TS暗殺者、異世界で冒険する   作:布団から出られない

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闇夜に染まる大空よ、闇に紛れし正義によって、その暗黒を閃光に染め上げよ

「セリカ、どういう……」

 

「それは、私が聞きたいわよ。なんで……なんで魔王軍の、しかも『十拝臣』になんてなってんのよ、ベル……」

 

魔王軍の『十拝臣』。ネクロマンサーの少年は、セリカの弟だった。

昔聞いた話では、セリカの弟は魔族との戦闘で亡くなったと聞いていた。でも、現に目の前に彼は存在している。

 

有り得る可能性としては、彼自身も死体で、操られている。真のネクロマンサーは別の場所に潜伏して、彼が黒幕であるかのように見せかけている、とかか、あるいは本当に、セリカの弟が魔族側に寝返ったとかなのだろうか。

 

合理性を考えれば、ネクロマンサーは本体を叩かれなければ死体の軍勢を操り続けることができるし、潜伏するのが賢明だ。つまり、普通に考えれば、目の前の少年はネクロマンサーに操られた死体ということになるのだろうか。

 

「セリカ、気をつけて。そいつは、セリカの弟じゃない可能性がある。……真の『十拝臣』が、ネクロマンサーが、別の場所に潜んでいる可能性も……」

 

「外野の癖に口を挟むな。僕は今姉さんと話しているんだ。そもそも、僕が偽物だとすれば、姉さんなら気づく。当然だよ。姉さんは素晴らしい人なんだから。姉さんが僕を本物だと認識している時点で、僕がセリカ=アドレイドの弟のベル=アドレイドであるという事実は揺るがない」

 

「クロエ、事実よ。……この子は……こいつは、私の弟……ベルで間違いない……。ネクロマンサーに操られているわけでも、ない。ベルはベルの意志で、魔王軍に寝返って、『十拝臣』として私達の前に立っているわ」

 

それが真実なら、本当に……。

セリカは、実の弟に、刃を向けなければならないということになる。

 

それは……。

 

「セリカ、私……俺が前に出る。セリカは直接戦わなくていいから。もしできそうなら、俺が戦ってる間に話しかけて説得して欲しい」

 

「クロエ………」

 

セリカは、弟のために勇者パーティに加入した。そんな姉が、弟のことを嫌っているはずがない。嫌っていない肉親を、その手で切らなければいけないなんて、そんなの酷だ。だから、セリカにそんなことはさせられない。代わりに、俺が前に出て、ネクロマンサーと戦うしかない。

 

「忘れたのかな。僕はネクロマンサー。死のエキスパートさ。僕自身もそれなりに戦えるけど、本質は……分かるだろう?」

 

少年が指を鳴らす。瞬間、床から這い出るように、ゾンビのような存在が大量に出現する。

 

「死霊さ。無惨にも勇者に斬り殺された、魔王軍のね。ここに君も加わることになる。あー、姉さんは大丈夫。殺しても、こんなむさ苦しい集団と一緒にはしないから。ちゃんと生き返らせて、僕が制御できる状態で飼ってあげるから」

 

「冗談じゃない! ベル。今すぐこんなことやめて。どうして魔族側に加担してるの? 私が憎かったの? ベルを助けられなくて、危険のない平和な屋敷でのうのうと暮らしていたのが許せなかったの? どうして……」

 

「兄さんのことは恨んでいましたよ。長男という理由だけで、アドレイド家の跡継ぎだというだけで、優遇されていましたから。でも、姉さんのことを恨むなんて、とんでもない。姉さんは、僕の全てなんですから」

 

セリカを恨んでいたわけではない。なら、寝返ったのはセリカへの復讐、とかではなさそうだ。でも、仮にセリカへの家族愛が残っているのだとしても、殺して、生き返らせてから飼うなんて、そんなの、家族じゃない。

 

セリカの弟も、まともな精神状態じゃないのだろうか。どちらにせよ、今こいつにセリカへの接触を許すわけにはいかない。

 

「セリカには指一本触らせない。セリカに触れたかったら、この俺を倒してからにしろ!」

 

「俺っ娘? 随分強気だね。勇者と逢引きしていたとはとても思えない」

 

へ?

 

「は? クロエ、逢引きしてたの?」

 

「してないしてない! 逢引きなんてしてない! バルコニーで涼んでたら、優斗も後からやってきたってだけで……」

 

そういえば、優斗とのダンス後にネクロマンサーと接敵したんだった。ってことはつまり、ネクロマンサーに優斗とのダンスを見られていた可能性があるってことで……。な、なんてこった……。あの光景を見られたら、絶対にそうだと思われてる……。困る……。こっちは返事保留にしてるのにぃ…。

 

「何そのシチュエーション? ガッツリラブロマンスしてるじゃない! ほんと、優斗のこと好きになってたなら言いなさいよ! 私はいつでも大歓迎なのに!」

 

「だーかーらー、まだ惚れてない! 優斗には惚れてないから!」

 

「まだ!? まだって言った!? それはつまり……そういうことよね? 優斗に惚れる可能性があると!?」

 

そりゃ返事保留にしてますからね! 絶対に惚れないなんて言ってしまったら、優斗との約束を破ることになっちゃうから言えないの!!

 

「うるせぇ! このツンデレデカパイツインテガールが! 揚げ足取りなんて卑怯だぞ!」

 

「言い返せてない、ってことはやっぱり? というか、クロエもツンデレなんじゃないの〜? 本当は優斗に惚れてるけど、恥ずかしいからツンツンしちゃってるだけなんじゃないの〜?」

 

「違うわい! ちゃんと惚れてないから! まだ恋を知らぬ純情乙女だからぁ!」

 

セリカめ、隙を見せればすぐコレだ。本当に侮れないやつだ。

 

「そうか。君は勇者のことが好きなんだね」

 

「違うけど!? なんでそうなった!?」

 

ちゃんと否定したのにぃ〜!

 

いや本当にちょっと顔近づけられたらん……ってなるくらいで、本当に惚れる惚れないとかそういう段階ですらないんだが……。はぁ……。これ、順調に外堀埋められていってない? いつの間にか勇者の側室その6くらいになってたりしない? 

 

「姉さん、僕達も愛を育もう。彼女と勇者に負けないくらいに、愛を!」

 

「待て待て、愛育んでないから。勇者と愛の言葉交わしたりしてないからね?」

 

「ベル、悪いけど、魔王軍に与するあんたに与える愛はないわ。私の愛が欲しいなら、こっち側に来ることね」

 

「……やはり、姉さんには僕の愛は伝わってないみたいだ。僕はこんなにも貴女のことを想っているのに」

 

この弟、中々に湿度が高い。シスコン拗らせてる感半端ない。そんなにも姉のことが好きなら、どうして魔王軍に入って、姉と道を違えることになったのか。

 

「本当にセリカのことを思うなら、大人しく引いてほしい。セリカは、人間として、精一杯今を生きてる。魔族になるつもりもなければ、魔王軍に味方する気もない」

 

「……そうだ。周りはいつもいつも、僕に我慢を強いる。………僕はもう、ずっと我慢してきたんだ。僕が耐えれば、周りは幸せだから。僕さえ我慢すれば。僕が、僕が僕が僕が僕が……。そうやって、僕はずっと我慢してきた。でも、僕に待ってたものはなんだ? 僕は魔族に殺されかけた。死にかけたんだ。いや、一度死んだのかもしれない。僕に待ってたのは、そんなくだらない結末だった。我慢しても、僕が望むものは手に入らなかった! もう我慢なんてしてやるもんか! 僕は僕の気持ちに従う。誰にも僕を止めさせやしない」

 

「ベル………」

 

「姉さん、僕が本当に欲しいのは、家族愛なんかじゃない。それはもう、姉さんからたくさんもらった。今、僕が欲しいのは、姉さんだ。姉さん自身。姉さんからの愛全てだ。僕にとって世界の中心は姉さんで、僕にとって世界とは姉さんなんだ。誰にも邪魔はさせない。僕の邪魔をするというのなら、誰であろうと殺して、この死体の軍勢の仲間にしてやる」

 

似ている。

さっき戦っていたセツナと、似ている。

 

特定の相手に依存していて、それ以外が見えていない。ある意味、閉じた世界にいる状態だ。

 

まともな状態ではない。どこか、歯車がおかしくなってしまっている状態。

 

そんな状態で抱いた欲望を叶えたところで、彼は本当に幸せになれるのだろうか。

 

いや、なれはしないだろう。

対話をしようにも、彼は既に魔族側へとその身をおとしている。

魔族と人間。2つの対立がある限り、彼との対話は意味をなさない。不可能だ。

 

………セツナを救うにも、この子を救うにも、今の世界じゃ、足りないものが多いみたいだ。

 

「セリカ、大丈夫。俺が守るから」

 

「クロエ、なんだか頼もしくなったわね。吹っ切れたから?」

 

「かもね」

 

俺は短剣を構える。相手の実力は未知数。

少なくとも、エレナさんとアンジェ2人を相手にして、勝利できるだけの実力はある。

 

上限は見えない。死体の軍勢もいる。

やれるか、俺1人で。

 

死体の軍勢がやってくる。

俺の隠密スキルも、死体には効かないみたいだ。

 

やばいなこれ。終わったかもしれん。

 

なんて、少し焦りながら、俺は短剣を振おうと……。

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラと、天井が崩れ落ちる。

目の前にいた、死体の軍勢が、天井から落下していく瓦礫によって、押しつぶされていく。

 

「セリカ!」

 

「大丈夫よ! 私の力なら…!」

 

セリカはその手に持つ大剣を振るい、周囲の瓦礫を振り払う。

 

……なんて腕力してるんだ。

 

というか、一体何が起きた? 今この場で、どうして天井が崩れ落ちた?

 

なぜ……。

 

「が……はっ……」

 

周囲を見渡すと、そこには、血まみれになりながら、床に叩きつけられている、優斗の姿があった。

 

「優斗!!」

 

俺は急いで優斗の元へと駆け寄る。

 

「クロエ……に……げ……」

 

「ふん。たわいない。人間など、所詮はその程度のものよ。儂にかかれば、勇者といえどもこのザマよ」

 

上空に浮かぶ黒龍。

カカエねえさんが倒れていた時から嫌な予感はしていたが、まさか……、優斗が破れてしまうなんて。

 

「そうだ、皆は!?」

 

皆床に倒れ伏していた。そんな状態で、瓦礫の崩落に対処できるとは思わない。つい心配で、周囲を見渡してみる。すると。

 

「あれ?」

 

不自然なくらいに、皆の周囲には瓦礫は落ちてきていなかった。まるで、何者かが守ってくれたみたいだった。

 

「もしかして……」

 

カカエねえさんの方を見る。

さっき倒れていた姿勢と、微妙に異なる姿勢になっている。

 

カカエねえさんが、なけなしの力を振り絞って、皆を守ってくれていたんだろう。

勇者パーティが大好きな彼女らしいな、なんて、そんなことを呑気に考えつつも、絶望的なこの状況をどう打開するべきか、頭を巡らせる。

 

相手はネクロマンサー、死者の軍勢は、先程の崩落で大量に処理できた、けど未だに残っているのもいる。

加えて、優斗でも勝てなかった黒いドラゴン。四天王でもある彼を、どう対処すればいいのか。

 

こちらの戦力は、セリカと俺……。

 

一応トイレ中のマコ。というかマコはこんな時に何をやってるんだ。皆がピンチなのに。

 

「クロエ、これ、正直無理よ。今の私達じゃ、この状況を覆すのは………」

 

「わかってる、けど……」

 

諦めたくはない。

もう、絶望なんてごめんだ。

 

せっかく、せっかく立ち直って、勇者パーティの一員として、再スタートを切れたんだ。こんなところで、終わってたまるもんか。

 

「まだ立つんだ? もうとっくに勝敗は決しているっていうのに。北の勇者も南の勇者も、来ないよ? 残念だけど、彼女らの警戒は常にしているんだ。今の戦力差をひっくり返せる存在なんて、この世にいない」

 

ノエルは来てくれない。南の勇者のユリウスも、この場にはいない。

分かってる。南の国や北の国から西の国に一瞬で来れるだけの技術なんて、この世界には存在しない。

 

………師匠なら、こんな状況でも、どうにかしてたんだろうな。なんていったって、世界一の暗殺者なんだから。

 

でも、師匠はもういない。どこにいるのか、皆目見当もつかないし、きっともう、出会うこともないんだろう。

 

だから、俺が、俺が師匠と同じことをするしかない。

師匠ならどうする? こんな絶望的な状況で、彼ならどう解決する?

 

考えろ、考えろ! このままじゃ皆死ぬ。俺を受け入れてくれた皆が。

大好きな勇者パーティが、全滅する!

 

そんなの、あってたまるか! 

そんなこと、絶対に許しちゃダメなんだ。考えろ、かんがえろ!!

 

 

 

 

 

「不愉快だ。不在の間に、このような仕打ち。到底許されるべき行為ではない」

 

思考を巡らせ続ける俺に、冷水を浴びせるかのように、突如、背後からやってきた、たった1人の声が、俺の耳を支配する。

セリカの声ではない。その人物は、ついさっきこの場にやってきたのだから。

 

「なんだ、まだ人がいたのか、でも、無駄だよ。勇者でもない君に、この戦力差を覆すことなんて」

 

「…!? よせ! 余計な口を出すなベル坊!」

 

俺の背後にいる人物を見て、黒き竜は焦ったような声を出す。その様子に、ネクロマンサーの少年もただ事ではないと、死者の軍勢を動かし、その全てを持って、目の前の存在を排除しようとする。が……。

 

「この程度、なんということはない!!」

 

一瞬にして、死者の軍勢は消しとばされる。

 

「な、なんなんだ…! 僕の死者たちが、こんな一瞬で………!?」

 

「絶対に許さない。謝罪文か反省文を要求する。1000000文字くらいは最低でも書いてもらう。それくらいしないと割に合わない」

 

「まさか、こんなことが……」

 

ネクロマンサーの少年は、目の前の光景を現実だと受け止める事ができないでいた。

無理もない。勇者は倒れている。勇者パーティで立っているのはたったの2人。

そんな状況で、後からこの場に参戦したぽっと出の奴が、戦況を覆すことになるなんて、誰が予想できただろうか。

 

「勇者以外にこの状況を覆せるはずがない? なら教えてやる。私は勇者。白夜の勇者、マコだ。勇者が必要なら、私が勇者になってやる。私の友達を……親友達を傷つけたこと、決して許しはしない。覚悟しろ!!」

 

「マ……コ……」

 

「待たせてごめん。私がトイレに行ってる間に、こんなことになっているとは……」

 

「大丈夫、だけど、それよりマコ、その力は…?」

 

死者の軍勢を一瞬にして消し飛ばした。マコの闇魔法を普段から観察していたが、そんなことができるような代物じゃあなかったはずだ。

 

「キングさん、こいつは、こいつは一体何者なんですか!? 勇者でもないくせに、一瞬で……」

 

「儂らにとっては、ある意味勇者よりも恐ろしい存在だ。彼女に逆らってはいけない。彼女に逆らうことは、すなわち死を意味する。なぜなら彼女は………」

 

四天王が、マコのことを知っている?

一体、何者なんだ? 

マコは、本当に白夜の勇者だったのか?

本当に胸の中に白虎飼ってたのか?

 

様々な疑問が駆け巡る。果たして、黒き竜の答えは、一体何なのか……。

耳を凝らして聴く。

 

「彼女は……儂らにとってのトップ、魔王様の………」

 

魔王様の?

 

「娘だ」

 

え、白虎は?




魔王の娘→魔王の子→魔の子→魔子→マコ
名前の由来これ。
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