優先しなきゃね。

 芹に離れてもらってからディナに返す。

 

「ぜっんぜん。魔力が何なのかすら掴めてないよ……」

「そうか。やはり契約してるしてないの差は大きいようだネ。そもそも明日葉には本来魔力は無いのだから契約もできないんだけド」

「そっかあ。あと他の方法としては……魔法を唱えてみることくらい?」

 

 実際、一昨日は魔法を口にしただけで発動してしまったのだから、もう一回同じことができると思うのだ。

 

「それしかないカ……。何が起こるか分からないから、あまりこの提案はしたくなかったんだけどネ」

 

 ディナの気持ちもよくわかる。

 取り返しのつかないことになってしまったらボクも怖い。

 でも可能性があるのならやれることはやっておきたい。

 

「危険がなさそうで明日葉が実際に見てる魔法と言えば……『サーチ』カ。ちょっと声に出してみてくレ」

「分かった。えっと、『サーチ』!」

 

 ボクが叫ぶと、足元に黒紫色の魔法陣が現れた。

 本当に使えてしまった。

 体の方は全く変化がない。声を発するだけで魔法が使えるなんて何だか変な気分。

 

「ここからどうすれば良いの?」

「本当ならマナとか魔力を探知する糸を伸ばせるんだけど、明日葉は魔力の扱いができないみたいだし、言葉で動かすというのはどうかナ?」

 

 確かに魔法陣が生まれただけで、特に何かできそうにもなかった。

 ディナの言う通りにやってみる。

 

「じゃあ……一番近くの魔力を持つ人間を探して!」

 

 すると、魔法陣から一本の線が伸びた。

 線はグネグネと曲がり、やがてある場所に辿り着く。

 そこは芹の足元であった。

 

「わあ、わたしのところに来たよ」

「成功ダ! ……でもワタシ達が使ってる『サーチ』とは違うみたいだネ」

「え、そうなの?」

 

 初めて見た時とそう変わらない気がするんだけど……。

 

「普通は自分で糸を伸ばして近くの魔力とマナを発する物質を見つけるんだけど、明日葉のものはどうやら君の命令に従って自動的に追尾してるようダ」

 

 そう言われると順序が逆だ。

 普通は魔法を使ってから目的のものを見つけるようだけど、ボクのものは予め目的のものが分かった上でそこに糸がまっすぐ伸びていく感じに見える。

 

「この差は一体なんだろう……。気がかりではあるが、とにかくこれで明日葉も魔法が使えることが分かっタ。ひょっとしたら自分でマナの実を取り出せるかもしれなイ」

「うん、そうだよね。明日葉ちゃんがこれ以上危険な目に会わなくて済むかも!」

 

 ディナは一抹の不安を覚えてそうだけど、果実を取り出せるのなら何だって良い。

 早速試させてもらおう。

 

「それじゃあ、何の魔法を叫べばいいの?」

「……そういえば、特定のものだけを取り出せる魔法なんてあるのかナ?」

「「え?」」

 

 ボクと芹の声が重なった。

 いやいや、特定の場所まで一瞬でたどり着けたりするのに、そんな簡単そうなものがないわけ……。

 

「え、ないの?」

「うーん……。ワタシも結構長生きだけどそういうのは聞いたこと無いなア」

「中のものをポンッと取り出すだけなのに……!?」

 

 ディナは首を横に振った。

 この反応からして本当になさそう。

 

「そもそも魔法は万能な現象ではないんだヨ。ちゃんとした法則(ルール)があって、魔法は基本的に他の物質に直接的な影響を与えられないのサ」

「芹が使ってる魔法は魔物倒したり、地面に穴開けたりしてるけど……?」

「あれはあくまでも魔法で召喚した光熱をぶつけてるだけなんダ。『ジャンプ』とか『リバーサル』も明日葉が芹に触れていることで初めて機能するしネ」

「そんなあ……」

 

 これじゃあ振り出しに戻っただけじゃん……。

 

「中のものを取り出すには、やっぱり自分の魔力をコントロールする他なイ。それで明日葉に魔法を使ってもらったんだけド……何か掴めたかい?」

「さっぱりだよぉ……。なんか魔法が勝手に動いてるような気分しかしないし……」

「そうカ……。やっぱり別の方法考える他なさそうだネ」

「そうだよね。魔法のことで明日葉ちゃんが頑張る必要もないと思うよ」

 

 せっかく教えてもらったのに、なんだか申し訳ない気持ちになる。

 

「魔結晶を渡してることだし明日葉の危機にはすぐに駆け付けられル。今はマナの実の回収を優先するべきかナ」

「うーん。わたしとしては早く明日葉ちゃんを安心させてあげたいけど、しょうがないのかなあ」

「明日葉には注意を払ってもらって我慢してもらおう。マナの実を集めることでひょっとしたら取り出してほしいという願いが叶うかもしれないヨ」

「あ、そっか。でも現界にあるマナの実を回収するのは難しいよね……」

「そこはワタシ達の探知魔法で地道に探すしかないと思う」

 

 早速2人は次の話題に移ってしまった。

 もうボクが入り込める余地は無い。

 こんなにも手厚くフォローしてもらってるんだから、何か助けになりたいんだけどなあ。

 でもボクにできることって一体なんだろうか。

 それこそ……。

 

「マナの実の在処が分かればなあ……」

 

 何気なしに口にした言葉。

 次の瞬間、足元がとてつもない輝きを放つ。

 

「え、なになに!?」

 

 そういえばボクの足元には魔法陣が出っぱなしだった。

 魔法陣からは一本の太い線が上空に伸びていき、西側に飛んで行く。

 それを呆然と見ていたボクは、目を見開いたまま2人に目をやった。

 驚いて固まった様子のディナと、いつの間にか白いローブ姿に変身して戦闘態勢に入っている芹の姿が。

 再起動を果たしたディナがボクに近付いてくる。

 

「明日葉、一体何をしたんだイ……!?」

「え、いや、ただマナの実の場所が分かればいいなって呟いただけなんだけど……」

「ひょっとして、さっきみたいに明日葉ちゃんの魔法が発動したんじゃ……」

「そうカ……! ならあの線の行き先は……」

 

 芹とディナが同時に頷いた。

 もしかして、あの光の線の先にマナの実がある……?

 

「マナの実同士で共鳴したのカ! こうしちゃいられなイ。すぐに飛んで行ってみよう」

「そうだね! あそこにマナの実があるのならすごく簡単に見つかることになるよ! すごいよ明日葉ちゃん!」

「そ、そうかな……? ボク何もしてない気がするけど……」

 

 芹に気圧されて思わず否定してしまったが、彼女は首を振った。

 

「ううん、今までは地道に探すしかなかったのに、これならマナの実集めが一気に楽になるかも!」

「探す手間が省けるから効率が何十倍にも膨れ上がるヨ。これは大手柄ダ!」

 

 「すごいすごい」ともてはやされて、なんだかすごい恥ずかしい気持ちになってしまった。

 これ以上は顔が真っ赤になりそうなので、光の線の先っぽを見に行くよう促す。

 

「ほ、ほら、もういいからマナの実を探しにいこうよ。線も消えちゃうかもしれないでしょ……?!」

「確かに! じゃあ明日葉ちゃんちょっと失礼するね」

「え……うわっ!」

 

 間近まで近付いてきた芹にヒョイと抱えられてしまった。

 しかもお姫様だっこで。

 

「あの、芹? 恥ずかしいんだけど……」

「誰も見てないから平気平気。それにこの持ち方が一番楽だから」

 

 おんぶの方が良いんだけど、いつ探知魔法が消えるか分からないからこれ以上無駄話をしてる暇はないだろうし、仕方なく芹の首元に手を回す。

 彼女の口から「んへへ」と漏れた気がするけど、今は気のせいということにしておこう。

 

「それじゃあ行くよ」

「うん」

 

 芹の言葉と共にボクの体は上空に舞い上がった。

 

 

 □

 

 

 芹に抱かれながら飛んで数分後、光の線の先っぽが見えてきた。

 目的地がすぐそこまで来ているということなのだろう。

 一応危険があるかもしれないということで、その手前で降り立つ。

 探知魔法が未だに消えることはなく、目の前の大きな屋敷の中に伸びていた。

 

「じゃあ明日葉ちゃんはここで待ってて」

「分かった。気を付けてね」

「うん! 大丈夫だよ」

 

 扉を開けて芹とディナは入っていく。

 一応塀の陰に隠れて待っていると、すぐに芹達が敷地内から浮かび上がってくるのが見えた。

 芹は黄金の果実を手に持っている。

 本当にマナの実の在処を指し示していたんだ。

 これならボクも芹達の役に立てる。

 

 そう思って駆け寄ろうとした瞬間――ボクの真上を猛スピードで何かが通過していった。

 何事かと思って見上げたら、煙を纏った物体が芹達の目の前で止まる。

 煙が晴れると中から女性が現れた。

 夕日に反射してきらめくブロンズヘアーが印象的である。

 それに恰好は青を基調とした鎧を纏っており、お腹から背中をさらけ出していた。

 いわゆるビキニアーマーというやつだろうか。

 芹と対峙しているその少女が口を開く。

 

「やあ、久しぶりだねアロン。元気にしてたかい?」

「……クラウさん」

「堅苦しいね。気軽にクラウとでも呼んでくれよ」

 

 芹と、彼女からクラウと呼ばれた人物はどうやら顔見知りらしい。

 こちらからは顔を視認できないが、どうにも穏やかな雰囲気でないことは察せられた。

 芹は相手の言葉を無視して質問する。

 

「何をしに来たの? もう貴方が幽界に来る用事はないと思うんだけど」

「いやいや、最近魔物が活発化してるだろ? 『天界』にも被害が及んだらいけないから間引きしにきたのさ。――というのは建前で、今君が持っているマナの実をいただきに来たんだ」

「え!? 一体何が目的なの!?」

「それを集めれば願いが叶うと聞いて、すごく魅力的な話だと思ってね。今日も探索していたら、なにやら紫色の光が私の前を横切って行ったんだ。その光に沿って飛んでみれば君達がいたっていう寸法さ」

 

 ボクの魔法がどうやら彼女を呼び寄せてしまったらしい。

 なんだか一触即発の空気が流れてるし、とんでもないことになってしまった。

 

「そんな身勝手な理由でマナの実は渡せないよ! わたし達は忙しいんだから今日は帰って」

「冷たいね。でもそういう訳にもいかないさ」

「何で?」

 

 クラウという少女の手に長身の槍が現れた。 

 

「バベルが言ってたよ。ひょっとすると妖精達は何か悪い企みをしていて、マナの実をわざと現界と幽界に落としたんじゃないかって」

「何だそれハ。そんなホラ話を信じたのカ?」

「私の相棒だし。おかしいかな?」

 

 ディナの言葉に、相手は肩をすくめる。

 

「そんな突拍子もないことを信じるのは十分おかしいヨ」

「ふふっ。マナの実に何かあれば私達の命が危ない。全部私達が保有させてもらおう」

「何を勝手なことを……!」

「問答無用!」

 

 女性は槍を手の中でクルクル回すと、左肩を前に突き出して芹に向かって突撃する。

 危ない、と思ったけれど、芹は高速の突きをシールドを張って間一髪防御していた。

 

「くっ!」

「やるね。命までは取らないから安心して気絶してるといい」

「お断り……だよ!」

 

 芹はシールドに圧力を掛けて衝撃波を放つ。前にスライムを吹き飛ばした時と同じだ。

 しかし、相手は槍を鉄棒に見立てて、クルリと逆上がりの要領で回避してしまった。衝撃波はそのまま少女の真下を通り過ぎ、後方の家がバラバラに倒壊する。

 少女はそのまま宙で体を捻って、槍を芹に向かって突き下ろした。

 今度は芹が後方に下がることで攻撃を避ける。

 

「妖精が悪い企みをしてるって……一体何のこと!?」

 

 芹は反撃として白い光弾をばらまくが、少女には全て回避されてしまった。

 

「だって、妖精圏に他の世界は干渉できない。それなら妖精の誰かが今回の事件を引き起こしたと考えるのが普通じゃないか? もし妖精圏に果実を戻してもまた同じことが起こるだろう」

 

 少女が呪文を唱えると、氷の塊のようなものが周りに現れ、芹に向かって一斉に射出する。

 

「くっ……。犯人ならマナの実を全部集めれて願いを叶えればすぐに分かるよ! わたし達が争う必要なんてない!」

「それは妖精側の言い分だろ? 嘘をついて別のことに願いを使うんじゃないのかい?」

「そっちだって、『2年前』のことがあるんだから信用できないよ!」

「そう思うんだったらそれで良いさ。結局戦うことには変わりない」

 

 芹の杖の先端が白く光ると同時に、少女の槍も青色に光った。

 両者が同時に魔法を叫ぶ。

 

「『ホーリーレーザー』!」

「『ブリザードランス』!」

 

 芹の杖からは膨大な光熱が放たれ、少女の方も負けないくらいの威力の凍った槍を突き出す。

 その衝撃で辺り一面に暴風が吹き乱れる。

 その範囲内にはもちろんボクをいる訳で……。

 

「うわっ!!」

 

 あやうく飛ばされそうになったけど、咄嗟にしゃがむことで何とかこらえる。

 でもつい声を出してしまった。

 ヤバイと思ったがもう遅い。

 塀の陰からチラリと2人の様子を見ると、芹の相手がこっちを振り向いている。完全に気付かれてしまった。

 

「どうやらもう1人いるようじゃないか。いつの間に味方を増やしてたのかな?」

「彼女は違うの! ただの協力者で……!」

「ふうん? じゃあマナの実の在処が分かったのはその子のおかげってこと?」

 

 そう言う少女の姿が消える。

 すると、ボクの後方の気温が一気に冷えたのを感じた。

 背中から声がする。

 

「――まずはこの子を無力化すれば、アロンの戦力が下がるってことだろ?」

「やめてー!」

 

 芹の悲痛な叫びで反射的に振り返ると、凛とした蒼い瞳と目線がぶつかった。

 そしてその手前にある槍が、まるでスローモーションになってしまったかのようにゆっくりこちらに振り下ろされていく。

 

(あ、これ死んだ)

 

 もう逃げることも防ぐこともできない。

 ボクにできるのはただその結末を受け入れることだけ。

 諦めかけていたその時、槍の穂先がボクの額の直前で止まった。

 

「……え?」

 

 槍の奥にある顔を上目に覗くと、少女はこれ以上ないくらい驚いている表情だった。

 ボクは動こうにも動けなかったので、とりあえず声だけ掛けてみる。

 

「あの……?」

「え!? あ、ああ」

 

 先ほどまで堂々とした振る舞いが印象的だった少女が、動揺してるのが目に見えて分かる。

 彼女はコホンと咳払いすると、槍を下ろしてこちらににこやかな笑顔を浮かべた。

 

「……まあ、そうだな。どうやら君は戦闘要員ではないようだし、あまり手荒いことをするのも良くないな。うん」

「さっきと言ってること違うくない!?」

 

 なんか始末するとか聞こえた気がしたんだけど。

 少女は答える前に飛び引いてしまった。その直後に光弾がボクの目の前に降り注ぐ。

 

「彼女から離れて!」

「芹……!」

 

 後ろから芹に抱きしめられると、後方に逃がされる。

 それから彼女はボクを守るように前に立った。

 芹の肩から覗き込むように向こうの少女を見やると、なぜかこちらと目が合う。

 その瞳は様々な感情が入り混じってるように感じた。

 やがて苦虫を潰したような表情に変わり、目を閉じる。

 

「……ふっ。どうやらあまり状況が良くないようだね。ここは引いた方が良さそうだ」

「あ、待って!」

 

 芹が少女を追撃しようと試みるが、雪の結晶のような盾に阻まれてあっという間に見えなくなってしまった。

 少女が完全に視界から消えたのを見計らって、芹が振り向く。

 

「明日葉ちゃん怪我ない!?」

 

 彼女はボクのおでこや肩に触れて色々確かめていた。

 

「うん、大丈夫だよ、芹」

 

 芹に触れられていると、生きている実感がする。

 さっきまでの緊張がようやく解けたかのようだった。

 

「良かったよぉ……。明日葉ちゃんに何かあったら、わたし……」

 

 芹の方が泣きそうになってるので、逆にボクがあやすことに。

 それにしても、ボクを見ていたあの少女の目。

 人の機微にあまり敏感な方ではないからほとんど読み取れなかったけど、1つだけなら理解できそうだ。

 

「なんか、寂しそうだったな……」

「え、明日葉ちゃん何か言った?」

「ううん、何でもないよ」

 

 何故ボクに向かってそんな感情を投げかけていたのか。

 それを理解するには、まだ知らないことがあるのかもしれない。




コロナ掛かってしまいました。
小説書き放題かと思えば、起きるのも億劫なくらいなので更新速度落ちるかもしれませんm(__)m
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