自分は、家族が「歩」として猛士をサポートしていた。自分も魔化魍の存在や、猛士について聞いてはいたが、当初からそんなに魔化魍を危険視したり、危ぶんでいなかった。自分が反抗期であった為でもあるが、聞き入れていなかった。
そんな頃。家族とキャンプに山に入った。
…今思えば、キャンプと表向きは言っていたが、多分、猛士として「歩」としての活動だったんだと思う。反抗心を抱えつつ、渋々父の言いつけを聞き、家族4人。父母妹と共に山で二晩明かす予定だった。
一日目はなんとものどかな雰囲気の中過ぎていった。が、二日目の夜。
異変が起きた。周りの凪さえも聞こえない程、音が消えてしまったのだ。異変にすぐさま気付いた父が下山を命じ、暗闇をひた麓に向かって下山する。
父の声が、妹の鳴き声が突如向こうの山間から違う響きで返ってきた。突然前方に見慣れぬ姿の男が現れる。
母が「童子」と叫ぶのが終わるのが早かったか、女が母の咽頭を引きちぎったのが早いのか、分からない。僕は叫びながら、その場から逃げた。
どうやって下山したのか分からない。
気付いたら、麓に住む猟友会のおじさんに助けられ、彼もまた「歩」であり、状況を説明せずとも何かを察してくれたおじさんは、何処かに連絡をとり、僕のそばをじっと離れずに朝まで居てくれた。あの場に残してきた、父と妹の事や、母の安否が気掛かりで一睡も出来なかった。
朝になり、男が訪ねてきた。何やらギターの様なものを担いで、恐ろしい形相をしている。おじさんとの会話の中で、昨晩の辺りのことを話しているのを聞いて、いてもたってもいられずに、見ず知らずのその人に掴みかかっていた。
「あんた!鬼とかいうんだろ!早く山に入ってくれよ!うちの家族が!母さんがバケモノにやられたんだ!父さんと妹だっている!…何でもいいから!…助けてよぉ……!」
最後は嗚咽で発音できたかも怪しかったが、そんなような事を言ったと思う。
結局、両親は助からなかった。だが、妹はその鬼が懸命の闘いによって救う事が出来た。
この出会いによって、僕の生活が変わっていった。
当時、まだ義務教育の終えない僕ら兄妹は、猛士の快い老夫婦に引き取られ、その後不自由なく生活出来た。まだ小さい妹は、両親の死を上手く飲み込む事が出来ずに酷く落ち込んでいたが、それは時が解決してくれた。
僕は、次第に魔化魍から妹を救ってくれたあの男に会いたくなっていた。
あの日、山に一緒に入りはしたが、妹を無事救出し、僕は妹と共に直ぐに麓へ下りたのだ。その後、麓の猟友会のおじさんから、魔化魍の消滅を聞き、父と母の消息を聞いた。あの男の事も聞いてみたが、「裁鬼」という鬼で、関東の鬼でもベテランらしい事を聞いた。それだけだった。