そもそも、てるてる坊主を最初に吊ったのは、太郎太刀と石切丸だった。
雨降り続く軒下に大男がふたりで、切りっぱなしの白布でできた小さな人形をふたつ吊っているところに
「さすがに神威でも雨は止ませられませんか?」
と話しかけると、太郎太刀の目がぎろりとこちらを見下ろした。太郎太刀は別に怒っているわけではない。単に目つきが鋭いだけで、本人はいたってのんびり屋さんだ。
「止ませられないこともありませんが、空には空の
太郎太刀がそう言うと、石切丸は深くうなずいた。
「うん、我々にできるのは、せめてこれを見た竜神がルートを多少考慮してくれるよう祈ることだけだよ」
「畑に水を撒く手間が省けるのはありがたいのですがね……布団が、重いです」
太郎太刀のぼやきに、石切丸と審神者は、しみじみとうなずいた。
ろくに太陽を拝めない日が続き、てるてる坊主はみるみる増殖していった。
ほぼ本丸中の男士が作ったのではないだろうか。短刀たちが脚立を出したり薙刀や槍が手伝ったりしているうちに、執務室の縁側の軒下は不気味なほどにてるてる坊主だらけになった。
なんで皆こぞってここに吊りたがるのだろうか。
机上の作業に飽いたらしい一文字則宗が「茶を淹れてくる」と執務室を出ていった。
一人になると、やけに雨の音が響くような気がする。
やがて空の墨色が濃くなり、雨脚がさらに強くなった。墨色の雲を細かい稲光が縫って走っていく。
風向きが変わって執務室の縁側に吹き込み始める前に、雨戸を閉めた方が良さそうだ。
大急ぎで縁側の雨戸を閉め始めたとき、子どもたちのはしゃぐ声が庭に満ちた。
見れば、おそろいの白い雨合羽を着た大勢の子どもたちが、激しい雷雨の下を楽しそうにはしゃぎ回っている。
「どこの子たちだ、あれ……」
子どもたちの集団は、庭の
本丸の座標が、現世の子どもの施設の園庭にでもつながってしまったのだろうか。と一瞬だけ思ったが、こんな雷雨の空の下で子どもたちを遊ばせる大人などいるはずがない。
背中にひやりと戦慄が走った。
子どもたちの一団がこちらに気づいて駆け寄ってきた。
「だれー」
「だぁれ」
「見てるの」
「見えてるの」
無邪気な笑顔で口々に言いながら駆け寄ってきた子どもたちは、軒下の手前でぴたりと止まり、てるてる坊主の群れを見上げた。ぽかんと口を開けた子どもたちの表情がたちまち歪んでいく。
「どうして」
「わかんない」
「こわい」
「こわいよ」
雨合羽の子どもたちはわんわん泣いて走り去った。
「どうしたの」
「なにを見たの」
他の子どもたちがわらわらと心配顔で寄ってくる。その子どもたちも軒下のてるてる坊主の群れを確かめると、たちまち引きつった泣き顔になって、こけつまろびつ逃げていった。
不思議な子どもたちがそうしてひとり残らず雨の幕の向こうに消えてしまうと、雨脚はするすると遠のき、雲は手前からだんだんと薄墨の色になり、さらにいくつか切れ間が開き、そこから久方の日光の帯が垂れ始めた。
「どうした、お前さん、そんなところで立ち尽くして」
茶と菓子の盆を持って執務室に戻った一文字則宗に、審神者は不思議な光景の一部始終を話して聞かせた。
「そりゃあ、自分たちにそっくりな人形がこれだけたくさん首を吊っていたら、さすがの竜神たちも怖れをなしただろうなぁ」
そう言って一文字則宗は愉快そうに笑ったが、
(あっ…てるてる坊主って、そういう……?)
察した審神者の顔は引きつっていた。