剣戟魔界都市―ソードマンズ・サンクチュアリ―   作:ひん(再就職)

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PART4

暗闇に点々と灯る街灯の下を剣を佩いた雪音は彷徨っていた。

現代日本は日中すら包みに入れておくだけで街中でも刀を持ち歩ける。

廃刀令何するものぞと時代錯誤も甚だしい。

先日も狂を発した暴漢が段平を担いで交番に押し入った末に増援部隊に蜂の巣にされたニュースを見た。

防弾車両と自動小銃が必須の欧米諸国よりは遥かに安全ながら、余程血腥(ちなまぐさ)い。

斬って良し、斬られて良しの愉快痛快な時代に生まれたとほくそ笑まずには居られない。

いつもの赤い羽織の長い裾を鞘に被せ、強敵探しに邁進するものの結果は芳しく無い。

この近辺では雪音の悪評が立ちすぎたのか避けられてしまう。

目撃者は居ずともさもありなん。

名の知られた剣士を片端から血祭りに上げる凶人が出没する地域に居たいとは、正気ならまず思うまい。

気が触れた一部の者共か自信家だけが居残り、雪音と立ち合いの末に死んでいく。

手付かずの未熟者を斬っても面白味に欠ける。

素人ばかり襲い実力を勘違いした塵芥とやり合うのも御免だ。

雪音は剣狂いであって殺人狂ではないのだ。

 

「はぁ……」

 

朗らかな雪音らしからぬ溜息。

人口減少によって生じた、闇市と称される廃棄区画の廃ビル群の中を歩いても、それらしい者は間合いから逃げてしまう。

官憲すら迂闊な手出しを躊躇う破落戸の根城だというのに情けない。

違法増築を繰り返し迷宮にも等しい闇市は盗品から薬物、特に深い所では人間も売られている非合法百貨店だ。

ところが、目ぼしい腕利きは闇市でそれぞれ用心棒として傭われている事も多く、女顔の剣士は関わるなという悪名も相俟ってなかなか挑発に乗って来ない。

それも当然。

立ち合った腕利きの剣士が何人も還らず雪音はけろりと翌日も現れる。

そんな事態が何度も起きれば警戒もされよう。

剣兇は女顔で、背が高く、居合の使い手。

この辺りを縄張りとする裏社会の剣士で雪音と剣兇が結び付かないなら、それはモグリだ。

 

退屈の余り斯くなる上は表の道場でも破りに……という自棄糞(ヤケクソ)気味な案を頭に浮かべる。

相手の必死さが薄い寸止めの試合など趣味ではないが、こうなってはやむを得まいか。

 

「……いや、無いな」

 

煮え滾る欲望に焼かれた脳に残った理性が、馬鹿げた真似は避けろと云う。

第一に夜鹿を困らせたくない。

七月も中旬に入り蒸し暑くなった中、夜鹿から貰った小遣いで適当に買い食いしながらぶらつく。

坊主で帰るのも癪で、いよいよ質に拘らず誰かしらを捕まえてみようかと入った人気が少ない路地で二人の男が居た。

姿勢からして三流の二人は昼間から酒盛りをしながら何かを話している。

雪音は身を隠したまま聞き耳を立てた。

 

「あの麒麟児の藤間が出るんだろ? やめとけって、俺等じゃ勝てっこねえ」

「でもよう、なんかの間違いでも優勝したらガッポリだぜ?」

「俺は藤間に財布ごと賭けるね」

 

なんでも闇市最強を決めるトーナメント戦を行い、優勝者にはかなりの賞金が出ると。

スポンサーは犯罪シンジケートの首領らしいがそれはどうでも良い。

組織からしたら、用心棒を雇うにあたり誰がどれだけ腕が立つのか分かり易い指標が欲しかったのだろう。

雪音が耳を大きくしたのは前二つの部分だ。

先日誕生日を迎えて二十三歳になり、男として小遣いを貰うばかりでは情け無くもあった。

賞金の多寡はさておき、これは恩返しが出来そうだと期待してしまう。

そしてなにより強い剣士が集まるのだ。

これに行かない手はない。

詳しい場所や日時も知りたい。

 

「やあ、こんにちは」

「げっ、剣兇!?」

 

隠れていた角から身を出してにこやかに話し掛けたが逆に警戒された。

静かに素早く歩きながら柄に掛けた手から、微笑みの裏に片方を斬り倒してでも聞き出す意図が透けていた。

 

「じょ、冗談じゃねえぞ! 勘弁してくれ!」

「どこへ行くんだ?」

 

腐っても剣客の端くれか危険を感じて逃げようとした片割れの頭を鞘で横薙ぎに思い切り殴り付ける。

 

「ぎッ!?」

 

鉄と木の塊に殴られた男は白目を剝いて倒れた。

倒れ様、派手に頭を打ったが見向きもしない。

見ず知らずの男が一人死のうが雪音の知った事ではないのだから。

 

「うわあぁっ!?」

「挨拶されてるのに逃げるなんて失礼だよ? おい、何とか言えよ」

「ぎゃあ!?」

 

返す刀で座り込んだ方の男の左肩をへし折る。

腑抜けた姿に呆れ、斬る価値も感じなかった。

斯様な雑魚の命を愛刀(こがらし)丸に食わせるなどと想像するだけで虫酸が走る。

 

「ひ……ひぃ……」

「俺はただ、さっきの話の続きが知りたいんだ。素直に質問に答えてくれたら何もしない」

「話って、トーナメントの事か……?」

 

啜り泣く男を間合いに捉えたまま、穏やかに微笑む。

今しがた肩を砕かれた身にしてみれば理解不能な怪物の威嚇にしか見えなかろうが、雪音の胸中は凪いでいる。

母親が早逝し父親に男手一つで育てられた雪音は共感能力が著しく未熟だった。

精神面そのものが幼稚と言っても良いだろう。

夜鹿が危惧した、異様な暴力のハードルの低さもその一部。

剣術への礼賛と夜鹿への情が何とか人の形に留めているようなもの。

沈黙を貫いても下手に喚いても殺されると観念したのか、男は唇を震わせながらも口を開いた。

お陰で会場やルールも把握出来たので嬉しくなった雪音は男を放置して帰っていった。

故意の殺害こそ禁じられるそうだが武器は双方の合意で決め、飛び入り参加も大歓迎なのが特に気に入り、顔にこそ出さなかったがマンションまでかなりの早足で帰る程だった。

 

まだ夜になったばかりで、いつもよりずっと早い帰りに夜鹿はやや驚いた。

二十時前。

帰宅直後で、着替えて夕食の用意も始めたばかり。

 

「おかえり。今日はやけにご機嫌ね。良い事でも有った?」

「ただいま。へへ、分かる?」

 

生まれた頃から見ていて、ここしばらくは寝食も共にしている夜鹿は微かな変化を察した。

シャツにもジーンズにも返り血を浴びてない雪音がここまで上機嫌なのは珍しかった。

頭の天辺から靴まで血に染まった姿に満面の笑みを貼り付けて帰宅した日など、上げかけた悲鳴を殺すのにどれだけ苦心したか。

強く叱責してしまったがしかし、悄然とした雪音が抱き着いて上目遣いで謝罪の言葉を一生懸命並べるのだからもう可愛らしくて堪らない。

夜鹿は見てくれは立派な雪音の内面のちぐはぐな純粋さに弱かった。

 

「まだ秘密だよ。ふふ、ビックリさせるから待っててね」

「それは楽しみね。手は洗った?」

「洗ったよ」

「ご飯の支度が出来るまで少しあるわ。先にお風呂に入る?」

「一緒に入らない? 今日は姉さんと一緒が良いな」

 

後ろから寄り添い囁く。

 

「おほぉっ!?」

 

仄かに香る汗の匂いと甘え声に夜鹿は奇声を漏らし、心臓を押さえて悶えた。

これは雪音がかなり上機嫌な時限定で現れる超サービスモードの兆しだ。

かつての濃厚さを思い出すと体の奥が一気に熱を帯びる。

 

「そそそそうねっ! 後で一緒に入りましょうっ!」

 

溜まった生唾を飲み下し急ぎ表情を取り繕っても今夜の営みを妄想して鼻の下が伸びている。

筧夜鹿は結構なムッツリ助平だ。

親戚の歳下の男に体を洗わせ、そのまま浴室で睦み事を始める甘美な背徳は夜鹿の大好物だった。

広めの物件に住んでいて良かったと心から思う。

 

「ご馳走様。片付けは俺がするよ」

「そんなの置いとけば良いわ。さあ行くわよ!」

 

大急ぎで拵えたオムライスを二人で食べ、洗い物もそこそこに雪音の腕を引っ掴むと浴室に突入するのだった。

 

 

 

 

 

 




時系列は2→3→1→4
その間にベッドを買い替えたり、開発されたり…


ゴリゴリの殺人犯匿うしデキてるしでこの姉さんも大概狂って(ry
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