TS暗殺者、異世界で冒険する   作:布団から出られない

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BLと精神的BLは別物である(真理)

北の国イームサにある喫茶店true×loves 。略してTS喫茶と呼ばれる喫茶は今日も賑わっていた。

元々若い男女に人気のお洒落な喫茶店で賑わっていたのだが、最近は冒険者(というよりどちらかというと勇者)の活躍が凄まじく、街自体が発展していっているのだ。

最近は若者だけでなく、老夫婦などにも人気の喫茶店になっている。

 

そしてクロエはその喫茶店で待ち合わせをしていた。

基本的に東の国から北の国へ行くのにはそれなりに時間がかかるのだが、これまた勇者の活躍によって高速移動できる魔法が発明され、現在は魔動車と呼ばれる特別な乗り物に乗ることによって、一瞬で国家間の移動が可能になっている。

まあもちろん乗るのにはそれなりに値段がかかるが、クロエはこれでも結構稼いでいる方の冒険者である。大金持ちとまではいかないが、小金持ちを名乗ってもいいくらいには稼いでいた。

 

「久しぶり、クロエ。元気してた?」

 

「久しぶりノエル。元気してるよ。なぜか勇者パーティに入ることになったんだけど…」

 

クロエと言葉を交わすのは、ノエル=エヴェリーナという少女だ。

彼女は北の勇者と呼ばれていて、呼び名の通り北の国イームサの勇者だ。

容姿は銀髪に金のメッシュが入った髪に、スレンダーで筋肉質でもある肉体が特徴的な超美少女だ。

ちなみに先日のユリウスもそうなのだが、ノエルはこの世界出身の人間ではない。

優斗と同様に他の世界から召喚された勇者だ。

といっても優斗と同じように地球の、それも日本から召喚されたわけではなく、それぞれが違う世界から召喚された勇者なのだが。

 

「本当? 夜寝れてる?」

 

ちなみにノエルはクロエの前世について話してある。

後、この世界に生まれたときの境遇も。ノエルにはソロの冒険者として活動していた時、北の国での任務では毎回一緒に臨時パーティを組んで依頼をこなしていたため、結構仲はいいのだ。

 

「うん。最近は大丈夫。というか勇者パーティ入ったことについては特になんの反応もなしなの?」

 

「優斗から聞いてたからさ。私はクロエとならパーティ組んでもいいかなって思ってたんだけど、先越されちゃったね」

 

いつの間に優斗と連絡を取っていたのだろうか。最近優斗が北の国へ出かけた様子はなかったから、多分直接会いに行ったのではなく、魔伝導機器を使ったのだろう。魔伝導機器は遠く離れている相手と通話することができる機器だ。前世の世界でいう携帯電話みたいなものだ。もちろんこれも勇者の活躍によって作られたものである。例に漏れず高価ではあるが、ノエルは北の勇者だ。稼いでいるだろうし魔伝導機器を持っていてもおかしくはない。

 

「そうだったんだ。絶対にパーティは組まないって言ってたのに意外だね」

 

「いや別に絶対組まないってわけじゃなくてさ。まず男はダメでしょ?」

 

「一応俺男だよ?」

 

「今は女の子じゃない」

 

「そうだけど、って優斗はいいの?」

 

「んー優斗のことは男の人って感じで見てないからね。尊敬はしてるけど。ていうかいつの間に名前呼びになったの? もしかして関係深まっちゃった?」

 

「そんなんじゃないよ。俺元男だし。」

 

普段は一人称を私にしているが、ノエルの前ではクロエの一人称は俺である。

この世界にTS転生したときはショッキングな出来事があったため前世の記憶に蓋がされているような状態だったが、ノエルと言葉を交わしているうちに段々と前世の記憶を思い出してきたのだ。

まあその勢いでノエルには元男であることを伝えているわけだが、ノエルには男として見られていなさそうだ。

 

 

 

そうしてしばらく何気ない会話を続けていたのだが、突如ノエルがこう尋ねてきた。

 

「あ、そういえばメス堕ちはしちゃったの?」

 

ブフォっとクロエは思わず吹き出す。

 

「してないしてない! 大体俺は男も女も好きになれないし」

 

自身の性自認が曖昧なせいか、クロエには男女問わず恋愛ができる気がしなかった。

もちろん今世では色々と今の自分は女だと実感することが多くかった。

ちなみに例の日もきた。その、あれだ、まあ、そういう日はノエルに手伝ってもらった。

意外とショックは受けなかった。びっくりはしたけど。

まあなんかまだ軽い方らしいし。いや、普通に辛かったけども。

 

「ふーん。ハーレムパーティ入りしたのにまだメス堕ちしてないの?」

 

「なんでハーレムパーティ入りしたらメス堕ちしなきゃいけないみたいな言い方されなきゃいけないの?」

 

ノエルはどうやら前世(?)でTSモノの作品を読み漁っていたらしく、なんでも元々BLが好きだったそうだが、その過程で精神的BLというジャンルを知り、TSモノに心を惹かれたらしい。

 

そういうわけで、ノエルとの仲はいいのだが、そういう関連の話になると絶対にクロエにメス堕ちを期待してくるので、クロエは正直煩わしいと思っていた節もある。

というか結構深刻な表情で、「前世男だったんだ」って言ったら指差しながら「TS娘だ!!」って叫んできたの未だに覚えてるからな。

ちなみに言語が違うのでは? という話だが、まあ勇者特典というやつで普通に会話ができるようになるらしい。

 

「メス堕ちさせるにはどうすればいいかな?」

 

「それはメス堕ちさせたい相手に聞く質問じゃないね」

 

「別に私がメス堕ちさせるわけじゃないし?」

 

「じゃあなんでそんな質問するんだよ…‥」

 

どうしてノエルはこうもメス堕ちさせたがるのか、コレガワカラナイ。

てかTSモノじゃなくてBL読めよ。なんでTSモノに手出したんだよ。

 

「BLもいいけどさ、TSモノってやっぱりファンタジーって感じじゃない?

そこがいいのよ。BLもBLでいいんだけど、BLモノ読んでたとき、知り合いの男の子同士の子を見て、脳内で勝手にカップリングさせちゃったりしたことがあったんだけど、その時に私ナニヤッテンダーって感じで彼らに罪悪感が湧いたんだけど、TSだったらそれ、基本当てはまらないじゃない? だって性自認が女だからっていう理由で体が男から女になるっていうのは、心の性別は女なわけだし、実際にTS娘みたいな状況の人はいないでしょ? だからいいの」

 

オタク特有の早口でノエルがペラペラと語る。

ていうかこの話10回目くらいだし、聞くたびに貴女の目の前にいるの、TS娘ですが何か? って言いたくなる。それにノエルのいかにも美少女って感じの容姿でこれ言うの、ちょっと知らない人が聞いたら幻滅されるというか、美人が台無しというか。

後、ナチュラルに心読んでくるな。

 

「ていうか、その知り合いの男の子達を脳内でカップリングさせたことには罪悪感感じてるのに俺を優斗とカップリングさせようとしてることに罪悪感湧かないわけ?」

 

「それとこれとはまた別じゃない。クロエのはカップリングっていうか恋バナ的な感じで話してるつもりだし」

 

「そんなに恋バナしたいなら自分の恋愛進めればいいのに」

 

「あー無理。私男の人苦手なんだよね」

 

「俺元男だけど…?」

 

「それ前世の話でしょ。今女の子だしノープロブレム」

 

本当に不思議だ。何故BL好きなのに男が苦手なのか。

あれだろうか、神聖な男同士の恋愛に女が挟まってはいけない! とかそんな感じなんだろうか。いや違うな。だったらTSモノなんて読まないしそもそもこんなにメス堕ちさせようとしてこない。

 

「あっそうだ!」

 

「え、なに?」

 

「クロエ、私と話す時、一人称“俺”じゃなくて”私“にしてくれない?」

 

メス堕ちの話の続きを話しているようだ。

 

「えーやだよ」

 

「“あたい”とかでもいいわよ」

 

「もっとやだ」

 

突然名案を思いついた! みたいな顔をしだしたから何事かと思ったのだが……そんなことで閃いた! みたいな顔をしないでいただきたい。いや本当に。

 

「なんで〜? いいじゃん普段”私“って言ってるんだし」

 

「普段はね。でも一人称“俺”にできるの、ノエルの前だけなんだよね。だから、ノエルの前でだけは“俺”でいさせてほしい」

 

クロエがそう言うと何故かノエルがグハッ! と奇声を上げた。どしたん?

 

「どしたん?」

 

声に出すつもりがなかったのだが、驚きすぎて普通に声に出た。

 

「いや…ふいうちっていうか…………急なデレ要素に心を打たれちゃって…」

 

「まあ、ノエルのことは大切な友達だと思ってるから、その…ね」

 

「おいうち……だと……!?」

 

もうやめて! ノエルのライフはもう0よ!

 

「あーこんなこと言われたらときめいちゃうよ〜」

 

「ノエルって女の子もいけるの?」

 

「……………………いけるかも」

 

なんだ今の間

 

「ちょ、ちょっと待って、あの、その、わたくしはそういう趣味はございませんわよ?」

 

「待ってクロエ! 別にないから! そういうのないから!」

 

「だだだ大丈夫ですわ……」

 

「全然大丈夫じゃないじゃん! 動揺してるよ声!? 動揺しすぎてお嬢様口調になってるよ!?」

 

「だ、大丈夫。お、落ち着いたから……」

 

「待って本当に違う! 違うからね!?」

 

「じゃああの妙な間はなんだったの…?」

 

「…………………………」

 

「え? ちょっと何か言ってよ! え? 本当なの? 本当に女の子もイケゃうかんじなの!?」

 

「どうなんだろう……」

 

「え…?」

 

「………いや〜なんか、優斗のパーティメンバーのエレナちゃんとかならワンチャン……」

 

「あ、そう……」

 

ガチなんだ……とクロエは戦慄したが、エレナとクロエではタイプが違う。ということはクロエはノエルの守備範囲外だろうし、とりあえず身は安全そうだ。

 

「あっ、でもマコちゃんもイケるかも……?」

 

前言撤回。

 

「ちょ、俺は食べても美味しくないよー!」

 

「大丈夫だから! クロエは友達だから!! そういうのじゃないから!!」

 

「そ、そうだよね! 友達だもんね! そういうのじゃないよね!」

 

「うんうん! そう! 友達! マイベストフレンド!」

 

ふぅ。とりあえず貞操の危機は免れたか。

 

「まあでもTS娘は性癖に刺さるわね……」

 

「ノエルさん!?」

 

「あ、待って! 待って! 本当に違う! 違うから! ねえ後退りしないで! 本当にそういうのじゃないからー!」

 

クロエとノエルの攻防はしばらく続いた。

 

 

 

 




その頃の勇者パーティ

「へくちっ」

「あれ? エレナさん風邪?」

「エレナ、あまり無理しないようにね」

「あ、はい。優斗さん…その心配してくれて…その…あ、あり………あり………」

「アリーヴェデルチっ。う、くしゃみが…」

「ありーゔぇでるち……?」

「ま、マコちゃんのくしゃみ独特だね……」
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