TS暗殺者、異世界で冒険する   作:布団から出られない

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間違えて一個飛ばしで投稿してしまいました。

見なかったことにしてください()


技術は時に筋力をも超越する

 

大胆で恐れ知らずなクロエ、はちきれんばかりの筋肉に自信を持っているオニンニク。両者は互いに睨み合う。いつ戦闘が始まってもおかしくないような雰囲気の中、先に動いたのはクロエだった。

 

「むっ、消えた?」

 

オニンニクの視界からクロエの存在が消える。

 

「目の筋肉は鍛えなかったみたいだね」

 

次の瞬間には、オニンニクの首元にナイフが突き立てられていた。暗殺者なだけあってか、一切の物音を立てずに、気配を絶ってオニンニクの背後に回り込んだのだ。

 

「一瞬でワシの後ろに………天晴れだ。目の筋肉も、ワシはしっかり鍛えたつもりだったんだが………」

 

オニンニクは動じる様子はない。ナイフ如きでは自慢の筋肉に傷をつけることはできないと、自身の筋肉に絶対的な信頼を寄せているからだ。クロエもそのことを理解しているのか、ナイフを突き立てるだけにとどめている。一連の行動はあくまで威嚇だ。お前の背後にはいつでも回り込めるんだぞと、自身の力を誇示することで、少しでもオニンニクの関心をひこうとしているのだ。

 

というのも、クロエとしてはオニンニクを倒す必要はない。優斗を守りつつ、アルトが何か手を打ってくれるまで時間稼ぎをすれば良い。そのために、まず、オニンニクの関心が優斗ではなくクロエに向くように、また、オニンニクに『こいつは面白いやつだ、もう少し戦いたい』と思わせるように立ち振る舞うことだ。

 

見た感じ、オニンニクは任務を淡々とこなすような仕事人間というわけではない。筋肉を愛し、また、その筋肉を活かす戦闘ができることに喜びを感じる性格だ。クロエとの戦闘では筋肉を活かすことは難しいかもしれないため、オニンニクは楽しめないのではないかと思うかもしれないが、筋肉を活かすだけなら別に戦闘である必要はない。

 

ということは、オニンニクは筋肉を活かせるから戦闘が好きなのではなく、元々戦闘が好きなのだ。そこに筋肉を活かせるという面もあって、一石二鳥だと感じているというだけの話だ。

 

「っ!?」

 

オニンニクが下に目を向けると、なんと、クロエの小さなナイフによって、己の腹が貫かれている。筋肉をも貫通し、刺された箇所からは血がダラダラと流れている。

 

「なん……だ………一体…………何………を………」

 

血が止まらない。

 

「なんだ……なんなんだこれは………!」

 

オニンニクの顔に、焦りの色が浮かぶ。自身が絶対的な信頼を寄せていた筋肉が、ただの14歳の小娘のナイフで貫かれたのだ。しかも、このまま傷を放置していれば、下手したら死ぬかもしれないほどの致命傷だ。

 

「何を……そんなに驚いてるんだ?」

 

その光景を見て、優斗は困惑する。

クロエがオニンニクに対してダメージを与えることに成功したからではない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にだ。

 

優斗の目線では、クロエが手に何も持たずにオニンニクの腹に何かを刺すような動作を見せたら、オニンニクがいきなり動揺し始めた、というような状況になっている。

 

それもそのはずだ。実際にはクロエのナイフはオニンニクの体を貫くどころか、傷をつけることさえできてはいない。

 

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クロエはまだ暗殺者として暗殺を執行していた時代に、この世界で一番の殺し屋に師事していたことがある。正確に言うと、クロエのことをこき使っていた貴族の連中が、世界一の殺し屋に頼んでクロエを弟子にさせたのだ。というのも、元々はその例の世界一の殺し屋を雇おうとしていたらしいが、彼はその申し出を断った。しかし、彼は弟子を取ることに抵抗がなかった。そのため、貴族の連中は、暗殺者を自分達で調達し、彼の弟子にさせることで、一流の暗殺者を育て上げようとしたのだ。

 

クロエの他にも、同じように弟子として受け入れられた暗殺者は多数いたが、しかし、ほとんどは世界一の殺し屋の技術についていけず、途中で挫折してしまったり、兄弟弟子による暗殺にあってしまったりして、世界最高峰の暗殺技術を身につけることはなかった。

 

そんな中でも、彼の最高峰の技術を、完全ではないが、受け継ぐことに成功した超一流の暗殺者が3人だけ存在した。

 

その中の一人がクロエだ。

 

今となってはその殺し屋がどうしているのか、また、他の二人がどこで活動しているのかはクロエにはわからないが、クロエはこの世界の暗殺者の中で、少なくとも5本の指に入るほどの実力を有している。

 

「くっ、いや……これは………幻覚……か……ふむ………ワシの軍にも似たような技を使うやつがおってな………そいつがいなければ、今頃ワシはこの技を見抜くことができずに死んでおったかもしれん」

 

「その技、結構気に入ってるんだよ。あまり人を殺したって感じさせられないから」

 

師である殺し屋の男から教わったこの技は、他の弟子には教えられていない。そもそも扱えるのが特に優秀な3人のみであったし、他の二人には必要ないと彼が判断したからだ。

 

この技は、殺しは行いたくない、しかし、生きていくために殺しは行わなければならない、という状況に置かれたクロエに対して、師である殺し屋がくれた技だ。

 

別に例の殺し屋は人情深いというわけではない。実際に、クロエを裏の世界から救い出すことはなかったし、クロエに殺しをやめさせることはなかった。それでも、自分の弟子になったのだからと、最低限の贈り物としてこの技を授けたのだ。

 

(懐かしいな……師匠…………って言われるのはあんまり好きじゃないだろうけど……今どうしてるのかな…………)

 

クロエは昔のことを思い出し、物思いに耽るが、しかし、今のクロエはもう既に暗殺者をやっていた頃のクロエではない。

 

殺す必要はない。責任だって、自分一人で取る必要なんてない。

 

クロエは再びナイフを手に取る。

もう同じ手は通用しないだろう。本来殺すことに特化した技は、時間稼ぎには有用ではないのかもしれない。しかし、クロエはもう一人ではない。頼れる仲間がいる。

今はその仲間を、信じよう。

 

「さぁ! 次はどうする!! 小娘よ!!」

 

オニンニクが叫ぶと同時、クロエは駆け出し、再び攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●

 

 

 

 

 

 

「遅いわね」

 

セリカが大剣を振り下ろし、ノエルにダメージを与えようとするが、ノエルの動きについていけない。

 

大剣を振り回しているせいか、セリカの動きは少し鈍くなっている。

それでも尚そこら辺の冒険者と比べれば、セリカの大剣捌きの速さは異常ではあるのだが、それでも大剣を持っていないノエルとはどうしても差が開いてしまうのだ。

 

ただ、セリカの場合、おそらく普通の冒険者相手なら、大剣を使っていても、他の身軽な冒険者より動きは早いだろう。

 

今回は相手がノエル、北の勇者だったため、セリカが遅れをとってしまったというだけなのだ。

 

「さぁ、次は私からいくわよ。北の国の勇者の力、見せてあげるわ!!」

 

基本的に防御しかしてこなかったノエルだが、ここに来て反撃を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ククク、そうだ、潰し合え………」

 

虚空で、髭を生やしたガリガリの老人が言葉を発する。

 

老人は、ノエルの真上にいるが、魔法で姿が見えないようにしているせいか、ノエルが老人の存在に気づいている様子はないように見える。

 

セリカは老人の存在に気づいている、というより、知っている。

 

何故なら、このドルーコ村の人間を洗脳したのは、このガリガリの老人なのだから。

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