剣戟魔界都市―ソードマンズ・サンクチュアリ― 作:ひん(再就職)
遅くまで夜更かししても雪音の朝は早い。
古くからの早朝稽古の習慣が染み付いて勝手に目が覚め出しまう。
隣で寝ていた夜鹿はもっと早くに起きていた。
鼻を使って探すと朝食の匂いがした。
乱雑に脱ぎ捨てていた甚平が綺麗に畳まれていたので着る。
サイドテーブルに立て掛けた剣を肩に乗せて隣接するリビングに行くと、ナチュラルメイクの夜鹿が食後のコーヒーを飲んでいた。
今日は非番なので緩めの部屋着のままだ。
「おはよう姉さん」
「おはよう。目玉焼きは何個食べる?」
「六個でお願い」
顔を洗っている間に卵がフライパンで爆ぜる。
雪音はよく食べる。
米も汁物もおかずもみるみる消えていく。
トップアスリート並みの筋肉量を維持する栄養を体が勝手に求めて朝から米二合は軽い。
「いつも美味しそうに食べてくれるんだから、女冥利に尽きるわね」
「姉さんの料理は本当に美味しいから」
「いつの間にか口まで達者になったのね」
雪音は昔から嘘が言えない。
再会から三年が経った今も変わらず、思った事を言わずに隠す事はあれど話す言葉には一欠片の嘘も混ぜた事は無かった。
冗談や
頬に米粒を付けた少々間抜けな顔も愛らしくて寝癖の付いた頭を撫でる。
何でも食べると意中の相手に言われているのに食事を作ってやるのが嫌いな人間などいるものか。
「ご馳走様」
「お皿は流しに置いてくれればいいわ。昼に纏めて片すから」
ソファで眼鏡のレンズ越しにニュースを観ている夜鹿は普段より尚もメイクが薄く、ショートパンツとTシャツだけ。
鉄仮面の女が歳下の男にこんなにも自身を曝け出していると知ったら同僚は腰を抜かすだろう。
「今日はどこか行く予定ある?」
「二度寝した後、屋上で稽古するだけ。夜の散歩はしばらく良いや」
「ならこっちに来て隣に座りなさい」
「ええ〜? 横になって寝たいって……」
「良いからいらっしゃい」
スポーツニュースが終わり、占いコーナーが始まる。
気が向かないと渋々の承諾になるが、夜鹿からの頼み事は余程の事でない限りは断らない。
唇を尖らせて座った雪音の右手に指を絡め、俗に言う恋人繋ぎで抱き寄せた。
「眠りたいなら私に寄り掛かって寝ればいいわ」
「えっと……今日はそういうプレイがしたいの?」
マンネリを防ぐ過去の努力は認めよう。
明晰な頭脳が時に吐き出す突拍子も無い発想とユーモラスな性的嗜好には困惑することも多々あるが。
今日もその奇天烈な好奇心の一角とばかり思った。
「ち、ちがっ、違いますぅっ!! …………違わないけど」
赤らめた顔を背け、膨れっ面を作りながらも手だけは離さない。
「……何処かに行かないように捕まえとくの。具体的にはあと一時間くらい」
剣術家の大事な利き腕を掴まえて好き放題が許されるのは夜鹿だけの特権なのだ。
相手が子供でも、もし他人であれば敵意ありと見て問答無用で斬りそうな男に特別視されていると思えば、独占欲も満たされよう。
それを確かめたくて家ではいつも左側に座らせる。
「ええ……、ああ……、ふ〜ん……そういう感じね」
数秒思案し、ある答えに終着する。
決めた雪音は行動が早い。
左手の刀をローテーブルに置いた。
「じゃあ姉さんと繋がるのは手だけじゃなくても良いんだよね?」
悪戯小僧の笑みで右手を引き込んでソファに優しく押し倒す。
「あんっ……♡こんな……朝からなんてっ……」
逃れようと身をくねらすがどう見ても姿勢だけの拒絶だ。
こんな緩い拘束は夜鹿が本気なら振り解ける。
休日とはいえ、朝から盛るのが
空いていた左手がするりと下着に滑り込む。
妙に水気を含む部分に指の腹で円を描くと腰が跳ねた。
鼻と鼻が触れ合う距離で嗜虐的な微笑みで体を重ね、耳元に囁く。
「嘘。体が期待してる。それともこれは昨日の残り?」
「やだ……言わないで……♡」
一瞬の読み違いが生死を分ける環境で培った洞察力を最大限発揮し、真面目振る夜鹿が本心で望んでいると推測した行為を選んだ。
何度も睦み合って悟ったが、夜鹿は外での厳格な人柄の反動なのか被虐嗜好の
故に、丁寧に、優しく、じっとり責めるのが効く。
羞恥心を剥がされたら後は脆い。
「俺がしたいんだ。それじゃ、駄目?」
雪音は悪役を演じた。
並の男なら言いづらい台詞を目を合わせて堂々と吐くが、欲情しているのは事実なのでその声色は真に迫る。
「…………おいで。でも、お手柔らかにお願いね」
不意に姉の顔に戻った夜鹿に頬を撫でられた雪音は目を見開き一瞬だけ硬直した。
出来レースであっても心から嬉しかったからだ。
雪音は夜鹿が好きだ。
美人で優しく、小遣いもくれる。
空気の読めなさでムードを壊してたまに叱られるのも含めて好きだ。
なにより、自分の全てを受け入れてくれる。
正直、振るなら腰より剣の方が楽しいが、夜鹿の機嫌が良くなり雪音自身も気持ち良くなれる素敵な行為だ。
夜鹿に喜んで貰えるなら幾らでも抱く。
感謝を示すには過ぎたる程に、改めて下半身に血が集まった。
「ごめん、無理かも」
ショートパンツと下着を纏めて剥ぎ取り床に投げ捨てる。
露わになった部位はしっとりと湿っていて、雪音を難無く受け入れた。
大きくはなくとも形の良い胸を潰して正常位で絡み合う。
夜鹿も指と脚を雪音の背に巻き付けて一つになりたがっていた。
穏やかに揺らし転がして、そして緩やかに絶頂へと至らしめる。
無理とは言いつつも散々に抱いた昨日の今日であるので激しくならぬよう細心の注意を以て。
乱れ狂う様を観るのも良いが、昨夜の激しさを繰り返して疲労で貴重な休日を潰してしまうのは忍びない。
時折腰を停めて愛撫だけの時間を設け、所望した時間にも色を付けて体力の消耗を抑えた。
その甲斐も有ってか意識はしっかりと残っていた。
締め括りに、額と唇にキスを落とす。
「ありがと。気持ち良かったよ」
「んむっ♡!?」
性欲が再燃しないように程々に舌を絡めた唇へのキスは、ぬるま湯の如き快楽に蕩けた眼差しを震わせる。
「ぷはっ……! 私の口、今あなたのを飲んだのに……」
「ん、まぁ……少し苦いね。だけど姉さんの口だから平気だよ?」
夜鹿とて、行為の最中自身が漏らした愛液や尿に塗れた逸物を躊躇わず口にする。
それで揺らぐような想いでは愛とはとても言えないというのが雪音らの秘めたる持論だ。
「姉さんはまだしたい?」
「
「お粗末様です」
顎に垂れた白濁の体液を掬い、艶やかな舌遣いで指から舐め取る。
狙ってやっていないにしても淫靡が過ぎる。
股間に悪い。
「力入らないでしょ? 目も冴えてきたし、俺が洗ってあげる」
「きゃっ!?」
もう一度覆い被さりたい衝動に駆られるもぐっと堪え、お姫様抱っこで持ち上げた。
「嫌だった?」
「びっくりしただけよ。ねえ、私重くない?」
「軽過ぎて片手でも持てるよ」
全体的に肉付きが薄く、身長の割に軽いので鍛えられた雪音には容易い。
ドアを開ける瞬間などは実際片腕で維持出来ていた。
家族用マンションなのでそこそこ広い浴室は二人でも余裕で入れる。
最初から全裸なのでそのまま椅子に座らせるとシャワーの温度を調整し、ボディソープをネットで泡立てる。
これは飽くまでも、動物同士が親愛を表す
よっていやらしさの欠片も無い真剣な手つきで、目の細かい泡で背中や足をせっせと擦って磨く。
それは体の前側を洗う際も同じく、使用後の刀身に歪みが無いか調べるような真面目な眼差しであった。
掌に並ぶ剣ダコの刺激が良いアクセントになって心地良い。
「痒いところはございませんか?」
「プッ……」
美容師の真似事に夜鹿が一瞬吹き出す。
口を抑えて俯いた事で、正面で跪く雪音の全身に目が行った。
かなり筋肉質ながらも女顔の雪音に不釣り合いにならず、絶妙なバランスを保つ体は不思議な魅力があった。
当てられた夜鹿は生唾を飲む。
「ね、ねぇ雪音……」
「駄目だよ姉さん。そっちの続きは夜までお預け。お楽しみは最後まで残しておかなきゃ」
器量良しの夜鹿に潤んだ瞳で誘われて断れる男がどれだけ居るだろうか。
しかし生憎と雪音の精神力の頑強さは並の男の比ではない。
夜鹿が少しだけアンコールを期待して上から下へ視線を泳がせ、胸板を触ろうと伸ばした手を雪音が抑えた。
誘いに乗りたいのは山々なのだが日課の稽古の時間が無くなってしまうのは避けたかった。
今日は昼にずらしたが、普段は朝食を摂るとマンションの屋上や河川敷で稽古に励む。
強敵との死合を反芻して楽しみつつ、感心した技を鍛錬の資とする時間だ。
幾夜もの鉄火場にて砥がれた腕に敵う者はそうそう居ない。
近辺の好戦的な猛者は大半斬ってしまった。
それでも雪音は鍛錬を重ねる。
何故かと問われたら、ここに剣が有り自分が居たからと、伝説の登山家ジョージ・マロリーのように言うだろう。
剣という概念を崇拝し、愛しているのだ。
本気の純愛を見るのに十八禁に日和ってるやついる?
いねえよなぁ!?
ボーイミーツガールなバトルものを想像してただろうに中身が姉とのベッタベタ共依存性活ですんまへん。
見たいプレイをコメントしてもらえたら参考にします。