本丸拾遺ものがたり   作:はくたかゆき

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【落雁】…鶴丸国永

 帰り道の途中で紙箱の蓋を開くと、優しい色使いの落雁(らくがん)が整然と並んでいた。

 

 ふらりと立ち寄った万屋の一角に人だかりができていた。好奇心に誘われるままに覗くと、刀剣男士をイメージしたという新作の菓子が人気を集めていた。扇形の落雁には刀本体と和柄模様、円い落雁には花や鳥の図柄。せっかくなので、鶴丸もひとつ買い求めた。

 味見したいが茶も欲しい。帰ってからの楽しみに、と蓋を閉じようとしたとき、泣き声に気づいた。

 見回すと、白い着物の童女が道端に座り込んでしゃくりあげている。

「どうした? 転んだのか?」

 童女の、ときおり真珠色に輝く着物はところどころやぶけ、目をこする小さな腕やすねは細かい傷だらけだ。

「あのね、木の上のね、鳥の巣の、卵をね、取ろうとしたらね、親鳥につつかれて落ちたの」

 とんだお転婆な告白に、鶴丸はぐふっと噴き出してしまった。

「そりゃあ難儀だったなぁ。そうだ、ひとついいものをやろう」

 鶴丸は紙箱の砂糖菓子をひとつ童女に手渡した。円に鶴の図柄の、卯の花色の落雁だ。

 童女はじぃっと落雁の模様に見入ったあと、おそるおそるそれを口に入れた。

 泣き濡れていた目がたちまちキラキラと輝いたのを見届けると、鶴丸は童女と別れた。

「もう危ない遊びをするんじゃあないぞ」

 泣き止んだ童女は鶴丸の行先を見定めるように、じっと見送っていた。

 

 

 数日後。鶴丸が掃除当番のため竹ぼうきを手に正門を出ると、いつぞやの童女が手に白い衣を持ってちょこんと立っていた。

「………やあ、けがはもう治ったかい?」

 鶴丸は平静を取り繕って挨拶した。時の政府によってそれなりに厳重に隠されているはずの本丸(すみか)はもちろん、鶴丸が独りで門を出るタイミングをぴったり定められたことに正直ギョッとした。

 考えてみれば、あんな場所に小さな子どもが独りぼっちで泣いていたことも、木から落ちた割には軽傷だったことも、何もかも怪しいことだらけだ。さて、これはどういう類のあやかしだろうか?

「これ、こないだの、おれい」

 童女は手に持った白い衣をおずおずと鶴丸に差し出した。

「あのね、あげられるもの、これしかなくて」

「ああ、あれは俺の気まぐれだから気にしなくていいんだぜ」

 鶴丸が手を横に振ってそう言うと、童女はしゅんとしおれた顔になり、衣をきゅっと胸に抱いた。そんな彼女の様子につい、鶴丸の口元はほころんだ。

 彼女からは悪意を感じない。なにより、こんなにいとけない子が、ただ礼をするために律儀に訪ねてきてくれたことも、門を叩く勇気が出ないまま数日待っていたのだろうことも、可愛らしく感じた。

 鶴丸は彼女の心づくしを受け取ることにした。

「でもすごく綺麗な衣だ。もらっておくよ」

 童女はぱあっと明るい表情になり、衣をもう一度差し出した。

「ありがとうな」

 衣を受け取って童女の頭を撫でると、童女の白い頬と耳がさっと紅に染まった。かと思うと彼女は素早く身をひるがえして、あっという間に石段のそばのやぶの茂みに消えてしまった。

「おぅい、そんなにあわてちゃ、また着物がやぶけちまうぞ」

 鶴丸はやぶの向こうに声をかけたが、彼女の気配はそれきり煙のように消えてしまった。

 

 ふと手元を見ると、童女からもらいうけた衣は、真珠のように輝く蛇の抜け殻になっていたのだ。

 

 




※落雁(らくがん) 日本の伝統菓子。穀類のでんぷんと砂糖を主原料とする。
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