TS暗殺者、異世界で冒険する   作:布団から出られない

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WANT MUSCLE

「アルト、無事だったんだね」

 

「クロエこそ、無事でよかった」

 

「状況は?」

 

「四天王のオニンニクってやつと、ハーレムクソ勇者が戦ってる。はっきり言って憎たらしいあいつでも勝てそうにないくらいの強敵だ」

 

「優斗は大丈夫なの?」

 

「いや…………あの四天王の強さは異常だ。あまり長くは持たないと思う。けど多分、あいつの力には何か秘密がある。俺はそれを探しにいくつもりだ」

 

「分かった。俺は優斗の援護に行ってくる」

 

アルトとクロエはお互いの拳を合わせ、互いの健闘を祈り合う。

両者はそれぞれの戦場へと、足を運ばせるのであった。

 

 

 

◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●

 

 

少し金の髪が混じった銀髪を持つ少女が、赤髪の大剣を持つ少女と交戦していた。

片方は北の勇者、ノエル=エヴェリーナ。もう片方は勇者パーティの一員であるセリカ=アドレイドだ。

 

「このっ!」

 

セリカの戦い方は少々荒々しく、細い腕ながら大剣を両手、あるいは片手で振り回している。元々セリカは大剣使いであったため、この光景はなんら不思議ではないはずなのだが、普段の彼女は大剣を片手で振り回し続けることはできない。そのことから、彼女の筋力が異常に発達していることがわかる。

 

ただ、その程度では勇者であるノエルには敵わない。それほど勇者という存在は規格外なのだ。本来ならば、このままセリカは勇者であるノエルに敗れていただろう。

 

しかし、彼女は一人ではない。まず、セリカが大剣を振り回し続けることができるのは、後方にいる聖女ことエレナ=セレナーデがセリカの疲労を回復し続けているためだ。それに加え、セリカに攻撃を加えようとすると、カカエがすかさず高火力の魔法弾をノエルへと放つのだ。

 

「別にやられはしないけど、このままじゃこの三人を倒せそうにないわね……」

 

「筋肉の素晴らしさがわからないだなんて、あんたおかしいんじゃないの?」

 

「流石は勇者パーティの一員といったところね………さて、この状況どうしようかしら」

 

「ちょっと! 無視しないでよ!」

 

「大剣振り回してるだけの脳筋バカはともかく、後方から魔法を撃ってくるパープルガールが厄介ね……」

 

「カッチーン! 誰がバカですって!? 頭にきたわ! 決めた。あんたは私が倒すから!」

 

「あっ! あんなところに『飲むと世界一の筋肉が手に入るプロテイン』があるわ!」

 

もちろん嘘である。

 

「えっ? どこどこ?」

 

「まさか引っかかるなんて………やっぱり脳筋バカじゃない」

 

「はぁ!? 騙したわね………? もう許さないわ!! そのふざけた態度! 絶対改めさせてやるんだから!! カカエ! エレナ! 援護頼むわy…………ってあれ? 二人ともどこに………」

 

「二人なら『飲むと世界一の筋肉が手に入るプロテイン』を手に入れに私が指差した方へ行ったわよ」

 

「嘘でしょ!?」

 

『飲むと世界一の筋肉が手に入るプロテイン』なんて馬鹿げたものが存在するわけがないし、第一そんなものがあったとして世界一がどの程度のものなのかなど一切わからない。ただ、セリカ達は今や筋肉バカと化している。

 

別に筋肉にこだわる=バカというわけではない。むしろ、筋肉を極めるためには多少頭で考えながら体作りをしていく必要がある。ただのバカでは、良い筋肉は手に入れることは難しいだろう。

 

しかし、セリカ達の筋肉への執着は元々あったわけではなく、洗脳など、何かしらの手段をとって後付けされたものだ。そこに筋肉に対する知識など存在しないし、それなのに筋肉は欲しようとする。となるとどうなるか、筋肉に関する話題に対して、なぜかポンコツになってしまうのだ。

 

「さて、一騎討ちといきましょうか」

 

 

 

 

 

 

◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●

 

 

 

 

 

「………そろそろ、厳しいな……」

 

「ハッハッハ! それはそうだろう。なんせワシには筋力大幅強化の術がかけられとるからなぁ」

 

優斗とオニンニクは、拮抗しながらも、剣と拳を互いにぶつけ合っていた。しかし、優斗の方は着実に体力を減らされ続けていた。今はかろうじて均衡を保てているが、いつこの状況が崩れてもおかしくはない。

正直、オニンニクが馬鹿正直な力比べに乗ってくれたのは助かった。変にこの押し合いをやめて搦手を使いながら戦いを挑まれた場合、優斗はすぐにでも倒されてしまうだろうからだ。

 

「頼むっ! もう少しもってくれ!」

 

「……並の勇者であればとっくにワシにやられていただろうが、貴様、中々骨があるなぁ。まあ、もうそろそろ限界だろう? 諦めてもいいんだぞ?」

 

「アルトがなんとかしてくれるまで、俺は耐え続ける! 諦めるわけにはいかない!」

 

「中々強い意志を持っているようだが、気づいていないのか? 貴様、もう既に力が弱まってきているぞ?」

 

オニンニクの言う通り、優斗にオニンニクの拳を押し返せるほどの力は残っておらず、かろうじて今の状態を保てているのが現状だ。そして、もう既に優斗の方は押されはじめていた。

 

(クソっ……ダメだ………もうもたない……!)

 

優斗の手から、剣が滑り落ちていく、そのまま流れるように優斗はオニンニクの拳をくらい、村の家屋を破壊しながら地面へすっ転んでいく。

 

「さらばだ、若き勇者よ」

 

オニンニクが拳を振り上げる。ここで優斗を殺すつもりなのだろう。

優斗は先程のダメージからか、その場から動くことができない。オニンニクの拳に凄まじいパワーが込められているのがわかる。この拳が振り下ろされれば、優斗は見るも無惨な姿へと形を変えてしまうだろう。

 

 

しかし、優斗に拳が振り下ろされることはなかった。

 

 

カキィンッ!と、何か金属がぶつかり合うような音が、この場を支配する。

 

 

 

しかし、優斗に拳が振り下ろされることはなかった。オニンニクの拳に、小さなナイフが衝突したのだ。

ナイフの飛んできた方向へと目を向ける優斗とオニンニク。

 

「クロエ…………」

 

「ハッハッハ! 仲間か!」

 

「逃げろクロエ! こいつには敵わない!!」

 

勇者である優斗でも力負けしたのだ。クロエ一人で対処できるような生易しい相手ではない。優斗はクロエを逃す時間を作るために再び剣を取ろうとするが、まだダメージが抜けきっていないせいか、立つことすらままならない。思ったよりも体力を消耗してしまっていたようだ。

 

「大丈夫。伊達に暗殺者やってないから」

 

優斗の不安に対して、クロエはドヤ顔でそう答える。勇者である優斗までもが負けたというオニンニクに対しても、一切臆することなく、まるで腕試しだとでもいうかのように不敵な笑みを浮かべている。

 

「四天王であるこのワシに勝つというのか? 面白い。来い!!」

 

恐れ知らずなクロエの様子に、オニンニクの口角も自然と上がっていく。

勇者と四天王の戦いは幕を閉じ、暗殺者と四天王の戦いが始まった。

 

 

 

◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●

 

 

 

「----! -------!」

 

「--------------------、-------------------------」

 

(何喋ってるのかわかんねぇな)

 

アルトはクロエと別れた後、ノエルとセリカが戦闘している場所に到着していた。だが、アルトは戦闘に加勢をしていない。この場はノエルに任せるぜ! とか、そういうわけではない。アルトはノエルに加勢するつもりでいる。ではなぜ、今加勢しにいかないのか、それはーーー

 

(ノエルちゃんがピンチに陥った時に、俺が颯爽と現れ、その場を治める。そうすれば、ノエルちゃんも俺のことをカッコいいって思ってくれるはずだ!)

 

ーーーだいぶ身勝手な理由だった。ノエルのピンチを救うことで、ノエルに対してアピールしようとしているのだ。緊急事態に陥っていても、やはりアルトはアルトだった。

 

「ーー! ーー-----『-------------------』----!」

 

どのタイミングで参戦しようかと、アルトが頭をフル回転させていると、突然ノエルがアルトのいる方向へと指を指す。まさか俺の存在に気づいて!? と困惑するアルトだが、ノエルは別にアルトの存在に気づいていたわけではない。たまたまセリカ達を騙そうとして指差しした先にアルトがいたのだ。

 

そして、それに見事に騙されたカカエとエレナがアルトの方へと向かってくる。

 

(嘘だろ!? なんでバレてんのー!?)

 

アルト自身も勇者であるため、カカエとエレナの相手をすることはそこまで無理な話ではないのだが、しかしそれとは別に、かっこよく登場しようというアルトの目論みは、不運なことに崩れ去ってしまったのだった。

 

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