たちばな で、DAを修繕してもらい、車内に積み込んでいると、師匠の腕には大きい木箱が二つ。それを担いで師は車へ戻って来る。
なんだろうと首を傾げ、師の腕からそれを受け取ろうとすると、大丈夫と言って自分でそれをトランクに積み込んだ。
「これは、現地に着いてから渡すから。…ビックリするぞお前。」
「はい?」
「フフ。まぁ、開けてからのお楽しみって奴だよ。」
「…はぁ。」
この大変な時に、なんだろう。そんな気持ちを抱えながら、 車に乗り込んだ。ほぼ同時のタイミングで運転席には石割くんが乗り込み、シートベルトを装着している。
不意に、思い出したという口振りで、サバキさんに最近の学業に関して問われた。
「そういや、最近どうなんだ、波瑠兎?お前、推薦で受かったって言うのに、センター受けるんだって?凄いじゃない。
オレは、勉強はこれ以上ゴメンだなぁ〜。」
「学校生活の中でこそ得られる経験があるとか言っていたのはサバキさんでしょう?
でも、何事も一生懸命やってみて、気付いたんです。どんな事にもちゃんと自分が真面目に取り組んでみたら、何処かでちゃんと自分の身になってるって。だから、文武両刀、どちらも頑張るって決めたんです。」
「そうか。…フフ。頼もしくなったな。」
師に認められているというのは、自分に無限の力を湧かせてくれる。僕のやってきた事、信じた道を肯定され、それだけで自分という人間の価値があると思わせられる。
この人に、認められるという事はそういう事なのだ。
浮き浮きとした気分を、引き締め魔化魍退治に気持ちを向ける。
ここ最近は、童子や姫の事を、ほぼ全部、僕に任せてくれるようになっていたサバキさん。それは、鬼として自分がやっていけるのか試されているんだと理解して、任されている事が、誇らしく、自信に繋がっている。
現地に到着し、DA達を探索に出して待機中に、たちばな で積んできた二つの木箱を師が抱えてキャンプテーブルにそっと木箱を下ろした。その蓋を大事そうにそっと撫でる。
「サバキさん…。そろそろソレの正体。教えてくれても良いんじゃないんですか?」
「うん。 そう言う頃だと思ってな。…ジャン。お前の音撃弦と音激震だ。音撃弦は、開発局の最新型なんだぞ。」
つまりは…。どういう事だろう。
そう考えていたのが、伝わったのか、何度か頷いてから、師の手は真新しい音撃弦と音激震を掴み、僕の胸の前へそれらを差し出す。
「これは、お前がこれから使う物だ。これからは、自分の思った通り、思いっ切りやってみろ。」
「えッ?あっ、はい!
……それって、僕は…。その。どうなっちゃうんですか?」
「免許皆伝だよ。おめでとう。お前はこれから裁鬼の名を…。」
「いやいやいや。それが無いです。
僕、サバキさんの名前を貰うとか、恐れ多くて無理ですよ!波琉兎の"バ"を取って何か考えてくれると良いです。」
「なんだ?恐れ多いって…。何も、普通にしておけば良いんだって。」
「だって、サバキさんはまだ現役で頑張るつもりでしょう?
だから、僕が「裁鬼」って名乗るとか考えてなくて。」
「そうか。名前を継いでもらって、少しづつフェイドアウトを考えていたんだが…。ん〜。…じゃあ、お前の名前に因んで「羽琉鬼李」ってのはどう?」
クククと笑って、絶対に最近のドラマか何かで得たであろう横文字を強引に字に宛てている。
「…ヤメテクダサイ。そんな神話みたいな名前…。」
カッカッカッ、冗談だよ。と大笑いして、思案するかの様に天を見上げウロウロ歩き回っていたが、絵で書いたような、名案が浮かんだ時のリアクションをとり、目をキラキラと輝かせて、浮かんだ名前を口にする。
「蛮鬼ってのはどうだ!」
「「蛮鬼」…。」
「まぁ、他の候補も考えとくよ。」
DA達が、バケガニを探知して帰ってきた。
新しい自分の音撃弦。練習用じゃない音激震。鼓動が早く、高揚している気持ちを抑える。
「デビュー戦にしちゃあ、数が多いが…。大丈夫か?」
「問題ないです。 サバキさんに遅れを取らないよう、頑張ります!」
「まぁ、あんまり気負いしないで、いつも通りやればいいから。
…それじゃあ、行くか。」
「…はい!」
大きな自信を胸に応答を返し、渡された音撃弦“ 刀弦響”を握りしめた。
日が傾き、赤く染る横浜の海岸沿いは、鬼として認められた始めての一歩に申し分無いロケーションである。
僕は鬼として初めて、魔化魍に挑むのだ。
(了)