春はあけぼの。でも眠い。
たんだん白くなっていく山の際が、少し明るくなって、ほんのり紫色の雲が細くたなびいて。
花や木の葉は朝露を含んで、時おりその先を伝ってこぼれ落ち、そこに朝日が差しはじめると、まるで宝石がきらきらとこぼれ落ちるよう。だがしかし眠い。
長谷部はニッコニコだ。
こっちは正直眠気でイライラしているが、この顔を見たらさすがに何も言えん。
どこかの本丸の長谷部は早朝の水浴びを日課にしているらしい。
こちらの本丸の長谷部は早朝の走り込みを日課にしている。
どこの本丸の長谷部もきっとみんな勤勉で、何かしら早朝トレーニングをしているのだろう。知らんけど。
んで、長谷部はこのいつも自分が見ている早朝の風景がとても素晴らしいのを、どうしても私に見せたかったんだそうだ。
私たちは本丸から十分とちょっと歩いて、小高い場所から景色を眺めている。
朝日の光の帯はあっというまに色んなものを包み込んでいく。
露草色の空はしだいに朝の青空に塗り替わっていく。
長谷部はドヤ顔で隣に立っている。
まぁ、確かに綺麗だ、うん、眠いけど。
「主。これから毎日、朝食前に歩きましょうね。俺と一緒に」
「はぁ~ん?! なんでお前勝手に決めてんだよ!!」
長谷部はキリッとして胸に片手を当てた。
「主の健康寿命を伸ばすためですから」
「ずいぶん強引じゃん……」
「この長谷部、主のために何が一番大切かを考えました。主は暇さえあればゲームやツイッターをしています。それも結構ですが、なるべく体も動かさねばいけません。少しでも歩きましょう。俺がお供します」
一方的にまくしたてられて、口がパクパクしてしまった。
「まじかぁ」
やっとのことでそれだけ言うと、長谷部はケロリとして
「主が死ぬときも、必ず俺はお供しますよ」
と言った。
こちらはあぜんとするしかない。
「は、え?!?!!?」
「ですが、そのときが来るのは遅ければ遅いほど良いかと」
長谷部は誇らしげだ。
私はワナワナ震えた。
「おま、おま、お前な、自分の命を盾にして……」
「それに、端末を見て下ばかり向いていると、二重あごになるそうですよ」
私は思わず両手で顎から耳の下を覆った。言われてみれば、最近、ちょっと、気になってた。
それで。
いくらなんでも今日ほど早いのが毎日続くのはしんどいので、長谷部の早朝走り込みが終わったら散歩につき合うことにしてもらった。走り込みの時間はそのぶん短縮するそうだ。
なんか、ごめん……。
雨の日はさすがに休むんだろう、でもそれを言うと代わりに体操しようとか言い出すだろうなと思って黙っていたら、
「天気が悪いときは鍛錬場で木刀の素振りをしましょうね!」
と抜かりなく言われてしまったのだった。とほほ……。