剣戟魔界都市―ソードマンズ・サンクチュアリ―   作:ひん(再就職)

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ヌルいイチャイチャに流れるような日和ってる奴いる?


PART1 ソードマンズ・サンクチュアリ

東京。

丑三つ。

虫の声。

街頭がポツリと照らす辻。

住宅街の片隅で二人の男が出会った。

 

「やあこんばんは。良い夜だね」

「……ああ」

 

互いに暗く嗤う。

男達は初対面で恋をしていた。

年嵩の男は黒袴の上にロングコート。

若い方はTシャツとデニムに赤染めの派手な羽織。

 

「武蔵一刀流兵法、逆島雪音(さかしま ゆきね)

 

赤い羽織、背の高い方が中性的な声で平坦に名乗る。

左の腰に差した刀は刃渡り三尺。

平均より長く、反りは深い。

無駄な装飾を一切省いた無骨な薩摩拵(さつまこしらえ)

鮫皮の替わりに厚手の牛革を用いる物、目貫を使用しない物が多い。

柄が柄頭に向かって太くなっている。

剣はまだ抜かれない。

鞘に左手を添えて右手の指は鍔に掛ける居合の構え。

腰を落とし、つるりとした女っぽい顔に涼し気な微笑みを浮かべる。

青年は真剣勝負の野試合で流派を明かす不利を敢えて冒した。

蛮勇か。

自信の(あらわ)れか。

 

「ふ、豪気だな。長尾鉄山、推して参る」

 

酔狂をにたりと嗤う男は問いに応えず名を告げる。

相対する男はコートの内で既に抜いていた剣を構えに転じる。

得物は標準的で二尺八寸。

構えは上段。

別名火の構え。

一見する通り体重を乗せ易く、如何にも破壊力に長ける。

幕末に猛威を振るった薩摩示現流が得意とした蜻蛉の構えに類似し、上段から叩き付ける一撃は強力無比。

全体重を使い受け太刀ごと押し斬る剛剣。

殺意を持った数十キロの肉塊が剣の速度で直上から降って来るのだ。

受けてはならない。

理合(りあい)は明快。

受ければ死ぬ。

 

歳は五十は下らず背も低いが、爪先を浮かせ拇指球にて行う運足や腰の立ち方からして、相当に鍛えられた使い手だ。

今宵は楽しめそうだ。

確信を懐き、草履とスニーカーがアスファルトを同時に蹴る。

円熟した手練れの長尾鉄山は既に相手の間合いを読み終わった。

その若さ故か、非凡ながら浅慮が勝る。

今更居合の構えで剣を隠そうとも遅い。

青年の腰で無警戒に晒されていた刀は鞘の長さからして約三尺。

体格を加味してほぼ完全な精度で把握する。

刀身の三尺と腕の長さ、足腰の駆動を見て当たりを付ける。

間合いを掴めぬ未熟な剣士は死ぬしかない。

今の世の剣士に於いて弱さは罪であり、強さこそが正義なのだ。

脳が灼けるような真剣勝負で勝利を重ねて来た。

得物と腕の長さで不利は有るが、取り回しと経験値は鉄山に大きな分が有る。

居合を誘い出して紙一重で躱し、叩き斬る。

鉄山の作戦はこれに尽きる。

左右に揺さぶりをかけ、静かに間合いを詰めた。

一足一刀の間より更に半歩空けて止まる。

此処(ここ)より先は危険だ。

緊張と初夏の湿度が張り付く。

均衡を破ったのは青年の妙な歩法だった。

ゆらゆらと揺蕩(たゆた)い、不規則に動く。

歩幅・速度・拍子を自在に操り幻惑して間合いを狂わせる独特な運足に鉄山は一瞬だけ戸惑った。

武蔵一刀流兵法の秘伝に指定される高等歩法、夜霞(よがすみ)

羽織の裾が程良く運足を隠す丈にされているのも嫌らしさが見える。

不規則に揺動する間合いと居合の組み合わせは凶悪だ。

しかし、長尾鉄山もさるもの。

初めて見る歩法に経験と直感で対応し、どうにか間合いを外して居合を誘う。

逸った方が負ける。

それを熟知した鉄山は堅実に付かず離れずを保った。

地味だが巧い。

否、巧い故に手札が見えないので地味になるのだ。

 

「へぇ、やるじゃん!」

 

青年はにたりと嗤う。

夜霞を見切る上澄み。

極上の獲物に鼓動が高鳴り唾液が溜まる。

 

「じゃあ……これはどうかな」

 

そして恐るべき《魔剣》が真夜中を奔った。

 

 

前のめりに倒れたのは長尾鉄山。

奇々怪々。

なぜ。

 

「……馬鹿な……」

 

どうして間合いの外から。

遠間(とおま)で居合を腹に浴びた怪異を解明する猶予は無かった。

 

「今のは……」

「礼代わりの冥土の土産だ。楽しかったよ」

 

雪音は油断せず残心を取る。

楽しませてくれて有難う。

胸骨を叩き割り臓腑を引き裂いた手応え。

致命傷だ。

長尾鉄山が血の溟海に沈む。

 

「そうか、お前が……………見事」

 

合点が行ったように一言だけ称え、長尾鉄山は息を引き取った。

 

「ちゃお〜」

 

今夜もまた生き延びた雪音は血振りでべっとり残る血脂を飛ばす。

懐紙で拭いつつ街灯の光で一応見るが刀身に歪み無し。

毀れも無し。

納刀も滑らか。

 

「調子良いし、もう一人ぐらい探すかな」

 

同格の剣客と立ち合えた雪音は天真爛漫な笑顔で、顔に付いた返り血を羽織の袖に吸わせる。

赤地に椿や梅の花の刺繍が入った派手な生地は血の赤も誤魔化し易い。

夜な夜な街へ繰り出し、腕に覚えがある者に目星を付けては粉をかけるのだ。

遠目には長身の女にも見える奇抜な装いに騙された者は早々に冥土へ渡る。

暴れ過ぎて警戒されたのか最近強敵に恵まれる事は少ないが、雪音は立ち塞がる全てを斬った。

老若男女を等しく斬った。

唯一の肉親だった実父ですら斬った。

剣を極める為なら死すら厭わない兇暴なる剣客。

それが、逆島雪音だった。

 

 

時は世紀末、世界恐慌と過激なポピュリズム、薬物汚染が吹き荒び激動の時代に治安は乱れていた。

比較的穏当にして平和な日本ですら犯罪件数は鰻登りに天を衝いた。

都内の住宅地ですら銃撃戦が起きたのを重く見た日本政府は銃器の摘発に力を注ぎ、その代償に銃器以外ーー特に刀剣類ーーによる犯罪が増加する。

剣術が護身用として爆発的人気を博してから約四半世紀。

警察力を全力で行使して銃器犯罪は東京から駆逐したが、代わりにそれ以外で最も強力かつ日本人に親しい武装『刀』が再び台頭していた。

斯くして混沌の坩堝は開かれた。

真剣勝負の野試合に辻斬り、果ては妨げとなる官憲の殺しすら横行する。

東京は平易に生きられぬ多数の剣客を擁し世界有数の血霧煙る魔都と化した。

そんな修羅道で並み居る人斬りを討ち深淵まで至った剣士が居た。

 

人呼んで剣兇(けんきょう)

 

無邪気な抜き身のそれと遭ってしまったら命は無いと云う。

 




いねえよなぁ!?



愛と渾沌がねっとり濃厚なチャンバラドラマ。
剣客モノが読みたくなったので自分のテイストで書いた(天衣無縫)

続きの下書きがなかなかスケベなので既にR15じゃ無理そう。

雪音のcvは高山みなみで、人を舐め腐ってそうなクソガキボイスのイメージでどうぞ。

ある作品のオマージュ。
分かるかな。
いや、分からんよな。
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