【カオ転三次】DRUG FATE   作:石は転がる

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 更新が遅くなり申し訳ございません。
 一日遅れでの投下となります。


幕間37

 

 『ガイア連合山梨支部』。

 “転生者”は山梨に存在するガイア連合の設備全てを差して『山梨支部』で纏めて括っているが、実際は幾つかに機能によって区画が分けられて存在している。

 

 まずは『山梨第一支部』区画。

 我々“転生者”の本丸たる『星霊神社』と、その周囲の式神工場他『ガイア連合中枢施設』からなる全ての始まりの支部である。とは言え、最初期に建てられたコンクリート打ち放しお手製建造物はすでに無く、今では改築・増築の果てに和モダン系の装いが軒を連ねている。

 『星霊神社』周囲のこの支部は()()()()()()()が立ち入りを許される場所であり、ここには『ガイア連合』が外部には開放していない『施設』が存在する場所となっている。

 施設の一例をあげると『修行場』や『式神工場』、『電脳異界サーバー』だろうか。

 あと、近頃『図書室』が『図書館迷宮』にまで拡張されダンジョンと化しているという話も聞くが、まだ立ち入っていないので詳細は不明だ。

 神主がやったのか転生者の誰かの暴走かは知らないが、最近は変化の乏しかった『第一支部』の大きな変化として転生者たちの口の端に上っている。

 

 次に『山梨第二支部』区画。

 『山梨第一支部』では手狭になった設備や、新たに作られた施設を有した()()()()()()()()()()()()外から見た『山梨支部』と言える場所だ。

 主な支部機能は『ガイア連合運営』や『シェルター』だろうか。

 意外に思われるかもしれないが、実は『運営』機能は『第二支部』の管轄に在ったりする。

 これは『地方霊能組織の人間』や『転生者が紹介した人間』などが『運営』に携わっている以上、『第一支部』には置けないから当然と言えば当然のことであるのだが、転生者たちもよく『運営』は『第一支部』にあると勘違いしていたりする。。

 それは兎も角、この地は『運営』の他にも転生者たちが好き勝手作った『農産業』や『紡績業』から『データバンク』に『アニメ会社』まで、ありとあらゆる節操のないラインナップの施設や、ガイア連合として必要な『オカルト工場』が立ち並ぶエリアになっている。

 その特性上“転生者”だけでなく、『転生者の家族親族』や『信頼できる人間(金札)』も所属している支部はここになっている。

 

 最後に『山梨第三支部』区画。

 ここが表向きの『山梨支部』と言える場所で、『ガイア連合の外部利用者』や『神仏悪魔』『メシア教』などガイア連合にとって()()()とも感じる存在に対応する場所になっている。

 そのため、『第三支部』に所属する転生者は少なく、転生者からすればともすれば存在自体を忘れられるぐらいに馴染みのない場所となっている。

 施設目的からしてガイア連合が力を入れているものではなく、三つある支部の中では一番狭い区画になっている。

 

 

 色々と前置きが長くなったが、本日私が訪れたのは山梨支部の一角。

 『山梨第二支部』区画の郊外に存在する『シェルター』に、()()()()()私は足を運んでいた。

 

 『シェルター』とは言うが、ここのシェルターは世間一般が想像するような対爆扉を潜り抜け、地下に降りていくような『核シェルター』ではない。

 ――ここにあるのはどこにでもあるマンション街だ。

 広く開けた敷地に何棟も同じ形の建物が建つ大規模な団地。そこに奇抜さなどはない。

 今日は平日の昼間であるが人の気配はそこかしこにあり、ベランダに干された洗濯物がパッチワークの様に外観に色を添えていて、この場所が“生活の場”だと青空の元に示していた。

 アスファルトの道路に並行する公園の様な遊歩道。路地に植えられた街路樹はちょうど見ごろの桜が満開になっており、花びらをひらひらと落としている。

 遠くに聞こえる子供の甲高い叫びは近くの幼稚園の物だろうか。

 杖を突きながら一歩一歩を確かに散歩をする老夫婦がその声に微笑み、その後ろにはそっと“介護用の式神”が付き添う――

 ――本当に、穏やかな空間がここには広がっている。

 

 長閑な空気の流れるこの団地は、主に『半終末が到来してからシェルターを確保した人間』が入居した、ここ最近出来たばかり――とは言っても一年以上前だが――の住居である。

 一般的な3LDKの部屋の部屋割りに、『支部』や『工場』などのある区画からは離れたやや通勤には不便な立地。その代わり、スーパーや商店、街に溶け込んだ雑貨店や個人医院なんかは近くに揃っている。

 マンションの建屋自体も特に『オカルト』の顔を見せない普通の建物で、防御設備もいざという時の小規模結界と管理人式神ぐらいしかない。

 ……やや厳しい防護基準にしている“呉”からすれば心もとない建物ではあるが、まあ、前提として『星霊神社』の大結界の影響下にあるので、この程度の備えで十分と言えば十分過ぎるか。

 元々『家族親族などの避難用』を目的として建てられた住居なので当然だが、住んでいる住民のほとんどは所謂『金札』と呼ばれる“親しい関係者”枠の人間ばかりである。

 

 ここは転生者用のシェルターがある訳でもなく、押し並べて特徴も無い住宅街でしかない。

 そんな『転生者』にはあまり関わりの無い場所に()()()で私が来ているのは、『ほとんど』に含まれない数少ない転生者所有の物件に用があっての事であった。

 

「第七棟の313号室、313号室っと……。」

 

 案内板を頼りに目的地に向かって私の手を引くのは、短く切った髪を黒く染めカラーコンタクトで瞳の色を変えたアリサ(式神)だ。

 服装は着古した感のある量販店の普段着で、片手に持った買い物袋と合わせて傍目には『買い物帰りの主婦』に見えているはずだ。

 そのアリサに手を引かれている私も髪を短く切り、髪と瞳を同じような色彩に変更し、服装も何時もの様な上等なものではなく普通の子供服に変えている。

 平日なので珍しいかもしれないが、それでも小学生の子供と一緒の親子などこの場では目立たない。

 【偽装】。

 霊格だけは“自己制御”で誤魔化して、あとはオカルトを何も使わずにメイクなどによる印象操作での【変装】だ。

 ()()()とはいえ、わざわざ変装の手間を掛けているのには理由がある。

 普段、外でなら“認識阻害”の術で雑に誤魔化しているのだが、ここ『山梨支部』ではどこに転生者の目が合ったものか分からない。その為、下手に“術”に頼るよりも、アナログな“変装”の方が誰にもバレなかったりするのだ。

 

 そんな手間を掛けてたどり着いた目的地は、何の変哲もないマンションの一室である。

 真っすぐ伸びる廊下に画一的な扉。

 名前も無く部屋番号だけが示された表札を確認し、アリサがチャイムを鳴らさず扉をノックする。

 まず一回、間をあけて四回叩いてから握り拳で重く一回。

 

「はいはーい、少しお待ちになって?」

 

 扉越しの声が聞こえる。おそらく、独り言のつもりだろう。

 一般向けの住宅であるが防音はしっかりしている。普通の覚醒者なら聴こえないはずだ。

 それなのに声が聴こえてしまうのは私の知覚が過敏になりすぎているせいだろう。

 短時間でのレベルアップの弊害ではあるが、それによる不快感が無いのは()()()()()()()である故だろうか。

 

「こんにちは、お待たせしました! はい、どうぞ?」

 

「お邪魔します、アビゲイル。」

 

 ガチャリと音を立てて開いた扉の先に居るのは、涼し気なアメリカンスリーブのワンピースを着た金髪の少女だ。

 長い金の髪に幼い体躯――とは言っても私よりも拳二つ分は背が高いのだが――、そして()()()()

 アビゲイル。

 ただの“アビゲイル”と名乗っている転生者の()()だ。

 巧妙に封じられた血生臭い“狂気”の気配。朗らかな笑顔の裏にある淫靡な仮面。

 ――そして、それを欠片も表出しない“強固(ワガママ)な在り方”。

 とても“転生者”らしい“転生者”と言えるのだろうか。無駄に自我が強い。

 そんな()()に応えたアリサの後ろで、私は人見知りの仮面を被って隠れるように会釈し、アリサに続いて扉をくぐり――

 

「…………ふぅ…、お邪魔します。」

 

「いらっしゃい、朱莉。歓迎するわ!」

 

 ――扉が閉まると同時に演技の仮面を外して改めて挨拶を交わすと、彼女は爛漫の笑顔で迎えてくれた。

 にっこりと明るい笑顔で歓迎してくれるアビゲイルであるが、実のところ彼女(彼?)との交流はそう深いものではない。知り合ったのも“彼女”になってからであるし、会う頻度とて彼女はアメリカでの活動が主体なので多くはない。

 それなのに何故こうも友好的なのかと言えば、まあ単純な話であり。

 

「随分遅かったな。ああ、すまん。その短い足ではここは遠かったか。子供服がよく似合っているぞ?」

 

「時間よりも早くに来すぎないのはマナーだと思いますが? ああ、新入社員気分のまま退職した貴方に社会人マナーを説いても仕方がありませんか、放浪者。」

 

 リビングに入るなり嫌味を飛ばしてきた彼女の相棒、通称『狩人ニキ』とは嫌でも交流がありそのせいであったりする。

 廊下の先のリビングは何の変哲もない普通の部屋だ。

 家電に収納棚、飾られている小物も雑多な寄せ集めで統一感はない。特徴はインテリアの趣味が男性的なぐらいだろうか。

 あとは、所々薄っすらと埃が積もっていることだが、これ自体は普段この部屋を使っていないので仕方がない事であろう。

 

 前に聞いた話だと、この部屋は狩人が『まだ人間だったころのアビゲイル』の為に用意した物置部屋らしい。

 半終末の到来によって行方不明になった『アビゲイル』。その『彼』の部屋は賃貸であったらしく、家賃の振り込みが滞って解約されてしまったそうだ。

 そうして行き場のなくなった荷物を引き取り、その置き場としてアメリカに乗り込む前の狩人が買ったのがこの部屋だった。

 本当は転生者用のシェルターを確保できればよかったのであろうが、行方不明者の名前で勝手に確保できるわけも無かったからここを購入したらしい。

 まあ、狩人としては『アビゲイル』の生存を信じていたから、荷物を処分しないのは当たり前の行動であったのだろう。

 ――っと、そんな内容をアビゲイルの惚気で延々と聞いた話と共に思い出す。

 

 そんな『アビゲイル』の部屋であるが、ここは普段は使っていない部屋になっている。

 今では『アビゲイル』も転生者用のシェルターを確保しており、山梨で過ごす時はそこで狩人と二人で住んでいるからだ。

 ……狩人のシェルターを何故使わないのかと言えば、狩人のシェルターは武器防具に()()()()()医療器具なんかが散乱するホラーハウスになっているかららしい。

 近隣住民(転生者)からの苦情で施設管理式神が突入し、そのあまりの惨状に狩人が説教されていた……なんて話が提示板に写真付きで上がった事もあるぐらい中身は酷いそうなので、生活の場には適さないのだろう。

 それは兎も角、この部屋は狩人が所有しながらも、『狩人』に注目する勢力には知られていない穴場になっていた。

 

「もぉ、お前はまたそんなこと言って。素直にいらっしゃいって言えよ。」

 

 キッチンから飲み物を運んできたアビゲイルが狩人を叱るが、狩人はそっぽを向いて知らん顔をする。

 

「そこの()()()をそんなに叱らないで上げてください。」

 

 狩人が私をギロリと鋭い眼光で睨むが、こちらはアルカイックスマイルをしてやる。

 

「……まあいい。お前に付き合ってやっても時間の無駄だ。」

 

「ええ、それは同意します。私もここにあまり長居をしたくありませんからね。」

 

 何やらお互いの相棒が横で目で語り合って肩をすくめている気がするが、無視。

 さっさと本題に入る。

 

「それで? 中華は何時頃動く?」

 

「仙人共がそろそろ仙界に引き籠るそうなので――…地上側の地脈の引き継ぎなんかも考えるとここ一月二月の内に必ず動きがあるでしょうね。」

 

「そうか……お前の準備はできているんだな?」

 

「勿論。想定は幾つかありますが、どうなっても目的は達成します。」

 

 実際の戦場で『手札』が配られるまで“どの役”になるかは分からないが、最低限自力で“役”は揃えてある。あとは戦場で配られたカードで最善を尽くすだけだ。

 

「――近頃、呉の転生者がはしゃいでいる『玩具』を解禁したのはその戦力を確保するためか?」

 

「え?

 ……ああ、違いますよ。あれは終末が到来する頃合いに出来上がる様に逆算して解禁したんです。中華戦線での『決戦』には関係ありません。」

 

「なら良いが…精々気を付けるんだな。」

 

 一瞬何を言っているのか分からなかったが、瞬き二つして狩人が『ロボ研』の話をしていることに気が付く。

 よくもまあ海外の事ばかり気にかけている狩人が『呉支部のロボ研』なんてローカルな話題を知っているものだと思ったが、もしかしたらアメリカでVF-25を運用しているナインズから話を聞いたのかもしれない。

 データ集めに向こうに飛んでいる転生者もいるのでそこで話題に出たのだろう。

 

 それはさておき、実際『技術解禁』と『中華戦線』には何の関係も無い。

 ――なにせ中華戦線はすでに末期に近い。

 重要区画の防衛のため戦線を縮小して密度を上げているが、度重なる『核ミサイルや討たれた天使の血肉を利用した汚染』は守っているはずの大地をじわじわと“天使の領域”に近づけ、敵の攻勢を容易くしていっている。

 その状態で“全世界”と言う広大な範囲から搔き集められた戦力が次々投入され、中華戦線はキャパを完全にオーバーしているのが現状だ。

 そのため、元々腰が引けていた『仙界勢力』が逃げ支度を始めているし、それに合わせて曲がりなりにも表の治安を維持してきた統治機構内部でも過激穏健両派閥の動きが活発になっているそうなので、このまま何事も無く上手くいくなんてのはあり得ない事態になっている。

 呉ロボ研の彼らが『自機』を組み上げるより先に、『中華戦線』は爆発するだろう。

 

「アメリカの方はどうです? 言われるがままに物資や人員を用意したんですから上手くいっていないと困るのですが?」

 

「悪いが“微妙”としか言いようがないな。『本番』に向けての物資の貯蔵なんかは順調だが、他方『本番』で神がちゃんと動くか分からないし、人間が管理するシェルターも集約が上手くいっているとは言えん。」

 

「私の関わっていないシェルターの方はどうでもいいんですが……神の方は確実に動かしてくださいよ? アメリカの『多神連合』に、私はコネが無いんですから。」

 

「動かして欲しければもう少し物資を寄こせ。シェルターが上手くいかないなら俺はそっちに注力するぞ?」

 

「…………はぁ、仕方がありませんね。物資だけでなく現地で出来そうな仕事も用意します。」

 

 溜息を吐いて、私は住み慣れたシェルターを離れる価値のある『エサ』の準備に同意する。

 

 アメリカの状況は少し前よりはましとは言え、それでも厳しい場所である。

 天使の活動が低下しても依然として野良悪魔の動きは活発であるし、崩壊した秩序のせいで治安は在って無きのごとしだ。むしろ人間から奪う方が安全だと、天使の活動が止まった後からは人間同士の争いが増えているとの話すらある。

 その状況で『本番』の時、アメリカのDDSユーザーに出す依頼を請け負い易くする為に『シェルターの集約』をさせているのだ。

 疑心暗鬼になりかねない現状を考えれば、疲れた顔を見せている狩人は良くやっている方なのだろう。

 決して口に出さないが。

 

 ……ここまでの話を聞いていたら、今回の『本題』についても分かるだろうか?

 今回、【変装】してまでこっそり狩人と『会合』している理由。

 それは『本番』――つまり、来るべき決戦(X-day)――の為の『前準備』について余人を交えず腹を割って話す為であった。

 というのも、『本番』までの一連の流れは一般の転生者には知らせていない極秘の作戦である。

 そのため、『本番』までの動きは各々別の案件としてその都度対応している()()をして動かなければならないのだが、それでチグハグの動きをする訳にもいかない。なので『ガイア連合』の協議をする前に、トップ同士でブックの読み合わせをしているのだ。

 

 ちなみに担当としては私は『中華戦線:メルカバー』と『米国(+米軍)への物資支援』、狩人は『北米中米南米の取り纏め』と『米国:クトゥルー』を担当している。

 私は個人で完結して動けるのだが、狩人の方は自身の賛同者である『海外出張員』をそれとなく誘導したり『現地に領地をもった多神連合』等と交渉したりしなくてはならない。

 何時も人を振り回している狩人が人に振り回されるのはいい気味であった。

 

 

 その後、いくらか細部を詰めたら『まあ、もうお帰りになるの?』なんて少女になり切った口調に見送られ、早々に部屋を立った。

 良くも悪くも“私”も“狩人”も有名人だ。

 常に神魔の注目を集めているので秘密の時間は手短に済ませるに限る。

 まあ、私の隠蔽術式もあるし、狩人の【魔人 アビゲイル】のカウンター狂気浸食なんて物もある。前々から準備をしたうえでピンポイントに会談の瞬間だけを狙って盗聴・盗撮をしない限り、私たちに気づかれず『内容』までは抜かれないのでそこまで急ぐ必要はないと言えば無いのだが。

 

 そんなことを考えながら、再び『児童』の仮面を被ってアリサに手を引かれて帰路に就く。

 狩人と話していた時間はそんなに長くない。

 そのため、外は多少陽が傾いたぐらいで、先ほどまでと何の変りもない“日常”の風景であった。

 

 荷物を運ぶ宅配の車。歩道を歩く下校途中の小学生。歩道を駆ける迷惑な自転車はご愛敬というべきか。

 木々の手入れをしている剪定業者。犬の散歩をしているご婦人。ベンチに腰掛け休憩しているサラリーマン。

 そして、マンションの中庭には親が見守る中、降園してきた子供たちが遊ぶそこに交じる大天使。

 …………。

 ……何か、今変なものがあった気がする。

 

「どうかしました? ――………え???」

 

 思わず立ち止まってそちらに顔を向ける私に、釣られて顔を向けたアリサが絶句した。

 視線の先はマンションとマンションの間に作られた緑地帯にある公園。

 その砂場で幼稚園児たちに囲まれ、その誰よりも楽し気に砂を掘るのは二十歳前の年頃に見える金髪の『大天使』だ。

 波打つロングヘアに豊満な体躯。黙っていれば深窓のお嬢様に見えるかもしれないが、砂に塗れて笑顔を浮かべる姿は背格好に見合わず幼い。

 なぜこんなところに『大天使』が!という驚きはあるが、それとは別に、実は気配探知には早々に引っかかっていたのだが、なぜか“危険はない”とスルーしてしまっていた自分に一番驚いていたりする。

 

 そんな訳で思わずまじまじと見つめていると、あまりに露骨だったせいか……『大天使』と目が合った。

 ぱぁぁぁぁ!!!!、で良いだろうか。

 こちらに気が付いた瞬間、途轍もなく嬉し気な笑顔を浮かべ、砂も払わずにこちらに駆け寄ってきた。

 

「お久しぶりです!!」

 

 満面の笑顔で私に向かって一礼。そして停止。

 敵意は、無い。

 ちょっとした異常事態に、私は【偽装】の為の霊格の封印をちょっとばかり緩め、相手を“見通す”。

 

 ――種族は『大天使』。『大天使』ではあるが霊格(レベル)は低い…?

   『大天使』としての霊威が“権能”につぎ込まれている『高位分霊』なのだろうか。

   垣間見えるイメージは『告知』と……この分霊では機能停止しているが『百合の花』?

 

 刹那に垣間見えたビジョンでおおよその出自を推測する。同時にその『言葉』の意味も。

 溜息一つ。

 これは所謂“面倒事”、だろうか。

 

()()()()()。失礼ですが、どなたかと勘違いしていませんか?」

 

「……?」

 

 純真無垢な疑問顔。分かり易く顔を傾ける事までしている。

 もう一度、溜息。

 これでフリーの悪魔なら滅ぼしているが、『大天使』の体は式神であるし、何よりその身を縛る契約に()()()()の気配を感じる。つまりは『神主の許可済み案件』という訳で、どう見ても“厄ネタ”なのの安易に消し飛ばす事が出来ないという事だ。

 

「貴女とお会いした覚えが無い、と言っているんですが。」

 

「…? 前に会いましたよね?」

 

 そう言って再度首をかしげる『大天使』。

 ――……いけない、話にならない。放置して帰ってはいけないだろうか。

 そう思っていると、木陰のベンチから慌てた様子で駆け寄ってくる人影が一つ。シャツにジーパンのラフな格好の女性――型式神体。こちらは『天使』で、こちらからも神主の術の気配がしている。

 

「おう、すまないボーイ。そいつはちょいと頭が緩くてな。変なこと言ったのなら私が謝る。」

 

 蓮っ葉な口調。

 それに反して眼光は鋭い。弱いが、戦うとなると面倒なタイプだろうか。

 また溜息。

 狩人との会話で疲れているし、面倒事は本当に要らないのだ。

 

「いえ、構いません。そちらの女性が()()()()()()()()()()挨拶されただけですから。」

 

「そうか、それはすまんな。――ほら、ヴィクター、お前も謝れ。」

 

「……??? 何で謝罪を? 昔会ったことありますよ?」

 

 ちょっとお前、と説教を始める女性を横目に、私は目を細めて“眼”を開いて相手の内を見る。

 ……ボケっとした顔に疑問を浮かべての反論は、自分が悪かったと認めたくないとかではなく『嘘を吐くことが出来ない』から、か。

 機械的な頑固さ。これは下手に否定し続けるよりも、話を合わせてお帰り願った方が早そうだ。

 

「ええ、まあ、いいです。私が忘れているだけかもしれませんから。

 それでは改めまして――こんにちは。」

 

「はい、こんにちは!」

 

 ピカーッとでも光りそうな笑顔で元気よく返事が返ってくる。

 停止。

 会話が途切れる。

 ……何か用があったから声を掛けてきたと思ったのだが…?

 

「それで、何かご用件でもありましたか? わざわざ声を掛けていただきましたが?」

 

「…? いえ、ありませんよ?」

 

 水を向けるとキョトンとした顔で否定された。

 また停止。

 思わず愛想笑いが引きつる。

 

「ええっと、すいません。それでしたら何故声を掛けてこられたのですか?」

 

「『知り合いに会ったら挨拶をしなくちゃいけない』って、我が聖者が言っていました!」

 

 ムフーッとドヤ顔を披露する言葉の裏に、裏に…裏に……――裏が無い。

 思わず脱力。

 『中華戦線』のメシア教過激派の動きに関連して何か厄介事でも告げられるのかと思えばただの挨拶だ。

 

「えっと、それでは失礼しますね。」

 

「……おう、ほんと、すまんかった。」

 

 向こうの『天使』も疲れた様子で謝って、それでお互い分かれる。

 ……いや、本当に何だったのだろうか?

 何だか無駄に疲れた。早く帰ろう。

 

 ――そうして私は帰路に就くのであった。

 




 だいたい『ドコゾノ製造系転生者の聖者様』が【大天使】と契約して数か月たった後になります。
 そのため、【大天使】の情緒もちょっと成長しています。

*この小説での各キャラ設定。

【狩人ニキ】
 現在24か25歳ぐらい、核ミサイル発射時は新卒社員か二年目ぐらいの若手。
 平和の頃は全くオカルトには関わらず、ガイア連合も“ただの交流の場”として使っていた。
 昔から転生者が同士がただ集まって騒ぐだけのオフ会とかに参加しており、覚醒者となって本格的にガイア連合に参加する前から転生者の“友達”は多い設定。
 この“友達”が少なかったら、ガイア連合としての損得を考えないで外国支援をやろうとしてガイア連合から支援を引き出せず失敗するルートにいっていた。今のルートが成功かって言われるとそれはそれで悩むが。

 社会人経験があるので、今回の様な『根回し』や『調整』、『報連相』の重要さをよく知っている。
 知っているのに実際に行動する時には『最善』の為に投げだす悪い癖があったりするのだが。
 せめて事前計画で想定した『限界』を超えなければ主人公もオコしないのだが……。

 主人公相手だと口調が荒いが、これは狩人の人当り的にめっちゃ珍しい。狩人ニキ、基本的に誰とでも友好的だし仲良くなるので、アビーが罵り合い(?)を見た時はとても驚いたらしい。
 アビー曰く『一種の同族嫌悪』とのこと。お互い嫌っているが軽視も軽蔑もしてないという面倒な関係。


【アビゲイルニキネキ】
 アメリカに出張に行ったら核攻撃の混乱に巻き込まれ、そのままクトゥルー汚染されて魔人になってしまった転生者。
 ちゃんと記憶を保っていたら『主人公』枠に行ったかもしれないが、残念!
 記憶を失ったのでヒロインルートに乗っちゃった人間である。
 ……なんで??????

 狩人とはガイア連合掲示板の地域在住者オフ会で知り合い友達になった。
 実は狩人よりも何才か年上設定にしてたりする。
 べ、別に『お兄様呼びTS姉さん女房』概念っていいんじゃね?ってなった訳ではない。
 ……無いったらない!

 彼女から見ると『主人公』と『狩人』は結構似ているらしい。
 別に得にもならないのに困っている人を助けられるのなら助けるところとか、ただ相手に施すだけでなく出来る事は相手にもさせようとするところとか。
 そんな『似ている二人』が顔を突き合わせると『狩人』が珍しい顔を見せるので、彼女はそれ横で見てホッコリしている。だから『主人公』の事が嫌いでなかったりする。

 口調が安定していないのは『狩人』に対してだけ口調で違うため。
 外向きはFGOアビーのつもりで書いてますが、ミスってたらすいません(汗


【謎の『大天使』】
 なんか居た謎の『大天使』。
 とは言っても特別な理由があった訳ではなく、彼女の“聖者様”がマンションに住んでいる<最後の軍隊>とか言う配下(?)に会いに行っている間、公園でお留守番していただけである。
 現在は現界を維持するためのMAGを節約するために『式神ボディー』にINしている。

 主人公に会った事がある気がしているが、「では主人公が『誰』であるか」と聞かれても彼女は「?」を浮かべるだけである。
 何故かと言うと、『天使』である彼女は四文字に言われたままに『言葉を告げる』だけなので、告げた相手が誰だかなんてまっっっったく気にしていなかったのだ!
 なので、仕方が無いと言えば仕方が無いのである。

 精神年齢が近いのか幼稚園児たちとすごく仲良くなっていた。


【謎の『天使』】
 謎の『大天使』のお目付け役……のはずが、ちょっと目を離したら()()()()()()()()()に絡んでいて内心結構ビビっていた。
 こちらも『式神ボディー』にINしているが、実はこっちの方はちょっと戦闘向け改良してたりする。人間社会の機微を結構理解してるしボディーガードにはちょうどいいので。
 主人公と別れた後、謎の『大天使』に盛大に雷を落としました。

 ……主人公と話している間、生きた心地がしなかったそうです。
 神主の気配で命拾いしたな…ッ!
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