差し込んできた朝日が眩しくて、ボクは自然と目を覚ました。
でも何か違和感。
まず気付いたのは部屋の匂いが違うこと。
いつも過ごしている家の香りではなく、それに天井を見やると灯りの位置が異なっていた。
(ん? あれ?)
混乱している内に寝ている隣から声がする。
「んむう……」
声のする方を向けば、そこには触れそうな距離に芹の顔があった。
めちゃめちゃビックリしたけど、そこまで来てようやくボクが芹の家に泊まったことを思い出す。
昨日クラウと呼ばれた人物の襲撃にあって、危うく死にかけたボクは、芹に一緒にいるべきだと勧められた。
曰く、ボクはクラウに顔を見られているから襲われる可能性があるらしい。
それでボクを守る為に芹が家に泊まっていくべきだと主張したのだ。
とはいえ
だからそこまで迷惑は掛けられないと反対したのだけど、芹は譲らなかった。
『明日葉ちゃんとわたしはもう一心同体なんだよ! もし明日葉ちゃんを守れなかったら……耐えきれなくて飛び降りしちゃう!」
いつ一心同体になったのかと問い詰めたかったが、そんなツッコミができない程芹の表情が鬼気迫るものだったので、やむを得ず彼女の言い分を聞き入れることにした。
でも、昨日の出来事があったおかげで芹は随分神経を張り詰めているらしく、どこにでも彼女の顔が。
それはお風呂でも同じで、先に入らされてから芹が突撃しようとしてきて、裸を見られるのが恥ずかしいという思いからどうにかせき止めることに成功していた。
就寝時もボクが下で寝ると言ったのだが、一緒が良いと譲らなかったので仕方なく隣で寝ることに。
2人とも小柄だったのが幸いして、窮屈ということはない。
眠るまでの間、芹がピットリとくっついてボクを抱き枕にするように抱えてきた時は「襲われる……!?」とか思ったけどそんなことはなかった。
ボクが不安かもしれないからと安心させようとしたらしい。
そこまで過保護にならなくても……と思ったけど芹からすれば「好きな人の為に尽くすのは当然!」とのこと。
(そうなんだよね。芹の好きな人はボクなんだ)
ハッキリとした好意を示されて、絶対に振り向かせると決意を固めて。決して折れない心には賞賛を送りたい。
けど、なんか改めて考えると恥ずかしくなってくるな……。
未だに夢の中の芹の顔が超至近距離にある。
「むにゃむにゃ……」
やばい。めっちゃドキドキしてきた。
好きかどうかとか関係なく、こんな可愛い顔が目の前にあったら誰だって同じ気持ちになるだろう。
顔が良いだけでなく性格も良いんだから、恋人になれるなら幸せだとは思う。
「……恋人か」
とはいえボクにとってそれは未だ未知の領域。
かなり慎重になってしまうのはしょうがないのかもしれない。
今は自分の体の危機もあってそんな気分になれないというのもある。
今答えを出すべきではないだろう。
時間的にそろそろ起きなければいけないので、芹の腕の中から脱出を試みたのだが、力が強くとてもでないが剥がせない。
声で起こすことしかないようだ。
「芹。芹起きて」
「ん、んぅ~…………あすはちゃん?」
芹は手で擦りながら目を開けた。
そうすると自然と彼女の腕が外れたので、体が自由になる。
ボクが上体を持ち上げると同時に、芹もむくりと起き上がった。
しかしその眼はトロンとしており、半ば夢の中という状態である。
「……あれ~? あすはちゃんがうちにいる~」
「芹が泊まれって言ったんでしょ」
「…………」
ぼんやりとした声の彼女に答えたつもりだったのだが、そこから反応がない。
「あすはちゃん……」
芹は、何故かボクの首に手を回して顔を近付けてきた。
「せ、芹……?!」
「あすはちゃん、チューでおこしてぇ……」
徐々に近付いてくる芹の顔。
この時ボクは、彼女が完全に寝ぼけていることを悟った。
「ちょちょちょ! 起きて芹! とりあえず離し……って首を引っ張るんじゃない! あ、こらっ胸を揉むな……! 誰か助けてーー!」
金曜日の朝、初霜家にボクの声が響き渡る。
芹のお母さんお父さん、本当にすみません。
□
ボクのアイアンクローで芹とのキスを回避した後、若干気まずい雰囲気になりながら学校へと向かい、今はまた芹の家に集まっていた。
ここにはちゃんとディナもいる。
今更になって聞いたけど、普段ディナは勝手に居候してるのがバレるのを防ぐため、透明化して過ごしているらしい。
見えてないのならいないのと一緒ということだろう。
あと食事を取る必要はなく、マナを体に吸収することで生きながらえてるんだとか。
何ともエコな生き物だ。
「さて、どこから話そうカ」
3人で円になって座ると、ディナが最初に切り出した。
「まずは昨日現れた人物についてかナ。……最初に説明しとくべきだったんだろうが、これについては完全にワタシ達の不手際ダ。本当にすまない」
「うん。おかげで明日葉ちゃんを危険な目に会わせちゃったね……」
芹とディナが頭を下げてくる。
いきなり謝罪から入られるとボクとしてもやりにくいし話も進まない。
「いやいや! 結果的に命は助かった訳だし本当に気にしないで! あの人が誰だったのか気になるし、教えてよ」
「……そうだネ。まず彼女の名前からいこうカ。彼女はクラウと呼ばれていル。ワタシ達と対立している『天使』の仲間なんダ」
「天使? 妖精とは違うの?」
ボクはただ疑問を口にしただけだったけれど、芹が慌て出した。
「あ、明日葉ちゃん、ディナのことを天使と一緒くたにしちゃ駄目だよ!」
「いや気にしないでくれ芹。明日葉からすれば分からないのは当然ダ」
どうやらあまり良好な関係ではないらしい。
今後は気を付けねば。
「天使とは天界に住む生物の総称で、ワタシ達妖精とはそれはもう仲が悪い」
いきなり重たい話ぶっこんできたなあ。
「なんで仲が悪いの?」
「うーん、話せば長くなるから簡潔に纏めるけど、人間がまだ生まれてくる前に妖精と天使と巨人という3種族が存在していたんダ」
「なんか、神話みたいな話だね……」
今目の前に妖精のディナがいるから信じられるけど、少し前だったらおとぎ話としてしか思わなかっただろう。
ディナはコクリと頷く。
「神話というのは昔の人々が我々を題材にして作ったのかもネ。それはいいとして、決して友好的ではなかったとはいえ、ある問題が発生してからは戦争が起こるくらい種族間で亀裂が生まれてしまったんだヨ」
「戦争!?」
何が起きたんだろう。原因が気になるがひとまず口を挟まないでおく。
「大地は割れ、森は焼かれ、ひどいものだっタ。このままでは現界が崩壊し、どの種族も全滅するというとこまで来てね、それぞれ別の世界を作ることにしたんダ」
「それが妖精圏とかってこと?」
「そうサ。その中で3種族は『現界に必要以上の干渉をしない』という条約を締結しタ。現界が滅びれば我々の世界も芋づる式に消えてしまうからネ。また現界がめちゃくちゃになったら大変だろう?」
「うん、まあ……」
「そういうことで我々は現界から姿を消したまま、自分達の生活を謳歌していたんだが、2年前に問題が起きタ」
2年前と言えば芹が魔法使いになった時じゃなかっただろうか。
ということは3種族の間に何か起きたってこと?
「天使達が住む天界から神器と言われるモノが盗まれてね、犯人を慌てて追ってきたのが始まりサ」
「と言うと?」
「今言った通り、我々は現界には必要以上に干渉できなイ。それを破れば他の2種族から追及されるからネ。それでも天使達はそれを無視して現界に降りてしまったからワタシ達や巨人も無視はできなくなっタ。それだと『必要以上の干渉』になってしまうからどうしたかと言うと……人間に頼むしかなかったんダ」
「その人間って言うのが……」
芹の方を向けば、彼女が頷く。
「そう、わたしだよ。世界の危機になるかもしれないから協力してってディナに頼まれたの。それからわたしとクラウさんともう1人が魔法使いになったんだよ」
「なにそれ。自分達の代わりに芹達を争わせたの?」
代理戦争のようなものじゃん。
自分たちは安全なところから見てるだけで、芹だけが頑張っているのなら流石に見過ごせない。
「今となってはそう言われたとしても仕方ないネ……。ワタシとしては芹を他の魔法使いと敵対させる気はなかっタ。神器が見つかり、事件が解決するまでは他の2種族と休戦することも考えてたんが……結局また対立することになってしまったヨ」
「そこはもうちょっと頑張らなきゃ駄目じゃん! 芹だって好きで戦ってる訳じゃないでしょ?」
「そうだね……。でもわたしもアロンさんに騙されたから戦わざるを得ないっていうか……」
「騙された?」
「そうなの。最初は共闘しよって話し合ったのに、次に会った時には槍を向けられて『やっぱり君達は信用できない』なんて言われて襲われたし……」
つまり奇襲されたってこと? なにそれひどい。
「確かに昨日もめちゃくちゃ好戦的だったけど……」
危うくボクも殺されかけたし。
「天使の考えに賛同して妖精と巨人の末裔を追い払おうと考えてるのかもしれない。積極的にこちらと戦おうとするから危険で交渉もできないんダ」
「だから敵対してるってことなんだね」
昨日の光景を思い出す。
突然襲撃してきて、芹達の言葉も聞かずに交戦に入るし、危ない人というのは納得できた。
でも、ボクの顔を見て槍を止めたんだよなあ。
(あの表情はなんだったんだろう……)
その後の態度の変わりようもおかしかった。まるで親しい人だった時のような気まずさを感じていたのかのよう。
もしかして、クラウって人は本当にボクの知り合いなのだろうか。
……いや、ないか。
滅多にいないらしい魔法使いが2人も顔見知りだなんて、宝くじに当たるよりも可能性は低いだろう。
今はディナの話に耳を傾けることにする。
「2年前の事件が終わってから我々は一旦それぞれの世界に帰ったんだけど、マナの実が落ちて現界に戻ったら、まさか天使まで降りてきてるとは思いもよらなかっタ。今後は彼女達の妨害も入ってくるだろうし、一体何が目的なのやラ……」
「マナの実を集めて願いを叶えようとしてるのかな?」
「その可能性は大いにあるネ。犯人を見つけずとも天界に持っていけば関係ないと思ってるのかもしれない」
「そんなことして何かメリットってあるの?」
ディナは芹の言葉に頷いた。
「マナの実を集め切ればその場所には樹木が生まれル。そうすると樹はその土地に根付くんだけど、マナの供給を自由に設定できるようになってしまうんダ。天界だけ供給量を多めにして、他の世界には少な目に、なんてことも出来てしまう」
「え、そんな!」
マナが無ければ生物は生きていけないって言ってたし、もしマナの供給が絶たれれば妖精達も含めた全ての生物が絶滅してしまうだろう。
「大変なことじゃん!」
「そう。天使達がそこまで考えてるのかは別として、妖精圏以外にマナの実が渡るのは不味い。これからはより一層力を入れて回収にあたらなければならなイ。そこで明日葉の探知魔法が大いに役立つんダ」
マナの実の回収にこれほど便利な能力もないだろう。
ボクが『サーチ』を使えば一瞬で目的の元に辿り着けるのだから。
「早速マナの実を探しにいく?」
「そうだネ。できることなら現界のモノから回収していきたイ。人間が魔法を認識できなくなる結界を張るからちょっと待ってくレ」
そんなこともできるのか。
ディナが呪文を呟くと半球状の膜のようなものが体から出てきた。膜はボク達をすり抜けながらどんどん大きくなっていく。
外を見れば遥か遠くまで広がっているのが見えた。
「ふう。これで現界で魔法を使っても大丈夫サ。明日葉には早速『サーチ』の魔法を使ってもらいたイ」
「分かった。えっと……サーチ!」
部屋の中で立ちあがって魔法名を叫ぶ。
……が、ボクの足元には何も生まれなかった。
「……あれ?」
「「え?」」
何か駄目だったのかと思い、もう一度「サーチ」と叫んだ。
しかしやっぱり何も起こらない。
「え、あれ? 昨日はこれで良かったじゃん! 現界だと魔法が使えないってこと……?」
「いや、そんは筈はないんだか……ちょっと魔力を確認させてもらうヨ」
ディナはボクの胸元で手をかざして魔法陣を作る。
しばらくしてから「なるほど」といった具合に頷いた。
「魔力量が著しく減っていル。昨日探知魔法を使ったことが原因かもしれないネ」
「でもわたしは1日経てば魔力戻るよ?」
「芹は魔法使いだからそれができるんダ。明日葉の場合は自分で魔力をコントロールできてる訳じゃなイ。普通の魔法使いは大気中のマナを自分の体内の貯蔵庫に溜めておけるんだけど、それができないからマナの実が現在保有してるマナの総量によって魔法が使えるかどうか変わってくるんじゃないかナ」
「えぇー……。じゃあしばらく魔法は使えないってこと?」
「そうなるネ。明日葉がマナの実を吸収してたのが5日前で、昨日魔法を使えたってことは……チャージまでおおよそ4日掛かるってことなんだろう」
「そっかぁ……」
便利な能力だとは思ったけど、何事も思い通りにはいかないものだ。
こうなれば3日待つしかない。
「じゃあ今日はもう解散する?」
「ワタシと芹は明日から休みだから探知魔法で探すことにするけど、明日葉は家に帰るのかイ?」
「まあ、流石にこのまま芹の家に泊まり続ける訳にもいかないでしょ」
ボクの言葉に芹が大声を上げる。
「えぇー! 明日葉ちゃんが良いなら何日居ても大丈夫なのに!」
「それは流石に芹のご両親に迷惑が掛かるでしょ……。ディナからもらった結晶もあるし、何かあったら助けてもらえたらなって」
「うぅ~でもでも~。何かあってからじゃ遅いかもしれないし……」
芹が未だに抗議の声を上げている。
確かにあのアロンって人に追っかけられれば、ひとたまりもないだろう。
でも幽界に引きずりこむにはその人に接触しなきゃいけないみたいだし、知らない人に接近を許すことはしないから大丈夫だと思う。
「心配ないって。要は人と接触しなきゃ良いんでしょ? それに、芹なら必ず間に合うって信じてるからさ」
すごい他人任せなこと言ってるがこの際はしょうがない。だって自分の命が掛かってるし!
平気だよってことを伝える為に笑顔で芹を見たのだが、彼女は頬を赤らめている。
「そ、そっか……! うん、明日葉ちゃんの為ならどこからでも駆け付けるよ! だから明日葉ちゃんも無理しないでね」
「分かった。あまり1人で出歩かないようにするよ」
芹の承諾ももらったので今日のところは帰ることにした。またボクの魔力が溜まったら手伝うことを約束して。
すっかり日が長くなってきた春の終わりは、夕方になっても暖かい。
心地よい風を体に受けながら歩いて数分もすれば岸波家が見えてくる。
一先ずこれで襲われることもないから安心。
そう思っていたのだけど、ボクの家の玄関の前で立っている女性を見つけた。。
まず印象的なのは、遠目からでもわかるほど輝いている長い金髪。
近付けば分かるが、手入れがしっかりとなされていることを証明するように、鏡のような光沢を持ち、枝毛などどこにも見当たらない。
サラリと後ろ髪を払う姿が様になっているその女性の顔も、完璧なバランスでパーツが配置されている。
芸能人であったのなら、テレビで見ない日はないくらい引っ張りだこだろう。
でも彼女はテレビに出るのはあまり好きではないらしい。
なんでそんなこと知ってるのかって?
それはボクが彼女と友達だからだ。
コンクリートで舗装された道を歩いているボクの足音に女性は気が付いたようで、こちらを振り向いた。。
その人物がボクだと分かった途端、彼女は太陽のような笑みを浮かべる。
「やあ、明日葉。随分長いこと会ってない気がして寂しかったよ」
「いやいや、
「私にとっては永遠に近い時間だったのさ」
彼女は会話をしながらボクの頬に触れた。
「ちょ、ちょっと……!」
「ああすまない。明日葉を前にしたらつい」
そう言って彼女は笑う。
その仕草も似合ってるんだから美人ってズルいよなあ。
彼女の名前は
金髪碧眼のクォーターであり、恵まれた容姿と優れた素質を持つという、神から二物を与えられた存在だ。
何がすごいってその美貌を活かしてプロのモデルをやっているということ。
聞いた話だと小学生の頃から芸能人として活躍していたらしく、今では雑誌に頻繁に取り上げられている程の人気を誇っている。
なんでこんな凄い人と友達でいるかと言うと、中学1年生の時のちょっとしたことがきっかけであった。
芹が用事で一緒に帰れず、たまには別の道から帰ろうかと思ったら、その道には神社に続く階段があり、そこに目立つ容姿の楓が登っていくのが見えたのだ。
神社の娘さんなのかな? それにしては金髪って珍しいな、などと思いこっそり後をつけてみた。
すると、神社の端っこでは子犬にミルクを与えている彼女の姿が。
楓に声を掛けたら最初は警戒されたけれど徐々に仲良くなって、モデルで悩んでることを聞かされたり、その相談に乗ったことで今となってはだいぶ親しくなった、と思う。
……なんかたまに距離感おかしい時があるけど。
「でも急にどうしたの? うちに上がってく?」
立ち話もなんなので家に入るよう促したのけど、楓は首を横に振った。
「……いや、今日のところは明日葉の顔を見に来ただけだよ。ただ明日とか時間があるか確認したくてね」
「明日?」
今日は金曜日。
日曜日は芹とスイーツを食べに行く約束をしてるので、明日なら空いてる。
「大丈夫だよ。どこか行ったりするの?」
「明日葉に見せたいものがあって、私の家に来てほしいんだ」
「家に? それだけのことだったら電話でもすれば良いのに……。わざわざ遠くから来なくても」
楓とは学校は別々だし、家もここからずっと離れてる。
会おうと思うと結構な気力がいる筈なのだが。
「電話だと明日葉の顔が見られないだろう? タクシーなんか使えば良いんだからこんなの遠い内に入らないよ」
ただボクの顔を見る為だけにタクシーを使うとか……。
お金持ちだからか、ちょっとボクみたいな一般人とは感覚がずれているところあるんだよなあ……。
「さて、目的も果たせたことだし私は帰るよ。明日の午後からでも良いからよろしく」
「う、うん。電車でそっちに行くよ」
「ありがとう。明日葉も元気そうだし、やっぱり来た甲斐あったな」
「? まあ元気だけが取り柄みたいなとこあるし?」
発言の意図がいまいち読み取れなかったが、ボクの返事に対して楓は少し悲し気な表情になった。
「……そうか。それ以外にも魅力はあるがそれはまた今度話すことにしよう。また明日ね」
「うん、バイバイ」
そう言って楓は去っていった。
なんだろう。
去り際に何か言っていたような気がするんだけど。
「気のせいかな」
まあハッキリとした声で話してないのならきっと重要なことではないのだろう。
しかし結局明日も出かけることになってしまった。
芹達からは外出を避けるように言われたが、人通りの多いところを進めば大丈夫だろう。
楓の家も何度か行ったことあるし、気心が知れた仲なのだから問題ない。
こうして会うことも少ないのだからたまには良いかなと思ってしまった。
不安なことがあれば芹に連絡することにしよう。
この時の判断を後に後悔することになるとは知らずに。