良い気分でゆらゆらと真夜中の帰り道を歩いていると、道端に簡素な茶屋が建っていた。まぶしい灯がともるその赤い
「もぅし」
と声を掛けられた。
「寄っていってくださいましな。新店舗ではございますが、おしゃべり相手の女子もさまざまに取り揃えておりますよ」
暖簾の中から客引きと思しき愛想笑いを浮かべた中年の男が現れた。
「あいにくと、今日はもう持ち合わせが無くてね」
断りの定型句ではあるが、実際に財布がすかんぴんである。家計を握っている男士たちが俺の金遣いを警戒して、小遣いを毎日少しずつしかくれないせいだ。
「それなら、そら、その提灯の残り火をいただきますよ」
客引き男がこちらの手元を指さす。いつの間にやら自分は提灯を手にしていた。提灯を上からのぞき込むと、ろうそくの火がゆらゆらと揺れている。
「こんな真っ暗な夜道をさ、しがない提灯の灯りを頼りに帰るくらいなら、それを支払いにあてて、ここで空が明るむまで楽しく休んでいきませんか」
ろうそくの火なんかで済むのならおいしい話のように思えた。
「いいのかい?」
と暖簾をくぐり店に足を踏み入れようとしたが、なんとなく嫌な予感がして足が止まった。
「うーん、せっかくだがやっぱり止めておくわ。口うるさいお
「そうかぁ、じゃあまたの機会にお寄りくださいな」
思いの
暗かった夜道の脇を埋めるように縦や横の電気看板が灯り始めた。この繁華街は営業開始が深夜のようだ。これで少しは不安も紛れる。
しかし千鳥足を進めるうち、どうやら色とりどりの看板には、どれもこれも「残り火いただきます」「残り日ちょうだいいたします」としか書かれていないことに気づいた。
怪しい看板は、来た道にも行く先にも延々と続いている。
これはまずい。
こっぴどく叱られるのを覚悟で、連絡用の端末を操作した。が、どうやってもうまく操作できず、誰とも連絡が取れないのだ。
まるで悪夢に迷い込んだようだ。
カラカラに渇いた口で「たすけて、歌仙兼定」と初期刀の名を呼んだ。カサカサにかすれた細い声しか出なかった。
けれど、彼は来てくれた。
目の前に突然、外套の裏地の花模様がひるがえった。歌仙兼定の切っ先は素早く三度ほどあたりを薙いだ。たったそれだけで怪しい電気看板はすべて雲散霧消した。歌仙が納刀するときには道の両側は、電源の当てなどない草や木の茂みばかりになっていた。
もちろんその後、酔いつぶれて道のど真ん中で眠っていた件について、般若顔の歌仙にこってり絞られたのは言うまでもない。