【カオ転三次】DRUG FATE 作:石は転がる
式神と機械との相性は悪い。
これは式神が術式に封じ込められたスライムを核とするのだが、概念法則下にある悪魔が物理法則下にある機械を何の中継もなしに動かすのが難しいため、あるいは悪魔の概念にまだ機械が含まれていないためと予想されている。
悪魔とは積み重ねられた伝承であり本質的には情報である。その情報の幅広さがそのまま悪魔の存在の雑多さに及んでいる。その情報の中にない物理信仰を代表する機械の式神化は、新たにマシンの概念を創造するか今すでに在る概念を応用するかの二つの道があった。
「我々としてはマシン分類の悪魔を作りたいと思っているのですぞ。」
メイド研の目標からするとどちらでもいいように思えるが、そこにはしっかりとした理由があった。
単純に現在の式神自体が一種の付喪神に近いので機械動作を含まない操り人形としてなら他の研究班の成果で達成できそうだからである。メイドロボ研究所の内部派閥の一部はそれが良いと離脱をしているので、本派閥はあくまで機械の心としての式神利用を目標と設定し直していた。
簡単に言えばパペット人形と勇者ロボの派閥の違いである。
「目標設定はいいと思いますが今回はどこまで目指すつもりなんですか?」
実働データを取る側としてあまり実証機で冒険されすぎるのも困るので口を出す。
場所はメイドロボ研究所第一支部。
寝静まった星霊神社の一角にありながら、この場に集った人間は軽く百を超える。ジーパンにTシャツ姿のエンジニアからきっちり七三分けに固めたスーツの男性まで。彼は東京支部の営業帰りだろうか。統一感のない雑多な集団は会社の人間が一堂に会しているのだ。
今ここでは週末恒例の社員全員が集合しての会合が行われていた。
「もちろんプログラムによる全制御! ……と、言いたいところですが今回は筐体の全金属化が限界ですな。それも無理なら妥協せざるをえんとですな。」
司会進行役でもあるオタク社長がホワイトボードに目標の詳細を書き加えていく。
最重要事項は核の術式の金属部品化。
これは実証は出来ているのでより効率的な術式整理と素材の研究。
そこから線が引かれいくつかの課題がポップする。
核と機械部品との接続・機械部品の動力策定・機械駆動システムの設計・原作再現の兵装展開。
「ほかに何かありましたかな! …………よし、意見がないようでしたらこの議題で話しますぞ!」
大まかな方向だけをまず共有する。
それからそれぞれの課題に対して喧々囂々の議論が尽くされていってどうにか仕様が纏まっていく。
まず駆動システムは完全機械化とその制御システムをプログラムとして組み込む。式神はどのように動かしたいか命令する事と浮遊に関してだけ関わらせる。
これは下級式神のキャパシティを節約する意図もあるが、次の開発のために純物理法則によるとどうなるかをデータ取りするためである。
動力源は研究中のMAGバッテリーを試験搭載。私からのマグネタイト→MAGバッテリー→電力と変換して駆動モーターと油圧ポンプを動作させる。電動機としては小型のために出力不足に陥るが、移動は浮遊で補えるためその挙動も含めて観察対象である。
原作再現はスキルで代用するとして今回は見送ることになった。ただ、銃身だけは備え付けて銃撃系スキルの効率化を見込む。
結論としては浮いて付いて回り、銃撃スキルで攻撃するだけの浮き砲台である。最初からいくつかスキルカードを差し込む余裕は持たせているが、おそらく開発の途中で食いつぶされてしまうだろう。
「ドゥフフフフフフ、よろしいよろしいよろしい! それでは本日からポッドプロジェクト始動ですぞ! かんぱーい!」
「「「「「乾杯!」」」」」
この集まりの開始時刻が遅かったのもあるが、議論が尽きるころには空が白み始めていた。
徹夜明けのテンションのまま皆が思い思いの飲み物片手に唱和する声が空に響き――そして、当然の様に本日の始まりは雷を落とされるところから始まったのだ。
一般的な式神のパーツの改良は動いている式神に実際に取り付けてみればテストできる。
しかし、式神の中枢を弄るとなると実際に完品を作ってみないと上手くいくかが判断できない。
特に今回の場合式神の中枢だけで独立し、そのうえで筐体に影響を及ぼせるようにするのが目標である。なので中枢か筐体か、あるいは接続部のどこかに不具合が起こっているのか前例がないため分からないという問題もある。
そういった問題の解決策と言えばひたすらに物量を積み、試行錯誤で情報を溜めていくしかないのである。
だからこそ、今回の研究において私の役割は実験ではなくその前段階の資材の確保。
つまりはマッカとフォルマの収集こそが私の仕事であった。
――そう言い訳ができるからこそ、私は研究に参加したのかもしれない。
龍脈活性化という災害が日本を襲っている。
これは私たち転生者にとっては前提となっている約束された終末の原因か、あるいはその一因となっていると思われる現象である。大地を流れる力が活性化することであり、例えば今まで10の強さの敵しか出なかった霊地に20あるいはそれ以上の敵が出るようになっている原因である。
現在、私は最近根願寺から多く出された『地方霊能組織の安否確認』の依頼を狙って請け負っている。
元々、前述の龍脈活性化により強大になった悪魔に対応に当たっていた霊能組織から救援要請が根願寺に届いていたのだが、その要請が最近になって次々と途絶えている事で根願寺は事態の把握を決定。手の空いているガイア連合へと依頼が出されたのだ。
この依頼以外にも根願寺からは『全国の小異界の討伐』や『現在も声を上げている霊能組織への救援』などの依頼が最近になってから数多く回されるようになっていた。
報酬が良いもの、交通事情が良い依頼なども数多くあったが、それでも私がこの依頼を選んだのは結界で抑えきれなくなった異界は実りが良いから、ということにしている。
建前、あるいは誤魔化しか。同室者からの疑問への答えも研究のことを考えれば理由の一つとして正しいことではあった。
しかし、それを欺瞞と自分で断言できてしまうのはもっと強い衝動があったからだ。
この依頼でこそ、私はこの世界を知ることができると。
そこは山間にある小さな村だった。
ぽつりぽつりと離れた家屋と間を埋める小さな棚田。村を見下ろす向こう側の山頂にあるのは神社であろうか。木の隙間から屋根の一部だけが見える。
舗装もされていない山道を無視し、幾つか山林を突っ切って訪れた村はまるで時が止まったかのように静けさを帯びている。
吹き抜ける風は露に濡れた手足を容赦なく舐めて抜けていく。
「くさいな。」
別に臭いがあるわけではない。ただ、風に乗って届くマグネタイトを私は鼻で感じたのだ。
「2B、A2、まず村から回る。警戒を厳とせよ。」
「「了解。」」
言う前から2Bが私の背後に控え、A2は前方に踏み出していたが確認を込めて声をかける。
二人とも前とは違いスエードの衣服を纏っているが片やゴシックドレス、片やボディコンドレスとホットパンツに仕立てられている。
不思議とその姿は均整がとれている。いや、仕立てた人間のセンスが良いのだろう。私を含め黒に身を包んだそれは不謹慎な喪服の様だ。
頭に浮かんだ連想の無駄な感傷を切り捨てて、私たちは村を低地からめぐっていく。
遠く昔からこの地で営みを繰り広げてきたのだろうか。不揃いな位置が積まれた石垣が棚田を支えている。ただ枯れるがままの稲が、割れた田んぼに晒されていた。
「米の収穫がされていない、か。短くても一月は放置されているな。」
言葉に出しながら短く状況を記録する。
歩きながら道のへこみや掘り返された後を探して視線が泳ぐ。猪や鼬――いや、狸か――の痕はあるが大型のものは見当たらない。星霊神社での生活で野生動物の痕跡なら分かるようになったのがこういった場所で生かされていた。
何事も無く道なりに上り、一軒ずつ回るが人は見当たらない。家は施錠されていたのでこじ開けて確認しているがどの家もきれいなものだ。
「9S、この行動には無駄が多い。情報があるとすれば山頂の施設だ。直接向かってはどうだ?」
民家を半分ほど回ったころ、2Bから提案が飛んでくる。
9S。いくらかの諧謔を込めて己につけたコードネーム。それを2Bに呼ばせる自分は悪趣味が過ぎるのかもしれない。
「……却下する。確認をしてから峰伝いの道を向かう。」
「…了解。」
不満、だろうか。一拍の間はここ何度目かの依頼が終わってから感じる自我の萌芽か。
声を上げていなかったA2も警戒をしながらも手足を遊ばせている。こちらも何らかの意思に目覚めていそうだ。
山の斜面はさらに険しくなり、田畑もなく道だけが続いている。幾度も折り返し連なる坂道を私たちは段ごとに跳び上へと向かう。私の霊質成長は魔に特化しているが、たかが数m程度なら軽く跳躍できる程度に既に人間離れをしていた。
点在する民家から等しく距離のある山頂。村を見下ろすように居を構えていたのは戦国にありそうな武家屋敷だった。
高い塀に門構え。術式の残滓が薫る敷地に入ると盛り砂に庭園が出迎えるが所々へし折られた箇所がある。正面の屋敷は踏み荒らされ中から破られた玄関が眼に入る。ひとまず屋敷に入らず外の足跡を辿れば、北東の鬼門から入り込み南西の向山山頂へと抜けていった様に見られる。
「中も確認する。」
無言のうなずきを確認し電球型ランタンに明かりを灯し、破られた雨戸を踏み越えて中に入る。家が広いがゆえに薄暗い室内は、いくつもの襖がなぎ倒されていた。
破られた屋敷に押し入ったのは反れた個体なのだろう。土足の跡はあるが荒らされた跡は見られない。
悪魔の跡をなぞるように進めば南西の塀が破られた現場へと再びたどり着く。
「このまま進む。」
短い指示と共に塀を越え、峰伝いに歩いていくと見えたのは村の規模にしては立派な門であった。
遠目に見えていたのは寺院であったらしい。敬われて大事に手入れをされていた山門は、力ずくで破られた今でもかつてをしのばせる。
私は、何の気負いもなく砕けた山門を潜り抜けた。
音のない空間。
のどの裂けそうな静寂の中に腐乱臭が重く降り積もっている。囲む白壁にぶち当てられた肉片が黒ずみ、弄ばれた人体はバラバラに散らばっている。赤く爛れた苦悶の表情は幾重にも積まれて遅れた私たちに白濁した目を向ける。
普通なら集まるはずの鳥も蟲も一切存在しない世界。
只々時を重ねるだけなのは、誰かを呪う怨念さえ貪り食われた空白に生きとして生きるものが怯えているためか。
歩を進め正面の本堂に入る。
叩き割られた床を避けながら進めば、焦げ臭さが残る部屋に干からびた人間だったものが幾人も転がっていた。乱されずに残る衣服を見ればこの寺の住職たちだろうか。本尊のあっただろう場所に向かって崩れ落ちている者と雑に飛ばさている者がいる。
「焦げ臭さはあるが燃え広がった跡がないな。敵は推定雷攻撃所有。外では食い散らかした形跡もあり。」
「おい、9S。」
声を上げて確認しているとA2が何かの破片投げ寄こしてきた。
ランタンに照らされているのは木片。衣服のひだの彫刻に焦げ跡が付いている。
「これは……本尊の欠片か? 住職を生贄に降臨したがやられたのか。」
「本当に住職だけだったと思うか? ほら、見てみろ。こいつは女、こっちは子供だな。」
雑にあお向けにした死体をまさぐりはだけさせていたA2が嘲笑に顔を歪める。
この場には戦闘の痕跡はあるが血肉はかけらも見当たらない。
外とは真逆の状態。
おそらく外で避難していた村人が遊ばれている間、ここの人間は結界を頼りに閉じこもっていたのだろう。それが結界を破られたからイチかバチかで本尊を呼び出し、耐え切れずに死亡したと思われる。そうでなくては戦闘がこの場だけで行われることはない。
本堂に見切りをつけ、他のお堂も回るが状況は似たようなものであった。ここで避難生活をしていた跡があったので村人はみなこの場に集まっていたのだろう。
悪魔は一体たりとも見当たらなかった。ここはすでに遊び、食事の終えた場所なのだろう。
収穫となるようなものは持ち込まれていた槍が数本。霊具ですらないが使い捨てにはちょうど良い。
「……探査は切り上げる。これ以上は意味がない。異界攻略にかかるぞ。」
「「了解。」」
山門をあとにし北東の異界に向かう。
それを見送る寺院は、私たちが踏みにじり死者を暴き、それでもなお静寂の内に止まり続けていた。
この村の異界は村とは背中合わせの斜面に広がっていた。
うっそうと茂る樹木の足元で這いずり回る悪魔は、道中に現れる雑魚ですら私の一撃を耐え戦闘を繰り返すはめになっていた。
霊地から悪魔が溢れるのを防ぐための結界は、皮肉なことに霊地の活性化を内部にため込み通常では出現しえない強力な悪魔が跋扈する地獄を顕現させている。
確実に霊格は相手の方が一回りは上だ。
それでなお押し負けずにいられるのは私たち転生者の霊格に見合わぬ強さのおかげであろう。ゲーム的に言うならばLV当たりのステータスポイントが私たちの方が多いとでもいうべきか。そのおかげで純粋な強さでは競り合っていられる。
だが、これが他の転生者ならばすぐさまリソースを使い切り撤退に追い込まれていただろう。ただ数が多いというだけで強力な防壁となりうるのに、そこに質まで伴えば吐き出せる量がものをいう。
その点、この場にいたのが私であったのは運がよかったのであろうか。
私が覚醒によって得たのは周囲のマグネタイトを吸収する術である。所謂『チャクラウォーク』や『勝利のチャクラ』系の技能だ。
まだまだ習熟の甘さは自覚しているが、ガス欠を恐れずに全力戦闘を繰り広げているからこそこの異界で活動を続けられていた。
「アナライズ!」
幾度の戦闘を繰り返してなおいる初遭遇の悪魔に2Bの霊視が行われる。その結果を聞くよりもなお先に脳裏に見えた直観に、私は敵に向かって火を放った。
敵は正面から炎がぶつかり怯んだ。すかさずA2が接敵。漏れた気合の声が響くころには袈裟切りに切り捨てていた。
剣を振りきり出来た間に負けじと駆け付けた獣が爪を振り落とす。辛うじて挟み込んだ刀身ごと吹き飛ばされたがそれは狙い通りであろう。
「凍え死ね。」
A2に遮られていた私の視線が通った。小さな氷の弾丸が撃ち込まれ、触れた敵から雪花が咲き誇った。
戦闘終了だ。
戦闘の残骸。弾け飛んだ敵のマグネタイトを誘引し、私たちにとって無害なものに変質させて取り込む。
私のそばに控える2BからA2に向かって回復が飛んでいき、A2は面倒そうに敵の残骸をあさっている。
異界の中を主に接近しないように彷徨うこと何時間だろうか。日が昇りも落ちもしない世界では時間間隔はひどく曖昧だ。
ボディバッグから取り出した水を口に含む。湿らす程度にして残りを確認すればまだ半分は残っていた。
「ふぅ、少し休憩します。」
抜けた気にやわらんだ言葉が付いて出た。
戦闘現場から少し離れて岩に腰掛ける。
大事な命綱の眼帯を今ばかりは外して軽く目元をぬぐった。
転生者謹製の眼帯はコスプレアイテムではなく、れっきとした実用品だ。装着者の霊視を補強する眼帯を更に加工した特別製の一品は、私と2Bの繋がりを利用して2Bのアナライズによって得た情報を私に流し込む。
尤も、アナライズ情報すべてでは負担が大きいため疑似的にギボアイズを私に習得させるようなものなのだが、それでも戦闘において一手先んじることができるのは非常に大きい。
普段から製造班にいろいろと流し込み研究をしてもらっている成果の一つだ。大切に使わないと罰が当たる。
警戒を式神たちに任せて目を閉じる。
深く、重く自分の中に潜り込み体調を確認する。
四肢に痛みはなく疲れは息を乱した程度。興奮も恐慌もしていない。MAGは今この瞬間にも取り込み二人に力強く送り出している。
体調に問題はない。続いて戦況を正しく認識するために思い返す。
初めは十単位で平然と襲い掛かってきた敵も、今では片手で数えられる程度の数になっている。あえて少し主に近づいたが、新たに一種敵が出てきたが数自体は減ったままだ。
おおよそ異界外周の敵は掃討できたとみていいだろう。下手に数多くの悪魔を逃せば、主を倒してもすぐに異界が出来てしまうがその心配は少なくなったとみていい。
「2B、A2。消耗の自己申告を。」
「2B。HP、MP共に問題なし。装備も問題ない。」
「A2、HP、MP問題なし。ただ、剣の刃は潰れてるな。」
「……よし。主の討伐に向かう。A2、主との戦闘時に予備の剣を使ってくれ。」
「了解。すぐに終わらせてやる。」
式神二人の自己申告と外から見た損耗にズレはない。いくらか防具が損耗しているが機能を失うほどでない。
状況は撤退ではなく突入を選ぶ余裕がある。
この地を終わらせに、私は異界の底に向かうのだった。
強い気配は異界に入ってからずっと変わらずに在り続けている。
山の谷間。鬱蒼と茂る森の、狭間に流れる小川の源泉。
黒々とした池の水面の傍に突き出た岩の上に奢り高ぶった悪魔は嘲笑を浮かべてこちらを見下ろしていた。
人型の悪魔は前屈みにねめつける肥大した目が肥大した顔を押しつぶしたような面に収まっている。とがった耳は妖精の特徴であろうか。人ではありえない赤い肌に棘のような頭髪。
黒ずんで固まった服は一体何が理由か。理解をわざと一度止める。
「アナライズ完了。名称ゴブリンです。」
傍らに控えた2Bからそっと囁かれる。同時に私の戦意に反応して脳裏に攻撃の結果を直観する。
ゴブリンは水面に背を向け、多くの悪魔を布陣している。ノズチにライジュウ、ハイピクシーも見受けられる。どいつもこいつも道中で散々相手をしてきた相手だが、合わせて30はいる。当たり前だが楽は出来そうにない。
何やら岩の上から口舌を垂れているが、悪魔の言葉には意味がない。
すでに滅すると、私は決めたのだ。
「会心破」「マハンマ」「火よ」
開戦の合図もなく私たちは同時に攻撃を放つ。
運の悪い敵が昇天し、その他がいくらかの傷を負うがすぐさま敵は猛り狂い向かってきた。
敵の主が攻撃的なMAGを全員に纏わせる。タルカジャか。血だらけになりながらも構わず向かってきた雷獣たちは、私たちの間に飛び込みながら放電を放つ。
私は冷静に雷除けの術を全員に付与するが、敵の後衛、火から立て直したノズチとハイピクシーから幾重にも雷が無差別に放たれた。
「ちぃっ!」「9S!」
一つ、二つと雷を受け止めた術式が数多の電閃に焼き尽くされる。が、それまでの僅かな時はA2の回避を成功させた。同時に2Bが私の前面に割り込む。
大半を2Bが受け止めるが一部がすり抜けて私にも突き刺さる。
痛み。そして雷鳴と閃光に、しかし私も2Bも眩みはしない。すぐさま次の手を打とうとして体内のMAGが痺れた様に鈍いことに気が付いた。
ジオによるショック状態。肉体への電流による麻痺ではなく、雷に染められたMAGによって一時的に肉体が不全を起こしたのだ!
胸中で悪態をつくが事態は止まらない。
無差別に撃たれた雷電にライジュウが傷をいやして飛び込んできた!
回る思考と眼光が連動する。高速で編み上げる術式に無理やり肉体に押し流したMAGを込める。
「風よ!」
念動の波動を変換された衝撃が私たち二人を襲おうとしたライジュウに残さず叩き込まれる。掬い上げる様に叩き込んだ風がライジュウを空へと無防備な体を晒させた。
「はぁ!」「ふん!」
動けるようになった2Bと前線を下げたA2が切り刻む!
溶けるように消えていく獣に目を向けず、次の雷霆に備えて防御の術式を編む。
敵と味方が再び最初の立ち位置に戻る。
こちらは傷を負ったがあちらは頭数を減らしている。敵陣でも回復が飛び交いお互いに仕切り直しをおこなっているが、数を減らしただけこちらが優位か。
さて、手札の切り時はいつか来るか。
勝負の行方はいまだ分からないというのに、敵の主はニタニタとこちらを見下していた。
手を上げ叫ぶ言葉は何なのか。急速に異界のマグネタイトが脈動し、地面に不明な術式が展開される。
「9S、強制召喚術式!」
術式の輪郭がはっきりした瞬間、2Bが叫んだ。同時にマグネタイトが凝固し、召還陣から新たに悪魔が湧き出てきた。
ざっと数えてみればおそらく倒した数よりも多い。
倒しても、倒しても、敵はそれ以上を呼び出すというのか。絶望が肩に手を回しての顔を覗き込んでくる。
形勢逆転、とでも言いたげに理解できない言葉で哂うゴブリン。
それに私は相手の手札が尽きたことを悟った!
「2B、魔眼開放! A2!」
命令は短く。
相手の伏兵を警戒して消極的な動きだった2Bを警護から解放する!
「っぁ、あああぁああぁぁぁああぁあ!!」
叫んだ。2Bが眼帯を引きずり上げ眼光を晒す。
視線となって敵をなぞるマグネタイトに、敵は恐怖に身を震わせる。付着した恐怖が敵を縛り上げ、私の次の手に対して反応をさせない。
「跪け、許しを請え、首を垂れろ。審判を受け入れろ!」
純粋な意思を放射する。
煮えたぎった殺意こそ、この攻撃には相応しい。己が口上に己自身を躍らせ記憶を想起させる。
肉片、毀れた内蔵、白壁を彩る黒、庇う親、諸共潰れた子供、積まれた眼孔が私を覗く!
悪因悪果ではない。
私の自分勝手な怒りこそが鉄槌である!
高めた念動が恐れに震えるMAGに反応して炸裂する。
消し飛ばしたのはざっと八割。震えるものは殺せたがうまく状態異常にならなかった敵がまだ残っていた。
「デスバウンド!」
それもすぐさまひき潰される。A2の放った攻撃が残党をことごとく飲み込んだ。
一拍の間を確認に回す。
警戒の返答は静けさで、動くものは存在しない。
急速なMAGの消耗に荒れる息を整えて岩へと向かう。
見上げるほどだった大岩は、私の攻撃の余波で破片となってまき散らされている。その石に飲み込まれるようにしてゴブリンはまだ存在していた。
拉げた手足は耐え切れずに千切れ、顔は瓦礫に埋まっている。それでもなお消えていないのは龍脈から流れ込む力があるからだろう。
このまま放っておく選択はない。
A2に命令をしようとして、ふと背中に吊るしていた槍を思い出した。
決して因果応報ではない。しかし、ケジメにはちょうどいいかもしれない。
誰かを守ろうとしてへし折れた槍をA2に渡し、私は終わりを命じたのであった。