柱島泊地の風便り   作:風間正章

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傾聴 利根

利根

「我輩になんの用じゃ?提督よ?」

「御主の気持ちも解らんでは無いが。」

「我輩に、気を使い過ぎじゃ。」

「確かに、我輩は風間艦隊で唯一の二人目じゃからな。」

「そんなに、気にしていたら。」

「御主が、持たんぞ。」

「それに、我輩自身が気に喰わん。」

「確かに、前任の我輩を轟沈させて戦死させた事の責任を感じておるのは、お主の立場なら当然じゃ。」

「しかし、我輩は我輩じゃ。」

「前任の利根では無い。」

「今、お主の前に居る利根は我輩自身じゃからな。」

「なんじゃ?」

「その納得の行かない表情は。」

「先程も、申したが。」

「責任を感じるのは、お主の立場成らば当然じゃろう。」

「しかし、限度を越えた感情は。」

「迷惑以外の何物でもない。」

「正直、我輩も着任した時に。」

「筑摩に抱きつかれて、大泣きされたのには、驚いたがの。」

「じゃが、割り当てられた居住に共に向かう筑摩の笑顔が今でも忘れられないわい。」

「そして、前任の利根の私物が、そのまま残されておったわ。」

「面食らった、面持ちの我輩に気付いた筑摩がの。」

「泣きながら、我輩に謝っての。」

「前の利根の私物を廃棄しようとするからの。」

「押し留めて、押さえ込むのが、大変じゃったよ。」

「その時に、決めたのじゃ。」

「我輩は、前任の利根の事を含めて。」

「全てを、我輩が受け止めるとな。」

「じゃからな、提督。」

「我輩を、普通の利根じゃと思うなよ。」

「我輩は、二人分の利根なんじゃ。」

「風間艦隊の利根は、倍の働きをするからな。」

 

「それとな、筑摩からの言付けなんじゃが。」

「前任の利根が、轟沈した時。」

「提督を、激昂して殴ろとした時。」

「五月雨が、提督との間に入って。」

「代わりに、殴られたんだと聞いておる。」

「その後、瑞鶴に羽交い締めにされたとな。」

「五月雨に、詫びを入れて欲しいそうじゃ。」

「あの時は、すまなかったとな。」

 

語り終えた利根が席を立ち、執務室を出ようとしたが。

ふっと、立ち止まり。

風間の席の横まで来た。

 

座っている、風間の頭を利根は自分の胸元にぐっと引き寄せると。

風間の頭の上で、呟く様に言った。

利根

「提督、我輩は二度と沈まんからな。」

「安心して、指揮を取れよ。」

 

その声は、一人の利根では無く二人の利根からの声の様に風間には聞こえ気がした。

 

風間の頭を、バッと離すと。

利根は、顔を真っ赤にして。

「わ、我輩は何をしているのじゃ?」

「失礼をした。」

「忘れてくれ。」

 

利根は、慌てて執務室を出て行った。

利根の制服には、前任の利根のエンブレムが付いている。

破棄しようとした、筑摩を止めて。

自分で、付けた物だそうだ。

 

 

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