TS暗殺者、異世界で冒険する   作:布団から出られない

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運動不足は身を滅ぼす

 

「ノ……エル……?」

 

おかしくなってしまったアンジェ達に捕まえられてしまったクロエは現在危機的状況に陥っていた。

 

(他の3人ならまだしも、流石にノエルから逃げるのは難しい……)

 

クロエは元々暗殺者だ。

だからこそ、気配を消すのに長けているし、隠密行動も得意だ。

一度アンジェ達から離れることができれば、確実に逃げることができるだろう。

 

それも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()の話だが。

もちろん勇者にも強さには違いがある。

例えば西の国の勇者であるアルトは、努力をせずに女の尻ばかり追いかけているせいか、他の勇者と比べると少し弱い。

しかしそれでも尚、規格外の強さを持つのが勇者だ。

 

努力をあまりしていないアルトであっても、クロエは勝つことができないだろう。

ましてや、努力家であるノエルとまともに戦うことなど不可能である。

そもそも、元暗殺者だという特性上、クロエは正面からの真っ向勝負に強いわけではない。

 

基本的には毒殺や闇討ちなどで相手の息の根を止めるのを得意とするのが暗殺者だ。

冒険者となった今でも、その頃の名残なのか、基本的な戦闘スタイルは不意打ちや騙し討ちだったりする。

 

ノエルが近づいてくる。

これからクロエもマコやエレナのような筋肉愛好家に変えられてしまうのだろうか。

 

ノエルがクロエのすぐそばまで近づいてきた。

手を振り上げて、そのままうなじにかけて………

 

ストンっと手刀を振り落とした。

 

 

 

 

 

 

14歳の少女が気絶する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、逃げましょうか」

 

そう。気絶させられたのはクロエではない。アンジェだ。

ノエルはアンジェを気絶させた後、クロエの手を引き走り出す。

セリカとカカエは一瞬驚いたような顔を見せたが、直ぐにクロエ達の追跡を開始する。

 

「ノ、ノエル!? 今、ど、どういう状況!?」

 

「落ち着いてクロエ、とりあえず話は一旦あの2人を撒いてからね」

 

そう言うノエルの姿は普段の腐りっぷりからは想像できないほどに頼もしかった。

 

 

◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●

 

 

「とりあえずあの2人は撒けたわね」

 

「あのーノエルさんや、状況を……」

 

ノエルの超人的な身体能力のおかげでセリカとカカエを撒くことができたのだが、正直状況が全く掴めない。

 

「あーそれね。どうやらこの村、魔王軍に目を付けられたみたい」

 

「それと筋肉に何の関係が……」

 

「さぁね。正直分かんないけど、村の人達は皆ダンベル持ったりプロテイン持ったりするのが当たり前って感じになってたから、とりあえず私もダンベル持ってたってだけ。ただ、今わかるのは村にいる人が今日からなぜか全員が筋肉に対してこだわりをもつように洗脳されたってこと」

 

「意味わからん…‥」

 

「私も意味分かんないわよ。急に筋肉だー筋肉だー言われても……ねぇ」

 

「優斗はどうなんだろ……」

 

「勇者の力を持っていれば、洗脳されることはないから、多分優斗は大丈夫だと思うよ。あっ! もしかして……愛しの優斗君を心配してるのかな?」

 

「別に好きじゃないってば……」

 

正直クロエはこの状況に辟易としていたのだが、ノエルはそうではないようだ。

いつも通り軽口を叩く余裕があるらしい。

勇者だからだろうか。

 

「うーん。多分この規模の洗脳なら幹部クラスが1人出てきてる可能性があるのよね。『十拝臣』の1人くらいは来ててもおかしくないわね」

 

『十拝臣』とは魔王軍の将軍の中でも魔王が特に気にかけている10人の将軍の事だ。

魔王軍の四天王とはまた別の扱いであり、強さに関してはまばらで、一番弱い『十拝臣』から一番強い『十拝臣』までの差はかなり開いている。

 

「『十拝臣』ってどれくらい強いの?」

 

「さぁ? 私は戦ったことないもの。あっでも優斗はもう既に3人撃破してるらしいわよ。まあ、また新たに補充されてる可能性はあるけどね」

 

「やっぱり優斗って強いんだなぁ。ていうか幹部クラスを3人も撃破できるくらい勇者って強いのに、それが4人もいるってかなり鬼畜じゃない?」

 

「魔王軍からしたらたまったもんじゃないわよね〜。まあこっちも魔王軍の戦力がわからないわけだし、仕方ないわよ。もしかしたら『十拝臣』が実はただの使い捨ての駒だったって展開もありえるかもしれないじゃない?」

 

実際人類側も魔王軍の戦力を把握しきれてはいないのだ。

お互いに探り合いながら戦っている。

諜報員なども送ることはある。

だが、種族が違うのだ。完全に向こう側に溶け込むことはほぼ不可能と言っていいだろう。それは向こうも同じだ。

 

仮に変身の魔法を使っていたとしても、魔法を使っていることはわかるため、確実にバレない保証はない。

さらには人類側には4つの国がある。

それらの国を同時に諜報しようとするのは中々難しいから、向こうから諜報員が送られてくることは滅多にない。

 

「無駄話しすぎたわね。とりあえず、元凶を探して叩けば洗脳も解けると思うわ。私はなるべく表に出て暴れまくるから、クロエ、貴方は裏から探りをいれて」

 

「わかった。ノエル、気をつけて」

 

クロエの言葉にノエルはサムズアップで返す。

その合図と同時、ノエルとクロエはそれぞれの役割を果たすために駆けていった。

 

◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●

 

アルト、優斗の二人が攻撃を繰り返すが、オニンニクは二人の攻撃を一切避けない。

 

全てを自慢の筋肉で受けているのだ。

 

「クソっ! なんなんだこいつ! 強すぎる!」

 

「アルト! 俺1人じゃ無理だ! 合わせてくれ!」

 

「うるせぇ! 俺に指示すんなハーレム勇者!」

 

「ガッハッハ! お主ら勇者同士じゃろう? 仲良うせんか!」

 

優斗とアルトの二人のコンビはバラバラで上手く連携できていない。

だからこそ、優斗はアルトに合わせるように言ったのだが、アルトは聞く耳持たず、がむしゃらにオニンニクに特攻している。

 

「アルト!」

 

「ちっ! 分かったよ!」

 

流石のアルトもこのままではまずいと悟ったのか、優斗のタイミングに合わせるように攻撃し始める。

 

だが、オニンニクには一切攻撃が通っていない。

確かに二人はタイミングを合わせてはいる。

 

しかし、普段から仲がいいわけではない二人の連携攻撃の威力はそこまで大したものにはならないのだ。

 

「ふんっ! 勇者も所詮はこの程度か…! 『十拝臣』が3人もやられていると聞いて少し期待していたのだが……残念だ」

 

「クッソ! 硬ってぇ!」

 

アルトがオニンニクに突撃していくが、その剣はオニンニクの筋肉に弾かれる。

アルトの剣を見てみると、かなり刃毀れしているし、なんなら先のほうはヒビまで入っている。これ以上の戦闘は厳しそうなほどだ。

 

(いくら四天王とはいえ、硬すぎやしないか…?)

 

流石の優斗も、あまりのオニンニクの筋肉の硬さに、思わず困惑してしまう。

 

今までも『十拝臣』や他の強力な魔族と戦闘したことがあるのだが、その中には筋肉自慢の魔族もいた。

 

その魔族はかなり筋肉に自信を持っていたため、魔族の中でも特に筋肉を持っていたものだったのだろう。

 

しかし、優斗はその魔族を難なく撃破できたのだ。

その時周りの魔族は明らかに動揺していたし、おそらく筋肉自慢な魔族であったことは間違いないだろう。

 

だからこそ困惑する。

その例の魔族と比べても、明らかに筋肉の硬さが異常なのだ。

 

「何でこいつこんな硬いんだ……? これじゃあノエルちゃんがいても勝てなさそうだ……」

 

「そういえばノエルも来ているんだったか……」

 

「あぁそうだよ。この目の前の筋肉達磨さえいなければ今頃俺はノエルちゃんと………」

 

「アルト、ここは俺が引き止める。とりあえず、ノエルを探して来てくれないか?」

 

「言っておくが、ノエルちゃんが来てもあいつは倒せないと思うぞ」

 

「いや、こいつの相手は俺一人でいい」

 

「は? お前大丈夫か? 頭が」

 

流石のアルトも、とうとう気でも狂ってしまったのかと少し心配になる。

これは実は彼なりに心配しているのだ。

 

今の状況、アルトと優斗の2人がかりでもオニンニクに攻撃が一切通用しない。

ノエルを呼ぶのもとりあえず戦力を増やすためかと思っていたのだが、優斗はオニンニクを一人で相手するつもりのようだった。

 

いくらなんでも無謀すぎると、アルトは思う。

しかし、どうやら優斗にも考えがあるようだった。

 

「多分だけど、こいつの筋肉の硬さには何かしら理由がある」

 

「理由? 筋トレしてるから?」

 

「ああ。いくらなんでもこいつの硬さはおかしい。魔法か何かで強化されているんだと思う。だから、ノエルと一緒に原因を探ってくれ」

 

「お前、一人でいけるのか?」

 

「心配してくれるのか?」

 

「いーや。お前が負ければ次は俺だから、それが嫌だってだけだ。だから、さっさとノエルちゃんと筋肉達磨の筋肉強化の原因見つけて、サクッと解決してくるよ」

 

「頼んだ」

 

アルトは特に返事はせず、その場から急いで走り去っていく。

意外にもオニンニクはアルトを追うことはなかった。

 

「ガッハッハ! お主一人でワシの相手をするのかえ?」

 

「ああ、お前の相手は俺だけで十分だ!」

 

四天王との一騎打ちが、始まる。

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