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子どもたちの声がしないのに気づいて、慌てて押入れを探った。座布団、毛布、衣装箱、よく分からない箱。全部掻き出しても子どもたちの姿はない。
「主、なにをお探しですか」
後ろから長谷部の声がした。穏やかであたたかい声。
「子どもたちがいないの」
押し入れに頭を突っ込んだまま、泣き出しそうになりながら答える。
「子どもたちは現世です。下の二人は寄宿学校です。夏季休暇には戻ってきますよ」
「寄宿学校…」
押し入れから出て一息つく。いつから、どこの学校に行ったのかは思い出せないけれど、夏には戻ってきてくれる。
「あなたが、子どもたちに現世での生活も体験させたいと送り出したのですよ。一番上の子は大学を卒業したまま独り暮らししていますが」
私は涙を拭いて、深呼吸した。
「ああ……そうだったわね。あの子はもう会社勤めだものね」
「二人目の子も来年には大学を卒業です」
「あの子たち、審神者になる気はないのねぇ。せっかく並ならぬほどの霊力を持って生まれたというのに」
残念な気持ちを隠せずにいると、長谷部は微笑んで言った。
「それもまた良しです。この長い戦争に携わることなく、平和に生きてくれるなら」
そう、数えきれないほど追い払っても際限なく湧いてくる時間遡行軍との戦いは、果てのない円環を虚しくめぐり続けているようなものだ。子どもたちには違う世界を生きていてほしい。
「そうよね。私たち、そのために頑張ってるんだもの」
「そうですよ」
長谷部の力強い言葉に嬉しくなった。私は長谷部の差し出す資料の束を受け取った。
「茶を淹れてきました。飲みながら、戦場の分析に取り掛かりましょう」
「あら、それじゃ三日月の意見も聞きたいわ」
「残念ですが、三日月は遠征に出ています」
「それじゃあ仕方ないわね」
私は資料の一番最初の、史実確認のための年表を指でたどった。
*** *** *** *** ***
俺が茶を淹れて戻ってくると、彼女は押入れを引っ掻き回していた。その哀れな後ろ姿を見て胸が潰れるような心地がした。
「主、なにをお探しですか」
彼女を驚かせないように、ゆったり話しかける。
「子どもたちがいないの」
押し入れに頭を突っ込んだまま涙声で彼女は言った。俺はとっさに話を合わせた。
「子どもたちは現世です。下の二人は寄宿学校です。夏季休暇には戻ってきますよ」
「寄宿学校…」
彼女は押し入れから出てきて一息ついた。
「あなたが、子どもたちに現世での生活も体験させたいと送り出したのですよ。一番上の子は大学を卒業したまま独り暮らししていますが」
彼女は涙を拭いて、深呼吸した。
「ああ……そうだったわね。あの子はもう会社勤めだものね」
「二人目の子も来年には大学を卒業です」
「あの子たち、審神者になる気はないのねぇ。せっかく並ならぬほどの霊力を持って生まれたというのに」
彼女は残念そうに言った。
「それもまた良しです。この長い戦争に携わることなく、平和に生きてくれるなら」
俺がそう言うと、彼女は笑顔になった。すっかり小さくなった目が皺の中に埋もれてしまいそうだ。
「そうよね。私たち、そのために頑張ってるんだもの」
「そうですよ」
機嫌を直してにこにこしている彼女に資料の束を渡した。
「茶を淹れてきました。飲みながら、戦場の分析に取り掛かりましょう」
「あら、それじゃ三日月の意見も聞きたいわ」
「残念ですが、三日月は遠征に出ています」
「それじゃあ仕方ないわね」と彼女は笑った。
資料はもう数十年も昔のものだ。あれから状況は大きく変わった。
彼女もすっかり変わってしまった。審神者を務めているうちに少女から大人になり、親になり、子どもたちを送り出し、孫も成人し……だんだん動けなくなり、色々なことを忘れてしまった。
本丸は政府のあっせんする若い審神者が継承した。今や俺たちにとって主とはその若い審神者のことだ。
元主という立場になった彼女は敷地内の小さな離れにひっそりと隠居暮らしをしている。世話係は交替。係とは関係なくても、ときどき本丸から刀たちが元主の顔を見に来る。
彼女は押し入れから掻き出し散らかした色々な物品のはざまで、穏やかに微笑みながら、もう使い物にならない年表を指でたどっている。茶はまだ熱い。もう少し